島流し令嬢   作:もちもち物質@布団

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島流し16日目:狩人*5

 ソーセージ作りで何より大切なのは、腸である。

 小腸を傷つけないように取り出し、小腸を破らないように挽肉などを詰めていく。小腸の取り扱いこそが、ソーセージ作りの成否を分けるのである。

「えーと……大体このあたりから小腸ね。多分。多分そうだわ。そうってことにしましょ」

 まず、小腸と思しき部分を切り取る。

 ……如何せん、ペリュトンは鹿と鳥とが混ざっているので、腸の形がどちらとも違うのだ。大変である。

 小腸らしき部分を切り出したら、小腸同士を繋いでいる膜を取り除いていく。……取り除きすぎると小腸自体を傷つけかねないので、あまり深追いはしないことにした。また、この膜はこの膜で使うので、とっておく。

 そうして小腸が一本のホース状になったところで、小腸を洗う。川の流れを利用しながら水を通し、揉み洗いしていけば小腸はすっかり綺麗になってくれた。

 これでソーセージの外側が完成。次は内側だ。

「ここらへんは叩かなくてももう十分挽肉ね、これ」

 皮からこそげ落とした肉は、もう十分に挽肉であった。まあそれはそうである。

 が、これだけだと少し足りないように思えたので、塩が足りないせいで塩漬けにできていない肉の塊を少し叩いて使うことにした。

 石斧を使って、比較的太い木材を2つに割り、それをまな板替わりにする。ナイフを使って肉を叩いていくが……まな板が狭いせいで、あまり上手くいかない!

「ちゃんとしたまな板、欲しいわぁ……」

 嘆きつつもマリーリアは、『少量ずつやればまあなんとか……』と学んで、無事、なんとか挽肉……というか、みじんに叩いた肉を生み出した。

 挽肉を混ぜ、塩を少し混ぜて捏ねていけば挽肉に粘りが出る。粘りが出たところで、血の中に挽肉を投入して、混ぜていく。

「……挽肉、多かったわねえ」

 が、挽肉が少々多すぎたかもしれない。血液による流動性があまり感じられない程にしっかりとした挽肉の塊が出来上がった。

 まあ、これはこれでいい。開き直ったついでにローズマリーのみじん切りも混ぜた。美味しくなるといいなあ、と祈りつつ。

 

 ……そうして、血液を含んだ挽肉ができたら、これを小腸に詰めていくことになる。

 なので。

「こ、これでなんとかしなきゃねえ……ふふふふふ」

 マリーリアは先程取り除いた小腸の膜を利用することにした。要は、絞り袋のガワである。

 膜にごく小さく穴を開け、そこに挿しこむのは、口金だ。比較的硬い肉質の、大きめの葉っぱをくるりと丸めて口金代わりにする。

 そうしておいてから、血液を含んだ挽肉を膜の上に乗せ、挽肉を包むように膜を絞り……そして。

「詰めるわよぉー」

 小腸に口金を突っ込んで、絞る!

 ……こうしてなんとかかんとか、挽肉を小腸に詰めていくのだ!

 だが。

 

 

 

 ……結局、マリーリアはブラッドソーセージ作りを途中で断念した。

 まあ……資材があまりにも、無かったからである。

 残念ながら、絞り袋は上手く機能しなかった。小腸を繋ぐ膜が、思っていたより弱かったのである。穴がすぐ広がり、口金がすっぽ抜けてしまったので使い物にならなかった。

 そこまでに小腸に詰められた挽肉もあったので、2本程度はブラッドソーセージが作れたが……まあ、挽肉の大部分は小腸に詰められないまま残っている。

 

 ……ということで、

「この方が早いわぁー」

 マリーリアはそれらの挽肉を……焼いた。

 平らな石を焚火に乗せて焼き、その上に血液入りの挽肉を乗せて、焼いて、食べた。

「ふふ、おいしーい」

 じゅう、と焼けて焼き目がついたブラッドソーセージ……もとい、ブラッドハンバーグステーキとでも言うべき何かは、まあ、ソーセージではないが、それなりに美味しかったのである。

 血液が入ったことで生臭さが生じるかとも思われたが、まあ、そこまででもない。刻み入れたローズマリーが中々よかったのかもしれない。

「今晩はこれでお腹いっぱいになりましょ。ふふふ……」

 昼も中々沢山食べたが、夜も中々沢山である。まあ、腐らせてしまうくらいなら腹十二分目になろう、と考えたマリーリアはひたすら挽肉を焼いては食べていく。

「お塩って偉大よねえ」

 食が進む理由の1つは間違いなく塩だろう。挽肉を捏ねる時に入れた塩だが、当然ながら味にも影響する。今まで海水を使って煮炊きすることで塩味を付けていたが、こうしてちゃんと海水から塩を取り出して使うと、やはり海水と塩は違うと気づかされる。

 今後も塩は大切にしたい。だが、塩を作るため、今ある唯一の金属鍋を使わなければならないのは痛い。

 ……もし、今後金属の板が見つかったら、打って鍋にしてみてもいいかもしれない。マリーリアは『やっぱりお鍋って大事だわぁ……』と強く思った。

 

 

 

 そうしてお腹いっぱいになったところで、翌日。

「ふわあ……よし、今日もお肉の処理から始めなきゃね……」

 マリーリアは起きてすぐ、肉の処理の続きを始めることになる。

 

 まずは海岸へ向かって、そこで健気に塩を作り続けていたゴーレムから塩を貰う。ついでに魔力を充填し直して、また動くようにしておいた。頑張ってね、とマリーリアはゴーレムを応援した。特に返事は無かった。まあ当然である。

 続いて、塩を持ったままちょっと寄り道して、漂着物を確認した。金属の板、あわよくば鍋、と思ったのだが、生憎、そう都合よく金属が手に入るものでもない。だが、貝殻が沢山流れ着いて溜まっている個所があったので、それは拾い集めておいた。貝殻を使う用事ができそうなので。

 

 塩と貝殻を背負って戻ったマリーリアは、まず、昨夜の内に塩漬けにしておいた肉を引き上げることにした。

 肉からは水気が出ている。塩と肉とローズマリーの葉だけ入れておいた壺の中は、今や肉汁と塩とローズマリーの混ざった液体で満たされていた。

 マリーリアは肉の塩をざっと洗い落とすと、早速、それらの肉を干していく。

「煉瓦干し場が煉瓦より先にお肉干し場になっちゃったわぁ……」

 ……干す場所として適するのは、日陰、軒下で風通しの良い場所である。ということで当然のように、煉瓦干し場の屋根の梁から肉を吊るすことになる。

 紐や木の蔓で吊るされた肉が、ぷらぷら、と揺れている様子は、なんとも奇妙である。だがこれがマリーリアの大事な食糧になるのだ。文句は言えない!

 

 肉を干し終えたら、次の塩漬け肉を作る。……壺の1つと鍋は塩づくりで使ってしまっているので、使える壺は2つだけ。更にその内の1つには胃と膀胱が入っていたので、その2つは壺から出して、干してしまうことにした。

 そうして壺を2つ使えるようにしたら、その壺2つで塩漬け肉をまた作っていく。

 ペリュトンの肉の内、鶏肉っぽい部分は鹿肉っぽい部分よりも水気が多い。つまり傷みやすいので、できる限り先に処理する。だが当然ながら限界はあるので、ある程度は『さっさと食べちゃう』ことによって処理していくことになる。

 また、鹿肉部分についても、大きな塊でとれた肉については、さっさと塩だけは入れてしまうことにした。大きな葉っぱに包まれた鹿腿肉の塊に塩をすり込んで、また葉っぱで包み直す。……今のところはこれでいいだろう。

 

 こうして朝食前に肉の処理を大方終えたマリーリアは……ペリュトン肉の鳥っぽい部分を焼いて朝食とすることにした。

「……お肉も3食続くとちょっとねえ。うーん、まあ、我儘よねえ……」

 肉は傷むので、先に食べてしまわなければならない。だが義務になってくると、食べるのも少々辛くなってくる。

 それでも、食べたもので体が作られ、食べたものによって体が動くのだ。マリーリアは仕方なく、鶏肉っぽい肉と杏の実を焼いたものを胃に収めた。まあ、美味しいことは美味しい。

 

 

 

 さて。

 朝食も終わり、肉の処理も粗方終わっているマリーリアは、続いて皮の処理に移ることになる。

「さて。鞣し液を作りましょ」

 マリーリアが最初に行うことになるのは、鞣し液の製造だ。

 

 マリーリアは森の中を探索する。見るのは……地面だ。

「あっ。あったわぁー」

 すると、地面には可愛らしい、ころんとした……どんぐりが落ちている。

「ふふ。どんぐりね。これはもう食べられないだろうけれど……」

 半分朽ちかけたどんぐりは、拾っても食用にはできないだろう。だが、ここにどんぐりが落ちている、ということが大きな情報となるのだ。

「えーと、このあたりにはどんぐりが沢山落ちている跡があるわよね。ということは……うん、やっぱり!この木からどんぐりが落ちてきたんだわぁ」

 そう。地面に落ちたどんぐりは、どんぐりの木を見つけるのに役立つ。マリーリアが見つけた木は……樫の類であろう。まあ、悪くない。

「じゃ、ちょっと皮を剥ぐわよ。ごめんね」

 マリーリアは木に断りを入れてから、木の幹にナイフを走らせた。

 ぐるりと一周、樹皮を切る。そこからマリーリアの肘下くらいの間を開けて、もう1本、切り込みを入れる。最後にその2本の切り込みを繋ぐように縦に切り込みを入れたら、そこから樹皮を剥いでいく。

 樹皮は、案外簡単に剥けた。ぺろ、と皮が一枚剥がれたことにマリーリアは何とも言えない達成感を味わいつつ、その樹皮を持って嬉々として拠点へ帰る。

 ……植物には、皮を鞣す成分が含まれていることがある。それは主に、渋みや苦みとして人間の舌に検知されるものだ。

 例えば、どんぐりの実もそうだ。あれをそのまま食べるとめっぽう渋いが、渋みの元となる成分が、皮を鞣すのに丁度いいのである。

 そして、どんぐりの渋みは、実ではなく、樹皮にこそ多く含まれる。この樹皮を煮出して、鞣し液を作るのだ。

 ……だが。

「……煮出すためのお鍋が無いわぁー……」

 鍋が無い。

 そう!鍋が無いのである!

 ついでによくよく考えると、皮を全て漬けるための入れ物も、無い!鹿の脚や首から剥いだ皮くらいなら、塩漬け肉を退かした後の壺でなんとかなるだろうが、流石に鳥の毛皮は難しいだろう。

 マリーリアは、そのあたりを諸々、考えて、考えて……。

「塩漬けは流石にもうちょっと置いておきたいし……うーん、お塩の製造を止めましょ」

 ひとまず、鞣し液製造のために鍋は必要だ。マリーリアは海岸へ向かうことにした。

 ……マリーリアはとぼとぼと海岸へ向かいながら、思った。

 土器は本当に大切だ。容れ物の類が無いとできなくなることがとても多い。

 ということで、皮を鞣したら次は、土器の製造ならびに土器の為の粘土の採掘を行わねばなるまい。

 ……やることが多い!

 

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