島流し令嬢   作:もちもち物質@布団

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島流し33日目:家*2

 そうして丸太ができたので、早速それを使って瓦を作り始める。

 瓦にするための粘土板は、壊れた木箱をバラして作った枠から大きな粘土塊を作り、それを決まった厚みに糸で切る、という方法で作った。

 1体のゴーレムが丁寧に粘土塊を作り、2体のゴーレムが下に割り裂いた薪片を噛ませて糸を引いて粘土板を作り、そして別のゴーレムができた板を丸太にのせていき……と作業が進み、丸太の上は粘土板でいっぱいになっていく。

 丸太の面積がやはり少々足りないように思われたが、瓦は然程厚みの無い粘土の板でできている。煉瓦などより余程早く乾くので、半日も立たずに丸太の上から動かせるようになった。煉瓦より一度に作れる量が少ないが、その分回転の効率が良いので、瓦造りは順調である。

 

 が、その一方で家の建設は一歩一歩の進みだ。何せ、モルタルが固まるのを待ちたい都合で、一日に一段ずつしか煉瓦が積み上がらないのだ。

 床で大量に煉瓦を消費した以来、煉瓦は消費より生産の方が上回っている。沢山の煉瓦が積み上げられていくのを見て、マリーリアは『家以外にも煉瓦建築しようかしらぁ……』と考え始めている!

 まあ、家の建築が一歩ずつの進みなのは仕方がないし、丁度良かったかもしれない。というのも……煉瓦よりも瓦よりも、モルタルの製造が追いつかないからである!

 

 

 

 モルタルの原料は、灰だ。

 そして、灰というものは……何かを『大量に』燃やした結果、『少しばかり』残るもの。つまり……今までの灰の蓄えはとうに使い切っており、今は煉瓦を焼いたり日々の煮炊きをしたりで出ている灰を掻き集めて、それでも足りずにそこらへんの草を燃やしたりして、なんとか間に合わせている状態なのだ。

 ……まあ、仕方がない。灰が足りなくなることは、ある程度分かっていた。なのでマリーリアは……。

「……製塩も同時に進めましょ。灰の為に……」

 ……瓦や煉瓦の生産速度は、どうせ炉の大きさや丸太の長さによって頭打ちする。ということで、余ったゴーレムを製塩作業に当たらせることにした。これなら、薪が無駄になることは無いし……何より、うっかり新たな獲物がやってきたとしても、そのお肉をすぐさま塩漬けにすることができる!

 ……という具合に、マリーリアは日々、煉瓦を積んだり煉瓦を作らせたり瓦を作らせたり、そしてそろそろ用途が見えてきたのでコカトリス皮紙の製作のため、何度も灰汁や貝殻を焼いて作った石灰に漬け込んでいた皮を木に引っかけて伸ばし始めたり……はたまた塩を作らせたり灰を作らせたりしながら過ごした。

 

 

 

 そして、島流し生活40日目の朝。

「いよいよ、これでほとんど壁は終わりね」

 マリーリアは、高く積み上がった煉瓦を見てにっこりしながら、家の中で煉瓦を手にしていた。

 煉瓦の壁の高さは、マリーリアの身長を超える。だがここに更に、煉瓦を積むことになるのだ。具体的には……屋根の土台となる部分を作る。

 

 今回、マリーリアは屋根の骨組みをある程度、煉瓦壁に頼ることに決めている。

 煉瓦の壁の向かい合った2辺のみ、煉瓦を階段状に積んでいくのだ。すると、向かい合った2面の壁のみ、三角形のとんがりを有するようになる。

 煉瓦で作られた階段状の段差は、そのまま桟木を引っかける場所になる。適当な長さ太さの木を伐り出してきて、木が転がらないようにモルタルで固定したり引っ掛かりを作ったりして……そうして桟木を渡し終えたら、いよいよそこへ瓦を乗せていくのだ。

「まあ、まだまだ煉瓦を積むことになるから、安全に気を付けていきましょうね。じゃあ1号、また肩車をお願い」

 マリーリアはテラコッタゴーレムにしゃがんでもらって、その肩に跨る。するとテラコッタゴーレムはそのまますっと立ち上がり、マリーリアは自分の身長を超える高所の作業もできるようになるのだ!

「ああ、2号、3号、ありがとう」

 そこへ差し出された煉瓦とモルタル一式とを受け取って、マリーリアはのんびりと、煉瓦壁の上に階段一段目の煉瓦を敷いていくのであった。

 

 

 

 当然ながら、屋根の為に煉瓦を積むのは2辺だけ。壁を4面作っていた時とは比べ物にならないほど短時間で済む。いくら高所作業だからといって、そう時間がかかるものではないのだ。

 ……なので、余った時間でマリーリアは……ドアを作ることにした。

 

 

 

 今、ドアの部分はぽっかりとした穴として作ってある。尚、他に窓と竈の位置は、モルタルを付けずに煉瓦を組んであるので、後からその部分だけ煉瓦を抜いて、穴を開けられるようになっている。が、ドアだけは大きさが大きさなので、最初から穴が開いているように造っている。

 ……つまり、このままでは雨風吹き込み放題なのだ!

 これはまずい。これはまずいので……マリーリアは、ドアを作りたい。

 

 ドアだ。ドアは重要である。

 強度はこの際、あまり気にしていられない。だが、最低限、魔物が来た時にも視界を遮ってマリーリアを発見させない程度の目隠しは欲しい。見つからない、ということは、案外大切なことなのだ。

 ……ということで。

「編みましょ」

 マリーリアは、木の蔓を編んでドアを作ることにした!

 

 

 

 やり方は、ベッドを作った時と同様だ。木で枠組みを作って、そこに木の蔓を編みつけていく。それだけである。

 だが、やはりドアなので……できる限り、密に編む。それでも隙間は生じてしまうが……今は仕方がない。

「冬にはもうちょっと頑丈なドアを考えなきゃねえ」

 いずれは自力で板を生産できるようにしたい。或いは、今、薪干し場の屋根に使ってしまっている板を加工する手段を手に入れたい。

 ……そう。現在、マリーリアは板をなんとか生み出したとしても、その後それを加工する術を持っていないのだ。

 のこぎりは勿論、釘だって無い。精々、板に穴を開けてそこに木の蔓や紐を通して別のものに結び付けるような、そんな加工しかできないのだ。それではあまりに、心もとない。

「やっぱり、鉄で木材を加工できるようにしたいわねえ……」

 色々と考えつつ、マリーリアはたっぷりと木の蔓を使って、ドアを編み上げていった。

 

 そうして夕暮れ少し前には、ドアが出来上がった。出来上がったら、早速、設置してしまいたい。

「えーと、軸受けは……やっぱりモルタルかしら。便利ねえ、これ……」

 ドアの木枠は、縦に長い一辺だけ、少し上下に飛び出た長さにしてある。……というのも、この飛び出た部分を軸として、床とドア上部に軸受けを作り、ドアが開閉できるようにするためだ。

「あ、これ、コップのつもりで作った土器がぴったり。じゃあもうこれにしましょ」

 ……マリーリアはモルタルと焼き物のストックとを使って、ドアの軸受けを作り、同時にドアを設置することに成功した。

 隙間風は多いが、まあ、それなりにちゃんとしたドアである。少なくとも、『部屋』という1つの空間は生み出してくれているドアである。

 ……一か月以上ぶりの『部屋』に、マリーリアは何とも言えない安らぎを覚えていた!

 

 

 

 さて。その日はさっさと夕食を摂って、水浴びして、眠ってしまった。……屋根まで葺き終わったら、室内に新たなベッドを作りたい。が、今はまだ、屋外ベッドでの就寝である。

 

 そうして迎えた島流し生活41日目の朝は……。

「……ちょっと降ってるわねえ。やだぁー……」

 ぱらぱら、と小雨が降っていた。あまりよろしくない。が、小雨程度なら、煉瓦積みには支障が無い。どうせ、煉瓦をモルタルで接着していく時には、煉瓦をある程度濡らしてやらねばならないのだ。さもないと、モルタルの水分が煉瓦に一気に持っていかれて、モルタルが伸びない。

 ということで、マリーリアは屋根の骨組みとなる煉瓦を積んで、屋根階段2段目を生み出した。

 ……ついでに。

「こっちもやっちゃいましょ!えーと、うん、よし。塗ってくっつけてならして……おしまい!」

 例の、割れた土器。アレもやってしまうことにした。

 煉瓦の家を作ることで、モルタルの扱いには大分慣れてきたマリーリアである。まあ、然程苦労もなく、土器をとりあえず接合できた。後は、これが固まればひとまずは大きな土器の間に合わせができる。

「……これ、水が染み込まないようにしたいけれど……釉薬がぎりぎり熔けるくらいの火力に調整すればなんとかなるかしらぁ」

 マリーリアは今後のことも考えつつ、まあひとまずはこれでヨシとする。ひとまず、皮鞣しが終わってから釉薬のことを考えようと心に決めた。

 

「紙の方は……うん、まあ、このままいきましょ」

 コカトリス皮紙については、木の間にぴんと張ってあったものを取り込むべきか迷ったが、そのままにすることにした。

 多少雨晒しになったところで関係無いのだ。何故ならば、生乾きの今、ぴんと張った状態から下ろしてしまえば、綺麗に薄い紙にすることができないから。

 コカトリス皮紙に失敗しても、まあ、もう一度皮を湿らせて張り直せばやり直しが効く。だが……ならばこのまま雨晒しにしても同じことなのだ。むしろ、雨によって多少なりとも残った脂が抜ける方に期待した方が良い。

「面倒だし……」

 ……あと、単に皮の張り直しが面倒なのである!

 

「で、瓦の方は……うん、まあ、今日の分は今日の分でやっちゃいましょ。あってよかったわぁー、おっきな煉瓦干し場……」

 そして、瓦の増産については……続行である。

 瓦は粘土よりも乾きやすい。湿度の高い雨の日であっても、高めの屋根を有する大きな煉瓦干し場であれば、中心で火を焚くくらいなら屋根が燃えるようなことも無い。無論、燃え移らないように注意は必要だが……逆に言えば、注意さえしていれば、そうそう問題は無いのだ。

 火を焚ければ、火の周辺に置いておいた瓦が乾く。自然乾燥させるより余程早い。どうせ雨の日で、やることも他に無いのだ。マリーリアは焚火の監視をしつつ、ゴーレム達に瓦を作ってもらい、そして焚火の傍ら、木の蔓の繊維から紐を作ったり、細く裂いた蔓を編んだ敷物をまた作ったり、とのんびり作業していく。

 

 

 

 そうしてのんびりと作業をしていると。

「……ちょっと、風が強いわねえ」

 雨と共に、風も強くなってきた。ごう、と森を揺らす風が雨を吹き込ませて、煉瓦干し場の中も少々、濡れてしまう。

 みし、と揺れる煉瓦干し場の屋根の柱。すっかり雨に濡れているベッド。葺いた草の束が巻き上げられそうなくらいの風の前に、マリーリアは若干の恐怖を覚えないでもない。

 苦労して作った煉瓦干し場の屋根が吹き飛ぶのも、島の外から持ち込んだ大切な荷物が濡れるのも、絶対に避けたいことである。そう。今のマリーリアには、失うものがある。だがそれでいて、雨風に対して盤石の備えがあるわけでもない。

 だからこそ、強い雨と風に対して、恐怖は拭いきれない。頼りない草葺きの屋根も、そう太くない木の柱も。全てが大きく揺れて、雨風に翻弄され……。

 ……だが、マリーリアは荒れる天候を前に、にっこり笑う。

「これだけ荒れれば、明日の漂着物は期待できるかもね」

 

 ……まあ、失うものがあって、不安があって、恐怖が多少なりともあったとしても。

 それでもマリーリアは……大分、肝が据わっているのである!

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