島流し令嬢   作:もちもち物質@布団

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島流し51日目:武器と防具*2

 ということで、マリーリアは打製石器を作り始めた。

 これもゴーレムに頼めればよかったのだが……こればかりは、テラコッタゴーレムにはあまりにも荷が重い。

 何せ、黒曜石を打って石器にしていくために必要なのは、その時その時の判断なのだ。

 どう打ったら、どう割れるのか。石の目はどちらに走っていて、どの向きから力を加えればどこを削ることができるのか。……そうしたものを考えながら、精度の高い叩き方で黒曜石を叩き、割り欠いて、刃物にしていかなければならない。

 この複雑な工程は、残念ながらテラコッタゴーレムには実行不可能なものなのだ。

 

「よっ、と……あら、割れすぎたわぁー、やだぁー」

 ……ついでに、マリーリアにとっても、打製石器づくりは困難な所業である!

 何せ、石で打ったら、割ろうと思っていたところではない部分が割れる!割れなさ過ぎても困るが、割れすぎるのはもっと困るのだ!

「これ、いくつ残るかしらねえ……はあ」

 ため息交じりに、うっかり真っ二つにしてしまった黒曜石を見る。つやつやと輝いてなんとも美しい黒曜石だが、美しいだけでは困る。キッチリ刃物としての機能を持ってもらわなければ。

「……頑張りましょ。次、次!」

 だがマリーリアは気を取り直して、次の黒曜石を叩き始めた。試行錯誤を繰り返せば、必ずやものになるだろう。まあ、少なくとも、幾つかは。

 そしてマリーリアの傍では、ゴーレム達がごりごりと石を石で磨いて、槍の穂先を作っている。磨製石器が鋭さを持たないものであったとしても……先が肉に刺さる程度になっていれば、後は膂力で無理矢理魔物に突き刺すこともできよう、と考えた。

 ……量産が効く分、磨製石器の槍を主に揃えた方がいいかもしれない。マリーリアはそう考える程度に、打製石器作りに苦戦していた!

 

 

 

「ああー、なんとか1つできたわねえ……」

 そうして、夕方に差し掛かる頃。マリーリアはようやく、なんとか1つ、黒曜石の穂先を作ることができた。

 出来栄えは、さして良くないかもしれない。だが、それでも刃としての働きを持つに至ったものだ。試しにそこらの野草の茎を切ってみたら、すぱり、と気持ちよく切れた。金属のナイフと遜色のない切れ味に、マリーリアはにっこりと笑顔になる。

「これでコツも分かったし、明日はもっと作れるわぁー。うふふ」

 マリーリアはにこにこ微笑みながら、夕食の準備をすべく家へ帰った。……家があるって、いいな!

 

 

 

 そうして翌日。島流し52日目。

「よーし、石器作っちゃうわよぉー」

 マリーリアは朝食を済ませると、早速、打製石器を作るべく、黒曜石を叩き始めるのであった!

 

 黒曜石の割り方も、大分分かってきた。

 石の目がどのように走っているのか、ある程度は見れば分かるようになってきたのだ。そして、それをどのように叩けば思い通りに割れるかも、ある程度分かってきた。

 ある程度まで形が整ったら、その後は割るというよりは折り欠く。……そして、削ったり剥がしたり、というような、ごくごく小さな割り方をしていくのが良い。

 黒曜石はガラス質の石だ。ガラスがそうであるように、一点に集中した力を加えると、そこが貝殻状にぺきりと劈開する。そうして黒曜石の塊から、黒曜石の薄片を『剥がす』のだ。

 劈開をいくつも作っていけば、徐々に黒曜石の形が整っていく。そうして刃の先を整えてやれば……槍の穂先が完成、というわけである!

「ふふ、慣れてきたわぁ」

 マリーリアは自身の成長を嬉しく思いながら、ぺき、ぺき、と黒曜石をちまちま削って打製石器を作り上げていく。

 ……黒曜石は美しい。黒く美しい石だが、その美しさは厚みの確認のために太陽の光に透かした時に最も強く輝く。

「綺麗ねえ」

 黒曜石の、割れて薄くなった……刃に相応しい鋭さを持った部分ほど、光を通して透けるのだ。完成した穂先も、刃先ほど薄く透き通って、中心に至るほど黒色が強くなる。この美しさは、他ではお目にかかれない。

「いつか、宝石としても加工してみたいわねえ」

 いつになることやら分からないが、マリーリアはこの黒曜石を気に入ったので、いつか身に付けられる形にしたい、と思う。まあ、鉄ができた後に余裕があったら考えてみよう、という程度だが……。

 

 

 

 そうしてマリーリアは1日掛けて黒曜石を割り、ゴーレム達はしゃこしゃこごりごり、と磨製石器を作り続けていた。おかげで、磨製石器の穂先もゴーレムの人数分、完成している。

「じゃあ、これに柄を付けて完成させましょうね」

 ……ということで、今はまだ小さな刃でしかないこれを、槍にしなければならないのだ!

 

 棒の先に刃を固定する、というのは、中々に難しい。

 色々なやり方があるだろうが……ひとまず、マリーリアは棒の先を割って、そこに刃を挟んで、そこに接着剤を付けて固定し、紐でぐるぐるときつく締めあげて補強する……というやり方を採ることにした。

 さて。そのための『接着剤』だが……。

 

「海辺には針葉樹が多いものねえ。ふふふ」

 マリーリアは、海辺に来ていた。そして、そろそろ少なくなってきてしまったローズマリーの枝をわさわさと収穫する傍ら、お目当てのものを見つける。

「あったわぁ、松脂!」

 ……それは、海辺の荒れ地に生える松の、その幹から染み出て固まった……松脂である!

 

 今、マリーリアが松の木から剥がして集めている松脂は、黄色くほんのりと光を通す程度に透き通った、カチカチに固い物質である。

 松の木が自らの傷を塞ぐために生み出したその脂は、松の木から滲み出た直後はネバネバと粘っこい液体なのだが……それが固まっていくと、今のような固体になる。

 この松脂は、様々なものの原料となる。例えば、マリーリアも嗜む弦楽器の弓には、松脂を塗る。他に、松脂に火を付ければよく燃えて火の持ちが良いので、照明に松脂が使われることもある。それから、蜜蝋に松脂を混ぜると、ネバネバと柔らかな松脂が割れやすい蝋の性質を補って、割れにくい蝋……封蝋ができる。

 そしてこの松脂は、接着剤にもなるのである。マリーリアが松脂を集めているのは、その目的だ。

 

「こんなものでいいかしらぁ」

 マリーリアは目についた松脂をすっかり集めてしまうと、松脂を入れた小さな椀を覗き込み、『まあ、足りるわよね』とにっこり笑った。

 松脂の小さな塊がざらざらと入った椀を持って拠点へ戻ると、炉の小さな火の上に椀を置く。……すると、熱された松脂が、とろり、ととろけてくるのだ!

「あら、なんだかスライムみたいねえ」

 とろん、と蕩けていく松脂は、少しばかり畑のスライムを思わせる見た目だ。スライムも安心しきっている時には、少しばかり形がゆるくなる。そんなスライムを思い出してくすくす笑う。

 そうしてマリーリアは、溶けていくスライム似の松脂を見ながら炉の傍ら、炉に残っていた燃えさし……炭化した枝を、粉々に砕き始める。

 炭の粉が出来上がったら、丁度、すっかりとろけた松脂の中へ、炭の粉をさらさらと入れていくのだ。

 ……松脂の接着剤はこのようにして作る。松脂だけだと柔らかすぎるところを、つなぎの炭の粉を足すことで調整して、接着剤として上手く働くようにするのだ。

「よし、できたわぁー」

 マリーリアはにこにこ笑って松脂接着剤を見つめると……早速、その接着剤を使って、槍を作り始めるのだ!

 

 

 

 ……そうしてマリーリアは槍を作った。

 長くまっすぐで丈夫そうな枝の先を割って、そこに松脂接着剤を塗り付け、打製石器の穂先を挟む。

 挟んだところをより強く締め上げるように紐で縛ったら、その紐自体を固めてしまうべく、また接着剤を塗布する。

「あら、結構上手くいったわぁ。この接着剤、固まるとカチカチになるのねえ。ふふふ」

 ……そうして冷えて固まった松脂接着剤は、爪ではじくと『カチン』と音がするほどに固くなる。これならば、穂先を枝に留めておくのに十分だろう。

「この調子でどんどん作りましょ!」

 マリーリアは『なんだか楽しくなってきたわぁー』とにっこり笑いながら、次々に槍を作っていく。

 ……こうして、ゴーレムを武装させるための準備が、着々と整っていくのだ!

 

 

 

 翌日。島流し53日目。

「武器ができたら、次は防具かしらぁ……」

 マリーリアは、槍を持って整列するゴーレム達を眺めつつ、ふと、次に作りたいものを考える。

 それは、防具だ。……ゴーレム達に防具を付けても衝撃で割れてしまう以上はあまり意味が無いが、マリーリアが防具を身に付けるのには大いに意味がある。

 例えば、篭手があれば手の怪我を防ぐことができる。そしてマリーリアの手は、この無人島生活において最も大切な道具なのだ。

「折角だし、革鎧くらいは作りたいわよねえ……」

 マリーリアはそう考え、それから、今、自分が持っている資源を確認する。

「皮は……ペリュトンの羽毛布団は駄目よ。お布団だもの。でも、ペリュトンの脚の毛皮は、まだ加工していないのよね。防寒具にする予定でいるけれど……まあ、どのみち、鎧には面積が足りないわぁ。ということは……」

 呟きつつ確認し、考え、目算して……マリーリアはにっこり笑った。

「……やっぱり、狩りに行きましょ。うふふ……」

 強者が弱者を狩る。そして、弱者を狩った強者はより強くなって、更なる強者を倒しに行く……。

 この世は弱肉強食。マリーリアはこの島で、どんどん弱肉を食らっていく所存である!

 

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