多分俺の中にいる大罪人たち、全員転生者なんですけど? 〜六人に乗っ取られかけてる、凡人だと思っている異常者。なぜか無表情ヒロインに推されてます〜 作:Boston Ham
何だっていい、どんな部類のでも良い。
たった一つだけでいい。
それが手に入るのなら、何も厭わない。
例え、悪魔に魂を渡すことになったとしてもーー
――才能。
喉の奥に棘みたいに引っかかって、俺をずっと苛立たせる言葉だ。
生まれつき頭がいいとか、運動神経がずば抜けてるとか、音楽や美術でセンスを振りまけるとか。
そういう「才能」ってやつを、俺は一度だって持ったことがない。
俺の姉は違った。
何をやらせても完璧で、勉強でも運動でも一度だって人に負けたことがない。
小さいころから「天才少女」なんて呼ばれて、大人たちの期待を独り占めにしてきた。
だから、俺はその横でただ「凡人」のラベルを貼られ続けた。
勉強を頑張っても平均点。
部活に入っても地区大会止まり。
人より少し努力すれば人並みには届くけど、そこで終わり。
どれだけ頑張っても本物の天才には届かない。
(俺だって、できるなら……才能が欲しかった)
授業中、そんなことばかり考えていた。
ペン先を走らせても、字はぎこちなくて見栄えが悪い。
ノートを埋めても、決して姉のような学問の才能には届かない。
ふと隣に視線をやる。
そこに座っているのは、クラスの誰もが「鉄仮面」と囁く少女――白雪こころだった。
いつも、感情の起伏がない子だった。
いつだって真っ直ぐに背筋を伸ばして座り、無駄な音を立てずにページをめくる。
笑わないし、怒らないし、興奮もしない。
無表情のまま教科書を読む姿は、まるで人形みたいだ。
けれど、その輪郭は人形なんかじゃない。
細い腰から流れるようにつながるライン、長い足。
控えめどころか、制服の上からでも分かる胸の存在感。
スレンダーなのに、全体のバランスは不思議なほど整っている。
座った姿勢のままでも、目の端にちらつくその身体のラインに、俺は余計に集中力を奪われる。
(……姉貴みたいに完璧で、しかも顔もスタイルも良いとか。マジで才能の塊だな)
羨望でもあり、苛立ちでもあった。
彼女にだって努力はあるのだろう。
けれど、それ以上に「元から備わった何か」が彼女を突き動かしているように見えてしまう。
凡人の俺には、一生縁のない領域。
「一ノ瀬、これ……」
突然、机の上に影が落ちた。
顔を上げると、白雪こころがプリントを差し出していた。
床に落としたらしい俺のプリントを、わざわざ拾ってくれたらしい。
「あ...ありがとうな?」
「……」
返事はない。表情も変わらない。
ただ無言で差し出して、静かにまた自分の席へと戻っていく。
その背中を見ながら、俺は小さくため息を吐いた。
(彼女は完璧すぎる。……でも、それって本当に楽しいのか?)
俺は凡人だ。
才能はないし、要領も悪い方だと思う。
だけど、少なくとも「人間らしく悩んでる」と胸を張って言える。
彼女みたいな感情のない鉄仮面に、生きる実感なんてあるのだろうか。
チャイムが鳴り、授業が終わる。
教室のざわめきの中、こころは何も言わずに鞄を持ち、静かに立ち上がった。
窓際の光に透ける長い髪。
振り返りもせず、ただすっと教室を出ていく後ろ姿に、言いようのない距離を感じてしまう。
(……俺達みたいな凡人とは、住む世界が違うんだろうな)
自分のノートを閉じながら、そんな結論を出すしかなかった。
夜の街は、昼間の喧騒を忘れたかのように静かだった。
放課後の寄り道もせず、俺はただ真っ直ぐに家へ帰ろうとしていた。
理由は単純。
今日は、いつも以上に姉の背中を思い知らされて、胸の奥がざわついていたからだ。
授業でわざわざ解答を示されるたび、教師の目線の裏に「やっぱり君は姉ほどじゃないな」と思われている気がした。
俺はその重さに、慣れたふりをしているだけだ。
夜風が肌を撫でる。その風は少し冷たかった。
家までの最短ルートを通ろうと、俺は人通りの少ない裏道へと足を向けた。
そのときだった。
――ぬちゃ。
靴裏が、妙に生温かいものを踏んだ感触に背筋が凍りつく。
街灯に照らされた足元には、赤黒い液体がべったりと広がっていた。血だ。
視線を上げた瞬間、喉が勝手に音を立てた。
路地の奥に“それ”はいた。
巨大な影。歪な肉の塊が、膝を折り曲げ、何かを貪っている。
聞きたくもない咀嚼音が、静まり返った夜にいやに鮮明に響いた。
それは異常だった。
人の形をしているのに、どこか人間から逸脱している。
右手には中華包丁。左手には肉叩きのような鈍器。 どちらも血肉で濡れ、滴がアスファルトに落ちている。
それは、こちらを振り向いた。
口の端にこびりついた臓物を舌で舐め取りながら、異形は笑った。
「……ッ」
声が出ない。 頭のどこかで理解している――こいつは、人間じゃない。
次の瞬間、異形とかしか呼ぶしかない化け物は、地面を砕いて俺に迫ってきた。
咄嗟に後ろへ飛び退く。
心臓が耳の奥で爆音を立てている。
刃が空を裂き、肉叩きが地面にめり込み、コンクリートが砕け散った。
「シネェ……!」
喉を振り絞るような低い声。
血に濡れた吐息。
それが俺を獲物として狙っていることだけは理解できた。
だが、俺の足はすぐには動かなかった。 生き物としての恐怖が、本能が、体を縛りつけていた。
そのときだった。
「...やめろ」
凛とした声が、闇を切り裂いた。
視線を動かすと、路地の入口に一人の少女が立っていた。
隣の席の――いつも無表情で、感情が読めない少女。
彼女は、俺を庇うように前に出ると、化け物を睨みつけた。
「……つけてきて良かった。やっぱり、墜ち人なんだ...」
その小さな呟きは、異形には届かなかった。
すぐに、彼女は俺の腕を掴んで路地裏を走り抜ける。
肺が焼けるように痛い。
背後からは鉄を引きずる音が追ってくる。
それでも彼女は迷いなく走り、別の路地へと飛び込んだ。
暗がりの中、彼女はポケットから一丁の古びた金属の塊を取り出した。
「なっ……」
見覚えのある形状だった。
ニュースや漫画で見たことがある、世間一般的にリボルバーと呼ばれる銃。
ただ、彼女の手にあるそれは、どこか禍々しく、光を吸い込むような気配を放っていた。
「やめろ、そんなもの使うな!」
思わず叫んでいた。
脳裏に浮かんだのは"犯罪"という言葉。
圧倒的な暴力や権力に飲まれた人間がどうなるのか、俺は知らないはずなのに、本能が拒否していた。
だが――
「大丈夫。わたしは……慣れてる」
無表情のまま、彼女はリベルバーを自分の頭へ向けた。
「は...なんで頭に...?」
そして、彼女はためらいなく――その引き金を引いた。
銃声。
頭を撃ち抜いた彼女が倒れる。
「おい!マジかなんで...」
彼女はもう冷たくなっていた。
目の前で人が死んだ...
1回目ではないが"あの夜"のことを嫌でも思い出してしまう。
だが次の瞬間、冷たくなっていた彼女の体から青い炎が溢れ、その熱量に押され空気が震えた。
何もなかったはずの手に、黒塗りの薙刀が現れる。
刃は月明かりを浴びて妖しく輝いた。
「な……んだ、これ……」
思わず後ずさる。 目の前で、いつものポーカーフェイスの少女が、まるで別人のような気配を纏っていた。
彼女はちらりと俺を見た。
その目は氷のように冷たく、それでいて確かな意思を宿していた。
「――大丈夫。わたしが、守る」
その一言が、不思議と胸に落ちた。
恐怖で固まっていた心臓が、わずかに動き出す。
だが、次の瞬間には――路地の奥から、あの異形の咆哮が響いた。
目の前で火花が散った。
薙刀の刃と肉叩きの鉄塊が、真っ向からぶつかり合う。
金属が軋み、アスファルトの地面までも悲鳴をあげていた。
一見すれば拮抗――しかし、それはほんの一瞬だけの錯覚だった。 次第に押し負けていく薙刀。
異形の喉奥から、獣の低い唸りが漏れる。
膨れ上がる筋肉の下を、黒ずんだ筋のような何かが這い回る。
肉が裂け、赤黒い線が浮かび上がり、その全てが彼の力へと変わっていった。
「……ッ、重い……!」
こころの喉が詰まる。
両腕にかかる負荷が、視覚的に伝わってきた。
筋が軋み、肩の関節が外れそうなほど。
地面を踏みしめる靴底がめり込み、アスファルトに蜘蛛の巣状の亀裂が走った。
耐え切れない。そう悟った瞬間――
――バキィィィンッ!
甲高い音と共に薙刀が弾き飛ばされ、こころの身体が宙を舞った。 背中からコンクリートの壁に叩きつけられ、乾いた破砕音が路地に響く。
砕けた壁の破片が雨のように降り注いだ。
「こころッ!」
無意識に声を張り上げていた。
だが、駆け寄ろうとしたその前に、巨大な影が立ち塞がった。
異形だ。
熱気を帯びた呼気が顔にかかる。
腐敗した肉と鉄錆の臭気が入り混じり、吐き気を催すほどの匂いを放っていた。
唇の端から涎を垂らし、舌でねっとりとそれを舐め取る。
「マダ……喰ッテナイ……」
低く嗤う声。
その姿は人間ではなく、もはや人肉を求める異形の“墜ち人”だった。
瓦礫を押しのけ、こころが薙刀を拾い上げる。
荒い息を吐き、血に濡れた頬のまま、再び立ち上がる。
その瞳に怯えはなかった。
だが俺には見えた、見えてしまった。
彼女の両腕は震え、呼吸は浅く、膝はわずかに折れ曲がりかけている。
「――大丈夫。わたしが、守る」
彼女自身が言っていた言葉を、今ようやく実感する。
確かに技は美しい。
鋭く、流れるようで、舞を思わせる。
だが、絶対的な“力”が足りない。
異形が地面を蹴った。
轟音が狭い路地裏を揺らす。
瞬きする間に、巨体が彼女へ迫る。
次の瞬間、分厚い指が彼女の細い首を掴んでいた。
「ぐッ……!」
薙刀がカランと音を立てて落ちる。
こころの小柄な身体が宙に吊り上げられ、足が空を蹴る。
喉を締め上げられ、白い頬が苦痛で朱に染まった。
「オマエカラ……喰ウ……」
牙のように並んだ歯をむき出しに、涎を滴らせながら笑う。
その声が、俺の奥底を抉る。
――姉を失った夜。 鮮血、絶叫、届かなかった声。
守れなかった。あの日も。
また繰り返すのか――
胸が焼けるように熱くなる。 こみ上げる怒りと恐怖で、呼吸が荒れる。
こころの瞳が俺を見た。 助けを求める視線。
それでも、口の端をかすかに持ち上げ、笑おうとしていた。
――無理に作った笑顔。
胸を突き刺すその表情に、理性が弾け飛ぶ。
「ふざけるなッ!!」
気づけば、俺の足は勝手に動いていた。
ただ――走った。 あの日と違う結末を掴むために。
目の前で首を絞められたまま、彼女の薙刀が無力に垂れ下がる。 爪先が宙をかき、靴が虚しくバタついた。
「や……め……ッ」 か細い声が零れる。
俺の耳には、心臓の鼓動しか聞こえていなかった。 どくん、どくん、と血管が裂けるほどの脈打ち。
はち切れるほど肥大した心臓。
視界の端で、何かが光を反射した。
地面に転がる、もう一丁のリボルバー。 あの異形の腰から外れて落ちたのだろう。
気づけば俺は、それを拾い上げていた。
重い。冷たい。だが、確かに“生きている”感触がある。
「やめろッ! 使うなッ!」
こころが苦しげに叫ぶ。 声は潰れ、掠れ、だが俺に届いた。
――それでも。
俺は、彼女が死ぬのを見たくなかった。
例え、彼女のように青い炎が出なくても。
姉のように、ただ無力に喪うのはもう嫌だった。
『リボルバーを握り』
『頭を狙って引き金を押して撃つ」
説明するとそれだけ、簡単だ。
だが、助けたければその脳をぶっ飛ばせ。
それは、
「今の自分では、誰も助けれない。そんな今の自分が嫌なら自殺しろ」
そうとも言われてる気がした。
だが彼女を助けるためなら手段は選ばない。
いや違うな、俺は彼女を助けたいからこれを握ってるわけじゃない。
こんな状況に興奮してるんだ、彼女のように才能をもらえるチャンスに。
昔から才能が欲しかった。
俺の姉は学問、武道、芸術これら全てにおいて天才、神童と呼ばれた。
だが、俺自身には特質した才能がなかった。
だから才能を得て。
今まで姉と比べてきた連中に、それに対して、反論も結果も残せなかった自分自身に、
今、彼女を殺そうとしている腐った現実に、
「今度こそ一矢報いてやるんだ」
引き金を引く。
――一発目。
頭に衝撃。視界が白く弾ける。
――二発目。
耳鳴り。血流が逆流するような轟音。
――三、四、五、六。
すべて撃ち切った。
脳幹を貫く度に、意識が裂け、何かが流れ込んでくる。
崩れ落ちるように膝をついた瞬間、世界が暗転した。
気がつけば、俺は“どこでもない空間”に立っていた。
上下の概念もなく、ただ漆黒に包まれた闇。
それなのに、確かに誰かの気配がある。
「……ほう。やっと“器”が来たか」
最初に声を発したのは、低く冷徹な響き。
振り返ると、漆黒のコートを羽織った男がいた。
その手には長刀。鋭い眼光だけが闇に光っている。
「オレはレイヴン。死に飢えた時代に斬り続けた男だ。……久しぶりにまともな戦いができそうだな」
口角がわずかに吊り上がり、愉悦を隠しもしない。
「誰だ……お前らは……」
声を絞り出す。 すると闇の中に次々と現れた。
甘やかな笑みを浮かべる女。 口紅のように紅い唇が闇に浮かび、ひらひらと手を振る。
「ふふ、呼んでくれたのはアナタ?私はルージュ。盗みと嘘で生きた女よ」
鈴を転がすような声が響く。
白い法衣の女が、慈悲深げに両手を広げた。
「セイレーンと呼ばれたわ……人を救うために歌ったの... ――まあ、最後は少し、やりすぎたちゃったけどね。」
その隣に、血に塗れた旗を掲げる若い男。
炎に照らされたような紅の瞳が狂気を宿している。
「ブラッドだ。民衆の血で理想を描いた愚か者さ。 さぁお前の“正義”とやら、見せてもらおうか」
背後から低く唸る声が響いた。
無機質な瞳の狙撃者が、ライフルを担いでこちらを睨んでいる。
「サイレント。……ただの殺し屋だ」
最後に、妖艶な香りが漂った。
薬瓶を弄ぶ女が一歩前に出る。
「ふぅん、君が器か?実に興味深い、私の名前はアルカナ。毒も薬も同じ。人の生き死になんて、所詮は調合次第だからねぇ。」
六人。 俺の頭の奥に、確かに“入り込んで”いる。
「……こいつらが……俺に……」
混乱する俺に、レイヴンが一歩進み出る。 その瞳が、鋭く俺を射抜いた。
「立て、器。まだ戦いは終わっていない」
あの異形が脳裏に蘇る。 こころの首を絞め、涎を垂らした化け物。
「――行け」
レイヴンが刀を掲げ、口元を歪めて笑った。
「助けて欲しかったらその名を叫べ。“レイヴン”と」
耳の奥で轟音が響き、意識が再び反転していった。
ーーtopics
――《解錠の銃〈リベレイター〉》。
弾丸で世界の因果を撃ち抜き、生前世界に影響を与えた存在を呼び覚ます異能の銃。
使い方
脳幹撃ち:人格の能力と武器〈ウェポン〉のみを継承者が使用可能。外見変化は一部のみ。
身体譲渡:人格が主人格となり、外見・服装・瞳・髪色・武器まで鮮明に反映される。人格の影響を強く受ける事となる。