「う~ん、いないなぁ~」
「見つかりませんね、部長」
「ぶ、部長、イズナちゃん…もう帰りませんか?こんな夜遅い時間に公園に人がいるわけ…」
「でもSNSにはこの時間に現れるって書いてあったんだよなぁ~」
草木も眠る丑三つ時、百鬼夜行連合学園忍術研究部の千鳥ミチル、久田イズナ、大野ツクヨの3人は人気のない公園で人を探していた。彼女たちが探している人物とは、最近SNSで話題になっている、白いマフラーをたなびかせ深夜に大声で「夜戦だー!!」と訳の分からない言葉を発しながら徘徊する忍装束の少女という噂である。
「SNSでもみんな忍者だ忍者だぁーって騒いでたし、忍術研究部としては正体を突き止めないわけにはいかないでしょ!!」
「もしかしたら、イズナたちの仲間になってくれるかも知れませんよ!!」
「そ、そうでしょうか…?怖い人じゃないと、いいな…」
事の発端はミチルが運用している動画投稿チャンネル「少女忍法帖ミチルっち」の再生数が伸び悩んでいたことである。そのため彼女たちは話題づくりのために、SNSで噂になっている忍者を探そうということになったのである。
「さっ、ツクヨ!カメラ回して!撮るよ!」
「は、はいぃ!!」
「え~『少女忍法帖ミチルっち』をご覧の皆さん、こんばんはミチルです。今日はSNSで話題の人物の捜索をしたいと思いま~す!!」
「わー!!イズナ楽しみです!!」
ミチルは早速ツクヨにスマホを持たせて撮影を開始する。夜中の公園には当然彼女たち以外は誰もおらず、彼女たちの会話と木々が風に揺れる音だけが聞こえていた。
「時刻は午前2時となりました!果たして噂の忍者は現れるのでしょうか!」
「や…ん…、せ…ん…」
「ぶ、部長?今何か聞こえませんでしたか…?」
「ん~?いや、何も聞こえなかったけど…。風の音じゃない?」
ミチルがスマホに向かって話しかけていると、ツクヨが謎の声が聞こえると言い出し始める。だがミチルにはその声は聞こえておらず、ツクヨが風の音を勘違いしたと思っていた。
「や…せ…ん、や…せ…ん」
「ムムム…イズナも聞こえます。これは風の音ではありません、人の声です」
「えぇぇ!?じゃあやっぱりこの公園に忍者がいるのぉ!?」
「部長、ツクヨ殿、気をつけてください。声は聞こえるのに、気配が全然読み取れません。一体どこに…?」
そしてツクヨだけではなく、イズナも公園の何処かから謎の声が聞こえることに気付き始める。だがしかし、その声の出所である人間の気配が感知できず、イズナは警戒感を露わにしていた。
「良い夜だね、君たち」
「「「!?」」」
「あははっ!ビックリし過ぎだって」
「「「で、出たぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」」」
次の瞬間彼女たちの背後にある木の上に、白いマフラーをたなびかせ、忍装束のような服装を纏った、黒髪のツインテールの少女が現れた。彼女は忍術研究部の3人に気さくに話しかけるが、3人のほうはというといきなり背後に周り込まれたためとても驚いてしまっていた。
「君たちここで何してるの?もしかして夜戦?」
「や、夜戦…?」
「い、いえ…イズナたちはこの公園に深夜出没するという忍者を探していて…」
「忍者ぁ?ここにはこの時間帯は私しかいないよ?忍者なんて見たことないけど…」
(ど~見ても…アナタがその忍者でしょ…)
謎の少女は登っていた木を降りて、忍術研究部に話しかける。イズナは自分たちが最近公園に出没する忍者を探していると明かすが、謎の少女は自分がその忍者であるとは思っていないようである。
「し、失礼ですが、お名前を伺っても、よろしいでしょうか…?」
「川内、参上。夜戦なら任せておいて!」
「川内さんね。私は忍術研究部の部長のミチル。こっちは部員のイズナとツクヨ。忍術研究部の活動目的は、キヴォトス全域に忍者の良さを知ってもらうこと!!」
「せ、川内さん…よろしくお願いします」
「お願いします!川内殿!」
ツクヨに名前を尋ねられ、彼女は自身を「川内」だと名乗る。あっさり名前を答えられたため、ミチルも先ほどまでの警戒感が薄れ、普通に忍術研究部の紹介を始めていた。
「ふぅ~ん。そっちのミチルって子は、「神通」のトコの「陽炎」に似てるなぁ。元気で明るい感じだけど、ネームシップらしくみんなを引っ張っていける感じが特に」
「は、はぁ…?「神通」…「陽炎」…?」
「そっちのイズナって狐っ娘は「那珂」のところの「夕立」かな?人懐っこくてイヌ科っぽいところとかさ」
「「那珂」と「夕立」とは一体誰のことでしょうか?」
「ツクヨちゃんはアレだね、ウチの「綾波」と「敷波」の妹の「潮」みたいだね。髪色とか…性格とか…」
「う、うしお…?ノアさんですか?」
川内は忍術研究部の3人を見て、自分の姉妹艦が率いる二水戦や四水戦に所属している駆逐艦や、自分が旗艦を務める三水戦の綾波と敷波の妹などを思い出していた。だが当然3人には彼女たちのことなど知る由もなく、頭に疑問符を浮かべていた。
「夜はいいよね~、夜はさ。ところで君たち、夜は好き?」
「う~ん、まぁどっちかって言うと好きかなぁ~。花火が綺麗に見れるのは夜だしねぇ~」
「イズナも昼と夜のどちらかが好きかと言えば、夜が好きです!理由は無いのですが…」
「わ、私はどちらかというと、明け方とか夕方の雰囲気が好き、です…」
さらに川内は彼女たちに、夜が好きかと尋ねる。3人はそんな事えお尋ねられたことがなかったため、戸惑いながらも自分の好みを答えた。因みに、タヌキとキツネは夜行性、ウサギは薄明薄暮性の生き物である。
「ふぅ~ん、君たち才能あるね。どう、私の三水戦に入らない?」
「さ、さんすいせん?忍者組織か何かかな?」
「三水戦に入れば、好きなだけ夜戦ができるよ!どう、悪くない提案でしょ?」
「川内殿…提案は嬉しいのですが、イズナたちは既に忍術研究部の部員でして…」
「私も、忍術研究部の活動を疎かにするわけには、いかないので…」
「イズナ…ツクヨ~!!」
3人が割と夜型だと知った川内は、彼女たちを三水戦へと勧誘する。だがイズナとツクヨは忍術研究部としての活動があると言って、その提案を断る。2人の忍術研究部に対する思いを見たミチルは、その場で涙を流しそうなほど感動していた。
「そっかぁ、じゃあしょうがないなー。でも、夜戦がしたくなったらいつでも声を掛けてね。いつでもどこでも付き合うからさ」
「え、あ、はい」
「それと、お近づきのしるしに君たちにはこれをあげるよ」
「あ、ありがとうございます…」
三水戦入りを断られた川内だったが、彼女はあっけらかんとしていた。そして、懐から3人のために特徴的な形をした銃弾と、円筒型をした物体、黒塗りにされた複葉機のミニチュア模型を取り出し、それぞれミチル、イズナ、ツクヨに手渡した。
「川内殿、これは一体何なのでしょうか?」
「うんうん。まずこっちの銃弾は「照明弾」だよ。夜戦の時に使う。そんで、こっちは「探照灯」。これも夜戦の時に使う。そして最後にこれが「九八式水上偵察機(夜偵)」。夜戦のときに使うよ」
「ま、また夜戦…」
「あっ、スイッチが入りました」
「眩しっ!!」
よく分からない物を渡され困惑している3人に、川内はこれらが夜戦に使う道具であると説明する。「探照灯」と「照明弾」はその名の通り、暗い闇夜を照らし目標を視認しやすくする道具である。「九八式水上偵察機(夜偵)」は夜戦で使用すると自身の能力が向上するアイテムである。
「夜戦だから…つまり夜とかに敵の本拠地を攪乱するときに使えってこと?」
「闇夜を照らす、一筋の光…なるほどイズナ、理解しました」
「偵察機ということは…潜入する前に偵察に使う、のでしょうか…?」
「やっぱり君たち夜戦の才能あるよ。いやー三水戦にならないのが勿体ないなー!」
川内から手渡された道具を弄っているうちに、彼女たちはその道具の使い道を理解する。彼女たちの才能を感じた川内は、3人が三水戦に入らないことを惜しんでいた。
「ありがとう川内さん。これがあれば私たち忍術研究部の活動の幅がもっと広がるよ!」
「先生殿のお役にももっと立てるかもしれません!」
「ありがとう、ございます。これでもっと…先生のお役に…」
「どういたしまして。喜んでくれて私も嬉しいよ」
川内から貰った道具の使い道を理解した彼女たちは、これを忍術研究部の活動や先生の役に立てようと考える。そして3人は素敵な道具をくれた川内にお礼を述べた。
「川内さん、それじゃあまたね~」
「またお会いしましょう!!」
「ありがとう、ございました」
「またねー」
思いがけないプレゼントを貰い舞い上がった3人は当初の動画撮影の目的を忘れて嬉しそうに帰っていくのであった。川内はその姿を懐かしそうに見送っていた。
その後
「先生…か。懐かしいなー。昔の私も提督のために頑張ってたっけ?」
『て~い~と~く!!夜戦しようよ!!夜戦!!やせーん!!やせーん!!やせんーーー!!』
「提督、元気にしてるかなぁ…」