「おーい、そこの温泉開発部~さっさとそこから立ち退くクマ~。そこは他人の土地クマ~」
「ハァーハッハッハッ!!そいつはできない相談だねぇ。ここには珍しい効能の源泉が湧いているんだ、是非とも開発したいのだよ」
「はぁ、相変わらず口の回るヤツクマ。その言い訳ももう聞き飽きたクマ」
ここは「自由と混沌」のゲヘナ学園。この学校では毎日至る所で事件が起こり、キヴォトスいち騒がしい場所である。だがそんな学校でも秩序を守る組織は存在している。それがゲヘナの風紀委員会である。そしてその風紀委員会に所属している艦娘である球磨型軽巡洋艦一番艦の球磨は、ゲヘナ学園最大の問題児集団である温泉開発部を取り締まっていた。
「またお前たちか!!いい加減にしろ!!」
「その声はイオリちゃんじゃあないか!今日も元気そうで何よりだ、ハッハッハッ!」
「馴れ馴れしくするな!!こうなったら私が…」
「イオリ、落ち着くクマ~。怒って突撃してったら、それこそヤツらの思う壺クマ」
「球磨ねえちゃん…」
球磨と温泉開発部の部長であるカスミが形だけの交渉を続けていると、同じく風紀委員のイオリが現れる。イオリはカスミのふざけた態度に痺れを切らし突撃しようとするが、球磨に止められた。
「アイツら…ヒナ委員長がしばらく用事で動けないからって暴れ回ってるんだ!」
「やれやれ…やっぱり頭の回るヤツが指揮を執っているのは厄介クマ」
「鬼怒川カスミ…!!いつもいつもアイツが…」
温泉開発部はヒナが別件で活動できないという情報をどこからか掴んだのか、その隙にゲヘナ各地で温泉開発部の活動を続けていた。彼女たちはゲヘナで大規模な温泉開発を繰り返しており、今日ようやく球磨たちが尻尾を掴んだのである。
「まあいいクマ。ヒナちゃんがいないなら、いないなりに私たちだけで何とかするクマ」
「でも球磨ねえちゃん、このまま包囲を続けているだけじゃ、地面に穴を掘られて逃げられちゃうよ。やっぱりここは突撃して…」
「突撃だけが戦い方じゃないクマ。イオリも大人の余裕を持つようになるクマ」
「大人って…先生みたいに?余裕だったところなんて見たことないんだけど…」
「先生ってイオリの足を舐めた男クマ?まったくとんでもない変態野郎だクマ。提督といい勝負だクマ」
ヒナがいないことでカスミに甘く見られているという事実を球磨は受け入れ、自分たちだけで何とかしようと頭を働かせる。そして相変わらず突撃を敢行しようとするイオリに対し、大人の余裕を見せるよう諭していた。
「よしメグ!我々が脱出する時間を稼いでくれ!」
「オッケー部長!」
「ねえちゃん!アイツらメグを出してきたよ!」
「あの怪力は厄介クマ。球磨が相手をするクマ。球磨もやる時はやるってところを見せてやるクマ。舐めるなクマー!」
イオリの予想通りカスミは地面に穴を掘って逃走を試みるべく、メグに時間稼ぎを命じる。彼女の怪力を警戒している球磨は、自らメグの相手を買って出た。
「ぐぐぐぐ…」
「クマァァァァァァァァ!!」
「頑張れ!球磨ねえちゃん!」
「部長に頼まれたからね、負けないよー!」
「90,000馬力だ、鉄腕球磨ちゃんだクマー!」
メグと球磨は互いに両腕を掴んでパワー比べの様相を呈していた。球磨は建造当時は90,000馬力のパワーを持ち、軽快に洋上を駆けまわっていた。そのパワーが陸でも多少は発揮できるのだ。
「アッハッハッハ!いいぞメグ!そのままそのクマちゃんを抑えておくんだ!」
「クソッ!アイツら…!!」
「イオリ、落ち着くクマ。既に手は打ってあるクマ」
『球磨さん、ただいま準備完了しました』
「了解だクマ。そのまま待機」
『了解』
カスミたち温泉開発部はメグを足止めに使いながら、さっさと逃げ支度を開始する。そして風紀委員会のほうも動きがあったようで、風紀委員の1人が球磨に無線で、何かの準備が完了したことを伝えた。それを聞いた球磨は委員に一旦待機を命じた。
「ふっふっふ~、もうじき『アレ』の出番クマ」
「アレってなぁに~?」
「それは見てからのお楽しみクマ。良い子のメグはここでよく見とくといいクマ」
「はぁ~い」
「言う事聞くのかよ!?」
球磨は不敵な笑みを浮かべて、自分が打った起死回生の一手について仄めかす。そしてメグは球磨の言う事に素直従い、わくわくしながらその場で待機し始めた。
「追撃戦に移るクマー!」
『「瑞雲」、出撃開始』
「バカなッ!?爆撃機だと!?情報だと軽巡洋艦は偵察機は装備できても、航空機は装備できないはずじゃ…」
「ふふふ~ん♪情報が古いクマ。今の軽巡は色々積めるクマ。意外に優秀な球磨ちゃんは水上爆撃機が搭載可能クマ~♪」
球磨が持ち出した「アレ」というのは、水上爆撃機の「瑞雲」である。カスミは軽巡である球磨が水爆を使ってくるとは思わなかったようで動揺していた。ちなみに瑞雲は某航空戦艦から発注したものである。
「瑞雲、爆撃開始クマー!」
「「「「「ぎゃあああああああああ!!!」」」」」
「部長ぉぉぉぉぉ!!!みんなぁぁぁぁぁ!!!」
「やるときはやるクマちゃんって言われてるクマ」
温泉開発部、無事お縄である。
一方、ゲヘナとアビドスの境界付近では…
「便利屋、見つけたにゃ」
「げっ!?タマ三郎!!どうしてこんなところに!?」
「タマ三郎じゃないにゃ。多摩にゃ」
「・・・・・・・」
(撫でたい…)
球磨型軽巡洋艦二番艦の多摩は、複数の企業から指名手配を受けている便利屋68を保護するべく彼女たちに接触を図ろうとしていた。そして多摩は日用品買い物をしていたムツキとカヨコを発見したのである。
「今日は多摩ちゃん1人だけ?クマ五郎と木曾次郎は?」
「今日は多摩1人にゃ。球磨と木曾は別件で出動中にゃ。ヒナも別件にゃ」
「全部言っちゃうんだね…」
「別に多摩は便利屋と戦いに来たわけじゃないにゃ」
「あっ、そうなの?良かったじゃん、カヨコちゃん」
「う、うん…」
多摩は基本球磨か木曾と共に行動していることが多く、ムツキは他2人が一緒にいないことを指摘すると、多摩は自身の状況を全て話してしまう。そして便利屋と戦いに来たわけではないと明かし、彼女たちをひとまず安心させた。
「便利屋には、複数の企業から指名手配の通達が来てるにゃ。多摩は便利屋をソイツらから守るために保護するようアコに命令されたにゃ」
「いや~多摩ちゃん…それって…」
「アコ…多摩をそのために…」
「アコが多摩の手も借りたいって言うから仕方なくきたにゃ。多摩は早く仕事を終わらせて寝たいにゃ」
便利屋が複数の企業から指名手配を受けているというのは本当である。だが彼女たちを保護しようと言い出したのは行政官の天雨アコであった。そして保護というのはただの言い訳で、アコの本当の目的は多摩に便利屋を風紀委員会まで連れてこさせ、逮捕してやろうという算段であった。カヨコはアコが多摩をパシリに使ったという事実に、静かに怒っていた。
「多摩ちゃ~ん?私たち、今ちょ~っとゲヘナに戻るのはマズいんだ~。だから、見逃してくれな~い?」
「そういうわけにはいかないにゃ。多摩はこんな遠いところまで来て手ぶらで帰るわけにはいかないのにゃ」
「じゃあ、何か成果があればいいの?」
「カヨコちゃん…?」
「内容によっては考えてもいいにゃ」
アコの思惑を察したムツキは、多摩に見逃してくれるよう交渉し始める。ゲヘナとアビドスの国境くんだりまで遠征に来て、何の戦果もなく帰りたくないと言う多摩に対し、カヨコは何か良い考えがあるようである。
「さっき、晩御飯の食材を買ってきたんだけど、一緒にどう?」
「ちょっ!?カヨコちゃん!?」
「猫なら任せておいて」
「いや本人が猫じゃないって…」
「・・・・・・」
カヨコの提案は、夕食を自分たちと一緒に食べようというものであった。カヨコはたまに先ほどスーパーで買ってきた鮭の切り身をちらつかせ、懐柔を試みていた。
「分かったにゃ。その提案に乗るにゃ」
「えっ!?マジ…?」
「やった…」
「その代わり多摩に切り身を二切れ寄越すにゃ」
多摩がカヨコの手暗に乗っかったことで、彼女は心の中でガッツポーズをする。その後多摩は便利屋と一緒に晩御飯を食べ、ソファで丸まって就寝し、ゲヘナに帰っていった。
一方、ゲヘナ食堂付近
「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
「ば、バケモノォォ!!」
「助けてくれー!!」
「あわわわわわわわっ…!!」
ゲヘナの食堂では給食部の牛牧ジュリによって変異を遂げた食材が暴れ回る事態が発生。事態の原因であるジュリは、その場で風紀委員会の助けを待つしかなかった。
「球磨型軽巡洋艦三番艦の木曾だ!通報を受け現場に急行した!」
「木曾さぁぁぁぁん!!」
「ジュリか…つまり、またやっちまったのか…?」
「は、はぃぃぃぃぃ」
「やれやれ…」
そして食材がゲヘナの生徒たちを取り込もうとしたところで、ジュリと同じく給食部のフウカから通報を受けた木曾が現れる。木曾はゲヘナで凶悪なテロリストが暴れていると期待していたが、待っていたのはジュリによって変異を遂げた食材の怪物であった。
「風紀委員会のチナツです。現場に到着しました」
「おう、遅かったな」
「木曾さん!相変わらず早い…」
「救急医学部のセナです。皆さんどうやらお揃いのようで」
少し遅れて風紀委員会のチナツが現れる。彼女は木曾が他の委員たちよりも早く現場に到着していることに感心していた。そのすぐ後、救急医学部のセナの現場に到着し、準備は整ったといったところである。
「うげぇ!口の中にねばねばが入った…!」
「この締め付け…そろそろ骨が折れそうです★」
「うわーん!私は食べても美味しくないよー!」
「うふふ、木曾さん。是非我々を助けていただけると幸いです」
「まぁ今回は被害者みたいだからな。俺が助けてやるよ」
ジュリの生み出した怪物は触手を生やし、今もゲヘナの生徒たちを取り込もうとしていた。そして怪物が発生した時に食堂にいた美食研究会もその被害にあっていることを木曾は確認する。普段は彼女たちを取り締まる側の木曾だが、今回は怪物に捕らえられているだけなので、彼女たちを助けることにした。
「うぅぅ…」
「まだ不安なのか?大丈夫だ、俺を信じろ」
「…っ!はい!!」
「コイツの相手は俺がする。チナツとセナは被害者を回収して救急車にブチ込め!」
「「了解」」
ジュリは自分が生み出した怪物が、どんどん被害を拡大させ続ける様をただ見ていることしかできず不安になっていた。そんな彼女の心情を察した木曾は、自分を信じろと言ってジュリを安心させる。そして、チナツとセナに被害者の回収と救護を任せて、単身怪物退治に向かった。
「ぎゅぉぉぉぉぉぉぉぉん!!」
「本当の戦闘ってヤツを、教えてやるよ」
「ひえぇぇ!優しく殺してー!!」
「さっき助けるって言っただろ…殺しはしないっての」
木曾と対峙した怪物は咆哮を響かせると、触手で木曾に襲い掛かろうとしていた。木曾がサーベルを抜くと、ジュンコは自分が殺されると勘違いしたのか、優しく殺して欲しいと懇願していた。
「弱すぎるッ!」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁす!!」
「助かりました★」
「とんだ災難でしたわね…」
木曾はまずハルナとアカリを掴んでいる触手に狙いを定めて、怪物を斬り飛ばす。腕を切り飛ばされた怪物は、激しくのたうち回っていた。
「ふんぎぁぁぁぁぁぁぁ!!」
「木曾さん、例の怪物が逃亡を図ろうとしています!」
「逃げるならせめて私たちを置いていって欲しい!」
「ふごー!!ふごふごぉ!!」
木曾の力を見て本能で勝てないと悟った怪物は、その場から逃走を図ろうとしていた。まだ怪物に掴まれているジュンコとイズミは、逃げるならせめて自分たちを離して欲しと訴えるが、当然怪物相手に意思疎通などできるはずもなかった。
「それで逃げたつもりなのか?」
「んごぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「木曾さん!!」
「これくらいッ!」
「流石は軽巡洋艦。華麗に攻撃を避ける軽快な動きですね」
逃走を試みる怪物に対し、木曾は追撃を開始する。怪物は追撃をかわそうと、触手で木曾に攻撃するが、彼女は持ち前の軽快さで触手を避けた。その動きをセナは軽巡らしく軽快だと評価していた。
「んぎょぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「あぁあ!!木曾さんが捕まってしまいましたぁ!!」
「うわぁぁぁ!!もうダメだぁぁぁ!!アタシたち、あの怪物に喰われて死んじゃうんだぁぁぁ!!」
「ふごぉぉぉぉぉぉ!!私たちは美味しくないよぉぉぉぉぉ!!」
「そうこなくっちゃな、スキンシップも大事だな」
だがそのまま怪物を追っていくうちに、木曾は怪物の触手に捕まってしまう。それを見たジュリとジュンコとイズミは、自分を助けてくれるはずだった木曾が捕まってしまったと絶望する。だが捕まったほうの木曾は、余裕の表情を浮かべていた。
「俺に勝負を挑むバカはお前かぁ?」
「ぐぎゃあああああああああああ!!」
「この程度か?大したことねぇな」
「「木曾様ぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」」
「ちょっとばかし、涼しくなったんじゃねぇか?タコ助」
だが木曾は捕まれた触手をすぐさまサーベルで斬り落とし、怪物に自分に挑むこと自体が誤りであると思い知らせる。怪物に喰われると嘆いていたジュンコとイズミは、木曾の復活に安心していた。
「さぁ、仕上げといこうか」
「ぐおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
「いいぞぉ!まだまだぁ!!」
「うぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!!」
「はっはっはっ!!やるじゃないか!見直したぜ!」
木曾は再びサーベルを構えると、その切っ先を怪物へと向ける。そして次の瞬間、木曾は目に止まらない速さで怪物の触手を次々に斬り落としていく。だが怪物も抵抗を見せ、触手を丸めて木曾へ攻撃し始める。ここで怪物が思わぬ抵抗を見せたことに、木曾は喜びを感じていた。
「これでッ!最後だッ!!」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!!」
「すごーい!1人で全部倒しちゃった…」
「当然の結果だ、別に騒ぐほどのこともない」
そして遂に木曾は怪物の手足を全て斬り刻むと、胴体の中心部にサーベルを突き刺し、怪物を絶命させる。怪物を1人で倒してしまったのを見たジュンコは、彼女の強さに驚いていたが、本人は当然だと言わんばかりの反応であった。
『木曾さん。怪物の対処お疲れ様です。その場に美食研究会はいますか?』
「おう、いるぞ。それがどうした?」
『簀巻きにされたフウカさんを保護しました。彼女たち、またフウカさんを拉致しようとしていたようです』
「おい、前言撤回だ…っていねぇ。チッ、相変わらず逃げ足の速い奴らだ」
木曾がジュリの生み出した怪物を倒したところで、チナツから通信が入る。彼女はフウカが簀巻きで放置されていたところを発見し、美食研究会がいつものように彼女を拉致しようとしていたと木曾に伝える。それを聞いて木曾は彼女たちを捕まえようとするが、逃げ足の速い彼女たちは、既にその場にはいなかった。
しょうがないので、木曾は負傷者たちを救急医学部に引き渡して帰投した。
数日後
「いやー今日の会議も長いだけで無意味だったねー」
「そうね」
「ヒナちゃん、会議の内容覚えてる?あのアホ議長の言ってること毎度テキトー過ぎてさぁー退屈なんだよねー」
「貴女途中から寝てたでしょう…」
他の委員たちがゲヘナ各地で規則違反者の取り締まりや、事件の解決に勤しんでるなか、委員長の空崎ヒナと北上はようやく万魔殿の会議から解放される。ただ会議に出席していただけだというのに、2人ともげんなりしているのは、万魔殿の議長である羽沼マコトがことあるごとに難癖をつけ、会議の時間をどんどん延長させたからである。
「天雨アコ…あなたまたうちの多摩姉さんをパシリに使ったわね?」
「パシリではありません。私はヒマそうにしていた多摩に仕事を与えてあげただけです」
「あんたねぇ…いくら1人だからって風紀委員会所属の人間がまたアビドスの境界付近でうろうろしてたら問題に発展しかねないって考えないわけぇ?」
「うるっさいですねぇ!?たかだか猫が一匹紛れ込んでいたところで、アビドスの人たちは何も言いませんよ!!あっちにだって猫いるんですから、案外仲良くやってます!!」
そしてヒナと北上の後方で言い争いをしているのは、行政官の天雨アコと北上の姉妹艦である大井である。大井はアコが一応姉である多摩をぞんざいに扱ったことに怒っているようである。というよりも大井とアコは互いのことが気に入らないため、彼女のやることなすことに文句を付けないと気が済まないのである。
「多摩は猫じゃないにゃ」
「うわっ!!帰ってきてたんですか!?帰ってきたら、一言報告くらいしてください!」
「フッ、無様な反応ね」
「だまらっしゃい!!それで?便利屋を保護することはできましたか?」
「失敗したにゃ。アイツら逃げ足が速くて多摩じゃ追いつけないにゃ」
(これは…嘘を付いているときの顔ですね…)
2人が多摩のことを噂していると、アコの背後にその多摩が現れる。いきなり背後から声を掛けられたアコは驚いてしまい、大井にバカにされていた。多摩はアコに便利屋の件について報告を求められると、舌を半分出し、目を逸らしながら逃がしたと述べる。アコはその態度から彼女が嘘をついていることを察した。
「ヒナ、北上、これお土産にゃ」
「あ、ありがとう…」
「多摩姉ちゃんなにこれー?袋麺?」
「アビドスの生徒たちに美味しいラーメン屋に連れて行ってもらったにゃ。美味しかったにゃ。それはそのお店の袋麵にゃ」
「ふぅーん。ありがとね♪」
アコへの報告を早々に切り上げて、多摩はヒナと多摩にお土産を手渡す。便利屋の事務所で一晩過ごした後、多摩はアビドス周辺を探索しており、その際に対策委員会(主にシロコ)によって捕獲される。その後柴関ラーメンを餌付けされ、無事お土産を渡され帰って来たという次第である。
「くまー、温泉開発部の連中がまた地下牢に穴掘って逃げたクマー」
「クソッ…アイツらぁ!!」
「こっちは美食研究会を追ってたら、徹甲弾のオブジェに括りつけられてやがったよ」
「アイツら多分、大和の料理の食材を狙ったクマ。バカな奴らクマ」
「あのハルナさんが『箱入り娘だと思って近きました…恐ろしい人でしたわ…』って言ってましたね。彼女が委員長以外を恐れている様子なんて初めて見ました」
ヒナたちが風紀委員会の宿舎に帰ってきたということで、他のメンバーもヒナの元彼女が席を外していた間の事件などを報告する。球磨たちが捕まえた温泉開発部は脱獄、逃走を図った美食研究会を追っていた木曾は、百鬼夜行自治区にて彼女たちを捕まえたようである。
「みんな、ご苦労様」
「相変わらず騒がしいねぇ、ここは」
「大きな問題はなさそうだね。幸い」
「余所から見れば大問題なんだけどねぇ」
風紀委員たちがゲヘナ各地で治安維持のために働いていたという報告を聞いて、ヒナは彼女たちに労いの言葉をかける。温泉開発部の脱獄や、美食研究会の他自治区でのテロ行為が報告されているにも関わらず、ヒナは大きな問題はなさそうだと判断する。だが北上の言う通り、他の自治区からすれば大問題もいいところであった。
「イオリ…また温泉開発部を逃がしたんですか?これで何度目ですか?」
「アコちゃん…アイツら何度も床と壁を補強しても、その度に脱出するだもん」
「まーた行政官のお小言が始まったクマ。アイツらはどれだけ壁や床を補強しようが無駄クマ。そのうち建物ごと破壊して脱獄するクマ」
「球磨姉さんの言う通りだわ。無駄な事に金や労力を使う必要はないのよ。資材だってタダじゃないんだから」
「ぐぬぬ…!!ああ言えばこう言って…!!」
温泉開発部を取り逃がしたと言う報告を聞いたアコはイオリに詰め寄るが、球磨と大井がいくら捕まえてもまた同じことをするので無駄だと反論する。尤もらしいことを言われたアコは、悔しそうに歯ぎしりしていた。
「アコ、カスミたちのことならもういいわ」
「ヒナ委員長!しかしこのままでは温泉開発部がつけあがります!」
「やらかしたら、また私たちが取り締まればいいでしょ」
「えぇ、その通りです北上さん!」
温泉開発部を逃がした失態を追求するアコを、ヒナはもういいと言って止めさせる。北上は温泉開発部がやらかしたらまた自分たちが倒せばいいと楽観的な考えをしていた。
「というか貴女、さっきから何なんですか!?北上さん、北上さんって…風紀委員会の委員長はヒナ委員長です。北上さんではありませんよ!!」
「うるっさいわね小娘!!空崎ヒナが風紀委員会の委員長であることは認めてあげるわよ。でも北上さんが最強なのよ!!ねっ!?北上さん?」
「まぁ、大井っちと組めば私は最強だと思ってるけど…やっぱりヒナちゃんのほうが強いんじゃない?」
「今の聞きましたよねぇ?やっぱり北上さんもヒナ委員長が一番だって認めてるんじゃないですか!!」
「むきぃぃぃぃぃ!!酸素魚雷を喰らわせてやるわ!!」
「そこら辺にしとくクマ。最強議論は決着がつかず荒れて炎上するだけクマ」
アコは先ほどから北上を持ち上げる発言をする大井に、風紀委員会の委員長はヒナだと叫ぶ。それに対し大井はヒナが風紀委員会の委員長であることは認めつつ、最強は北上であると主張する。だが大井の思いとは違い、北上は単体ではヒナのほうが強いと答えると、アコは勝ち誇った顔で大井を見つめ、彼女を怒らせるのであった。
『第七管区より連絡、第七管区より連絡。港湾部にて事件発生。事件の主犯は鬼怒川カスミ以下温泉開発部。港湾部にて不法侵入及び大規模な破壊行動を続けています』
「はぁ~噂をすればクマ。イオリ、行くクマ」
「今度こそアイツらに目に物を見せてやる!!」
「多摩も行くにゃ」
「お前らに最高の勝利を与えてやる」
「バカは治療不可能ですね」
風紀委員会の宿舎にて集まっていた委員たちと球磨型たちだったが、突如警報が鳴り、温泉開発部がゲヘナの港湾部で温泉開発を始めているとの連絡が入る。それを聞いて一同はため息をつきながら、現場へと向かう準備を始めた。
「休む暇もないわね。はぁ…しょうがない。アコ、行くわよ」
「はい、委員長!!」
「これから北上さんと一緒に過ごす予定だったのに…私と北上さんの前を遮る愚か者たち…許さないわ!!」
「まぁ何ですかねー、気楽にいきますかねー。私はねー」
会議が終わって直に温泉開発部が問題を起こしたことで、ヒナは休む暇がないと嘆きつつも既に現場に向かう準備を進める。大井はこの後北上と過ごす予定があったため、その予定をダメにした温泉開発部に怒り心頭であった。
「さぁ行こう」
「「「「「了解(クマ)(にゃ)!!」」」」」
風紀委員会はヒナの号令の下、温泉開発部討伐へ向かって行った。
その後、鬼怒川カスミ以下温泉開発部が地獄を見たのは言うまでも無い…。