クラスメイトの乾さん   作:スティック/糊

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「あまりにもガバ」

 諸伏家は都内某所に存在する一軒家だ。

 

 そんな家のキッチンを一人の少女が占拠していた。

 

 

「はい、ベタに日本の朝食の図」

 

「ありがたい……」

 

 

 制服にエプロン姿の少女は手際よく料理を完成させるとテーブルの上に料理を並べ始めた。

 

 白米、味噌汁、焼き魚、だし巻き卵に納豆と言った旅館で出来そうな見事な日本の朝食の図だ。

 

 万智夜は朝から突撃してきた彼女に目を白黒させながら迎え入れると、顔を洗って着替えて来いと言われてキッチンを占拠された。

 

 身支度を整え、リビングに戻ってきたらこんな状態な訳だ。

 

 

「頂きます」

 

「召し上がれ」

 

 

 まずは汁物。

 

 しっかりと昆布だしが効いていて味噌の香りも程よい。

 

 具材はシンプルに豆腐とわかめのシンプルな構成だと言うのにとてもほっとする味だ。

 

 朝から暖かい日本食を口にしたのはいつぶりだろうか。

 

 美味い。

 

 

「―――――って、なんで朝から居るの?!」

 

「今日土曜で、月曜まで待てなかったから?」

 

「簡潔でわかりやすい!」

 

 

 昨日のスマホストライカー乾彩寿歌が極めてナチュラルに諸伏家にいることに万智夜は今更ながらツッコミを入れた。

 

 

 

「自然に制服着ちゃったよ…」

 

「洗濯とアイロンがけは任せて」

 

「あまりにも家庭的な能力高すぎない…?」

 

 

 曰く、彼女は服装にあまり興味と言う物がなく無難な制服を選んでやって来たと言う。

 

 そんな彼女の姿を見て万智夜も制服に着替えたのだが、今日は生憎と休日。

 

 土曜日だ。

 

 そう言えば昨日は金曜日だったことを万智夜はすっかりと忘れていた。

 

 

「女の子だから、ってお母さんにいつ嫁に行っても問題がないようには仕込まれてるから任せて」

 

「強い」

 

 

 こんなにも制服エプロンが堂に入っている女子高生がいるものなのか。

 

 

「毎日味噌汁作るよ?」

 

「もしかして俺、とんでもねぇ逆プロポーズされてんの?」

 

 

 後、昨日からやけに彼女の距離感がバグっている気がする。

 

 

「お付き合いしている人いるの?」

 

「いないけど」

 

「じゃあ、私の旦那さんになって」

 

「色々すっ飛ばし過ぎじゃ???????」

 

「私、今まで交際経験ないから他人と比べることないし、一途だし、オタクトークに無限に付き合えるし、中身は成人済みだから大概のことに理解あるよ?浮気だけは許さないけど」

 

「一回冷静になろう?前世仲間見つけて今冷静な状態じゃないだけだと思う。自分をナチュラルに軽く扱うの止めな?」

 

「一晩じっくり考えた末だよ」

 

「長年拗らせた前世にハイになってるだけと思うんだわ」

 

 

 やっぱりなんか色々バグっている。

 

 エプロン姿がよく似合い、家庭的な女子高生と言うあまりにも優良物件ではあるが人との距離感がバグっている状態にある。

 

 万智夜は彼女の精神状況が吊り橋効果に似た謎の興奮状態にあると仮定した。

 

 

「私は冷静だからこの結論に至った経緯を聞いて」

 

「お、おう」

 

 

 彼女は一つ息を吐くと淡々と理由を話し始めた。

 

 ガバが発生したとたんに直ぐにツッコミを入れようと万智夜は構えた。

 

 

「①私は前世があって同年代はすべてクソガキに見えます」

 

「それは、分かる」

 

 

 それに関しては万智夜もよくわかる。

 

 今世のボディー的に同年代であることは理解しているが精神的に幼い相手の相手は流石に問題であると後ずさりしてしまう。

 

 決して人と絡めない言い訳ではない。

 

 

「②重度のオタクで、今世のパチモノコンテンツに奥歯に何かが引っ掛かったようなむず痒さを覚えていて吐き出す相手がほしいです」

 

「お、おう」

 

 

 これに関してもわからんでもない。

 

 たしかに今世の作品は何というか、前世の作品の悪魔合体みたいな色々な要素が抽出されて一つの作品になっているようなのが多く存在するような気がする。

 

 

「③私は現役作家で取り扱っているコンテンツ的に今世の住民だと色々不味いです」

 

「お、おう……?」

 

「具体的にはコレ」

 

「―――――女体化アーサー王、お前菌糸類か!?」

 

「戌井シメジ。よろしくね」

 

「菌糸類じゃねぇか」

 

 

 スッと差し出された本をちらりとまくれば前世でよく目にした作品の設定らしきものが目に入る。

 

 菌糸類作品、要は歴史上の偉人を召喚してどったんばったん厨二御用達の設定が濃い事で有名な作品群の生みの親のことである。

 

 菌糸類量産法確立されていたのか(戦慄)

 

 

「④私外見は良いけど中身が非常におっさん。と言うか前世が土方オジ。性的対象に非常に困ってる」

 

「さらっと凄い事言うじゃん。と言うかその理論で行くと俺外れるじゃん?」

 

「⑤非常に声豚です。あなたの声正直ドストライク」

 

「そ、そこかぁ…」

 

 

 声、声と来たか。

 

 万智夜はそこらへんあまり詳しくはない。

 

 母曰く父に声がそっくりとの談。

 

 

「⑥そんな私でも受け入れてくれそうな前世持ちの声と面のいい男が目の前に現れました。逃がす理由なくない?」

 

「ツラもか」

 

「ド陰キャっぽい雰囲気出してるけど普通に整った顔してるし、体もしっかりと男性的筋肉質。体毛薄め。外見に正直こだわりは持たない方だと思っていたけど、やっぱり衛生的な見た目してる方が総合的な理由で良い。以上が一晩冷静に考えて求婚するに至った経緯」

 

「お、お友達からで」

 

 

 万智夜は美少女のあまりにも強い押しに根負けしそうになったがどうにか耐えた。

 

 

「やだ。そこら辺の女に搔っ攫われたら立ち直れない」

 

「そこら辺の女って…。いや、ほら他にも転生者今後見つかるかもしないだろ」

 

「これ以上の優良物件見つかる気がしない」

 

「まともに会話したの昨日が初めてだった気がするんだけど?」

 

「恋はするものじゃなくて落ちるものだから」

 

「セリフが強い」

 

 

 耐えたはずなのだが彼女はどうにも譲歩をしてくれない。

 

 

「付き合って。今すぐ抱ける現役JKで男受けするFカップ。家事万能で稼ぎもいいのに何の不満があるの」

 

「不満はない、無いけど、こう……お付き合いってそんな軽いテンションでするものでは無いと言うか、付き合うからにはゆくゆくは結婚を視野に入れておきたいものと言うか」

 

「ダメなヒモになってもいいから」

 

「男としてそれはアカンラインだからな????」

 

 

 譲歩する気が本当にないなコイツ。

 

 

「そもそもそう言う行為をするのは社会的にも金銭面的にも責任が取れるようになってからするものであってだな」

 

「そう言う変に生真面目なところも好感度アップ」

 

「……なに、全肯定マシーンなの?」

 

「否定する要素がないだけ」

 

 

 その後長い長い押し問答の末、責任取れる18歳まで清い関係で居ることを条件に交際をすることになった。

 

 何故前世トークに飢えているだけのはずが交際することに?????

 

 万智夜は背に宇宙猫を背負いながらも美味い飯に箸を伸ばすのであった。

 

 

 〇 〇

 

 

「ナチュラルに乗ってくるじゃん」

 

「流石に恋人相手じゃなかったら乗らない。ん、良い鎖骨」

 

「ちょま、流れるようにマーキングしないで」

 

 

 食事を終えて食洗器に食器をぶち込み、リビングのソファーに座り込むと彼女は対面座位染みた体勢で乗っかり、万智夜の襟元をまくるとキスマークを付けてきた。

 

 もしやただのスケベなのではなかろうか。

 

 そう考えなくもないのだが、彼女は単純に同担拒否の独占力がゲロ重いだけなのはこの短い間で理解した。

 

 

「そう言えばご両親は?自然と乗り込んじゃったけど」

 

「あまりにも今更過ぎる。あー、シングルマザーの母は数か月前に亡くなって天涯孤独なう」

 

「仏壇ある?手を合わせておきたいんだけど」

 

「墓はあるけど仏壇はない。遺影は……玄関の所にある」

 

「わかった」

 

 

 そう言うと彼女は万智夜から降りて玄関に向かって行った。

 

 割と律儀な性格なのだろうか。

 

 しばらくすると彼女は再び戻ってきて同じ体勢で乗っかって来た。

 

 

「めっちゃ美人だった」

 

「親相手にどうこう言うのはアレだけど美人だったとは思うよ」

 

「と言うか若くない?」

 

「享年34歳。だいぶヤングな頃に身ごもったらしい」

 

「私もそれくらいに孕ませていいんだけど」

 

「せめて大学は卒業させてくれ」

 

「……わかった。それまでにしっかり稼いでおくね」

 

 

 万智夜の母は若かった。

 

 ヤングマザーであったらしいが、しっかりと手に職をもって女手一つで育て上げてくれた尊敬する人だ。

 

 生涯母には頭が上がらないと思う。

 

 

「で、乾さんや。なんでこの体勢なの」

 

「顔を見たい」

 

「俺はめちゃくちゃ照れ臭い」

 

 

 体勢が体勢だからか万智夜は気恥ずかしい気持ちで一杯である。

 

 可愛い寄りのたれ目がじっとこちらに向いているのだ。

 

 

「あと、乾さんじゃなくて彩寿歌ってよんで」

 

「お、おう」

 

「私も諸伏じゃなくて名前で――――――そう言えば下の名前知らない」

 

「おい、求婚相手の名前を知らないのは流石にどこからツッコミ入れればいいのか分からねぇよ」

 

「ここに突っ込m―――」

 

「言わせねぇよ?」

 

 

 万智夜はツッコミ疲れすら感じながらソファーの背もたれに体重を預け、天を仰いだ。

 

 

「万智夜。諸伏万智夜だ。サラダ記念日で有名な俵万智の万智に時間帯の夜で“まちよ”だ」

 

「万智夜、万智夜ね。覚えた。私は乾彩寿歌。色彩の彩にことぶき、歌で“あすか”」

 

「習字が大変そうな名前だ」

 

「私の姉妹全員“寿”を入れるルール的なものがあったみたい。普段書類に名前を書くのにも少しめんどくさい。画数が多すぎ」

 

「それは何とも」

 

 

 乾彩寿歌。

 

 音的には分かりやすいが、字面に起こすと非常に画数が多い。

 

 

「後、思ったんだけど万智夜、貴方流されやすすぎない?」

 

「張本人がそれを言うか」

 

 

 万智夜にも多少それっぽい自覚はあるので何も言えなかった。

 

 

「美少女だからって知らない他人をホイホイ家に上げないで」

 

「じゃ、追い出すか」

 

「彼女!恋人!後の嫁!」

 

 

 行動を起こした張本人がそんなことを言うので万智夜は猫を持ち上げるように脇に手を入れて彼女を持ち上げて言ってみた。

 

 

「軽ぅ……飯食ってる?」

 

「食べてる。食べた分は胸に行ってる」

 

「男が突っ込みずらいワードで対応しないで」

 

「もう万智夜は好きに突っ込んでいいんだけど」

 

「直ぐに下ネタに持って行くな」

 

「……正直下ネタでもぶち込まないとまともに会話ができないコミュ障なの」

 

「それなら適切な距離とろうや」

 

「万智夜がしれっと逃げそうだから捕まえておかないと、だし」

 

 

 どうやら流れるような下ネタ発言は一種の照れ隠しの様なものだったらしい。

 

 

「だいぶ流されたとは言え流石にそこまで不誠実なことはしねぇよ。お前自身が俺に飽きるまでは付き合うさ」

 

「じゃあ、ずっとだ」

 

「圧」

 

「柔らかいでしょ?」

 

 

 万智夜がそう言えば彩寿歌は感極まったように天を仰いだままの万智夜の顔面を持ち上げて自身の胸に万智夜の顔を埋めた。

 

 万智夜的には言葉に対する圧力へのコメントだったのだが、彼女からすれば胸への感想だと思ったらしい。

 

 

「だからリアクションがしずらい……」

 

「だんだん素直にさせる。末永くよろしくね」

 

「ボチボチ、な」

 

 

 制服のシャツの小さなボタンが顔面に当たり続けるが確かに柔らかいのは事実だ。

 

 しっかりブレザー着込んだ上からでも変わる凶悪な物を顔面に押し付けるのは反則が過ぎないだろうか。

 

 

 

 万智夜は天涯孤独になって人恋しい時でもなければ彼女の強引な押しはシンプルに引いていた気がすると後にそう思った。

 

 

 〇 〇

 

 

「年代のすり合わせしよ」

 

「まぁ、ジャンル被りしてないと色々とバットコミュしそうだしな」

 

「と言うかしれっと前世が同じ世界線だと仮定しているけど……まぁ、昨日のピアノ聞いた感じ大体一致してそうだけど。私は平成一桁後半」

 

「俺も大体同じ年代。ガンダムで言えばEWのOVAが発売されたころの生まれだな」

 

「大体似たり寄ったりだね」

 

「みたいだな」

 

 

 ひとまず、中の人の年代も近しいらしい。

 

 

「そして私はFateのオタク」

 

「書いてる作品からしてそうやろな、としか」

 

「でもチキって登場キャラモチーフの歴史ファンタジーしか世に出せていない…」

 

「それでも菌糸類テイストで書いたのは素直にすごいが過ぎる」

 

「元々書いたのは前世のオタク釣れるかなーって気持ちで世に出したんだけど、ずっと身近にいたからこれ以上刊行する目的も―――――あ、結婚資金貯めるのに書くよ」

 

「つよい」

 

「書き溜めだけは山の様にあるから」

 

 

 たしかにFate作品のキャラモチーフとか無限に題材あるしな。

 

 それでもしっかり描いている当たりに強火のオタクを感じる。

 

 前世を知ってる人を見つけるのは確かに前世が分る要素で釣るのは理に適っていると思う。

 

 実際に万智夜は前世の楽曲で彼女を一本釣りしてしまったわけだし。

 

 

「でもそう考えると、変な博打打たんでよかった」

 

「博打……?」

 

「あー、ファンメイド運命の夜作ってた時期がありまして」

 

 

 万智夜は将来金銭的に困ったらFateの同人ゲーを売ってしまおうと考え、自作していた時期が存在していた。

 

 万智夜にインしたおっさんはアニメに直ぐ影響される多趣味を極めたクレカの支払に怯えるタイプのおっさんであったため、謎に色々な技能を有していた。

 

 その内の一つがノベルゲー制作技能。

 

 某丸戸文〇作品に影響されて「PCがあるってことはスクリプト覚えればゲームが作れるってことだ」と既存のゲーム制作支援系のソフトを一切使わずに男の完全自作を地で行った経験があったのだ。

 

 

「何それ、詳しく」

 

「ちょ、顔を近づけるな」

 

「早く言って。私は冷静さを欠こうとしている」

 

「だから近いって。どうもこうも記憶にあった運命の夜の再現同人ゲーだって」

 

「やりたい。いくら払えばいい?」

 

「いや、要らんし……と言うかそこら辺の版権ぎゅっしてるのお前やろ」

 

「Fate作品は菌糸類だけじゃなくて色々な作家の複合体みたいなところあるし」

 

「まぁ、分からんでも……ないか?」

 

 

 とりあえず再び彼女を持ち上げて2階の自室に案内した。

 

 

「いい椅子」

 

「先ずはそこか」

 

 

 長時間椅子に座ってそうな作家らしい発言と言えばそうなのだが、何かしら目に入るのは職業病と言うやつだろう。

 

 京間8畳ほどの広めの自室の壁沿いに鎮座するのはPC回り。

 

 DTM弄ったりする関係でMIDIとかモニタースピーカーとか色々なヘッドホンがごちゃついてる。

 

 そのパソコンを立ち上げて、もろもろのファイルをまとめたフォルダーをコピーしてUSBに。

 

 長い事使っていなかったノートパソコンを引っ張り出してPC机に並べてる机に置いてUSBを差し込んで立ち上げる。

 

 流石にメインPCは使わせることはできない。

 

 

「……しっかりBGMまで入ってる。え、この画面見ただけで成仏しそう。どこにお金払えばいい?と言うか直接課金するね?何がほしい?ネットで注文するよ?」

 

「圧が強いって。……まぁ、流石にCVはないけどBGMは思い出せる限り再現してあるよ。無印√とUBW√。それといくつかのバットしか作れてないけど」

 

「それだけでも助かる命がある。本当に課金させて?と言うかBGMをWAVがMP3でほしい」

 

「流れるように課金しようとするの止めな?あとイラストは手癖で書いてるから武内しようじゃない文句は受け付けないからな」

 

「そんなバチ当たりな事言わない」

 

「とりあえず好きにプレイしてくれ。バグたらメンゴ」

 

 

 そう言って彼女を部屋に置き、珈琲でも入れるかと深くため息をついた。

 

 

 食洗器から洗い終わった朝食の食器を片付け、少し拘っている珈琲を入れて再び自室に戻る。

 

 

 ちらっと珈琲を置くとスッと手が伸びた。

 

 画面から視線は動かない。オートモードで泣かしているらしい。

 

 制服目当てで入学者が現れると噂の公立にしては中々攻めたデザインの制服のスカートからストッキングに包まれた足を晒しながら椅子の上で器用に体育座りをしている。

 

 

 邪魔したらアカンしな、と万智夜は再び自室を出て一階におり、週末らしく溜まった家事を熟すことにした。

 

 

 

 7時に彼女が襲来し、朝食を食べ終えゲームを開始したのが9時前。

 

 そして現在の時刻は12時頃。昼食の時間だ。

 

 それまでにすっかり家事も片付いた。

 

 朝飯は作ってもらったし、昼食は作るかな……と冷蔵庫を開ける。

 

 一人暮らしの男の冷蔵庫などたかが知れている。

 

 朝食の食材は彼女が持参してきたものだ。

 

 万智夜は自炊は最低限出来るとは言え普段は喫茶店のバイトの賄いで満足しているタイプだ。

 

 故に冷蔵庫は結構スカスカ。

 

 机の上に買い出しに出るとメモを残し外に出て帰って来たのは12時40分ごろ。

 

 特に書置きの位置が変動していないのでもしかしなくても彼女は部屋から出ていない可能性が存在してきた。

 

 そう思って自室を除くとEMIYAの流れる画面で硬直し無限ループしている彼女の姿があった。

 

 ……まぁ、EMIYAは名曲なのはわかるけども。

 

 昼食できるまでそっとしておこう。

 

 万智夜は再び自室の扉を閉めた。

 

 

 ある程度の料理は出来るし、レシピも探せばそれなりに忠実に作ることもできる。

 

 けれども基本的には慣れた楽なものを作るのがベター。

 

 特に食べたいものがある時以外は冷蔵庫を見て適当に作るまでが流れだ。

 

 最近バイト先の喫茶店で軽食メニューも任されるようになってからはナポリタンとサンドイッチばかり作っていたような気がする。

 

 なのでそこら辺の洋から外れたメニューにしたい。

 

 そう考えてサッと作れるもの、と考えると中華系になる。

 

 自宅だとちょっと火力が物足りなくなりがちで有名な中華だ。

 

 それでもサッと作れることでは軍配が上がる。

 

 まぁ、後はFateつながりで麻婆豆腐かな、と。

 

 

 特に変わった様子なくEMIYAを無限ループする彩寿歌を適当なタイミングで持ち上げて一時中断させる。

 

 

「えあ、あれ」

 

「昼だ。休憩」

 

「え、もうそんなに時間たってたの?――――ごめん、今尿意来た。トイレ貸して」

 

「部屋出て左の突き当りの引き戸だ。俺は一階に行ってる」

 

「ありがと」

 

 

 随分と長い事集中していたらしく万智夜が持ち上げたタイミングで生理現象がやって来たらしい。

 

 集中していると確かに忘れがちになってしまうのは分かる。

 

 彼女がやや速足で部屋をてたのを確認し、パソコンをスリープモードに移行させる。

 

 ここまで熱中してくれるとは。

 

 万智夜は自分の口角がすこし上がっていることにも気づかず、少し軽い足取りで一階のリビングへ向かって行った。

 

 

 〇 〇

 

 

「麻婆!」

 

「Fateといったらこれかなと」

 

「……コレ辛い?」

 

「中辛」

 

「ならいける」

 

「流石に激辛は俺が食えない」

 

「私も辛すぎるのは苦手」

 

 

 麻婆と餃子、かき卵スープとごはんといった中華定食じみたメニューとなっている。

 

 

「お父さんは辛いもの好きなんだけどうちの女性陣は辛いもの苦手だから中辛でもあまり出ない気がする」

 

「家族だと大勢が食べられる方を選びがちよな」

 

「あ、ニンニクレスのショウガの効いた餃子だ、美味しい」

 

「流石に女子にニンニクを出すのは躊躇った」

 

「……もしかしなくても手作り?」

 

「餃子は冷凍の作り置きだけどな」

 

「料理ができる系男子ッ」

 

「簡単なものしかできないよ」

 

「麻婆も~~の素みたいなタイプじゃなくてちゃんと豆板醤とかテンジャン使ってるよね?」

 

「麻婆は簡単なメニューだから………と言うかよくわかるな」

 

「私のお母さん料理教室の先生やってるから」

 

「それでもわかるのすげぇよ」

 

 

 少なくとも万智夜には少なくともそこら辺の細かな違いに気が付ける気はしなかった。

 

 時間が余っている暇人は料理に凝りがちになってしまう所はあると思う。

 

 

「それで料理得意なのか」

 

「私基本的に自堕落な趣味人だから健康に気を付けるために料理くらい身に着けておきなさいって」

 

「執筆に集中し始めたら一日中パソコンの前から離れない姿が容易に浮かぶ」

 

「理解力たかぁ」

 

「母さんが翻訳家だったからそう言った光景には慣れてるんだよ」

 

「やっぱりあまりにも優良物件過ぎない?」

 

「俺くらいのならいくらでもいるだろうよ」

 

「いない」

 

「力強い…」

 

 

 よどみなくスプーンは動いているので彼女の舌にそれなりにあったらしい。

 

 そのことには安心した。

 

 

「と言うかあの運命の夜の完成度何さ」

 

「記憶にある限りの再現だからだいぶガバガバだけどな。あまりにもガバ」

 

「ちゃんと大筋は分かるし、あったあったと興奮しっぱなしだったよ」

 

「そりゃよかった」

 

「やっぱりBGM欲しい。売って」

 

「後でまとめてく」

 

「ありがと。で、いくら」

 

「……?」

 

「いくら?課金させて。この感謝を伝えるのには課金しかないの。いくら?」

 

「要らんけど」

 

「うっさい課金させろ!前世の乾いた心にスッと染み渡る懐かしのBGM聞けただけで財産の半分ぶち込んでも後悔はないね!」

 

「勘弁してくれ」

 

 

 渋々と万智夜はいつかのデート資金にでもしてくれと白旗を上げると彼女はにこやかにそれを了承した。

 

 

「じゃ、最初のデートはデート服を探す制服デートでもしよ」

 

「名前が濃い。まぁ、俺も私服にはまるで拘らないからありがたいけども」

 

「で、明日暇?」

 

「行動力ッ!」

 

 

 この彼女さんフットワーク軽すぎやしないだろうか。

 

 その様子に万智夜は頭痛が痛くなってきた、なんて頭が悪い語彙が出始めてきた。

 

 

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