クラスメイトの乾さん   作:スティック/糊

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「大義名分。私の好きな言葉だよ」

 

「……可愛いな」

 

「ちょっと気合入れてみた」

 

 

 翌、日曜日。10時30分。

 

 万智夜と彩寿歌はショッピングモール待ち合わせた。

 

 デート服を選ぶ制服デートと言うのが流れるように慣行された訳だ。

 

 見慣れた高校の制服なのだが、髪型が先日のものとは変わっていた。

 

 普段から柔らかそうなふわっとした印象のロングヘアなのだが今日はその髪が編み込まれて、シンプルなリボンの映える髪型になっていた。

 

 

「万智夜もガラッと変わってるね」

 

「デートだし簡単にセットくらいはするかなと」

 

 

 万智夜も万智夜で眉を整え髪型のセットをした。

 

 一応、昔から髪を切ってくれている美容室で「え、初デート?気合入れたるわ」とノリノリでセットされた。

 

 対価はカットモデルとして数枚写真を取られる程度ではあったが日曜の朝から面倒を見て貰えるとは思わなかった。

 

 その際にセットの仕方も教え込まれたので今後はある程度セットできると思う。

 

 初デートに浮かれすぎている説は存在する。

 

 

「眼鏡取って髪整えるだけでイケメン度爆上がりとか漫画のキャラか何かなの?」

 

「言うほど変わってるか?」

 

「だいぶ」

 

「隣を歩いて不自然じゃないならそれでいいや」

 

「私が劣っているまであるよ」

 

「それはないだろ」

 

 

 強引に付き合っておいた私英断過ぎる、なんて彩寿歌が心の中で呟いているのを万智夜は知る由もなくその日のデートは開始された。

 

 

「正直言うと未だに服は一切わからない」

 

「私も」

 

「結果マネキン買いしがちになる」

 

 

 いざ予定通りショッピングモールの適当な店を冷やかしていく。

 

 万智夜も彩寿歌も服装の知識については極めて薄い。

 

 当人たちは基本的に露骨にTPOさえ壊さなければ無難なマネキン買いで済ませてしまおうと考えるタイプの為だ。

 

 何なら小奇麗なチノパンにパーカーを合わせておけば秋から春にかけてどうにかなると思っている節まであった。

 

 

「……GUとかUNIとかは今日は禁止縛りしよう」

 

「迷ったらそっち行くだろうしな」

 

 

 そう言って再び店を巡り始める。

 

 服屋は少し季節を先取りして陳列すると言うが、並んでいる衣類はどれも夏服ばかり。

 

 熱くなったらシャツ買うかと適当に買うタイプの人間には流行に沿っているであろうちょっと先の季節の服とかどうやって手を出せばいいのかなんてわかりもしない訳だ。

 

 

「まるで分らん」

 

「じゃ、私が着せたい服選んでいい?」

 

「むしろそっちの方が助かる」

 

「サイズいくつくらい?」

 

「LかXL、一応肩幅ある方だからモノによりけり」

 

「背もデカいし腕も結構長いよね」

 

「一応身長は180後半だ」

 

「でっっっ」

 

「オタクがこぼれでてんぞ」

 

 

 その表現は性的なものを見た時に対するリアクションではなかろうか。

 

 万智夜は前世よりも今世の方が背丈が高いが、ここまで背丈があると場所によっては頭を打つ時があるので平均身長くらいが一番生きやすい事を学んだ。

 

 胴長短足、とは程遠い体型に生まれはしたが個人的にはもう少し筋肉の付きやすい体型になりたかった。

 

 

「ハイソな店で見かける裾が広がっているパンツよりもスラックスみたいなスッとした感じの物履かせたい。え、股下長っ」

 

「喜んでいいのか服を選ぶのが面倒なのか困るポイントだけどな」

 

 

 早速と言わんばかりに服を選んでは万智夜にあてがっていく。

 

 ラックや棚から良さげなものを選んでは重ねるようにあてがわれ、コレもって試着室にGOのサインが出る。

 

 

「……謎のバンドマンみがないかコレ」

 

「正直ある」

 

 

 シンプルなシャツにビックシルエットの5分袖シャツを羽織るようなファッションで、ズボンにTシャツをインすればどことないバンドマンのような雰囲気を思わせている。

 

 

「でも似合うからキープ。次コレ」

 

「わかった」

 

 

 そこからいくつかの服を選んでは試着室にゴーされて行き、気が付けばひょっこり顔をだした店員もそれに参戦していた。

 

 一体何度着替えたか分からなくなった頃に「顔とスタイルがいいから何着せても似合いやがる」とベターな小奇麗めのシャツとアウターが選ばれた。

 

 

「じゃ、会計してくる」

 

「オイこらその服を掴んだ籠から一回手を放せ」

 

 

 服を選ぶとそれをもって会計に行こうとする彩寿歌の手を万智夜はしっかりつかんで阻止した。

 

 

「え、貢がせて」

 

「やめい」

 

「一体何になら課金させてくれるの?!」

 

「変なところでキレるな」

 

 

 しれっと服の会計を持とうとしていたらしい彩寿歌を必死にとどめ、万智夜は自分でその服を会計した。

 

 遺族年金とか親の残した遺産とかでそれなりに懐はあるし、週3で行っているバイトのお陰で財布がさみしい訳ではない。

 

 流石に付き合った翌日の女子に奢られるのは違う。

 

 

「くっ、お昼くらいは奢らせてもらうからね」

 

「その謎の執念はなんなんだよ」

 

 

 思いのほかリーズナブルにまとまった会計にほっとしつつ、結構長い事服を選んでいたらしいことに気が付きこまない内にどこかで昼食を食べようと移動を開始した。

 

 

 〇 〇

 

 

 昼食をモール内のお高めの所に躊躇いなく入っていくのを止められずお昼は回らない寿司となった。

 

 会計は一切譲る気がないのか、会計後も食った分は出させろと押し付けようとしても暖簾に手押し状態で受け取ってもらえなかった。

 

 人に奢って心底嬉しそうな顔をしているので万智夜も何も言えなかった。

 

 

「さて、次は私の服……と言いたいけど結構お腹いっぱいになったから少し散策しよ」

 

「わかった」

 

 

 服を選ぶ前に食後の休憩と称してモール内の衣類と関係ない所を散策することに。

 

 

「昨日の万智夜の部屋でも思ったんだけど曲作ったりできるの?」

 

「ほとんどBGM再現しかしないけどな」

 

「それができるだけすごいんだよ」

 

 

 万智夜はDTMでちょこちょこと記憶を漁りながらBGMの再現をするのが無限に時間が解ける趣味となっていた。

 

 KOMPLETEシリーズの上位音源をセールとアカデミック版の割引で買って、ちょこちょこバイト代でプラグインを買って運用している。

 

 DAWはボカロ買った時についてきた簡易版のDAWをこれまたアカデミック版をセールでアップグレードして使ってる。

 

 割と学割が効くのがうれしい所である。

 

 

「生楽器はピアノとギターくらい」

 

「タッパがデカいし手も大きいからベースとかも似合いそうだけど」

 

「ベースもできなくはないけど打ち込みで今の所満足しちゃってんだよ」

 

 

 万智夜の部屋にはシンセと魔改造されたテレキャスが置かれている。

 

 ベースはなんか本能的に持っているとあかんと言う謎の警告を感じるので持っていないのが正直なところである。

 

 

「と言う訳で楽器店行こう」

 

「何がと言う訳なのか一ミリもわからんし、強制的に貢ごうとしているのが目に見えてくるのでダメです」

 

「くっ、すっかり警戒されてる」

 

「10分前のお前の行動思い返して?」

 

 

 隙あらば人に物を買い与えようとするじゃん。

 

 

「じゃ、雑貨屋行こう」

 

「まぁ、それなら…?」

 

 

 これもまた彼女のトラップ。

 

 いわばドアインザフェイスの精神であったことを万智夜は後に気が付いたのだった。

 

 

 〇 〇

 

 

「すっごい笑顔」

 

「いやー彼氏殿の性癖を知れるのがこんなに楽しいことだとは私知らなかったよ」

 

 

 雑貨屋を出てから目的の服屋に突入し、万智夜のチョイスで彼女は次々と着替えていった。

 

 男物の服装にろくに詳しくないのに女性ものなんて尚のことわかる訳がないだろうとツッコミを入れたのだが、「ダウト。絵の描ける人が参考資料にふわっとした知識でも服を検索しない訳がない」と言い切られ、ふわっとした印象を伝えると彼女は躊躇いなく店を選んだ。

 

 曰く自分の服には一切興味ないけど姉妹に服を選んで着せるのは好きなのだとか。

 

 その影響で女性ものならある程度分かると言う。

 

 ただ本当に自分の身だしなみに無頓着なだけらしい。

 

 

「こういう系統も悪くないね」

 

 

 万智夜のチョイスはあまり露出していないハイウエストのロングスカートに地雷系程フリフリしていないタイプのシンプルなシャツの組み合わせだ。

 

 

「で、似合う」

 

「とても」

 

「じゃ、買う」

 

「判断が早いッ」

 

「万智夜、口角上がってるよ」

 

「~~~~ッ!」

 

 

 そこで彼女は凡そ万智夜の癖を察したらしい。

 

 上機嫌で再び試着室のカーテンを閉めていった彼女の背を見送り、万智夜は赤面しつつあるであろう自分の顔を少し覆った。

 

 万智夜の好みと言えば過度に可愛い可愛いしていない清楚目なすっきりとした雰囲気の服装だ。

 

 それでいて柄が強く主張していないシンプルな雰囲気の物。

 

 目に優しい系が好みであった。

 

 

「で、ギャルっとした雰囲気のがっつり見せてるオフショルよりもちらりと肩が見えるこれくらいなのが好きなんでしょ?」

 

「そうだけどもッ」

 

 

 再びカーテンを開けた彩寿歌の姿に完全に把握されたな、と完全に自分の顔を覆った。

 

 彩寿歌は上機嫌に服を会計に進めていった。

 

 

 

「さて、テレ顔を接種できて私は非常に満足」

 

「人の心」

 

「ほら、菌糸類系作家だし」

 

「人の心ぉ……」

 

 

 その後近くの喫茶店により休憩。

 

 万智夜は完全に机に突っ伏しているが、彩寿歌は非常にいい笑顔を浮かべていた。

 

 

「この後どうしよっか。目的は果たせたし」

 

「本屋にでも」

 

「私の作品なら家に献本いっぱいあるから持って行くけど」

 

「察しが強い」

 

 

 過度に金に余裕がある訳ではないのでそれは助かりはするのだが、あまりにも察するのが早い。

 

 さらっと人間観察能力が高いのではないだろうか。

 

 

「なら、ちょっと歩くけど行きたい所あるんだけどいいか」

 

「どこでもついて行くよ」

 

「イイ女かよ」

 

「いい女だよ」

 

 

 〇 〇

 

 

「らっしゃい」

 

「すみません、光さんに紹介されて小物探しに来たんですが」

 

「え、あらそうなの。ゆっくりしてってね♡」

 

 

「え、変わり身がすごい」

 

「光さんの知り合いだけあって癖が強い」

 

 

 先ほどまでいたショッピングモールから二駅電車に乗って移動して少しした所に目的の店があった。

 

 ちょっと暗めの雰囲気のレザークラフトのお店だ。

 

 万智夜がお世話になっているAirsと言う美容室のオネェ系の担当さんに「え、初々しい初デートでレザーの小物好きなら見に行ってみてね」と紹介されたので見に来てみた感じだ。

 

 一瞬愛想のない厳ついロン毛の髭を見たのだが、彼の名前を出した瞬間に一瞬でオネェに変わったことに彩寿歌は謎のカルチャーショックを受けていた。

 

 万智夜は光の様をみてすっかり慣れきっていた。

 

 

「日常系で使いやすそうなレザーだね」

 

「レザーと聞いてたからウェスタン風味をイメージしてたけどだいぶカジュアル」

 

 

 レザーの他にも銀細工の様なアクセサリーもちらほらと目に入る。

 

 

「腕」

 

「…?」

 

 

 店内の色々なものを眺めていると彩寿歌に端的な語彙を告げられてそのまま万智夜は腕を出すと、手首に銀色のバングルを付けられた。

 

 角打ちの棒をツイストしたようなデザインのものだ。

 

 

「よし、気に入った。オネェさんこれ買います」

 

「思いっきりがいいわね。安くしておくわ」

 

「いやちょっと待てい」

 

「だが断る!」

 

 

 そう言って彩寿歌は躊躇いなく財布を取り出し、会計を済ませてしまった。

 

 

「あまり文句言ってると次は高級時計にするからね」

 

「どんな脅しだよ」

 

 

 本当に流れるように金落とすな…?

 

 今日だけでもだいぶ散財しているように見えてしまう。

 

 

「あー、俺にも何か初デート記念に何か贈らせてくれ。好きな色は」

 

「あなた色」

 

「違うそうじゃない」

 

「冗談、冗談」

 

 

 一切の冗談に聞こえないのが恐ろしい。

 

 そう言うなら自分の好きな色を選んでしまおう。

 

 一息ついて万智夜は一つのアクセサリーを選んだ

 

 レザーの二重巻きで留め具にワンポイントの銀細工が付いているものだ。

 

 レザーの色もカラフルなのか色々な色合いがある。

 

 

「青とか緑とか暖色系よりは寒色系、落ち着いた色合いが好みだからこれを贈らせてもらう。良いな?」

 

「ひゃい」

 

「急にしおらしい」

 

「急に攻めてくるのは違うじゃんッ」

 

「攻めてはいないだろ」

 

 

 そう言って万智夜は彩寿歌の手を取ってそれを巻いた。

 

 うん、なんか満足。

 

 会計、と言う前に店員のオネエさんはスッゴイいい笑顔でレジ上部の液晶を指さした。

 

 ……値札の金額の何割引きだよ、とツッコミを入れたくなるほどの割引であったが「思春期の初々しい様からしか接種できない栄養素がある」と言ってにこやかに会計を済ませてくれた。

 

 二人とも中の人の年齢はおそらくあなたより年上ですとは言えなかった。

 

 濃いなぁ……。

 

 

「これが色あせたくらいになったら別の物を贈らせてもらうよ」

 

「口説くじゃん」

 

「……?」

 

「わ、ナチュラルボーンスケコマしだったか」

 

「失礼が過ぎるだろ」

 

 

 やっぱ私英断過ぎるな。

 

 そんな副音声など知る由もなく、その日は解散するように駅で別れたが、駅に着くまでチラチラと腕に視線が行っていたので満足なデートにはなったようで万智夜は一安心した。

 

 

 〇 〇

 

 

 翌日、月曜日の昼休み。

 

 4限目のチャイムが鳴り、教師が教室から出ていったことですっかり教室は昼休みの空気感に突入した。

 

 万智夜も鞄からお茶と焼きそばパンを取り出し、昼食に入ろうとした。 

 

 

「はい、愛妻弁当」

 

「……どこからツッコミを入れればいい」

 

 

 万智夜はあまりにも堂々とした動きで万智夜の机に可愛い風呂敷で包まれたお弁当を置く彩寿歌にどこからツッコミを入れればいいのか分からなかった。

 

 クラス内も突然の出来事に少し空気が固まった。

 

 この空気どないせぇっちゅうねん。

 

 

「あ、彩寿歌?彼、え?愛妻弁当?」

 

「彼女が彼氏にお弁当を作ってくるのは愛妻弁当と形容しても……問題はないよね?」

 

 

 そんな空気感のなかで一人の少女がその空気を破った。

 

 彩寿歌とも交友の深い宮野紅音が声を上げたがそれを彩寿歌は何を当然のことを言っているのかと言わんばかりに流した。

 

 

「じゃ、私は友達と食べるけど。今度は一緒に食べようね?」

 

 

 言いたいことを言ってサクッといつも昼食を取っているグループに帰っていく。

 

 

 普段からボッチで食事をとっている万智夜に物珍し気な目線が向く。

 

 教室内はすっかり静まり返っている。

 

 

「彩寿歌、彩寿歌、私の幻聴だったと思うんだけどさっき諸伏のこと彼氏って言わなかった」

 

「言ったけど」

 

「い、一体いつから!?」

 

「内緒」

 

「内緒かぁって、えぇえ!?」

 

 

 クラス内の感情を代弁するように園田の絶叫にクラス内が一斉に首を縦に振った、そんな気がした。

 

 

「な、何故急に愛妻弁当なんて」

 

「都合のいい大義名分を手に入れたからかな」

 

「なんかよくわからないけどスッゴイいい笑顔をしていることだけは分かった」

 

「ふふ、大義名分。私の好きな言葉だよ」

 

 

 都内のとある高校に新たな噂がこの日広がるであろうことだけは、人間関係が広い訳ではない万智夜にもわかったような気がした。

 

 弁当は男子高校生が好きそうな茶色い弁当で大変美味しかったことだけは確かだ。

 

 

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