クラスメイトの乾さん 作:スティック/糊
7月上旬。
すっかり休日は万智夜の家に足を運ぶようになった彩寿歌はパソコンのキーボードを叩く指を止めることなく隣で作業をしている万智夜にツッコミを入れた。
「ちょ、このシーンはCG絶対入れたい!」
「枚数を加減しろ!」
「万智夜の絵がCLAMPしてるのがわるいよ、CLAMPしてるのが」
「あまりにもひどい」
始まりは「この世界のなんか歯がゆい作品の元ネタを考察しよう」と言う話からであり、その中の一つに出てきたのが『フラワープリンセス烈!!』だ。
万智夜たちが幼い頃に放映されていた女児向けテレビアニメであり、略称は「烈!!」全126話。
だいぶご長寿な女児に愛されたアニメである。
ジャンルは“魔法少女もの”だが、実際に登場する魔法少女たちは魔法をあまり使用せず、ほぼ殴り合いで解決しているのが特徴的。
これはプリキュア枠として認識すればいいのか、それともおジャ魔女どれみ枠なのか……。
まぁ、そんなことはすっ飛ばして天花寺ミライのCVがあまりにも丹下様であったことから魔法少女(?)ものでその声なら『カードキャプターさくら』が上がってくるのが古のオタクと言う物だ。
癖の強い恋愛模様という観点では『フラワープリンセス烈!!』も中々な多様性のある作品である。
こう、男性同士の恋愛模様って高貴なお姉さま方が想像で組み上げる関係値の同人行きな所なのだが、烈!!ではそれが公式なのだ……。
好きな男とその幼馴染の男が付き合い始めたことで闇落ちするブラックロベリア氏…。
そんなこともあってCCさくらをちょっと前世の記憶整理するついでに同人にしてしまおうぜ、とイカれた思考にたどり着き、こうして作業をしているのだ。
CLAMP作品のキャラデザに脳をレンチンされていた万智夜が手癖でイラストを描くとすべてCLAMP風味に仕上がる。CLAMPないのどの作画に寄るかはその時のテンションに大きく左右される。
自作同人ゲーの運命の夜もCLAMP風味になっている。
手足長めでちょっと筋肉が頼りないステイナイトとなっている。
漫画で描き始めようとすると莫大すぎる時間がかかるな?と言う話になり、万智夜の覚えのあるノベルゲー形式カードキャプターさくらの制作が始まったのだ。
なお制作目的は前世の作品を覚えておくと言うシンプルなモノのため同人イベントでの配布や、インターネットでの公開予定はない。
「それでもこのボリュームだぞ」
「こちとら文字列全部やるって言ってるんだよ!?」
「イラストとBGM、システムスクリプト俺やんけ」
「ぐぬぅ…」
「スクリプトの勉強しようか」
「はぃ」
万智夜は元気にPCのキーボードを叩き続ける彼女の前にノベルゲーム制作に必要な無機質な教本を積んだ。
文字列と言うならスクリプトも文字列だろ?と圧をかけていきたい。
「で、どこまで作る」
「完全に踏切発進だもんねぇ」
基本的に作業速度が速い2人は順当にクロウカード編の終わりが見えてきたところだ。
ここ1ヶ月半の空き時間はすべてぶち込んでいるため、そこまで進捗が進められている。
クロウカード編やさくらカード編は彩寿歌の記憶を頼りに制作していけるが、それ以降のクリアカード編は完結までが分らないと言う問題点が存在するため、作るとしてさくらカード編まで。
それでもアニメ劇場版までの内容は作りたい、なんて話になってくる訳で……。
「ここまでくるとツバクロ…!」
「鬼か貴様。その流れだとホリックまで行くだろ」
「そこらへんはラノベ形式で妥協しよう」
「一切妥協できてねえじゃねぇよ」
「でも本棚に欲しくない?」
「わかるけども……描けばええんやろ」
「うんうん、理解ある彼氏最強」
なお、この間も一切手が止まることはない。
カードキャプターさくらをこの世界線に誕生させるだけの活動が淡々と続いた。
結局ノベルゲーCCさくらが出来上がった後もノベルCCさくらとして新たにイラストを描き下ろすことになったことは別の話。
〇 〇
8月上旬。
バイトのない休日万智夜は自宅でPC画面とにらめっこしていると彩寿歌が遊びに来た。
「出来ました。ライトノベルCCさくら」
彩寿歌がしっかりとノベルゲーのCCさくらをかき上げ、ノベルの方は同人根性モリモリの二次創作に近しいCCさくらが出来上がっていた。
そもそも再現と言ってるだけで二次創作みたいなもの?それはそう。
完全個人出版の超少部数発行。
全10巻に収まったそれは各10部発行の完全に趣味で作られた同人である。
箔押しに遊び紙まで入った完全に趣味の代物であり、その発行費用はお察しのとおりのとんでもない費用となっている。
労働費としてその出版費の数倍の額を押し付けられそうになったが固辞した。
もうすでにWac〇m製の液タブ最上位PROモデルが万智夜の作業机に鎮座し、BGM制作でも多くの音源とお高いシンセが一台送られているためだ。
彩寿歌曰く「それは制作の必要経費であって、私のわがままに対する報酬にはならない」とのことだ。
だが、万智夜も「納税発生しそうなのは勘弁してほしい」と遠慮をした。
それでも、と言うので打ち上げと称してお高い焼肉を奢って貰った。
若いうちに旨い肉は無限に食えてよい。
年取ると脂身きつくなって赤みばかり食べるようになってしまう。
「と言う訳で一部は実際に読む用、もう一部は本棚に突っ込んどく用、さらにもう一部は日焼けしないように保存しておく用の計3部は私が持ってくから残りの7部は好きにして」
「おま」
「別名、私の部屋においておけるのにも限界があるとも言う」
「別に一人暮らしだから構わないけども」
そもそも10部発行になったのも注文できる最小部数が10部であっただけだ。
発注して届けられたのが万智夜宅。
そこから3部づつ抜かれても1巻が7冊づつ存在する訳で、単純に70冊となる。
万智夜の家の物置に大半を封印し、10冊は万智夜の本棚に並べられることとなった。
「達成感!」
「まだノベルゲーの方は終わってないからな」
「それは……ゆっくり進めよう?」
「まぁ、急ぐつもりもないからゆっくりやらせてもらうけども」
ノベルゲーの進捗?
本文はおおむね完了しているが立ち絵の選定とBGM選び、ゲームとしての演出に終わりが見えない状況に陥っていた。
地の文を省く特性上それを立ち絵を動かして表現したり、カットインにも似た表現を起こしたりとやることが無限すぎる。
普通に終わらん。
運命の夜は原作リスペクトすると立ち絵が比較的少ないからやりやすかったんだけどなぁ!
8月、夏休みに突入したことで週3で入っていたバイトの頻度が上がったことも進行の遅れに出ていた。
「と言う訳でコスプレしよ?」
「文脈、文脈を寄越せ」
「簡単に説明すると、うちの姉が烈‼のブラックリリィコスをしたらしくて。それが大変きゃわわだったの」
「魔法少女好きなんだったかお前の姉」
「そう、そして妹も男装をしたらしいの」
それがこれね、とスマホの画面が見せられる。
天花寺颯馬のコスとブラックリリィのコスが映っている。
……?
ブラックリリィが姉で、颯馬のほうが妹…?
「お前の姉妹、妹になるにつれて背がデカくなる法則でもあんの?」
「あーそう言われるとそうかも?」
明らかにブラックリリィの方が140㎝半ば程度で、颯馬の方が180㎝近くに見えた。
そう考えると彩寿歌はその中間に位置しそうな背丈である。
「……私の姉妹可愛いからって浮気しないでよね」
「俺はロリコンではないんだけど」
ジトっとした目を向けられるが、流石に普通の同年代に向けるそれはアウトになると言う心情があるため、精々親戚の姪を見るような感覚に近しくなるだろう。
「それはさておきめっちゃ可愛い上に衣装の完成度が鬼高いの」
「確かに」
あまり服に詳しくなくても細かいところまでしっかりと作り込まれていることがよくわかった。
割と多彩な部類に入る万智夜も衣装制作と言うカテゴリーは無知であるためそのすごさをしっかりと理解する訳ではないが、アニメと比較してもそのクオリティはよくわかった。
「それに対抗心を燃やして私もコス衣装を作りたい、となりまして」
「彩寿歌は女子力高いもんな」
「裁縫はお手の物。……だけど流石に自宅にミシン置く訳にいかなくてね?万智夜の所置かせてほしいなぁ」
「いいけども」
「快諾してくれるのが強すぎるッ」
最近彩寿歌の私物が増えているのはだいぶ今更な所なのでそこらへんは気にしない。
いっそ一室好きにさせるか…?
「じゃ、さっそく買いに行こ」
「行動力ッ!!」
本当に彩寿歌は行動が早い。
ちょっと着替える、と万智夜は自室に向かって行くが「この彼氏優しさの化身過ぎる」と言う彩寿歌のつぶやきは聞こえなかった。
〇 〇
「それで、買いたいものの目星は付いてるのか?」
「ある程度は」
曰く手芸専門店の大手だとミシンメーカー認定の販売員も知るらしく、そこで聞きながら決めるらしい。
目的としている手芸店では生地の量り売りもしているらしく、そこでいくらか生地も見ていきたいとのこと。
「最近散財がすごいが大丈夫か?」
「それ以上に私は稼いでいるのだよ彼氏くん」
うれしい事に最近重版も決まってね。それに税理士さんに確認して使い過ぎたらアカンラインは決めていると彼女は続けた。
「計画的にやってるなら大きく口出しはしないけども、金銭感覚ぶち壊れるような豪遊は控えとけ?」
「ちゃんと結婚資金も貯めてるから安心して」
「そこじゃねぇよ」
この彼女様はよぅ。
でも前に雑談してた時にキャラグッズにしては高いバンドアニメの声優がリアルライブで使ったモデルの50万を超えるギターをローンで買ったことが前世であるとか言う人物なのでこの性質は昔からなのかもしれない。
「車やバイク趣味よりは安いからセーフ」
「なにもセーフじゃねぇんだわ」
そう言われるとそうなのかも…?
万智夜はだいぶ彩寿歌に毒されていた。
「えー、身長が解釈違い!」
「そりゃ、高校生が小学生キャラやればそうなんのよ」
ミシンを当日即決購入、生地もそれなりの量買い込んでさっそく彩寿歌は衣装制作を開始した。
数日で彩寿歌はそれを仕上げ今着こんだところでウィッグに帽子、メイクまで済ませた状態である。
胸は補正下着で潰してあるそうな。
「桜ちゃんの背丈は諸説あるけど個人的には140ちょっとくらいの認識だし、クリアカードの中学生編と考えれば上中学生の平均身長150半ばど考えればギリ…?アングルで誤魔化す……?」
「単純に桜の身長140仮定したら兄ら2m超えだぞ」
「そう考えるとCLAMP作品のキャラの身長はあてにならなすぎるッ!」
「それは古からオタクがずっと考えていることだと思うぞ」
とりあえず、これを一案としておくことにすると言う。
CCさくらは魔法少女モノでも特に衣装のバリエーションが多い作品だ。
戦闘のたびに主人公の親友が衣装を仕立てているタイプの異色の魔法少女モノとも言える。
「友枝小学校女子制服の他にも色々バトルコスチュームがあるけど……万智夜は何か好きなのある?」
「OPのやつかな」
「確かにそれも外せない。設定画出して」
「はいよ」
「こういう時制作側だと強くていい。版権って素敵な言葉だよね」
「表に出してない同人だけどな」
イラストは万智夜が担当しているためその度に設定画もちゃんと作成している。
設定資料集で一冊作れる説があるぞ…?
まぁ、そこらへん凝っているから進捗が遅れている側面もある。
彩寿歌がスクリプトを覚え始め進捗は確実に進んでいるはずなのに、オタク君はすぐに違う事にも力を入れ始めてしまう。
「あ、それで万智夜には月やってもらいたくて」
「……正気か?」
「超正気。そのためだったら私はメンズメイクを覚える気ですらあるね」
曰く、桃矢系統もいいが、切れ長目の最後の審判の月を押したいと言う。
「しゃーない、着替えて写真撮るくらいなら付き合うよ」
「わーい、ありがとう!」
「その格好で抱き着くのはやめろ、犯罪臭がする」
「反応した?」
「しねぇよ。絵面の問題だよ」
「―――ハッ、月と合わせるなら奈久留、ルビー・ムーンもありだと気が付いてしまった」
「好きにせぇ」
そんなことを良い始め、彼女は無限に衣装を作り始める気なのだろうかと万智夜は訝しんだ。
〇 〇
ウィッグとカラコン、メイクくらいは覚えるかなぁ。
バイト先の喫茶店からの方がそう言ったコスプレ用品店が近いと調べて分かったので万智夜はバイト終わりに池袋へ向かっていた。
一応事前に何を買えばいいのかはネットで調べてみたので一般的な化粧品もありなのだが写真映えを考えるなら舞台メイクをする様な化粧品の方がよさそうだとその手の専門店に足を運んだ。
カラコンは銀と言うか白と言うか灰のような本当に月のイメージカラーって感じで色を塗ったし、前世で見たのもそんな感じの色……だったはずだ。
記憶の再現なので中々難易度が高い。
そんな色合いも割とメジャーなキャラコスプレにあるのか結構すぐに見つかった。
数点籠にシュート。
肌は元から色白に分類されるからあまり気にしなくてもいいだろうが、写真の色映りはあまり分からない。
ワントーン明るくするくらいに考えておこう。
輪郭の補正…そう言うテープもあるのか。買っておこう。
色々籠に突っ込んで行ったらそれなりの金額になってしまった。
まぁ、夏休みの昼食は彩寿歌にだいぶ助けられていたからそれくらいの余裕はあるからいいだろう。
細かい筆とかそこらへんは100均で探そう。
となると後はウィッグか。
求めてる色合いあるかなぁ……。
月白色と言ういかにもなネーミングの物を見つけてしまった。
親切にも似たような色合いを並べて光の具合でどれくらい違うかの参考写真が付いている親切仕様。
……これをカットとセットか。
難易度高ぁ。
「あの……?」
「ああ、邪魔になってましたか。すみません」
そんなカットも何もされていない状態のウィッグを見て尻込みをしていると背後から声がかかった。
長い間棚の前を占領してしまっていたらしい。
「あ、いえ。何かすごく悩んでいらっしゃる様子だったので」
そこまで聞いて万智夜は声の主の顔を伺った。
短髪でどこか素朴な様な雰囲気をした作務衣の青年だ。
「すみません、同年代らしい男性をこういった店であまり見ないので思わず声をかけてしまって」
「ああ、ちょっとウィッグを買おうとしたのは良いもののこれをセットするのかと尻込みしていた所なんです」
「そうなんですね、確かにセットするのって難しいですよね」
「冷静に考えるとアニメ調のセットどころか普段の自分の髪のセットもまともにしないなとなるとだいぶ尻込みしてる」
月の髪型は比較的シンプルなデザインだ。
イラストに起こしているから構造はおおむねわかっているがこれを現実的にセットすると考えるとなかなか難しい。
メイクに関しては暴論行ってしまえば自分の顔面に色塗りをして補正テープでキャラに自分の顔面を寄せていけばいい。
「今回は一度見直してもう少し勉強してから出直すことにする」
セットを覚える分には今後の自分の役に立つはずだ。
また美容室でセットを教えて貰うか…?
「その、良ければ俺に手伝わせてもらえませんか」
「…?君に特に利のある話でもないだろう」
そんなことを考えていると作務衣の青年からそんな声が上がった。
「あ、いえ。俺も最近コスプレに関して学び始めたばかりで知識は増やせるだけ増やしたいんです。それに…」
「それに?」
「コスプレに関して話せる同年代の友人が出来たらな、と」
「ハハハ、そう言うことならお言葉に甘えさせてもらおうかな」
向上心の塊らしく、それにだいぶ可愛らしい事を言っている。
なんとなしに彼は打算とかそう言うことも考えられないような真っすぐな人なのだろうと万智夜は認識した。
「俺は諸伏万智夜。君の名前を教えて貰えるかい」
「あ、俺は五条若菜、です」
「年もそう変わらないだろうから敬語は無しで行こう。少しばかり手伝ってくれるか五条」
「はい!」
極めて純朴な青年五条若菜との出会いはこんな出会いだ。
〇 〇
それから数日後。
盆を少し過ぎたあたり。
話をしてみれば明らかに若菜の方がその手の技術が高い事が分かったので教えを乞うと言うことで埼玉の岩槻まで万智夜は若菜のもとに足を運んでいた。
そうなるまでに五条若菜の名前で連絡先を交換していたからか「浮気…?お盆で私がいなくなった短い間に浮気?」と詰められたが相手は男だと懇切丁寧に説明した一幕があったがそれはあまり関係のない話だろう。
「五条人形店、ここか」
メッセージアプリでやり取りをしていたから間違いはない、はずだ。
インターホンを押すと、少し伸びたような初老の男性の様な声が聞こえた。
「えーっと、今日は休みでして―――」
「あ、工房の方では無くてすみません。こちら五条若菜君の御宅で御間違いないでしょうか」
「ああ、若菜の友達かい。おーい若菜ぁ!」
いかにも職人と言った風貌の作務衣の男性が出てきて、話し始めたが少しそれを遮らせてもらった。
そこに若菜の名前を出せば目を一つ二つ瞬きをしてニッコリと笑って大きな声で彼を呼んだ。
すると「今行く!」と言う彼の大きな返事が聞こえた。
「何もてなせる訳でもないけどゆっくりしていきな」
「お心遣いありがとうございます。あ、よろしければご家族の方でお召し上がりください」
「んな気遣わなくったて構いやしないさ」
そう言って作務衣姿の彼はカラカラと笑いながら奥へ向かって行った。
「いらっしゃい、二階が俺の部屋なんだ」
「おう、邪魔する」
万智夜は若菜の部屋に上がり込んだ。
「写真を撮った時に色合いが違ったらなんか癪だから2種類用意した」
「確かに近しい色だけど――――っと、どんなキャラのコスプレをする予定なんですか?」
敬語は無し、とは言ったけど自然としゃべるのは敬語の方が少し楽らしい。
今まで年上と接する機会が多かったのだろうか。
そんなて考えるとそう言えばそこら辺の説明を一切していなかったなと思い、鞄からタブレットを取り出す。
「こんなキャラ、の予定」
「わ、すごい!俺アニメとかそこまで詳しくないんだけどすごくカッコいいですね」
「これに寄せるのが中々に難しい所なんだよねぇ」
「できる限り、やりましょう!」
「おー」
若菜は事前に準備をしていたのか新聞紙を弾いたアイロン台の上にマネキンを鎮座させていた。
「一応、以前ウィッグをセットした時に色々と用意していたからこれでどうにかできると思います」
「助かる」
「イラストを見るに……他にも何か資料ってあったりしますか?」
「あーっと、顔面の3面図はこんな感じ」
「ここまで詳しければしっかり作れそうです。マネキンにかぶせた所前髪を少し調整した方がよさそうですね」
「たしかに……と言うかロングだと前髪の位置が分かりずらいな」
「そうですね。ショートカットのものでも少しわかりずらいかもしれないです。ひとまずブロッキングして左右と前髪を分けましょう」
着々とセットが始まっていく。
……うん、自分ひとりだったらブロック分けするためのクリップも用意してなかった。
帰りに買って帰ろう。
「大体できましたね」
「できたな。五条が詳しくて本当に助かった」
「俺も数を熟せるのはうれしくて」
「うん、それでもありがとう」
そこまで時間がかかることなく髪はセットすることができた。
ワックスを取ってつける量とか気にしたこともなかった。
「普段喜多川さん……友人がウィッグを買ってくるときは毎回美容師にお願いしているみたいで俺自身が切る気か言ってあまりなくて」
美容室、実際にそう言ったカットもしてもらえるのか。
いつか機会があったら聞いてみよう。
「っと、それでメイクなんですけど」
「ああ、俺も殆ど我流だからこれがいいメイクの仕方なのかは分からないけどな」
若菜は男性のメイクに関して気になっていたらしい。
先ほど話に出てきた喜多川氏にメイクをしたりするのだが、メイクに関する引き出しはいくつあっても困らないだろうから、とのこと。
向上心の獣か?
「俺はイラストを趣味で描く程度だから、自分の顔面キャンパス代わりに色塗りをしているような感覚なんだけどな」
メイクをして、実際に被ってみて。
実際にそこまでやってみようと言う話なのでちゃんとウィッグを被るためのネットも用意して来た。
「……なんというか、眼鏡取って髪を上げるだけで印象だいぶ違いますね」
「そう?」
「なんというか、眼鏡取るとイケメンって漫画だけの表現だと思ってました」
「それは大げさすぎる。っと、俺が塗る時に気にしているのは光の当たる角度、光源から顔を映えさせるのにはどうするか、っていう所なんだけど移動しながら取るようなのには向いていないだろうけど、同じ場所で一枚写真を確実に決めるっていう時には多少使えるんじゃないかなとは思うんだけど―――」
そう言ってメイクをしていく。
オレンジのコンシーラー?髭後隠し。
こういうテイストのイラストで髭あるキャラの方が少ないし。
でも色白い肌って考えると刺し色くらいに考えて髪色からくる相対する色をぼかすような感じで―――。
「まぁまぁそれっぽくできたかな」
「いやすごい!色調をそこまで細かく考えたことなかった」
「ここら辺は本当に好みの話になってくるから、水彩画チックなものを元にしているっていう前提でこんな配色ってだけだよ」
実際にウィッグを被ってカメラの内カメで確認してみる。
3回目のメイクにしてはそれっぽい感じにできたのではなかろうか。
カラコンの中心部はどうしても色合いがアレだな。
ここはフォトショで加工だ。
「五条、一枚撮ってもらっていいか?」
「うん、えっと背景はそこの襖はだいぶ白いよ」
しばらく座り込んでいたな。
立ち上がるとウィッグの重さを感じる。
普段は普通に短めにしているから中々の違和感。
若菜にスマホを渡し、写真を撮ってもらう。
「それじゃ取るよ」
「ああ」
こういう時多少表情を作った方がいいのだろうか。
月のイメージを考えよう。
彩寿歌とコスの撮影をするなら撮影的には初期のイメージだろうか。
なら、彼はまだだいぶ冷たい印象を与えるだろう。
「―――――五条?」
「あ、えっとごめん。その急にガラッとイメージが変わったような気がして固まっちゃった」
「そこは意識的なところだ。以前カットモデルを頼まれた時があってその時に写真写りを気にするなら、って言われたことの延長なだけだよ」
そう言って改めて取ってもらったので、今度メイクをする時の覚え書きとしておこうと思った。
五条くんの口調ががった方なのは頑張って敬語を外そうと試みている図、と解釈して頂けると…