ブラック・ハーレム ワケあり美女達のボーイフレンド   作:祐。

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第1話 非日常の幕開け

「お電話ありがとうございます。こちら、便利屋『柏島(かしわじま)』でございます」

 

 元々はスナックバーだった居抜き物件を借りて、自分はそこに個人の便利屋事務所を構えていた。名前の由来でもある『柏島』は自分の本名“柏島(かしわじま)歓喜(かんき)”から取ってきたものではあるが、実のところ柏島歓喜の名は街の組合から与えられた仮名に過ぎず、自身の経歴については解離性健忘、つまり記憶喪失によって未だ謎に包まれている。

 

 自分が発見された当時は16歳。付近の地域で暴力事件が発生し、あろうことかその主犯であるゴロツキ集団を相手にカツアゲしている様子を目撃されたのが始まりだった。組合の人間曰く、武器を所持していた無数のゴロツキを単独で相手取り、洗練された格闘術を駆使することで彼らを返り討ちにしてしまったのだそう。そしてゴロツキ達の財布を抜き取って立ち去ろうとしたこちらを呼び止めると、組合は街の用心棒という提案を持ち掛けることで身寄りのない自分を迎え入れたのだ。

 

 当時の自分は、疑うことなく提案を素直に受け入れたらしい。ただ、こちらの身元を調査しようにも記憶喪失という不可解な症状に悩まされ、加えて戸籍といった記録も国に残されていない様子から処遇に難儀したと聞く。今では22歳となった自分だが、現在もこうして直近の数年間を記憶できているのはきっと、組合が過ごしやすい環境づくりのために奔走してくれた賜物なのかもしれない。

 

「飼い猫の迷子探しの件、承りました。直ちに捜索に取り掛かりますので、進展がありましたらご連絡いたします。はい、では失礼します」

 

 スマートフォンでの通話を終え、端末を尻ポケットにしまいながら立ち上がる。室内は、簡単に塗装されているだけの質素な空間。名残りともいえる派手な照明器具や赤色の椅子などは今も残っているが、バーカウンターの上は紙の資料やノートパソコンといった場違い的な生活感に溢れている。

 

 依頼を引き受けたからには、迅速に作業へ移った。壁に立て掛けていた姿見の鏡に突っ立つと、175cmの背丈、群青色(ぐんじょういろ)とも呼べる深い青色のショートヘアー、活力には自信がある黒色の瞳、現代的で爽やかな顔立ち、襟から裾にかけて水色から黒色へと鮮やかに変化するグラデーションカラーのドロップショルダーニットと、ゴムやリブをつけることでバネのようなうねりの形状が特徴的な黒色のジョガーパンツ、そしてカジュアルシューズの側面を持つライトブラウンのローファーに、両手首に装着したプロテクターのような質感の銀色アクセサリーというその全身を確認した。

 

 第一印象、大事。納得のいく風貌に無意識のゴーサインが出たものだから、自分は胸を張ると共にして気合いを入れるよう心構えを改めながら玄関扉を開いて仕事に赴いた。

 

 

 

 

 

 西暦2030年 PM2:10 日本 某所 晴天

 

 地方都市の駅前という環境に囲まれた日々は、騒々しくも安定していた。街の組合に拾われてから約6年。当時16歳だった自分は、22歳という年齢を迎えて立派な大人になれているだろうか。過去の自分はゴロツキを対象にしたカツアゲでその日暮らしの生活を送っていたらしいが、そんな出自不明の記憶喪失少年も今では一端の便利屋として駅前を往来している。平日でも休日でも毎日のように依頼の電話が舞い込んでくる様子から、基本的に休みの日はない。しかも依頼のほとんどが駅前で事業を営む関係者の人間であるため、もはや地元民のお助け部隊みたいな立ち位置でこの仕事をやらせてもらっていた。

 

 過不足のない生活。自分はそういう認識で東奔西走している。実際、どうやら自分は格闘術を心得ているらしく厄介客の相手に駆り出される場面が多い。記憶を失う前の自分がどんな経緯でそんな技術を身に付けたのかは理解に及ばないが、おかげで大体の暴漢を圧倒するだけの実力が備わっており、結果的に街の治安は良くなった。当初は用心棒として基本的に駅前を突っ立っているだけの存在だった自分だが、暇な時に駅前の様々な箇所で手伝いをしている内に、いつの間にか何でも屋として重宝される立場になっていたのが便利屋開業の発端でもある。

 

 数時間の捜索の末、依頼を受けていた迷子の飼い猫を見つけ出した自分は苦戦しながらも捕獲。普段は室内で飼育されているという情報からち〇~るという切り札を用意し、既にその味を知っている猫の方から近付いてくれたのが幸運だった。幸いにも動物によく懐かれる体質なため、暴れられることなく飼い猫を抱き抱えた状態で依頼主の下へ戻り、手渡しで確実に依頼を達成することができた。

 

 依頼料を受け取って、一息ついたのも束の間。飼い猫を捜索している間にも駅前の売店から数件のヘルプが届いていた履歴を見て、自分は慌ててそちらへ駆け戻る。この日は迷子の猫探しも含めて4件ほどの依頼をこなしたと思う。最後は駅前の少し外れにある駐車場でのトラブルに仲介して終了。時刻はPM7:00くらいだろう。

 

 立体駐車場の1階で額の汗を拭う。この日のタスクは全てこなせたであろう達成感と疲労感が同時に押し寄せてきて、軽めのため息をついていく。その場に立ち会っていた関係者の男性も、疲れた様子のこちらを労わるようにその言葉を掛けてきた。

 

「今日もお疲れさん! このあと一杯どうだ? 奢るぞ?」

 

「本当ですか!? 是非、ご一緒させてください!」

 

「いいぞ~! 歓喜(かんき)くんにはいつも助けられているから、そのお礼も兼ねてだな!」

 

「俺も皆さんに助けられてきたことで、今に至りますから。何よりも、便利屋として働くのはこんな俺を受け入れてくれた街の皆さんに対する恩返しのようなものですし」

 

「かァー!! 歓喜くんは真面目だねぇ!! 闘いの時は顔が怖くなるのにな~!」

 

「それに関しては、こちらも必死ですから……」

 

「悪い意味で言ったわけじゃないさ! そんな歓喜くんが面倒な野郎共を爽快に追い払ってくれるから清々するって話だよ!」

 

「ま、まぁ、お役に立てているのなら幸いです」

 

 愉快げに笑う男性がこちらの背中を冗談めかして叩いてくる。その衝撃に一切と動じない体幹、そして筋肉を自分自身で頼もしく思いつつ、今にも控えているご褒美の一杯に心を躍らせている、その時だった。

 

 駐車場の外から1人、息を切らして駆け付けてきた年配の男性。彼の大慌てな様子に自分らは不思議がると、ふと視界に映った駅前の仄かな火の色と共に男性が声を上げてそれを伝えてくる。

 

「か、歓喜くん! 火事だ! 君の家が燃やされた!」

 

「え……?」

 

「ヤクザが! ヤクザが君を探している!」

 

 眼前の非常事態に自分が関わっている。込み上げてきた罪悪感から、この足は衝動的に火災現場へと駆け出していた。

 

 巻き込むわけにはいかない。自分のせいで無関係の人々を、そして自分を迎え入れてくれた街の人間達に実害を及ぼすだなんて、不本意極まりない。それを切に案じていたからこそ、何とかしなければと自分は目もくれず現場へと駆け付けた。

 

 

 

 PM7:05

 

 無情に立ち上る黒煙と緋色の炎。燃え移る火の海は見慣れた光景を呑み込んで、辺り一面に地獄絵図を描く。叫び、慌て、嘆き悲しむ声にならない声が響く中、火災現場を取り囲むように蠢く無数の人影はこちらの姿を捉えるなり一斉に振り返ってきた。

 

 内の1人、モブではあるがリーダーと思しきスーツ姿の男が炎を背にして言葉を投げ掛けてくる。

 

「ほぅら来た! 火さえ放てば、炙り出す目的とおびき寄せる目的の両方が叶うんじゃ!」

 

「お前らが火を放ったのか……!? 自分達が何をしたのか分かってんのか!?」

 

「うるせぇ!!! じゃかあしぃわボケェ!!! おどれが雲隠れして手間ァ掛けさせるから、こちとらしゃあなしと火ィ放ったんやろがい!!!」

 

 鬼気迫る男の怒号と共にして、仲間と思われる周囲の厳つい男達が近付いてくる。全員が着崩したスーツ姿で鋭い眼光を向けてくる様子の中、リーダー格の男が続けて言葉を発してくる。

 

「のぉ、柏島歓喜ィ……いや、“生神(いくかみ)ラヴ”の息子さんよォ……!」

 

「生神ラヴ……? 誰のことだ?」

 

「この期に及んでシラぁ切るたァ往生際が悪い。それ以上ナメ腐った態度を取るならおどれ、街全部にガソリンぶち撒けて火ィ点けたるから覚悟せぇよ!!」

 

「知らないものを知らないと言っているだけだ! 目的があるなら言え!」

 

「クソガキが、つけあがりやがって……!!! その顔面シバき倒して半殺しにしたるわボケカスが!!!」

 

 リーダー格の男が殺気立てて指の骨を鳴らし始めると、周囲の厳つい男立ちもまた感化されるようこちらを取り囲むように立ち回る。その数は12名、中にはコンバットナイフを所持する男も見受けられる状況の中で、自分は戦闘態勢に入って身構えた。

 

 最初に攻撃を仕掛けてきたのは、背後を取っていた男。勢い任せに飛び出してきた足音を聞き付けた自分は振り向きざまにウィービングを行う。上体を揺さぶる防御行動で相手の右拳をくぐり抜けると、空振りした男がすぐさま繰り出した左拳に合わせてカウンターのジャブを顔面にクリーンヒット、即座に重みを乗せたもう一発のジャブをお見舞いした。

 

 そのまま追撃のストレートパンチで男の1人をK.O.すると、取り囲んでいた男達が少なからずと狼狽えた。だが、リーダー格の男が「一斉に掛かれやボケが!!」と指示を出すことで、全員が一点へ集束するように飛び出していく。

 

 上体を屈めるダッキングと、左右に揺れるウィービングの技術を駆使して、相手の猛攻を避けながら的確に反撃を入れていく。相手の腹部に対してはボディブロー、相手の攻撃に対してはカウンターパンチ、怯んだ相手にはジャブとストレートからなる無数の拳を浴びせ、絶好の隙を晒した際にはアゴに渾身のアッパーを打ち込む。

 

 時には相手の攻撃を腕でいなし、ステップも織り交ぜることで不利な状況から脱出する。主に反撃を主体とした防御スタイルの戦闘術は相手に躊躇いを生じさせ、その迷いにつけ込むことで状況を理解させる前に力で捻じ伏せる。使用する技術はボクシング系統だけに非ず、足払いによって後頭部を地面に打ち付け、無防備を晒した相手の顔面に体重を乗せたキックを加える。出の早い肘打ちで相手の頬を打撃し、振り抜いた肘をそのまま突き出す形で相手の鼻先を砕く。拳で怯んだ相手の首根っこを掴み、ヘッドバットを食らわせてノックダウンさせる、等々。

 

 攻撃対象に容赦はしない。数で飛び掛かる10名の男達を単独で相手取り、確かな手ごたえと共に次々と地に伏していく。着実と数を減らす中でコンバットナイフを持つ男も飛び掛かってきたが、肉を引き裂く刃物がこちらに接触するという瞬間にもそれを“右手首”で受け止めた。

 

 金属同士がぶつかり合う、鼓膜を(つんざ)くほどの甲高い金属音。何が起こったか理解の追い付かない相手の表情とは裏腹に、両手首に装着した銀色のアクセサリーもとい防護用のプロテクターを使用した自分は、この隙を好機と捉えて相手方のコンバットナイフを払い落とし、一歩踏み込むと同時に繰り出した拳の連続攻撃で一気に圧倒する。

 

 ナイフが地面に落ちる音が響き渡り、一拍置いて人体が横たわる鈍い音が地面に伝った。そこには様々な体勢で倒れる厳つい男達が存在し、皆が打撲痕をつけて悶絶あるいは気絶している。この光景を前にしてリーダー格の男が後ずさるが、すぐにも周囲からは増援の男達が現れたことで自分は撤退の文字を脳裏に()ぎらせた。

 

 ……数が多すぎて、このままではジリ貧だ。既に5分は経過しているであろう緊迫した状況にも関わらず、警察や消防車は一切と現れない。あまりにも分が悪く、しかも連中の目的が自分であることも判明している様子から、奴らを引き付ける意味でも自分はこの街から離れる選択肢を選んだ。

 

 方針が決まってからは、迅速に行動を起こした。大地を蹴って駆け出した自分は駅前の路地裏を目指して走り抜ける。途中、追手の連中が死角から現れたりしたが、研ぎ澄ませた感覚による聴覚や直感で掴み掛かる手を掻い潜り、ただただひたすらに、全力で、そして感覚的に予感していた一種の別れを噛み締めながら、連中の注意を引くように路地裏を突っ切ったものだ。

 

 

 

 

 

 走り続けること10分近くは経過した。火の手が回る駅前の街からはだいぶ離れたつもりだが、依然として追手の数が増えていく。それどころか、より熾烈さを極めていたのも確かだろう。気配が増え、足音もこだまし、後方からは呼び止める怒号が響き渡る。まるで地獄の領域に放り出されたような絶望感が自分の精神を着実に蝕み、終わることのない永遠、覚めることのない悪夢も連想させた。

 

 小さな団地に出た時は、既にそこで4名ほどの厳つい男達が待ち構えていた。先回りしてきたのだろう彼らは苛立たせた殺意と共に扇状に広がり、こちらへと迫り出す。

 

 この場は戦うしかない。切らせた息は肩で呼吸し、追い詰められた心理が後ろ向きの雑念を生み出す。いずれは数で圧倒される。そんな見え透いた終幕にいつまで抗うかというある意味の諦観を抱きながら戦闘態勢へと入ったその瞬間、視界の隅から飛び出した1つの人影を認識すると同時にしてこの眼は“彼女の姿”を捉えた。

 

 洗練された脚のシルエットが、一閃とも言える閃光の如き一直線の蹴りを繰り出す。黒く、鋭く、無駄のない一撃が相手の横腹に炸裂すると、その衝撃からか相手は吹き飛ばされ、付近にいたもう1人を巻き込んで地面に倒れ伏した。

 

 両者の意識が“そちら”に注がれる。

 

 彼女は179cmほどの長身であり、腰辺りまで伸ばした乳白色(にゅうはくしょく)の長髪を分厚く束ねた大きなポニーテールにしている。顔立ちはシャープでイケメン骨格の凛々しさを感じさせ、黒色の瞳は落ち着きを払いながらも力強さが際立っている。正面から見た彼女の右目に泣きぼくろがあり、とてもセクシーな印象も兼ね備えている。健康的な色白の肌はハリとツヤの潤いに恵まれている他、柔肌と筋肉質を両立した黄金比のボディは衣類越しにもハッキリと伺えたものだ。

 

 服装は、スタイリッシュな黒色のライダースジャケットに、ボタンを2つ外してタックインした赤色のブラウス、長い脚を更に強調する黒色のバイクパンツに、膝丈まである長さの機動性に優れた黒色ロングブーツという格好。

 

 第一印象で言えば、『神話の絵画に登場する女神』が如く絶世の美貌を誇る人物だった。魔女との契約ではなければ、整形で作り変えたわけでもない、正真正銘、天然の、生まれ持った天性の美。人間が追求する美しさの回答とも言える完璧な容貌の持ち主を前にして、自分は心臓を鷲掴みにされたかのような本能的衝撃を受けて思わず立ち尽くしてしまったものだ。

 

 一方、厳つい男共は非常に動揺している様子だった。次にも内の1人からそんな声が上がる。

 

「りゅ、“龍明(りゅうめい)の女帝”!? なんで、こんなところに……!?」

 

 龍明の女帝。そう呼ばれた女性は凛々しく、たくましく、そして堂々たる振る舞いで歩き出す。その足は直にこちらの手前で立ち止まると、相対する彼らを遮るように、両腕を軽く組んだ悠々とした佇まいで、無言のプレッシャーを彼らに浴びせ続けた。絶世の美貌は老若男女を魅了すること請け合いだったが、美麗なる鋭利な存在感から放たれる絶対的な威厳は紛れもなく『女帝』の名を冠するに相応しい貫禄だったことは違いない。

 

 その比類なき圧力を前にして、4名の男達は堪らず逃げ出した。あの執拗な程に追跡を続ける執念の塊を、無言で追い返してしまったのだ。今も彼女の背を前にしているが、彼女は175cmである自分よりも背丈が高く、磨き抜かれた闘志、気概、覚悟を感じられる。加えて、先程の閃光が如き蹴りの一撃である。戦闘力は間違いなく自分よりも高い。それ以上だ。決して敵うことのない力量の差を痛感させられ、言葉通り圧倒される意味で呆然としていると、次にも彼女はこちらへ振り返り、凛々しくもフェミニンな声音で言葉を投げ掛けてきた。

 

「無事かしら?」

 

「え? あ、はい……! なんとか……」

 

「はじめに断言しておきましょう。私は、貴方の味方よ」

 

 この時ばかりは、反応や返答に困ってしまったものだ。唐突と掛けられた言葉に自分がポカンとしていると、直にも彼女は左手を胸元にあてがい、右手を差し伸べる立ち姿で、凛々しく、たくましく、そして堂々たる有様でそのセリフを口にした。

 

「柏島くん、貴方との出会いを心から待ち望んでいたわ。私の名は“ユノ”。託されし使命の下で貴方を未来へと導き、この命が萌ゆる限り永遠の幸福を約束する者よ」

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