ブラック・ハーレム ワケあり美女達のボーイフレンド   作:祐。

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第5話 彼女達と共に

 ディナーを堪能した空き皿が暖色の照明を反射し、空のグラスが優美の余韻を漂わせる。閉店の時刻を控えて客足が乏しくなったダイニングバー『Le goût du péché(ル・グー・デュ・ペシェ)』は店じまいの準備に取り掛かり、場を占めていた空気は営業の活気からアットホームな調子へと切り替わる。

 

 開店から長らくと陣取っていた正面のカウンター席。自分を含めた3名の来店客もとい関係者は最後まで居座ると、マスターが空き皿を回収し始めた動作を皮切りに宿所へ移動することを決めた。最初に頂いたジントニックの酔いが醒めつつあった自分は立ち上がり、右隣に座っていたラミアはほろ酔いの姿で共に立ち上がる。一方、左隣で酒を仰いでいたメーはと言うと飲み干して放り出した3本の缶ビールを傍らに半ば居眠りしており、とても幸せそうにむにゃむにゃと小言を口にしていた。

 

 彼女の遊びを持たせた暗赤色のツインテールが、カウンター席に取っ散らかっている。自分はメーの肩を揺すって退店を呼び掛けていくと、彼女は長いまつ毛と二重の瞼を気だるげに持ち上げて、ギャルの上目遣いというラミアとは異なるベクトルの破壊力をかましながら勝気にそれを喋り出した。

 

「う~ん……あたし今日はもう疲れちゃったからさぁ、カンキくんが部屋まで運んでくれな~い?」

 

「え? 運ぶって」

 

「ほら、肩とか担いでさぁ。あ、おんぶでもいいよ? それか抱っことか?」

 

「さすがに出会ったばかりの女の子をおんぶや抱っこするのは、モラル的に厳しいよ」

 

「いいじゃん、大人なんだし~。あたしはカンキくんにお触りされるの、嫌じゃないけど~? とにかくもう動けないから、あたしのエスコート頼んま~す」

 

「じゃあ、肩担いでいくよ。ちょっとだけ失礼」

 

 自分は介抱するようにメーへと近付いて、彼女の右腕をくぐるようにそれを首に掛けながらメーの身体を持ち上げる。身長差によってメーの右腕が上がってしまうことから、自分は余らせた左手で彼女の腰辺りを支えながら立ち上がり、今もカウンターの向こうで食器洗いをしていたマスターへと声を掛けていった。

 

「今日はありがとうございました。その、詳しい事はまだ分からないことだらけですが、多分この先もお世話になるかと思いますので、今後ともよろしくお願いします」

 

「おう、よろしく頼む。デカい土産もできて運ぶのが大変だろうがよ、こういう些細な仕事をこなしてこそ坊主の価値が出てくるってもんだ」

 

 マスターの返答を聞いていたメーが、脱力した酔いどれ姿で「誰が重いってぇ!?」と突っ掛かった。彼女のふにゃふにゃした威嚇の様子にマスターは「重いとは言ってねぇだろ」とツッコミを入れながら背を向けて、分厚い右手を挙げて別れの合図を示しながら厨房の方へと歩みを進めていく。挨拶を済ませた自分もメーに声を掛けながら踵を返すと、付近で待機していたラミアが先導する形でダイニングバー『Le goût du péché(ル・グー・デュ・ペシェ)』を後にした。

 

 

 

 店から出てラミアの案内を頼りに歩き出した一同。メーを担いだ自分が彼女の足並みに合わせてゆっくり進む中、ラミアは酒気で火照ったドールフェイスをこちらに向けながら話し掛けてくる。

 

「どーでした?? マスターは元からあんな調子ですから、いちいち真に受けなくてもイイですから。メーさんも酒癖と素行は悪いですがジブンの境遇に悩んできたヒトでして、ジブンで考えて動ける理性は持ち合わせていますから今日のトコロは大目に見てあげてください」

 

「大丈夫だよ、ラミア。気遣ってくれてありがとう」

 

 ラミアの発言に自分が感謝を述べていく傍ら、酔いどれのメーは覚束(おぼつか)ない千鳥足で顔を上げながらこちらへと喋り掛けてくる。

 

「あたしだって、ナメられてばかりじゃねーっつぅの。今日だってカンキくんの住む部屋の掃除をめっっっちゃ頑張ったし!」

 

「ありがとう、メー。おかげで今日は久しぶりにゆっくり休めそうだよ」

 

「うぇへへ、あたしが本気出せばラクショーってカンジ? あたしらもグレードアップした部屋でのんびりできるから、今日はマジでチョーガチったんだよね~!」

 

「うんうん」

 

 酔っている影響からか、少しだけ話がズレているようにも感じられる。彼女のセリフに当初はそんな思いを抱くだけに留まっていたのだが、メーの真意は直にも形となって表れる。

 

 Le goût du péché《ル・グー・デュ・ペシェ》から徒歩10分程度の距離だろうか。歓楽街『龍明』にある飲み屋街の一角に、自分の新たな住まいが用意されていた。表通りから離れた人気(ひとけ)の少ない地区に移動した自分らは、立ち並ぶアパートや屋台に紛れた一棟の建物で足を止めて見上げたものだ。

 

 4階建てであるそれは、各階層に一部屋ずつの縦長アパートだった。1階が玄関になっているメゾネットタイプの賃貸アパートであり、1階はテナント物件の紙が貼り出された空き店舗、2階、3階、4階の部屋にはそれぞれにベランダが備わっていて、どの部屋からも無人の雰囲気を漂わせている。内階段で移動する形式上、部屋の横には階段用のスペースが設けられており、実際の部屋は外から見るよりだいぶ狭いかもしれない。

 

 目的地に到着したラミアは内階段に続く扉を開き、メーを担ぐこちらを招き入れた。清掃が行き届いた通路を進むこと少しして2階の廊下に踏み入ると、ラミアは「コチラがカンキさんの住まいになります」と紹介しながら鍵を取り出して玄関扉を開いていった。

 

 照明を点けたラミアの後ろから、自分は興味津々に覗き込む。そこは1K程度のワンルームであり、正面に伸びる廊下には台所、浴室、トイレが備わっている。廊下の奥に突き当たる広々としたリビングは1人暮らしに最適な空間となっており、収納やバルコニーがついている他、ローテーブルや座布団、小さなラックに液晶モニター、そして大きなダブルベッドという家具が用意されていた。

 

 ……1人で住むには違和感を覚える生活感。ローテーブルの上には既に手鏡やコスメの一式、スマートフォンの充電器に家庭用ゲーム機といった品々が適当に置かれている様子を呆然と眺めていると、次の時にもラミアとメーの2人は明るい調子でそれを口にし始めた。

 

「わー、壮観ですねー!! ウチらの“新居”は快適に過ごせそうでイイですねー」

 

「いぇーい! もうゴキブリが出るボロアパートからおさらばだ~! ウェルカムあたしらの新世界~!!」

 

 肩に担がれていたメーが元気よく飛び出して、ラミアと共に靴を脱ぎ捨てながら部屋へ上がり込んでいく。その光景を暫しポカンと眺めていると、彼女らは部屋をドタドタと動き回りながら平然とした様子でこちらに言葉を投げ掛けてきたものだ。

 

「ちょっとカンキさん、早く入って扉閉めてください!! ムシが入ったらせっかくの新居が台無しじゃないですかー!!」

 

「新しい風呂の電源を入れて、冷蔵庫で冷やしていたビールも用意して、もー最ッ高! カンキくんはよ~! 新しい部屋で二次会するべ~!」

 

 

 

 

 

 真白な照明の下、丸いローテーブルを囲んだ自分達は缶ビールと缶チューハイを開けた。

 テーブルの上にはコンビニで買ってきたスナック菓子やおつまみの類。それらの頭上で缶同士を打ち鳴らす乾杯を行うと、特に正座のラミアと胡坐(あぐら)のメーはとびきりの喜びと共に酒を仰ぎ始めた。

 

 彼女らが新しい環境を謳歌する中、自分は周囲を確認する。配置されていた家具や小道具はどれも女性向けのデザインや性質を持っており、まるで“自分達”の部屋を用意していた感が伺える。気合いを入れるのも当然の話であり、しかもダブルベッドに関しては3人まで余裕で眠れそうなくらいの横幅を誇っていた。

 

 状況は頭で理解できたとしても、思考がそれを拒否する事態。自分が混乱しながら缶チューハイを片手に呆然としていくその最中、給湯器が鳴ると共にメーがラミアへと声を掛ける。

 

「あ! 風呂沸いたからラミア入ろ~」

 

「イイですねー、カンキさんも如何ですか??」

 

 唐突に振られた話題に、思わず「え、えぇ!?」と驚愕してしまった。明らかな冗談にも関わらず目に見えて動揺した様子から、メーがここぞとばかりに悪戯な笑みを浮かべながら揶揄ってくる。

 

「あ~、いいじゃーん。カンキくんもどうよ~?」

 

「そ、それはさすがにダメだよ」

 

「やーい、意気地なし~。なーんてね。ホントに一緒に入ってもいいけど、カンキくんはそう言うと思ってた~。ラミアー、化粧落としてこよー」

 

「お風呂で使う一式を持っていきますから、先に行っててくださーい」

 

「りょー」

 

 彼女達が展開する普段の暮らしを傍らで眺めていく自分は、やっぱり夢を見ているんじゃないかという疑問が再度と脳裏に浮かび上がってきた。今も目の前では着替えを抱え込んだメーが洗面所に続く扉を開いてそこに姿を消していく。自分の知る世界とは遠くかけ離れた未知の環境に呆然と身を置いていく中で、ふと道具や着替えを抱えたラミアがそれを喋り出してくる。

 

「カンキさん」

 

「な、なに?」

 

「ありがとーございます」

 

「え? 俺は何もしてないけど……?」

 

「こーして、ウチらと一緒に居てくれてるじゃないですか」

 

「一緒にいるだけだよ?」

 

「それが、ウチらにとって何よりも有難いコトなんです。そーいうワケで、お先にお風呂いただきますねー」

 

 どこか含みを持たせた言い方でラミアは先のセリフを述べてから、彼女もまたメーを追って洗面所へと消えていった。

 

 浴室の扉が開閉する音を聞きながら、自分は何とも言えない感情を()ぎらせていた。それは常識という世界に囚われず、発見と刺激に満ちた大冒険とも言えるのかもしれない。これに対して心を躍らせるという表現が合っているのか自分でも分からなかったし、次々と展開される未知に畏怖しているという表現も合っているのか、それも分からずにいた。ただひとつ確実に言えることとして、自分は“新たな人生の開幕”を自覚できていた。

 

 

 

 入浴を済ませたラミアとメーがリビングに戻り、自分は入れ替わる形で洗面所に移動する。そのラックに用意されていた寝間着と下着に羞恥のようなものを覚えると同時にして、全裸となって彼女らが入ったであろう湯舟に浸かることにもたいへん罪深い感情を抱きながら、諸々を終えたものだった。

 

 悶々とした現象はさておいて、身綺麗にサッパリした体と気分で洗面所から出てきた自分は現在もリビングで悠々自適と過ごす2人の様子を観察した。

 

 ラミアはオフホワイトのヘアバンドを着けて、髪を掻き上げる形でまとめていた。着用している紫色のつなぎパジャマには猫耳のフードがついており、プライベートにおいても愛らしさは欠かせない様だ。メーは束ねていたツインテールを緩めて腰辺りまで流しており、ぶかぶかな白色Tシャツに灰色のドルフィンパンツという格好でへそを出していた。彼女らはそれぞれ、ラミアはローテーブルの上に置いた鏡と向き合いながらパックでお肌のケアを、メーはダブルベッドの上でだらしなく寝そべり、スマートフォンを眺めている。

 

 風呂から上がったこちらの気配を察するや否や、2人は視線を向けてきた。ラミアはパックをしている関係でその場に留まってジッと見つめてきたが、メーは玩具を見つけたような眼差しを向けながらこちらに駆け寄り、勝気な調子でそう喋り出してくる。

 

「うぇーい、風呂上がりのオトコ発見~」

 

「ただお風呂に入っただけだから、なにも期待されるようなことはしてないんだけどな……」

 

「えー、風呂に入ったって事実がイイんじゃん? うは~、カンキくんの身体やば~。スッゴ」

 

 意味深に触れてきたメーはその手つきでこちらの筋肉をペタペタ触ってくる。彼女の様子にラミアも「ウチも後で触りたいですー」と淡泊に告げてきたことで自分は苦笑の手段しか行えずにいると、ふとメーはこちらの腹筋を撫で掛けながらも神妙な表情でそれを口にし始めた。

 

「あーあ、あたしもカンキくんみたいに強かったらなぁ」

 

「メー?」

 

「あぁいやいや、なんでもな~い。……なんでもなくはないか。カンキくんがちょっと羨ましく思っただけ」

 

 と、メーは自身の発言に負い目を感じたのかハッと顔を上げながら言葉を続けてくる。

 

「って、ごめんごめん! さすがにデリカシーなかったよね! カンキくんにだって色々あったみたいな話は聞いているし。あたしだって詳しくは聞かされてないくらいだし、確かカンキくんも自分の事はそんな知らないんだよね……?」

 

「そうだね。恥ずかしい話だけど、記憶が無いんだ。抜け落ちるように、ごっそりとその部分だけ思い出せない。医師からは解離性健忘って診断されたんだ。主な原因はストレスらしいんだけど、その原因すら思い出せないのはちょっとモヤモヤするよ」

 

「そうだよね。カンキくんだって苦労してるのに、あたしばかり高望みしてらんないよね……」

 

 こちらの筋肉に触れるメーの手は、どこか口惜しさを感じさせるようにそれを撫で掛けていた。ラミアも淡々とした眼差しで沈黙しながら彼女を見つめ遣る中、メーは切り替えるように顔を上げてその勝気を再び瞳に宿しながら、ニヤリとした得意げな表情で言葉を投げ掛けてくる。

 

「今日、一緒に寝ようよ?」

 

「え……え!?」

 

「あは! ウケる! ウブ過ぎてイジり甲斐ありすぎでしょ」

 

「そんな、恋人とかの関係じゃないのに、それはまずいって!」

 

「じゃあ、今から恋人になる?」

 

「えぇ!?」

 

「ラミアも入れてさ、あたしら3人で恋人になっちゃうのはどう?」

 

「えええぇ!!?」

 

「ププッ、アッハハハ!!! ヤバ、チョーおもろい! もうカンキくんサイコー。マジ推しだわ。こういう素直なオトコ、大好き」

 

「待って待って! 色々とキャパオーバーだから畳み掛けないで!」

 

「じゃあ、このままオーバーヒートさせちゃおっかなぁ?」

 

「ど、どうかお慈悲を……っ」

 

「あはっ、戦闘はめっちゃ強いのに、オンナからの押しには弱いってマ? おもろ過ぎでしょ。いいじゃん、すごく気に入った。命は預けるからさ、これからよろしく。カンキくん」

 

 悪戯に吊り上げた口角で勝気に微笑みながら、メーはこちらの右手を取って握手を交わしていく。この手は不屈の意志を実感しながら力強く握り締められ、彼女のネイビー色の瞳はこちらの顔を反射で映し出しながら真っ直ぐと見つめていた。

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