ブラック・ハーレム ワケあり美女達のボーイフレンド 作:祐。
時刻は朝、場所はダブルベッドの上。目覚めと共に持ち上げた瞼は視界を広げ、映し出した部屋の天井を霞ませる。自分の知らぬ所で課せられた使命と引き換えに得た恵まれた環境に内心でホッと息をついたのも束の間、ふと両側を塞ぐ気配に人肌を感じながら左右を確認した。
左を向くと、そこには寝間着姿で眠るラミアの寝顔が。右を向くと、そこには同じく寝間着姿で眠るメーの寝顔があった。可憐な様相でお姫様のように眠るラミアとは裏腹に、メーは無防備に口を開けた非常にリラックスな様相で寝息を立てていたものだ。結局2人から勧められるままに挟まれながら就寝した自分は、まるで子供のように熟睡して翌日の朝を迎えたらしい。
自分が身体を起こすと、その動きに反応してラミアが「うーん……」と唸りながら目を覚ました。人形のような手で目を擦りながらむくりと体を起こし、とても穏やかな様子で寝起きのこちらへと言葉を掛けてくる。
「おはよーございます、カンキさん」
「おはよう、ラミア。よく眠れた?」
「おかげさまで、安心して眠れました」
「俺は何もしていないけれど……よく眠れたのなら何よりだよ」
「こーして、傍に居てくださるだけで効果絶大ですからねー」
ラミアと会話をしていると、メーも「う~ん……」と唸りながら目を覚ました。寝ぼけまなこでこちらを捉えながら、大きなあくびをひとつ。猫のように背伸びして、力の抜ける声を出しながら喋り掛けてくる。
「2人とも、おは~」
「おはよう、メー。メーも眠れたようで何よりだよ」
「カンキくんが居てくれるだけで、眠りの質がだいぶ違うわ~。安心感っつーの?」
「よく分からないけど、役に立てたようで良かった」
「こりゃあボディガードってだけじゃなくて、カンキくん自体に安眠効果的なもんがありそうだわ~。寝起きだけど、お礼のチューでもしたろか?」
「非常に魅力的だけれど、せめてもっと親密になってからかな」
「ガーン、フラれた」
寝起きからアクセル全開のメーを見ていたラミアが、呆れた様子でジッと見つめながら「ナニ言ってるんですか。ヘンなコト言ってないで準備を始めますよー」と言って立ち上がった。華奢な体でむくりと起き、ダブルベッドの上をのしのし歩いてフローリングに下りていく。彼女の動きを見たメーも勢いをつけて上体を起こすと、「あいあ~い、あーマジだる」と言いながら背中を掻き、それからフローリングに下りて洗面所へと歩いていった。
彼女達の日常を眺めていた自分も動き出し、カーテンを開けて全身に日差しを浴びた。
窓に映し出されたのは、眠らぬ歓楽街『龍明』のすっぴん姿。朝焼けで火傷したのかと言わんばかりに白い陽光を反射する飲み屋街の一角を一望して、自分は改めて生活環境が……いや、人生が変わったことを再認識する。
未だ分からないことばかり。だが、このアパートの2階から眺める景色は紛れもなく本物であり、今も背後でもぞもぞと動く2人の彼女達は実在するのだ。ラミアが気だるげな調子で丸くなるように屈みながら冷蔵庫を開いていく景色も、洗面所から出てきたメーがコスメを鷲掴みにしながら大きなあくびをしている景色も、それらは確実に身の回りで実際に起きている現象であり、良くも悪くも受け入れなければならない現実でもあるということだ。
起床や朝食などを終えて自分らは身支度の準備に入ると、ラミアとメーはここぞとばかりに収納の中から段ボールを取り出してきてこちらを引き留めた。どうやら指定の服装を身に着けて活動を行う方針であるらしく、自分には所謂“黒服”と呼ばれるスタッフの制服が支給されたのだという。それを用意してもらった自分以上に盛り上がっていたのはラミアとメーの2人。自身らの身支度なんて後回しにしてまで段ボールから取り出したのは、新品とも言えるフォーマルとカジュアルの両方を兼ね備えたエージェント的服装だった。
着せ替え人形をコーディネートするかのような楽しみを覚えていた美女2人は、あれよこれよと手慣れた様子でこちらを速攻で着替えさせた。肌着までの用意も万全であり、それをラミアもメーも特に羞恥する様子を見せないどころか、かえって男の着せ替えに没頭するかの如く前のめりになっていた。そして大きな姿見を用意してきたメーと、背中を押して鏡の前への移動を促したラミアの2人に催促されるまま、自分は着飾った状態でそれの前に立ち、自分の新たな容貌が眼前でお披露目となったのだ。
ダウンジャケットのようにボリューミーな質感でありながら、軽快な動作も考慮されて独自に開発された水色の前開きパーカーに、タックイン前提で材質も考慮された黒色ブラウス、そしてエージェント系のアクション映画で見られそうな黒色スラックスに、機動性に優れた戦闘用の黒色ドレススニーカー、そして両手首に装着したプロテクターの役割を果たす銀色の腕輪という格好で姿見の前で佇み、改めて自分を隅々までチェックする。
この一式を眺めていたラミアは「イイじゃないですかー。ウチらで選んだだけはありますねー」と淡泊に満足感を示してきた。メーもまた「いいじゃんいいじゃん! あたし達専属のボディガードとして、やっぱり見た目はあたしら好みのオトコじゃないと、ねぇ?」というセリフが口にされた。この、“ボディガード”という単語を聞いた自分はどこか合点がいくような一種の納得感を
「ボディガードって?」
「あの、もしかしてユノさんから伺ってないとか??」
「あぁ、初めて聞いたんだけど……」
「あちゃー、ごめんねカンキくん。あの人、見た目だけだと超超チョー完璧人間に見えるんだけど、自分が解ってればそれでいいって考えるタイプっていうの? だから説明がすごく少ない時があるんだよね」
自分が解っていればいいタイプ……。というメーの回答を聞いて、自分はこれにもまた妙な納得感を抱いた。彼女は敢えて情報を小出し
であれば、皆が一丸となって情報を隠しているわけではない。それを理解した自分は続けて2人へとここ数日の疑問をぶつけることにした。
「俺、ユノさんに此処へ呼ばれた理由を聞いてないんだけど。結局、俺は何をしに此処へ来たの?」
「そーですねー。率直に言うなら、ウチら“ワケあり女の子達の『用心棒』と『世話役』”を務めるため、でしょーか??」
「用心棒と世話役?」
「簡単な概要としましては、ウチらのボディガード及び世話係のお仕事です。昨日だって、龍明の中でウチはチンピラに絡まれたじゃないですか。あんなコトが日常茶飯事に起こる生活を我々は送っておりますので、その面倒事を片付ける付きっ切りのボディガードが欲しくなるワケです」
「あぁ、それでボディガードか。じゃあ世話係というのは……?」
「今もこーしているように、ウチらを危険から身を守るために私生活を共にするパートナー役みたいなモンですかねー」
「パ、パートナー役」
「ですからカンキさんには今、護衛対象であるウチらの人数分だけのカノジョがいらっしゃいます」
「いくらなんでも話が飛躍し過ぎでは?」
パートナー云々はさておき、ボディガードという自分の“使命”をようやく理解することができたので、喉奥に突っ掛かっていた異物を解消したような爽快感を覚えた。次は“組織”について訊ねてみよう。
「アジトがどうとかの話も出てはいたけれど、それじゃあマスターが言っていた組織っていうのは?」
「あ~っとねぇ……まだ、どこまで説明していいとかの指示が出てないから、詳しくは話せないかなぁ。ただ、あたしらの組織は“世直しを目的とした集まり”みたいな考え方でひとまずいいのかも?」
「世直し?」
「ぶっちゃけると、あたしらってカタギの人間じゃないんよ。別に皆が皆悪いことをしてたってわけでもないっていうか、事情とか環境とか、ちょっと色々とワケあってオモテの世界で生きるのが難しくなっちゃったそういう人達を、マスターの言う“組織”が預かって手厚く『保護』してるの」
「保護? つまり、メーとラミアはその“組織”って団体に保護されているってこと?」
「そ~、話が早くて助かる~。保護してくれて、生活支援もしてくれてる。で、カンキくんは立場的にその、保護“する側”の人間として働いてもらうカンジになるからさー。そういうわけで、カタギの世界を生きられなくなったあたしらの用心棒兼世話役みたいな?」
「なるほど、ラミアやメーのような女性達を『保護』して『護衛』するために俺はここにいるわけだ」
ただただ男として理想の環境を提供されたわけでは非ず。そこには甘美な誘惑と共に理不尽な危険が常に付き纏い、容姿端麗な美女達と過ごすひと時を引き換えに自分は己が命を賭して周囲に蔓延る脅威と戦わなければならない、所謂“悪魔の契約”を交わしたと言っても過言ではないだろう。
自分が歓楽街『龍明』に導かれたその理由を知ることはできた。あとは第2の人生を壊した元凶とも言える“ある人物”について自分は訊ねていくのだが……。
「2人は“
生神ラヴ。その名を出した瞬間にも空気は一変した。
ラミアとメーは、お互いに顔を見合わせて表情を伺っていた。それは対処に困っているような困惑の感情が醸し出されていたことを容易に察せられる。直にも2人は気まずそうな口ぶりでその返答を行ってきたものだ。
「カンキさんにはワルいんですけど、“その人物”に関してウチらから申し上げるコトはできません」
「お口にばってんマークされてるっつーか? あたしらも知ってるには知ってるんだけど、今はまだカンキくんに話せないというか~……」
「そっか、分かった。色々と教えてくれてありがとう、2人とも」
物事の元凶に辿り着くには長く険しい道を冒険する必要があるみたいだ。自分は潔く話題を切り上げてスマートフォンの時刻を確認すると、その動作をキッカケにラミアが淡泊な調子でそれを喋り出してきた。
「それでなんですけど、カンキさん。早速アナタにお仕事の予定が入ってきました」
「用心棒兼世話役、としてのお仕事だよね。これから何をすればいいのかな?」
「簡潔に言いますと、“お迎え”です」
「お迎え」
「本日はウチもメーさんも、お昼に開店するレストランとしての
「ラミアやメーのような人がもう1人いるんだ」
「カンキさんの主な業務内容は、ウチとメーさん、そしてその方の計3名の護衛となっております。カンキさんの働き次第では、護衛対象がどんどん増えるコトもあるとは思いますけど、まー負担が増える代わりにカノジョも増えると考えれば気が楽になるかと」
「なんか、自分だけ別世界を生きているような気分だよ……」
「少なくとも、今までの生活にはもー戻れませんからねー。カンキさんも、ウチらも。――で、指定の場所についてなんですが」
ラミアから大方の業務内容を聞いた後は、予定通り彼女らを
おはよう世界。おはよう歓楽街『龍明』。朝の匂いが立ち込める飲み屋街を3人で歩き出し、雰囲気は洗練された比較的新しめな西洋風でありながらもどこか昭和感を醸し出す狭い路地を辿りながら、他愛ない会話や2人からの質問攻めといった交流を図ること約10分。表通りから多少外れた場所にある小道の交差点に、最初の目的地であるレストラン&バー『
夜に訪れた時のステンドグラスによる神秘的で禁断の領域を思わせる印象とは異なり、日中の真白に照らされたガラス張りの透明感は爽やかな意味での解放感と優雅さ、洗練された建物は清楚でありステンドグラスがお洒落にちらちら反射する大衆向けの装いとなって、その店は慎ましく佇んでいた。あまりにも対照的な印象から最初は店を間違えたかと勘違いすらして、今もガラスの向こうでキッチンの準備を行う巨漢のマスターを目撃して初めてそこが
本日、ラミアとメーは昼のレストランと夜のダイニングバーその両方でキャストを務める。また後で会うことを口頭で約束して手を振りながら別れると、店に入っていく2人を横目に自分はスマートフォンで時間を確認し、それから3人目の護衛対象と合流するべく指定された場所へと足早に向かい始めた。
通常とは2倍近くの速度で歩くこと15分くらいはかかっただろうか。合流地点は歓楽街『龍明』の外であり、善意も悪意もひしめく入り組んだ東京都内の大型百貨店や保険会社の看板が周囲に見受けられる大きな交差点の、その一角。昼夜を問わず常に人波でごった返した空間に溺れるような息苦しさを覚えながらも、波に乗るよう周囲に溶け込んで着実に歩を進めていく。付近では電車の走る地響きのような走行音が靴底を微弱に揺るがし、現地を行き交う人々は無感情に近い様相で機械的に各々の目的へと足を運んでいる。
人々を丸ごと呑み込むように大きく開けた交差点のエリアを過ぎ去って、目的地へ近付くにつれて脇道へと逸れた自分は居酒屋やカラオケなどが立ち並ぶ一直線の通路を突き進んでいく。それから2台の自販機の真横にあった人目を忍ぶが如く存在感を消した路地裏に進入すると、途端にして空気が悪くなった狭苦しい建物の隙間に踏み入って、スマートフォンを取り出した。
……時間的にはそろそろなんだけど。疑念と共に視界に映し出されたのは、目的地であるにも関わらず誰一人として姿の見えない殺風景。待たせてしまっていては申し訳ないという面目なさが空回りした感情にどんな名前が相応しいかを考えていると、直後にも背後からは“艶めかしい女性の声”が聞こえてきたのだ。
「いらっしゃい」
「うわっ!?」
その一言だけでも相当いかがわしさを感じさせながら、自分は驚いて振り向く。
向けた視線の先には、気配もなくこちらに忍び寄っていた艶やかな女性。身長165cmほどの背丈で佇む彼女は、胸元まで伸ばした長いもみあげが印象的である
服装は、白衣のようになびく厚手で黒色のコートに、豊満なバストとヒップを更に強調する上品なローズピンク色のウエストベルト付きマイクロミニワンピース、褐色肌に馴染む黒色のニーハイソックスと、黒色のハイヒールロングブーツ、黒色でスーツケースのようなドクターバッグという風貌で、S字のように曲線を作ったモデルの佇まいで妖艶に存在していたものだ。
彼女という存在は男にとって非常に魅力的であり、社会的な常識と己を律する強い自制心を要求される。一瞬でも気を抜いてしまえば意識は本能に支配され、彼女から放たれるフェロモンに脳を焼かれ、牙を剥き出しにしながら彼女へと襲い掛かってしまうこと請け合い。ある意味で彼女という存在にリスクが生じており、それほどまでに彼女の、耳を舐めるような艶やかな声音に情欲をそそる褐色肌、魅惑的なプロポーションに大人の色気、美貌、精神が印象的だった。
一目惚れに近しいこちらの唖然を見て、女性は想定通りとも言うべき一種の自信に満ちた表情を見せてくる。そしてコツコツとヒールの音を鳴らしながら歩いてきた彼女は、これ見よがしにバストを揺すり、焦らすような足取りで近付き、舌なめずりを行いながら舐め回す視線でこちらを眺めてきた。
……意識せずとも、反応するところは反応してしまう。ゼロ距離に迫った女性が視線を下げると、次にもニッと意味深に微笑みながら顔を上げてこちらへと言葉を投げ掛けてきた。
「初めまして、柏島歓喜くん」
「ど、どうも」
「そんなに緊張しないでちょうだい? 大丈夫、何も悪さはしないから。貴方が望まない限りは、だけど」
「その、護衛で来ました。あなたのことは何てお呼びすればよろしいでしょうか?」
「ウフフ、律儀で真面目なのね。ウブで可愛らしいわぁ。食べちゃいたいくらい」
「えっと……」
「わたしの名前は“
「わ、分かった……! よろしく、レダ……!」
「アッハ! 可愛い! 慣れてない感じがすごく愛らしくて興奮しちゃう!」
こちらの様子を見て艶やかに笑みを浮かべた彼女こと白鳥レダもといレダは、次にも躊躇いとは無縁の至極平然とした動作でこちらに密着してきた。身長差からなる見上げた表情は魅惑的でありながらも護るべき対象としてどこかか弱く映り、大人の余裕を感じさせる誘惑的な振る舞いとは裏腹に、こちらを頼りにするあどけなさも隠さずにアピールする大胆な態度が彼女の内面的な魅力とも言えたのかもしれない。
本人曰くレダの方が年上らしいという情報の下、自分はラミアやメーと異なるプレッシャーを抱きながらも使命を果たさんとする決意で彼女を見下ろし、そっと抱き寄せた。この働きかけにレダは一瞬だけビックリした顔を見せてからというもの、先までの獲物を見るような眼差しを少しだけ和やかに緩めて、どことなく安心するような優しいそれを向けながら微笑と共に言葉を口にしてきたものだった。
「あら、可愛らしいだけじゃなくて、男らしい一面も見せてくれるのね? それじゃあエスコートは任せちゃおうかしら。される側になるのは久しぶりだから、期待しているわよ?」