ブラック・ハーレム ワケあり美女達のボーイフレンド   作:祐。

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第7話 別世界の住人達

 経済的成長による往来が雑多と活気を生み出す東京の街。現在も不特定多数が各々の目的へと機械的に足を運ばせる光景の中、自分はレダの案内に従うことで彼女の目的地へと同伴する宿命にあった。

 

 彼女と合流した地点からは既に徒歩20分くらいの距離を移動していた。人間も交通も無機質に行き交う群衆の空間を横断すると、直にも開けた視界と余裕のある通路と共に人気(ひとけ)の少ない閑静な住宅地の領域に踏み入れる。住宅地と言ってもその実態は道端にホームレスが住まうドヤ街に近く、どこか憂いが沈殿する空気と立ち入るのに躊躇いが生じる独特な雰囲気がこちらを出迎えたものだ。

 

 隅に停められた無数の自転車や、古くから街を見守る電柱の数々。飲み屋やスナック、マンションや一軒家などの建物が見受けられる光景をレダと横並びに歩きながら見送っていく中で、彼女は持ち前の艶やかな存在感を放ちながらも次には道端のホームレス男性とそのような会話を展開した。

 

「やぁ白鳥(しらとり)ちゃん、隣にいるのは彼氏さんかい?」

 

「こんにちは、南さん。ご無沙汰しております。彼はわたしの護衛を担当していただいておりまして」

 

「護衛ねぇ。最近は特に物騒な世の中になってきたからねぇ」

 

「南さんも外出にはお気を付けください」

 

「いつも気にかけてもらって悪いねぇ。今日もお仕事頑張って」

 

「ありがとうございます。それでは失礼いたします」

 

 グラマラスな体格と艶めかしい声音で魅惑的に喋るレダは、礼儀正しい言葉遣いと社交的な所作で上品に振る舞っていた。ホームレスの男性とすれ違った後にも彼女は艶やかな調子でこちらに言葉を掛けてくる。

 

「わたしね、このホームレス街の出身なの」

 

「レダがここに?」

 

「そうよ。前にここでお世話になっていたから、ここに住む人達とは顔見知りなのよ」

 

「そうだったんだ。今日はその挨拶回り?」

 

「いいえ、ここにはいつも“お仕事”で来ているの」

 

「お仕事?」

 

「ここに住むホームレス達の健康診断。要は“医者”ね」

 

「医者?」

 

「そう! 医者は医者でも、医師免許を持たない“闇医者”の方」

 

 レダが訪れた場所は、住宅地の中に放置された廃墟も同然の空きビル。薄暗く手入れもされていない近寄り難い雰囲気を醸し出す建物に、彼女はヒールの音を響かせながら躊躇することなく踏み入った。レダに続いて自分も恐る恐るといった具合にビルの1階へ進入すると、本来はエントランスであるはずの開けた空間へとレダは和やかな声音で呼び掛けていく。

 

「安藤さ~ん、白鳥です~。定期健診に来ました~」

 

 病院の待合所を思わせる彼女の声。しかし寂れた空間には物音ひとつすら生じることなくレダの声だけが空虚へと消えていった。自分は相手の反応を待つためじっとそこに佇んでいたのだが、直にもレダは疑問のシワを眉間に寄せながらそれを口にする。

 

「おかしいわね、いないのかしら?」

 

「たまたま外出しているだけの可能性とかは?」

 

「どうかしらねぇ。安藤さんはいつも、わたしに会えるからって理由で定期健診を欠かさずにいた人なのよ」

 

「それを考えると、いるはずの人がいない今の状況は少しおかしいか」

 

「…………」

 

 複雑な感情を思わせる表情で考え込むレダ。彼女の様子を見た自分はその気掛かりを解消するためにもひとつの提案を投げ掛けた。

 

「俺、探してくるよ」

 

「え? でも」

 

「人探しなら便利屋の時によくしてたから。レダはここで待ってて」

 

「なら、わたしもついていくわ。護衛されているのに1人にされちゃったらかなわないもの」

 

「あ、そうか。ごめん」

 

「ウフフ、それじゃあ行きましょうか。探し方はカンキくんに任せるから、あなたのカッコいいところを見せてちょうだい?」

 

 まだまだ護衛としての自覚が足りないことを実感すると同時にして、寛容なレダは内心「可愛い」と思っていそうな恍惚の眼差しを向けながらも、それを敢えて表に出さず行動を一任してくれた。便利屋の経験が活きそうな場面にどこか職人気質の意気込みを燃え上がらせながら、自分はレダのエスコートを忘れないよう彼女の足並みや体調を気遣いつつ迅速にその場から動き出したものである。

 

 

 

 廃墟も同然のビルを出た自分達は、最初に安藤さんという人物の特徴についてレダから話を伺った。彼は50代の男性で顎髭を生やした小太りの人物であり、いつも緑色のニット帽を着用しているという外見の情報を得てから、手始めに周囲の聞き込みに着手する。

 

 付近に住むホームレスの存在をレダから聞き、彼らから安藤さんの行方について訊ね回った。結果としては、本日中に彼を見かけたという回答を複数得られたことから、おそらくは外出先から帰宅していないという前提を想定する。それを考慮した上で自分はスマートフォンを取り出してSNSを起動し、周辺地域についてのワードを入力して検索をしてみた。すると、この住宅地で『ホームレスを連れ去るチンピラの男達を見かけた』と呟く主婦の投稿がヒットしたため、レダに万が一の可能性を伝えて共にその地域へと駆け付けた。

 

 彼女の案内を頼りに2人で駆け付けた住宅密集地域。特に放置された空き家が多いと悪評である川沿いの土地にやってくると、自分は晴天の陽光に照らされながら数少ない歩行者を見つけては声を掛けて駆け寄り、警戒心を与えないよう細心の注意を払いながらこのような口実で訊ね回っていく。

 

「すみません、この辺で会う事を約束していた知人を探しておりまして。年齢は50代くらいの男性で、少し小太りで緑のニット帽を被っている人物なんです。今日の服装だと、このような格好をしていたみたいで……」

 

 先程のホームレス達から聞いたシャツにボトムス、靴の特徴を伝え、数人に聞き回っていくこと15分が経過した時だった。ある婦人にそれを訊ねると彼女はどこか関わりたくなさそうに迷惑な表情を浮かべながら、歩いてきた道を指差してそう返答したのだ。

 

「緑のニット帽は知らないけど、その服装と同じような男の人ならさっき見たような気がします……」

 

「本当ですか!? どの辺りの場所で見掛けましたか!?」

 

「ここから歩いて10分くらいの所にある団地で、不良に絡まれていたのがそんな人だった気がするだけですけど……」

 

「ありがとうございます! 突然の事でご迷惑をお掛けしました。自分らはこれで失礼します!」

 

「えっと、気を付けて……?」

 

 レダに目配せを行い、無言の了解で即座に2人で現地へと駆け出した。幸いにも婦人が言う団地の場所をレダが知っていたものだから、彼女の案内を聞きながら足並みを揃えて住宅地を駆け回り、迷う事なく目的としていた団地に辿り着く。

 

 現場へ近付くにつれて、目指す地点からは輩による不穏な声や音が聞こえてきたものだ。緊急性を感じた自分が速度を上げてレダより先に駆け付けると、人目を(はばか)るように塀に囲まれた団地の隅で若者が4名、1人の男性を囲んでリンチしている光景を目の当たりにした。

 

 彼らの足元で丸くなりながら頭を抱えて転がっていたのは、レダやホームレス達から話を聞いていた安藤さんの特徴と一致する50代の男性。不良の輩が立ち入ったこちらの存在に気付いて威圧の眼差しを向けてくる中、遅れて到着したレダが転がっている男性を見て声を掛けていく。

 

「安藤さん!」

 

「し、白鳥ちゃん……っ助けて、助けて……」

 

「安藤さん待っててください! 今助けますから!」

 

 レダの言葉に呼応するよう、自分が前進する。無言で接近してくるこちらに対してやさぐれた顔を向けてきた4名の若者達は、包囲するよう扇状に広がりながら小馬鹿にするような調子で喋り掛けてきた。

 

「部外者は引っ込んでてくれますかねぇ。元はと言えば、このオッサンから売られた喧嘩を買っただけなんすから~」

 

「煙草を捨てるなとか言って偽善者ぶる方が頭おかしいんだよ。捨てても捨てなくても、民度と環境は変わらねぇだろって話よ」

 

「スーパーヒーロー気取りの正義マンは鉄拳制裁に限るよな! ざまぁみろってんだ!」

 

「こんな時間からクソエロい女を連れ歩いて、いいご身分じゃねぇか。なぁ、その女を貸せよ。そしたら今だけ見逃してやる――」

 

 眼前の状況に対する冷静な判断。それを認識する理性が働いた時には既に渾身の右ストレートでチンピラの1人を殴り倒していた。

 

 顔面に叩き込んだ一撃は相手を後方へとひっくり返し、脳天から地面に落ちて首を負っていく。生物が曲げていい角度の領域を当に超した彼は張り倒したマネキンのように柔く倒れ伏し、微塵にも動かなくなっていた。

 

 後手に回った3人のチンピラは驚愕からなる逆上でアドレナリンを一気に上げて戦闘態勢へと移行した。即座に構えて飛び出したのは、2番目に喋り出した男だった。「てめぇ、この!」と怒りに身を任せた右拳を振り被ってきたが、それを右手で軽く受け流して相手をよろけさせる。これにメンツを潰された男は続けて左、右、左と連続で拳を振り被ってくるが、それらを余裕にいなし、躱し、左手で手首を掴むと、相手が動かなくなった一瞬の硬直の隙に右拳を握り締めて鼻に一発、そこから更に3発と叩き込んでから腹部にキックをかまして仰向けに倒した。

 

 その動作の終わり間際から駆け出してきたのは3番目に喋った男。彼は「正当防衛!!」と言いながらナイフを手に持って突き出してきたため、振り向きざまに腕を振り下ろす形で手首のプロテクターをかざし、金属同士がぶつかる甲高い音を響かせながらナイフを叩き落としていく。突然の出来事に驚いた男が怯んで一歩退いた頃、1番目に喋った男が助走をつけたキックで死角から攻撃してきた。

 

 即座に振り返り、身を屈めると同時に腰を引かせて距離を作る。その、胴体があった虚空に突き出された相手の右脚を両腕でロックする形で受け止めると、ロックした脚はそのままに引き下がる要領でこの上半身ごと相手を引き寄せることで盛大にコケさせて、ズルッと左足を滑らせた相手が仰向けに倒れる様子を見届けてから相手の右脚越しにパンチを顔面に叩き込んだ。

 

 怯んでいた3番目の男が動き出し、先程プロテクターに阻まれたナイフを拾い直して再びこちらへと突き出してきた。だが、次にも自身が刺した相手が“仲間の彼”だった事実に気が付くと、一気に血の気が引いていく感覚を覚えたことだろう。パンチの時点でタイミング的に3番目の男が来ることを想定していた自分は、殴った姿勢のまま1番目に喋った男の胸倉を掴んで起こし、そのまま背広を持って3番目の男に突き出していたからだ。

 

 1番目の男の腹部に突き刺さったナイフの感触を覚え、3番目の男はひどく狼狽えた。その隙に自分は1番目の男を脇に投げ捨てると1歩、2歩と踏み込んで彼の顎に右アッパーを食らわせる。衝撃のままに天を仰いだ男はショックのあまりに身体が硬直し、殴られてから数秒の静止を経てゆっくりと後方へ倒れ込んだものだった。

 

 一瞬にして片が付いたチンピラ達との戦闘。意識がある2番目の男は半身を起こした状態で震えながら怯え、冷たい視線で見下ろすこちらに戦慄して身動きを取れずにいた。その間にも自分はホームレスの男性へと駆け寄りながらレダへと言葉を投げ掛けていく。

 

「レダ! ナイフが刺さった男の治療を頼む!」

 

「カンキくん、見かけによらず躊躇わないタイプ? まぁいいわ、治療はわたしに任せて!」

 

 1番目の男へと駆け付けるレダを他所に、自分は痛め付けられていたホームレスの男性へと近付いた。レダの連れという認識からか男性は警戒を解いているようであり、痛みで震わせた体で弱々しく手を差し出しながら何度も何度も頷いてその言葉を口にする。

 

「ありがとう、ありがとう……! 白鳥ちゃんと君は命の恩人だよ……!」

 

「直にレダが治療いたしますので、もう少しだけの辛抱ですよ」

 

「あぁ、本当に助かった。ありが…………っ」

 

 ふと、男性は愕然とするように言葉を止めた。

 視線はこちらの後方へと投げ掛けられており、なにか余程の衝撃を受けたらしい。彼の変異に自分は振り返って確認すると、そこには団地へとぞろぞろ集まる着崩したスーツ姿の男達という光景が生まれていた。

 

 異変に気が付いたレダも警戒する他、意識のある2番目の男がひどく怯えていた。スーツ姿の男達が団地の出入り口で道を作るよう立ち並ぶ中、その道の中央を歩いてきた“青年”が獣の唸り声が如く低い声音で呟いてくる。

 

「他所モンがわしらのシマで好き勝手しとる言うて来てみたら、なんや見慣れへん顔がオモロい事やっとるやないか。のぉ? そこのイケイケな兄ちゃん」

 

 173cmほどの背丈である彼は、オオカミの毛並みを想起させる尖ったウルフカットの黒髪ショートヘアーで、右目を黒色の眼帯で覆っていた。黒色の瞳は狙った獲物を確実に仕留める殺気を纏っており、口から覗く八重歯が肉食獣の獰猛さを伺わせる。服装は、腕に立ち入り禁止のバリケードテープを思わせる黄色と黒のロゴを巡らせた黒色のスタジャンと、無地のTシャツ、ポケットが大量についた濃鼠(こいねず)の深く暗い灰色のカーゴパンツに紺色のカジュアルシューズというもので、鎖をぐるぐる巻きにした金属バットを右肩に担ぎ左手をポケットに入れた風貌でこちらの目の前に現れる。

 

 ただならぬ風格を醸し出す青年と相対して、自分は警戒を強めながら立ち上がる。その眼差しを見て青年は白い八重歯をギラりとチラつかせながらも、視線をレダの方へと向けて彼女にその言葉を掛けたものだ。

 

「歓楽街『龍明』一味の白鳥レダやな。姉ちゃんはそいつの治療に専念してくれると助かるわ。……その方が兄ちゃんも安心してわしに集中できるやろうからなぁ」

 

 レダは渋い表情を浮かべながらも無言で頷いてチンピラの治療に取り組み始めた。青年の眼光は再びこちらに投げ掛けられ、彼は獲物に自身の鋭利な歯を見せ付けるように大きな口を広げて喋り始める。

 

「一応、確認で訊いてみるけどな? そこの連中を片付けたのは兄ちゃんやな?」

 

「……それがどうしたんだ? 必要があったから、力で捻じ伏せただけだ」

 

「別に責めてるワケやないで。むしろ、礼を言いたいんや。おかげで、わしらは余計な労力を掛けずに目的を達成できた。それに…………」

 

 獲物を見据えた眼。彼から放たれる殺気。野性的で気性が荒く、内なる暴力を飼い慣らしている。

 

 次の瞬間にも、彼は駆け出して勢いよく飛び掛かってきた。相手の動作自体は見切っていたのに、彼から放たれるプレッシャーの影響を受けてか体が動かず、振りかざされた鎖付きの金属バットを両腕のプロテクターで間一髪と受け止める。

 

 鈍くも高い金属音が戦闘開始のゴングとなった。青年は火花を散らすバットをぎりぎりと握り締めながら血に飢えた狂気の表情を浮かべてこちらを捉えていたものだ。

 

「こないにオモロそうな逸材を見つけられたんやッ!! せっかくやし“味見”しておかな、勿体ないわなぁッ!!」

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