ブラック・ハーレム ワケあり美女達のボーイフレンド   作:祐。

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第8話 運命の邂逅 VS.眼帯の青年

 何重にも鎖が張り巡らされた重厚の金属バット。持ち前の眼光は獰猛な攻撃性を体現し、内なる闘争本能を滾らせている。標的を捉えてからというものの執着を想起させるオーラが顕著となり、今も押し付けられた金属バットに抵抗する両手首のプロテクターはぎりぎりと音を立てて堪えていた。

 

 力押しでは終始こちらを圧倒して金属バット越しに押しかかる眼帯の青年。物足りなさ全開の唸るような低い声から一転して、その表情は期待という単語に相応しい大きく目をかっぴらいた熱狂の渦の最中といった具合。直にも互いに弾き合うよう甲高い金属音を鳴らしながら両者2歩ほど退いていくと、様子を伺う睨み合いで青年は高揚を左目に宿しながら八重歯が見える肉食獣の口を吊り上げてそれを喋り出してくる。

 

「わしの見込んだ通りやなぁ!! 兄ちゃんみたいに歯応えのある喧嘩相手、わしはずっと欲しかったんや!!」

 

「俺はあんたと喧嘩をしに来たわけじゃない! ここは穏便に済ませないか?」

 

「なにぬかしとんじゃ。こないに血沸く戦いをお預けにされた日には、わしぁ欲求不満で眠りにもつけへん! このバットが、この心臓が、この右目が疼いてしゃあない! わしを満足さしてくれよ兄ちゃん!」

 

 喋り終えるよりも前に駆け出した青年は、前のめりの姿勢で風を切りながら突っ込んできた。こちらの背には負傷したホームレスの男性が怯えた様子で丸くなっていたため、自分は団地の中央を目指しながらも眼前に迫った青年の攻撃へと対応する。

 

 普段通りであれば、反撃を見極めてカウンターの一撃で相手を沈めることができる。だが今回の青年は戦闘を心得ているのかあらゆる動作に隙を見せなかった。振り被る金属バットは素早く且つ豪快であり、それを振ったと認識した瞬間には大気に鉄分を擦り付けてこちらに降り掛かっていた。これまでの戦闘では感じられなかった逼迫(ひっぱく)のプレッシャーが闘志と共に視界を横切り、その金属バットをヌンチャクのように軽やかな手際で振り回す技術は一種の芸術とも言えただろう。

 

 じゃらじゃらと鎖を鳴らした金属の棒が、空間という舞台の上で舞うように視界の中で飛び交った。青年のバット捌きを目で追いひとつひとつの攻撃を避けていく中で、ふとした瞬間に過ぎった好機の直感と共に自分はカウンターの右拳を繰り出す。しかし青年は上体を逸らしてその一発を擦れ擦れで回避していくと、回避した体勢で咄嗟に踏ん張り、金属バットを逆手に持ち替えながら体を捻じり、その右腕を自身の後方へと回していく。

 

 次に展開されたのは、右手に持っていた彼の金属バットが逆手の状態で左の横腹から突き出てくる光景だった。視界に捉えていた金属バットが予想だにしない方向から飛び出してきた様子に自分は度肝を抜かれ、同時にしてそれを腹部に食らって反射的に身を屈めてしまう。幸いにも無理な体勢から繰り出された攻撃ということもあって、ダメージはそれほど高くなかった。だが、彼の猛攻はその一撃では終わらない。

 

 体勢を持ち直した青年による、踏ん張る力で勢いをつけた右腕による渾身の逆手スイング。人を殺しかねないという迷いや躊躇いを振り払った容赦のない攻撃が襲い掛かる前方のそれに対し、自分はバットの長さと飛び退く距離を瞬時に計算してそれをギリギリ避けていく。眼前を横切った金属の奇跡は空中で再び逆手から順手に持ち替えられると、ナイフを扱うように軽々とした動作で彼はこちらに連撃を叩き込んできたものだ。

 

 避け切れない攻撃は両手首のプロテクターで受け、降り掛かる猛攻と命を懸けたプレッシャーの合間を縫うように研ぎ澄ませた精神と視力で反撃の隙を伺う。手首のスナップを利かせたヌンチャクのように振るい、小型ナイフで小回りを利かせながら打撃を打ち込む戦闘スタイル。攻撃こそ最大の防御という言葉を体現したラッシュにラッシュを重ねた怒涛の攻撃の中で、それら2種のスタイルを切り替える際に生じるほんの僅かな隙を見計らい、そこに反撃のジャブを繰り出した。

 

 自身が優勢である状況の中、視界の中央から左拳が突き出してくる迫力の光景。この時の青年は肉食獣のような左目に恐怖ではない高揚の色を輝かせ、現在の自身が発揮できる最大限のポテンシャルと共に上体を逸らして回避を試みた。その結果、右頬を掠るという軽傷で済ませながらも、表面上のダメージ以上に彼はプライド……いや、“ライバル”という言葉を脳裏に過ぎらせることで猛攻を継続しながら狂気混じりの笑みを浮かべた。

 

「ええやん。ええやん、ええやん!! 兄ちゃんごっつええわッ!!! こないな心躍る戦い、いつ振りかも思い出せへん! もしかしたら、初めてかもしれんわ!!」

 

「ッ……俺は、こんなこと望んじゃいない!」

 

「せやけどジブンも本気(マジ)やないか!! なぁ感じられへんか? わしとの駆け引きに勝ちたいっちゅう心から湧き上がる渇望が!!」

 

「駆け引きなんてそんな。俺は勝つことを目的に戦っているわけじゃない!」

 

「ほな、なんや。その技術はどないな理由(ワケ)で身につけたものやねん! なぁ!?」

 

「理由は分からない。ただ、俺は護るために戦っているだけだ!」

 

(さなが)ら、お姫様(プリンセス)を護る騎士(ナイト)っちゅうとこかいな。ええやんジブン! もっと気に入ったわ!!」

 

 こちらの返答を耳にした青年の攻撃は一層と熾烈を極め、疲れを知らない無尽蔵の体力で延々と金属バットを振り回す。その攻撃は次第とこちらの腕や肩、腰や脚などに当たり始め、彼が依然としてアクセル全開の連撃を繰り出してくる他に自分自身の緊張や疲労を実感し始めたことも要因として考えられる。

 

 体力も精神も着実に追い詰められ、心のどこかで敗北の文字をチラつかせる。終わらぬ猛攻に無限の時間を感じながら耐え凌ぐその過程で視界に映ったのは、先程と軽くあしらったチンピラの男達と絶望的な表情を浮かべたホームレスの男性、そして……治療の手を止めてこちらを心配な眼差しで見つめていた白鳥レダの姿――

 

 ――ここで負けられない。彼女に危害が加わる可能性を思い出した瞬間にも、自分が纏うオーラが変化したのだろう。一瞬だけ肉食獣の左目を見開いた青年が躊躇いというプレッシャーで怯んだその刹那を突き、自分は空振りでありながらも目に見えない右ストレートを一発、既に彼の左目の横に振り抜いていた。

 

 彼の左目に反射して映る自分の姿は、鏡でも見たことのない静かなる真剣を象っていた。その瞳に隠し切れない闘魂を宿し、魂の形とも呼べる水縹(みはなだ)の輝きを放っていた。振り抜いた右ストレートはそのままに、時が止まったかのような精神世界の中で彼と会話する。

 

「力を持たなければ、誰かを護ることも叶わない。この力は勝つためにあるんじゃない、“負けないため”に身につけた力だ」

 

「せやったら、ジブンの覚悟をわしに見してみろ! そして証明せぇ! ジブンの覚悟、わしは受けて立つわ!」

 

 昂る高揚感で悦びの笑みを浮かべる青年。突き放すように冷ややかな真剣味を帯びた自分の眼差し。2つの闘魂が燃え上がり対峙した今、双方の力がぶつかり合う。

 

 青年の金属バットをプロテクターで弾くようにいなし始めたことにより、次の時にも止まらぬ猛攻を全て防具で受け止める白熱とした戦闘が幕を開けた。剣戟(けんげき)のような音が団地に響き出すと共に火花と砂埃が一斉に舞い上がり、残像を描き続ける金属バットと時折と拳を突き出して反撃する両者の図が展開される。

 

 このままでは勝てない。防御行動を続ける以上は常に不利を背負う自分の状況を打開するべく、戦いの中で極限までの思考を巡らせていく。その間にも無慈悲な金属バットの殴打が前方から降り掛かり、今もこちらの全身は悲鳴を上げている。この状況を突破するには反撃を当てる必要があり、その反撃を当てるための工夫を今の自分に求められている。アドレナリンからなる瞬間的な思考が脳を活性化させた末に1つの回答に到達した自分は、それを実行するべく攻撃の隙をついて1歩を踏み込んでいく。

 

 カウンター。青年が判断し回避へと意識を向けた刹那、彼は見切って避けるはずだったジャブの挙動を見て肝を冷やした。

 

 ――フェイント。青年が眼前の事柄を認識した瞬間にも、本命である右拳のパンチが彼の口元にヒットした。手応えこそは微妙で決定打とはならないあまりにも軽い一撃となってしまったが、青年はそれを正面から受けたことで攻撃の手を止め、後方によろけながらも仰け反った姿勢のまま左目だけをギョロッと向けてくる。

 

 どうやら、彼の闘志に更なる火を点けたようだった。期待と高揚で吊り上げた口角が猛獣の牙を剥き出しにして、金属バットを構え直しながら雄叫びを上げて接近し始める。彼の姿を受けてこちらも覚悟を決めるように雄叫びを上げながら走り出し、互いが真正面から全力をぶつけ合う。その直前のことだった。

 

 団地の入口、スーツ姿の男の1人がそれを口にする。

 

「あ、おいお前! なにしてやがる!」

 

 男の言葉を聞き、自分も青年も目の前でピタリと静止した。ある種のお決まりが如く両者とも手を止めると、声がした方へと振り向いてその要因と対面する。

 

 どうやら、この団地にある1人の女性が踏み入ったらしい。今も凛々しく堂々たる風格で佇む彼女は179cmほどの長身であり、腰辺りまで伸ばした乳白色(にゅうはくしょく)の長髪を分厚く束ねた大きなポニーテールを揺らしながら、健康的な色白の肌、女神のような絶世の美貌、黒色のライダースジャケットに赤色のブラウス、黒色のバイクパンツに、膝丈まである長さの黒色ロングブーツという風貌で目の前に存在していた。

 

 ユノだ。自分は唖然に近い驚きで言葉を失いながら立ち尽くす最中、隣にいた青年は舌打ちをしながら戦闘態勢を解除して喋り出す。

 

「チッ、“龍明の女帝”かい。えらいタイミングで水を差してくれたわ。……おうお前ら! 撤収や~! 用件はもう済んどるさかい、とっとと本部に戻るぞ~!」

 

 スーツ姿の男達はけん制の威嚇とどこか恍惚とする視線の両方を向けながらもぞろぞろ団地から出て行く。姿を現したユノも圧を掛けるように無言で彼らを見送るその傍らで、眼帯の青年は不完全燃焼ながらも割り切った調子でこちらに言葉を投げ掛けてきたものだ。

 

「わしは“久留巳(くるみ)海道(かいどう)”や。ジブン、名前は?」

 

「……柏島歓喜」

 

「柏島歓喜、憶えといたるわ。今回は大目に見たるから、今日のケリは次の機会につけようやないか」

 

「願わくば、2度と出くわしたくないな」

 

「いいや。会うで、柏島。わしの直感がな、わしとジブンはこの先も戦い続けるって言うとる」

 

 久留巳と名乗った青年は左手で自身のこめかみをトントン叩く。それから左手をひらひらさせて歩き出すと、どこか気だるげな調子で進めた歩はユノの真横を通過し、スーツ姿の男達を引き連れて団地から引き下がっていった。

 

 久留巳の背を見送ったユノは、踵を返すように方向転換してこちらへ歩み寄ってくる。そして4cm高い彼女は安堵するように柔らかい眼差しを向けながら凛々しい調子で喋り掛けてきた。

 

「大事はないかしら」

 

「負傷はしましたが平気です」

 

「その頑丈な体と強かな精神、そして困難と対峙しても怯むことなく立ち向かい、己が使命を全うせんと信念を貫くその姿。貴方を見込んで正解だったわ。さすがは柏島くんね」

 

「ど、どうも」

 

 独特な喋りも久しぶりに感じられる今、自分は心から安心していたのかもしれない。ユノはこちらの両肩に手を乗せて全身をくまなく眺めてから、レダの方へと振り返って言葉を掛けていく。

 

「その不届き者の後処理は私が担いましょう。貴女は柏島くんと暴行を受けていた御仁の応急処置をお願いするわ」

 

「ユノさん、後処理って言い方はちょっと語弊を生むと思うんだけど……そんな細かいことはいいわよね。こっちをお願い! カンキくんと安藤さんは任せて!」

 

 そう言いレダは、ドクターバッグを手に持ってユノと入れ替わる形でこちらに駆け寄ってきた。無事に合流した彼女に触れられた自分は照れ混じりに受け答えを行い、それから丸くなっていたホームレスの男性の下へと駆け寄ることで身柄を保護し、レダの治療が施されたものだった。

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