チートハンターズ 〜このゲームのチートは全て狩り尽くす〜 作:新川翔
「神霊回路
右手から腕前腕部にかけて黒い文様が刻まれた。
その文様は燃え盛る炎と剣を模しており、肘の方から手のひらからかけて白く変色し始めていた。
放つのは『アバター・ドリフト』現環境において、最強の威力を誇る炎熱系魔法。
それを発動するための儀式が始まった。
「疑似業火導火線 点火」
詠唱をしながら体勢を崩した巨像に対しては、炎の剣を適宜落としていく。
立ち上がろうと踏ん張ろうとしたタイミングで足に一撃。
その身を支えようと手を地に着けようとした瞬間に、肘に剣を突き立てる。
あらゆる足掻きの行動に対して適した一撃を加え続け、巨像を立ち上がらせない。
「右前腕を砲身に指定」
文様の変色は半分ほど終了した。
「ゴオオオオオォォォォォォ!!!」
その時、像は本領を発揮し始める。
巨大な体躯にハイパーアーマーが付与される。
「来いよ」
巨像は咆哮を上げながら一番ダメージを与えている俺に向かって飛び出してきた。
足が踏み込まれるたびに地は揺れて、6つの斧が俺の四肢を粉微塵にするために向けられている。
一切ののけぞりが無くなった巨像に対して白い一撃が飛んで行った。
黒の一矢は容易く奴の左下の腕を吹き飛ばした。残りの体力は6割。
「ありがとう。あとは避ける!」
俺は迫る巨像へと歩きながら、後ろへ振り返り礼を言う。
残り5本の斧の間合いに入り、それぞれの凶器が振り下ろされたその時、俺はふわり、と飛んで回避する。
全ての攻撃の軌道を読み、重ならない場所へ飛び込んだ。
そのまま転がり込んで奴の背後に移動する。
その頃には、俺の右手の文様は白く染まっていた。
「
神話魔法が解放される。
俺の右腕は灰で包まれ、巨大な銃に変形した。
先ず腕全体が刺々しい甲冑に覆われた後、肩からは三本の排熱パイプが生えてきた。
さらに、前腕部の甲冑は筒状に姿を変えて、その腕を取り囲むように四本の棒が現れた。
これにて、儀式は完了。
後は眼前の敵を塵にするのみ。
すぐさま放たれた白い光線は、1フレームで巨像の胴を貫き、体力をゼロにした。
「助手として、あなたがこの現象と戦う協力をしよう。用があったらすぐに呼んでくれ」
生成された装備は塵となって消えて、右腕は真っ黒に染まっていた。
この魔法は一回の戦闘に一回しか使えない上に、準備が必要なものだ。
ただしかし、威力は絶大なんてものじゃない。
嘘偽りなく。殆どの敵を倒す決定打となる。
「……うん!!」
俺の提案に彼女は元気よく同意をしてくれた。
戦闘は終わり、木の檻は木くずになり、黒い変色は回復した。
(さて、次は……後は最後のボスだけだな)
と、意識を切り替えた瞬間、ガキン、と弾く音がした。
振り返ると、俺と黒の間の直線上にオータムさんが立っていた。
黒は弓を射終えたような様子で、彼の放ったであろう弓が地面に転がって消えた。
どうやら彼女は俺のことを守ってくれたらしい。
攻撃を弾けるということは、他プレイヤーに対して攻撃判定があるということ。
このゲームにおいて、プレイヤーへ攻撃判定があるということは決闘モードなどのPVPの状態でしかありえない。
「チートを使っているな。随分と我慢できてなかったみたいだな」
オータムさんが、黒に向かって睨みを効かせて、両手のクロスボウを向けている。
(どうしてこのタイミングなんだ?)
すぐに彼がチーターであることは受け入れて、『どうしてこのタイミングで攻撃を仕掛けてきたのか』について考えていた。
あまりにも裏切りが唐突すぎる。本来、チーターは最後のボスを倒すタイミングで現れるはずだ。その間、俺が油断しきっていること以外に、このタイミングに大きなメリットがあるはずだ。
─────そういえば、そんなことを考えている暇はない。
「ファイアショット!」
すぐに攻撃態勢に入って、炎の剣を射出した。
勝負はもう終わっているため、切り札は回復している。状況、人数差、どれも俺たちにとって有利なものだ。
例え、チーターのラウンズが相手だったとしても、勝てるような戦略が組み立てられるはずだ。
すると、俺の体が意図しない方向へと引っ張られた。
(これは、まさか───)
「助手君、行くよ!!!!」
彼女が俺の手を引き、さらに森の奥へと連れて行こうとしていた。
(強制イベント……!奴の狙いは分断か!!!!)
「みんな!!!!」
「分かってる!!!」
彼女には戦闘に参加できないことを伝えようとした時、葵が遮るように返事をしてくれた。どうやら理解してくれているようだ。どうしても、この強制には抗うことは出来ない。
だから、今、俺がすべきことはただ一つ。
(速攻で、このサブクエを終わらせる……!)
「オータムさん、構えて、あの人はラウンズ───」
サムとの意思疎通を終えて、オータムと連携を取ろうとした彼女のセリフを遮るように、矢が飛んできた。彼女はそれを難なく弾くが、奴にセリフを譲る猶予を与えた。
「さて、────『狩り』を始めよう!」
決め台詞を吐いた黒は再びは弓をつがえ始めた。
『ウルフ・ギャングスター』
黒が持つ、『アバター・ドリフト』現環境、最強の弓装備の一つ。
操作性は最悪、ブレが大きく、取り回しも悪い。
ただしかし、その使い手はあらゆる生命を蝕む力を与える。
「ファングショット」
神速の白い矢が、ホリーハックの喉元へと飛んで行った。
(はやっ───)
(さて、と)
親友とは分断された。
想定していた戦略は何個も実行不可能となった。
それでも、その胸中に淀んだ不安などは一切なかった。
あるのはただの、使命感、期待感、朝日のように輝く希望。
(いいとこ、見せてやろう)
戸惑うことなく、軽やかな羽のように、ホリーハックは飛び出した。
発射された三発の矢を全て弾き、懐に入った。
「今日、調子いいな!その勢いのまましくじってくれ!」
黒は攻撃を弓で受け止めながら、大胆不敵に吠えている。
「なわけないじゃん!」
『キリュウ!こっちにチーターが出た!』
強者同士が鎬を削り合っている中、オータムが別行動をしているキリュウに声をかけていた。
『キリュウ!黒がチーターだった!多分あの少女は闇!いい?絶対にこっちに合流させないで!!』
『ああ、了解だ。あの少女に攻撃を仕掛ける』
その指示を聞き届けた男は追跡の足を更に速める。
目の前の少女を仕留めるために。