チートハンターズ 〜このゲームのチートは全て狩り尽くす〜   作:新川翔

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ダイヤの原石

 ただ今午後22時30分。

 サムとウェポンズが第一層をクリアした頃。オータムこと秋ヶ原楓がイグドラシル遺跡へと移動し始めた頃。キリュウとクレナータは第二層と第三層の間にある、遺跡を攻略する者たちへ与えられた休憩所にいた。

 

 彼らは異次元のスピードでチーターひしめく第二層をクリアしていたのだ。

 

 

 その要因はキリュウの実力にある。彼は多くのチーターに足止めされながらもその圧倒的実力をもって捻じ伏せることで第二層の課題をクリアしていた。

 

「さて、これより講義を始める」

 

 そこでキリュウがクレナータに彼の戦闘技術について教えていた。

 

「まずは攻撃の仕方だ。クレナータ。君は敵と相対した時にどのような攻撃をしている?」

 

 この踊り場は木でできている。

 具体的には木の枝がいくつも折り重なって正方形の部屋の形に伸びているのだ。

 天井にはいくつかの枝が魔法の炎を灯しているので照明は十分。

 そこでキリュウは後輩に強さの真髄さえに伝えるつもりだ。

 

「これまた抽象的な……」

 

 彼女は腕を組み考えながら彼の問いについて考える。

 

「素早さでゴリ押す……?」

 

「よし。まだその段階だな?それでは次の段階へと導いておこう」

 

 悩んだ末にだした答えをバッサリと斬ったキリュウは彼女に引かれていることも知らずに両手で空気をすくうように胸の前に掲げて次のステージを提示する。

 

(待って、次の段階って……!?)

 

 一瞬引いたクレナータであったがすぐに希望が湧き始めていた。

 彼女は今自分の上位互換から教えを受けているということを思い出したからだ。

 彼女自身の延長線上にいる彼の言葉は彼女にとって焦がれているものだ。

 

 

 

 

「相手の殺気を感じ取れ」

 

 

 

 

「えぇ……?」

 

 感情のジェットコースターは下がったり上がったり下がったり。

 憧れの人はアニメみたいなことを言い始めた。

 

「よし、まずは戦ってみよう。決闘モードを起動しろ。ルールは一本勝負、制限時間3分。勝利条件は先に先手を叩き込むこと。だ」

 

「……分かりました」

 

 しかし今すぐにでも星に近づきたい彼女は彼の言葉を一旦は受け止めて戦うことにした。

 キリュウは右手に黒い剣一本のみを持ってクレナータと相対する。

 

「さて、殺気とは何だと思う?」

 

「…………さぁ?」

 

「それでは教えよう。このゲームには殺気がある。まずはそれの証明だ」

 

 キリュウが剣を構える。

 その姿に思わず彼女はゾッとした。

 

「……っ!?」

 

 その反応を見てから飛び出すキリュウ。

 神速の域に届く攻撃。

 本来のクレナータでは防げないはずの攻撃であったが、彼女はその細身のレイピアで攻撃を弾くことが出来た。

 

「弾けっ」

 

 しかしそのすぐ後に背中に斬撃を喰らってしまった。

 勝負はキリュウの勝ち。

 ただ、クレナータには悔しさなど微塵もなかった。

 

「あの、足見過ぎです」

 

 彼女は足を内股にして空いている左手で太ももを隠しながら殺気の正体を理解した。胸の中にあるのは星の一端を理解した喜びとちょっと弄ろうといういたずら心。

 

「ああ。今の俺はお前の足を狙うつもりで動いていた。そう、殺気とは視線及びそこを狙う動きのことを言う」

 

 彼女の背後に移動していたキリュウは彼女の前に歩いて移動しながら理解を補足していた。

 

「セクハラですよ」

 

 上目遣いで頬を赤らめながら彼女はとんでもない発言をした。

 予想していなかった発言によりキリュウの動きが止まる。

 

 

 

「……………………………」

 

 

 

 互いに沈黙の時間が流れてしまう。

 

(まずい。な)

 

 キリュウの頭の中は焦りで満たされていた。

 彼は年頃の少女に対する知識がまるでない。

 何がアウトで何がセーフな言動なのか理解をしていないのだ。

 

「冗談!!!!冗談です!!!!」

 

 次の言葉をどうすべきか考えていたキリュウは彼女からの言葉によりちょっとした安堵を手に入れる。

 

「そうか。そうか。そうなのか??」

 

 安心のピースを根拠にして語り掛けている。

 

「そうです!!!流石にそんなことはしません!!!!本当にごめんなさい!!!!!」

 

 さらに手を合わせて頭を下げている姿を見て彼は本当に冗談であると理解した。

 

「……それでは講義を続ける」

 

 そしてキリュウの授業を再会した。

 

「相手には狙いがある。それを視線、動きなどから把握し強みで叩き潰す。俺の強みは反応速度と経験だ。瞬時に相手の狙いを読み取り、それに対応して倒す。ここで重要なのは集中しながら全体を見ることだ。中心視をしながら周辺視野を見るんだ」

 

「でも目で見てたら分からなくないですか?」

 

 彼の語る強さの秘訣に彼女は疑問を持っていた。

 彼女は第二層での無双を目撃している。彼の動きは視覚による感応だけでは説明しきれないものがあった。

 その問いに彼は少々バツが悪そうな顔をしてから答えた。

 

「これは、引かれたから言わないようにしていたんだが、どうして目だけで判断しようとしている?人間には他にも耳とコレがある」

 

 彼は耳と頭をトントン、と叩いていた。まるで『これがあるだろ』とでも言いたげだった。

 

「全ての器官で情報を収集し処理をするんだ。これによって超人的な反応速度を得ることが出来る。それでは突然だが問題だ。これがどうして強いのか、その理由を説明するためにも重要な問いだ。人間は視覚で何割の情報を集めると言われている?」

 

 どこかで聞いたことがあるような話題。彼女はうろ覚えの答えをそのまま垂らす。

 

「8割、ですよね」

 

「ああ、当たりだ。それでは人間が得られる情報量を100とした時、視覚からの情報をそのままに他の感覚からの情報量を増やすことが出来ればどうなる?」

 

「……得られる情報量が100を超えますね」

 

 その言葉で彼の言いたいことをようやく理解できた。

 彼は恐らくではあるが、視覚と同じくらい聴覚を使って情報収集をしているのだ。

 

「その通りだ。もし俺のような強さを手に入れたいのならあらゆる要素を頭に入れられるようにしろ」

 

 だがしかし、彼女はそんな芸当が高度すぎることは考える間もなく理解できていた。

 

「そうだな。これは難しいことだ。だがこれを使いこなせれば処理できる情報量が確実に向上する」

 

「う~ん……」

 

「習うより慣れろ、だ。やってみよう。目を閉じて俺の攻撃を避けてみるんだ」

 

 そうして同じルールで再び決闘モードが始まる。

 

 クレナータは中腰で剣を構えながら目をゆっくり閉じた。

 耳を澄ませてキリュウの気配を感じ取ろうとしている。

 

「一番わかりやすいのは耳だな。音で相手の位置を察知するというのは分かるな。だがこのゲームは没入感の高いVRゲーム。どうしても視覚に頼ってしまう。そう、従来の耳の使い方では足りない。より耳で情報を収集するんだ」

 

 彼は周囲をうろうろと彼女の辺りを旋回し始める。

 

「難しいですね……これ」

 

「そうだな。耳で反応するのは慣れていないから遅くなる。だがやるぞ。先ずは狙いを言っておこう。俺はお前の胸を狙う」

 

「分かりました」

 

 目を閉じたまま音だけで感じ取っている。

 彼はコツコツ、と木でできた床を歩きながら彼女の周囲を歩き続けていた。

 

 

 

 そして数秒後弾けるような破裂音が聞こえた。

 

 

 

(聞こえた……!)

 

 彼女はなるべく早く反応して音の聞こえた方向へレイピアを向ける。

 

 しかしそれでは足りない。

 

 彼女は正面から胸を切り裂かれて敗北した。

 

「それではどんどんいくぞ」

 

「はい!!」

 

 そして再び決闘モードに入る。

 

「次だ」

 

「はい!!!」

 

 二度目、反応しきれずに斬られた。

 

「次」

 

 三度目、何もできずに斬られた。

 

「次」

 

 四度目、反応できたが斬られた。

 

「次」

 

 五度目、反応できたがレイピアが届かなかった。

 

「次」

 

 六度目、届きはしたがかすっただけだった。

 

「次」

 

 

 

 

 

 

 七度目、なんと彼女はキリュウの一撃を弾いてみせた。

 

 

 

 

 

 

(だんだんコツが掴めてきた)

 

 ここで彼女は光を見る。

 

「ほう」

 

 そもそも、クレナータは天才である。

 アバター・ドリフト内で史上最速でヒーローランクに到達した神速の剣姫。

 才能の原石は己を磨く手段を見出しその輝きを更なるものへと昇華している。

 

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