お師匠へ
最近とても寒くなってきましたが、いかがお過ごしでしょうか。
長い間手紙を送れずに申し訳ありません。最近、鬼殺隊士としての仕事の量が増え、筆をとる暇がありませんでした。
何を隠そう、私、
風柱に就任しました!!!
そんな手紙を、俺の育手であるお師匠に報告したところ、一度顔が見たいから暇ができたら帰ってきてくれと手紙が来た。
ウッキウキで帰ると、お師匠は歓迎してくれた。刀に掘られた悪鬼滅殺の文字を見せると、感動したのか目元に涙が浮かんでいる。
訓練では厳しい方だったが、弟子思いなのはずっと変わっていない。そんな姿をみて、おれもついつい目元が緩んでしまう。
久しぶりに会ったからと会話を楽しんでいると、ふとお師匠が言った。
「今、ちょうど呼吸を教えている子がいるんだ。せっかくだし剣を見てくれないか」
俺は二つ返事で頷いた。
お師匠のあたらしい弟子とはつまり、俺の弟弟子、後輩である。
ぜひとも会いたかった。
俺の後輩、不死川実弥の体は、傷だらけだった。
目は色あせ、表情は暗く、全身から鬼への殺意が透けて見える。
なんでも鬼を酔わせる稀血の持ち主ということで、いままで日輪刀をもたずに鬼と戦ってきたらしい。
とんでもない自殺行為であるが、それを乗り越えてきたことで彼の戦闘能力は凄まじい物になっている。
実弥は、俺に会釈をすると、すぐに木刀を構えた。
やる気というか殺る気が満ちている。
内心ビビりながらも、柱としてそんな姿を見せるわけにもいかない。
お師匠から借りた木刀を構えた。
シィィィイイイイ
彼の呼吸の声がよく聞こえる。
驚いた。彼はおそらく、全集中だけでなく常中まで習得している。
次の選別では、絶対に生き残るだろう。そう思わせるほどの鍛錬の多さ。そしてなによりも・・・
シイアアアアアアアアアア
全身からあふれるオーラというか気配というか殺気。それが俺とにらみ合っているだけですごい勢いで増している。鬼への怒りが、あふれているのだろうか。
とはいえ、にらみ合っているだけではいけない。彼の型を見たい。
風の呼吸 壱ノ型 塵旋風
まずは壱の型で小手調べだ。九つある風の呼吸のなかで基本となる型。回転し、風を作りながら突進して斬るだけの単純な技だがこの基本ができてこそ他の型が・・・
風の呼吸 壱ノ型 塵旋風・削ぎ
削ぎって何ですか?
それは、突風だった。
砂を、土を、石を、空気を、すべてを巻き込み、大地を削ぐような突風であった。
何もかも巻き込むような、荒々しいその突風は、技の威力を底上げするだけでなく、広範囲を削り取ることもできることだろう。
受け方を間違えたら死ぬ!!!!
俺の知る壱の型とはかけ離れた威力を持つその突風に冷や汗が流れる。
もしもこのままぶつかり合ったとしたら、俺も彼も無事では済みそうにない。
壱の型を振る体勢から体を捻り上げ、下から上へ刀を切り上げる。
陸ノ型 黒風烟嵐
下から上へ吹き上がる風のように、黒い風が吹く。
その風は、実弥がこちらに振り下ろした木刀を逆に打ち上げた。
かなりの力で打ち上げたはずだったが、それでも彼はまだ刀をしっかりと握っている。
すごい握力だ。でも、これで隙だらけ。
がら空きの胴体に向けて技を繰り出そうとしたその時、
シィィィイイイイ
呼吸の音が聞こえた。
弐ノ型 爪々・科戸風
は??
打ち上げられたその姿勢のまま、実弥が繰り出したのは、弐の型の「科戸風」ではない。
彼のセンスによってひとつ上のレベルに引き上げられた技であった。
なんて技????
本来、弐の型によって生じる風は、上から下へ斬り下ろすひとつのみ。
しかし彼の使う「爪々・科戸風」は同時に四本もの斬撃が降り下ろされていた。
まるでそれは獣の爪のようである。
気を抜いたら本当に死ぬ!!!!
彼を窮地に追い込んだと思いきや一転、こちらがまたも命の危機にさらされている。
もうなりふり構ってはいられない、木刀を強く握りこむ。
肆ノ型 昇上砂塵嵐
下から上へ吹き上がる風を作り上げ、実弥の科戸風を打ち消す。
さらに打ち消すだけにとどまらず、渾身の力で繰り出した俺の風は、実弥に襲い掛かった。
シィィィイイイイ
それでも彼は冷静に技を繰り出した。
参ノ型 晴嵐風樹
俺の繰り出した技に対して、自分も技を繰り出し、今度はいなして見せた。
風の呼吸同士が何度もぶつかり、地面にはまるで熊が爪で引っ掻き回したかのような跡がいくつも残っている。
「これが、柱の実力かァ」
実弥は呟くようにそういうと刀をさらに強く握りしめ、笑い、
「期待以上だ!もっとヤんぞォ!!」
息を大きく吸い込み、木刀を力強くふるった。
漆ノ型 勁風・天狗風
俺の使う「漆ノ型 天狗風」よりも威力マシマシ範囲マシマシ殺意固め。
お師匠、お館様。
柱就任したての俺ですが、さっそく死ぬかもしれません。
ーーーーー
最初に出会ったとき、そいつは弱く見えた。
俺より二つ年上で、背はそこそこ。体の動かし方からして、柱というのは間違いないのだろう。
しかし、なぜか弱く見えた。
その理由はおそらく、そいつから強い感情を感じないからだ。
怒りや、憎しみ、そういった鬼への殺意を感じない。
鬼殺隊の柱というからには、もっと殺意であふれているのかと思いきやそうではないのだなと思った。
そして柱だといってもこの程度なのかと、すこし、失望した。
しかしそんな考えはすぐに吹き飛んで行った。
陸ノ型 黒風烟嵐
伍ノ型 木枯らし颪
捌ノ型 初烈風斬り
俺が教わった風の呼吸に、さらに攻撃力を増すようにして作り上げた型。
確実に鬼を狩れるように、首を捩じ切れるようにと荒々しく磨き上げた型。
その型を、
参ノ型 晴嵐風樹
肆ノ型 昇上砂塵嵐
漆ノ型 天狗風
流され、打ち返され、避けられた。
自分の努力の集大成が、通じない、届かない、防がれる。
挙句の果てには
弐ノ型 科戸風
斬り返され、傷を負う。
鬼を狩るために、唯一残った家族を守るために、必死に続けてきたこれまでの鍛錬が全く通じない。
心が折れてもおかしくないような状況だった。
だが、そんなときに俺は、
すげぇ
素直にそう感じた。
育手曰く、風の呼吸とはもとから攻撃重視の型である。だからこそ、今までの風の呼吸の使い手は荒々しくその呼吸を使ってきた。
そんな中で、彼は、風間楓真は、これほどまでに綺麗に、丁寧に型を使う。
だからこそ、強いのだと。
玖ノ型 韋駄天台風
鬼を捩じ切る風になろうと鍛錬する者が多い中では、彼の姿はまるでそよ風のように弱く見えた。
しかし彼は柱である。
多くの人を助けた風が、ただのそよ風なはずがない。
彼がそよ風ではないように、自分も誰かを守るためには、鬼を斬る暴風であるだけでは足りない。
この日、不死川実弥は理解した。
壱ノ型 塵旋風
強く吹くことだけが、風ではないのだと。鬼を斬ること以外にも、守る道があることを。
自身が生み出した台風を、基本の型で的確に打ち払いこちらに刀を振り下ろすその姿を最後に、実弥は意識を失った。
「壱ノ型 塵旋風・削ぎ」→「壱ノ型 塵旋風」
「弐ノ型 爪々・科戸風」→「弐ノ型 科戸風」
「漆ノ型 勁風・天狗風」→「漆ノ型 天狗風」
元ネタはこうだったんじゃないかなという考察です。独自解釈です。全然違う可能性がめちゃあります。