Fate/GrandOrder×鬼哭街 劍鬼再哭魔都 上海   作:スペシャルティアイス

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第三話 異域逢英霊 揮刀結義盟

 

 

 

立香の目覚めた場所はコンクリートが剥き出しの薄暗い場所だった。地下然とした閉塞感も感じ、どこか息苦しさも覚える。

体を起こした彼女に自分のサーヴァントである宮本伊織から声がかかる。

 

「マスター。身体のほうは」

「うん……ぼんやりしたのがなくなってる」

 

そうか、と顔を明るくする伊織の姿にどこか不思議に思う。そんな心配をかけるようなことだったのか?と。

 

「見立てでは何やら性質の悪いものが身体にあると聞いたが、その調子なら大丈夫か」

「性質の悪い?」

「“なのましん”と言っていたが……すまぬ、どうも説明がしづらく」

 

( ……ナノマシン?!なんでそんなの私に……あっ)

 

首筋を抑える。ここに来た時、チャラついた軟派男に手を引かれた後、ちくりとした痛みが首に走ったのを思い出す。

 

「その顔、心当たり有りか。しかし安心していいと思う。あの御仁、バーサーカーらしいのだがどうやら気功に精通していたらしく、手当てしてくれたようだ」

「そ、そうなんだ……ってバーサーカーって!?」

「気が付いたか」

 

話題にした当人の登場にその方向を向く。すると見間違いではない顔面半分の引きつり顔が見えた。

男は立香の顔を一瞥、異常のないことに目元を緩ます。

 

「……後遺症もないようでなにより。そちらのセイバー殿から仔細あった通り、小 姐(お嬢さん)には粗悪なナノマシンが注射され気穴にて悪さを働いていた。すでに焼き払ったので安心していい」

「あ、ありがとうございます。私、藤丸立香っていいます」

「日本人か。俺はバーサーカー、というらしいのだが、名は……どうしたものか」

 

難し気に腕を組んだ姿に立香がとりなす。

 

「あ、大丈夫!真名を明かすのに抵抗があるのは当然だし」

「そうらしいのだが、名を明かす前に君らを襲った男について聞いていいか?」

 

そこに待ったをかけるように声が上がる。

 

「オイオイ、俺をのけ者にしないで欲しいんだがね」

「ランサー殿」

 

振り返った男の視線の先に当世風の洋装を纏ったランサー。進み出るその姿を見る立香と伊織の視線に怪訝な目つきになる。

 

「あん?……その顔、もしかして別の場所で召喚された俺に会った口か」

「ええと、そうなるのかな?」

「ほぉ。それじゃあ此処のことを知れば悔しがるな。この戦場に召喚された俺は運がいい。なにせそこのバーサーカーといい戦巧者に事欠かねえんだからよ。なあ、そこのセイバーも闘れるんだろ?」

 

剣呑に笑うその姿に、伊織の手が無意識に刀に伸びる。

 

「ランサー殿。以前の隠れ家をダメにしたこと、もう忘れてしまったのか」

「わぁーってるよ。だが話がひと段落したら手合わせだ。これは譲らねえ」

「……マスター」

 

伊織の伺う声に立香は眉を寄せる。

 

「正直、いきなり襲われて私たち何が何やらなんで、まずはお話をしてからにしたいです」

 

そう言って頭を下げた姿に、バーサーカーと呼ばれた男はランサーを見やり、相手はへいへいと言わんばかりに闘気を収めた。

まず口火を切ったのは立香だった。己がカルデアという機関に所属し時代の歪み、異常を修正することを使命にしていると。その戦いの中で多くの英霊の協力を得ている、というところでランサーはそれはそれでおもしろそうな所だと興味を抱く。

今回は偶発的なもので現状は何をすればいいのかすら定かではなく、情報収集を通じて異常を探るというところまで話した。

 

「カルデア、特異点、英霊か……なるほど、聞いたことに重複するものもある」

「てか古今東西の英霊が多く集う、か。いいねぇ!」

「それで、ここは一体なんなんでしょうか?町並みから中華圏だと思うんですが」

 

立香の問いにバーサーカーが一息置いて答える。

 

「ここは上海。東洋の魔都とも呼ばれる一大都市。そして今はサイバネティクス技術の先端を行く場所でもある」

「さいばね……?」

 

聞きなれない単語に伊織がオウム返しする。

曰く、通信工学・制御工学・生理学・機械工学の関わるものだが、平たく言えば小さなものなら手足、大きなものは脳を除いた全身までを機械化する技術の事。これにより欠損や障害などで失くした手足や臓器を代替でき、多くの人の健康と幸福に寄与せんと望まれた技術であった。

 

「……あった、って言うと?」

 

立香のその問いにバーサーカーは続ける。

いつしかその技術は暴力と性に特化されていき、重装甲の自立兵器アサルトギアを始め戦争や荒事に投入される軍需産業に生かされていった。

個人レベルであれば機械の体による剛力と、文字通り機械並みの反射速度を得るなど。そうした技術を総称してサイバネ技術と呼ぶのだそうだ。

それを聞いて立香と伊織は呆気に取られた。そして聞いて返ってきた西暦は明らかに先のものであり、つまりここは近未来の上海であったのだ。

ここで伊織から念話が届く。

 

「(マスター。念のために聞いておきたいのだが、カルデアへの通信は)」

「(試したんだけどダメだった)」

「(ここまでの情報、ダ・ヴィンチ殿たちであればよき知恵をと思ったのだが)」

「(うん……気持ちはわかる)」

 

難しい顔をする二人に、ようやくといった風にバーサーカーは口を開く。

 

「それで。君らを襲っていたあの男だが、襲われる心当たりはないのか?」

「は、はい。全くないです。気が付いたら巻き込まれた形で」

「そうか……実はあの男の、名前はわかっているんだ」

「えっ?」

 

ならなぜ、こんなにも回りくどく聞いてきたのか?そんな疑問を当然のように立香は抱く。それが顔に出ていたのか、バーサーカーはひどく憔悴した顔で言葉を紡ぐ。

 

「……仮にだ小 姐(お嬢さん) 。君と同じ顔かたちの人間が故郷で家族や友人を殺しつくし、今も徘徊して多くの人間を手にかけていると想像してくれ」

 

急なこの言葉に立香も、傍に控える伊織も戸惑う。そんな二人をランサーが退屈そうに眺める。

 

「君らを襲った黒衣の男、姿は孔濤羅という者だ。そして俺の名も、孔濤羅という」

「えっ!?それってどういう。だって姿が」

「そもそもの始まりから話させてほしい。俺は既に、この世にいないはずの人間なんだ」

 

濤羅と名乗る男が語るのは、己の死からであった。

彼は元は上海に根を下ろしていたマフィア“青雲幇 ”の凶手、暗殺者であった。マフィアといっても外国勢力や他のマフィアから上海を守る義侠、自警団という側面が強いとのこと。

その中で彼は外地のマカオにて任務を遂行していたところ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()という。しかし彼の最愛の妹は尊敬する兄弟子と結ばれ、その俊才たる兄弟子が青雲幇の舵取りを担っており心置きなく冥土の途につく筈だった。

しかし目が覚めると、この上海にて見知らぬ人物の姿となっていたという。しかも自分の古巣である青雲幇が孔濤羅に壊滅させられ、しかも兄弟子を始め多くの拳士が惨殺、最愛の妹は行方不明になっているという。そして今もなお、偽の孔濤羅は夜の上海を徘徊し殺戮を行っていると。

 

「こんな、こんなことが許されるものかっ!!」

 

孔濤羅、バーサーカーは肩を震わせ激憤する。

当然に彼は仇を討たんと偽者を探すが、その途中で一人の紳士が接触してきた。彼は謝逸達と名乗り、すべてはある黒幕による魔術儀式が原因であると宣った。

魔術?何をバカなと切って捨てようとしたが、その人物からこの身体が間桐雁夜という者のものであり疑似サーヴァント、バーサーカーとなっていると聞かされた。他にも存在するサーヴァントを撃破することでどんな願いも叶えるという聖杯が生まれ、黒幕はその聖杯を欲して今回の悲劇を作ったと。

 

「余りにも怪しい、むしろ彼こそが黒幕というのではないか。後からそう思ったのだが、なぜか直後はそんな当然の疑いが湧かなかった」

 

半信半疑で情報収集に努めたところ、偽孔濤羅と人外の強さを持つ存在らが殺し合いをしている場に遭遇。そして相打ちとなって満身創痍であろう彼奴と戦ったという。

 

 

 

***

 

汚染された雨の中の決闘は、すれ違うような二対一の交差の後、数秒の静寂が場を支配した。

その瞬間を物陰から伺っていた間桐雁夜の姿となった孔濤羅、バーサーカーは目の前の現実を信じられなかった。

 

(――なぜ!何故、何故ッ!!?)

 

己の似姿の人物が放った剣閃。それは師より見取った戴天流の奥義に他ならなかった。気が充実した状態であっても十の内の七しか放てぬ連閃を、かの自分は十全に物にしていた。

黒衣の濤羅が膝をつく。その腹部に大穴が空いていた。

 

「哇々 !なんと美しい剣よ。その银河 のような輝きに、思わず槍を向けてしまったわ」

「……だから貴様は巧夫が足りんと言ったのだ」

 

爽やかな笑みを浮かべた紅毛の槍使いの顔半分は抉れていた。その笑顔のままに前のめりに倒れ、光の粒子となって消える。

 

“ピィン”

 

老人のサングラスも割れて地に落ち、こめかみから血が噴き出してその横顔を染めた。

何も知らぬ者が見れば趨勢は決したかに見えるが、バーサーカーの体は己の意に先んじて、老人と濤羅の間に向かって駆けた。

鞘から抜き放った苗刀にて構えるは戴天流『波濤任櫂』一点突破を為す必殺を受け流すに向く柔剣である。

果たしてその意は、老人へ放たれた殺し技である戴天流『貫光迅雷』を凌ぎきることに成功した。そしてふらついた敵へ頂肘を胸骨に叩き込み次いで顎へ掌底、肩口から強烈な体当たりでもって吹き飛ばした。

 

(――これはっ!?)

 

手ごたえは人のものではなかった。己が肉を機械へと換装した外家拳士のそれと同じだ。

 

(いいや!?奴は確かに内頸を、戴天流を使いこなしていた。あり得ない、のに)

 

気を練るには経絡が必須であり、機械化した身体に経絡は存在しないはず。だが目の前の事実に整合性をとなれば、バーサーカーにとって受け入れがたい真実が浮き上がってくる。

そして吹き飛ばされた濤羅が剣を杖に立ち上がるのが見えた。その姿は片腕を失い腹に大穴の空いた、およそ動けるはずのない姿である。何処からも赤い血は一滴たりともこぼれていない。

 

「機械の身体に経絡が通っていることが、そんなにも不可思議か」

「っ!?」

 

バーサーカーの隣に先ほどの老人が立っていた。余人にここまで近づかれるとは、バーサーカーの動揺の大きさは察するに余りあった。

しかし彼がその事実を漸う呑み下したとき悍ましさに吐き気が、次いで赤熱した怒りが全身を支配した。

 

「……よりによって、俺の似姿でそれを為すかァッ!」

 

 無爲同化気、此刀寄寸意 (無為は万物の気と同化し、一刀に意を宿す)。天地遍く気脈と内経を共応させるを奥秘とするが内家。父祖より継いだ肉体を機械に内勁を再現するという大冒涜に、バーサーカーは身を焼く激昂を抑えられなかった。

それを制するかのように、老人は血で下りた髪を掻きあげながら一歩進み出る。

 

「儂も歳をとったか。あのような絡繰に身を替えてまで巧夫を積もうとはどうしても思えぬ。

 ――なあ若いの」

 

そう言って肩越しに振り返った老人が口角を上げる。

 

「ここは一つ、この木偶に疾く引導を渡さぬか?あの有様、僵尸 よりも見苦しく視界より消し去りたくてたまらぬ」

「……!」

 

戦いの中であることはわかっていながらも、バーサーカーは苗刀を地に刺し老人に抱拳礼を捧ぐ。そして素早く剣を引き抜き敵に向けた。老人も足を開いて重心を確かなものとしてから掌をゆるりと構える。

その両雄に向け、常人なら息絶えているはずの姿にて、機械仕掛けの剣鬼が突貫した。

 

 

 

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