Fate/GrandOrder×鬼哭街 劍鬼再哭魔都 上海 作:スペシャルティアイス
バーサーカーはかく語る。
「壊れかけてなお奴の巧夫は、悔しいが魔性の冴えを有す絶剣だった。そして、俺自身よりも戴天流に通じていた。しかしあの状態では気を練るのも難しかったようで、老師の助力もあって電磁パルスを彼奴の後頭部に流し込んで決着した」
「老師って?」
立香の疑問にバーサーカーが口端をゆがませ笑む。
「外家の拳聖といっても過言ではない御方だ。名を後に知ってから、不謹慎ではあったが肩を並べて戦えたことに震えたよ」
「俺も闘ったが中々どうして、下った時代であってあんな達人が生まれるとは。夢中のあまり、手合わせで宝具を使いそうになっちまった」
カラカラ笑うランサーにバーサーカーはジト目で見てから、諦めたようでため息を吐いた。
「もし真名を知りたければ当人に尋ねて欲しい。じき戻ってくるだろう」
「なあ、話もひと段落だろ?やろうぜ、オイ」
辛抱たまらくなったのかランサーが伊織を見やる。その眼は獣のようにギラついていた。
立香の知るランサー、クーフーリンは好戦的な性格ではあるがここまで血気に逸る性格ではなかったはずだ。そう首をひねるも、約束は約束であろうし伊織へ了承の意に頷く。
「あいわかった。それでランサー、何処にて仕合う?」
「この隠れ家から出た所にひらけた場所がある。案内すっからよ」
連れ立って入口に向かう二人を見やり、立香は自分はどうしようかと考えた。現状に詳しいであろうバーサーカーには他にも聞きたいことがある。明らかに怪しい謝逸達なる人物や、なぜランサーと行動を共にしているかも聞きたい。
そんな立香をバーサーカーはちらりと見た。
「心配ならば
「呼び捨てでいいですよ」
「ならば俺はバーサーカーと。それでセイバー殿が心配ならば共に行こう。彼らほどでないが、俺とて君が逃げる間くらいは稼げよう。彼奴も倒されてすぐならしばらくは大丈夫だろうが」
「……あの、もしかしてさっきの黒い人、ええと偽物って」
その立香の問いにバーサーカーは頷いた。
「察しの通り復活、ではなく新しい身体でまた徘徊する。しかも以前よりも強くなってな。先ほど話した時の俺が奴に叩き込んだ痛打も、そっくり模倣されて今日やり返されたよ」
「えぇ……?」
あの強さの敵が何度も襲い掛かり、しかも強くなっていくというのは割と洒落にならないのでは?そう思う立香の思いが伝わったのかバーサーカーは苦笑する。
「老師とランサー殿はむしろ歓迎しているよ。心強くあるが、俺としてはこの事態を解決しつつ、妹をはやく見つけてやりたいのだが……」
そう言って眉を寄せるバーサーカーは瞠目し小さく名を呟いた、瑞麗と。
ひらけた場所と聞いたが何のことはない、なにかしらの戦いの跡地であった。派手に戦ったらしく瓦礫と化した建物が多いが、中心地は文字通りの空間だ。
闇夜の中、ランサーに先導され辿り着いたそこには先客がいた。灰色の人民服に身を包んだ老人、整えられた白髪の下に精悍な顔立ちが見える。
「(あれは……李書文殿?)」
カルデアに召喚されていた彼を伊織は知っていた。得物は違えど武の達人ということで、玄奘三蔵との手合わせを遠くからであったが見学したことがあったのだ。
「(しかし、これは)」
しかし放つ雰囲気はまるで違い、圏域に入っていないにも関わらず圧を感じてしまう。
気配で気づいていたのか書文は馬歩站椿を止め、腰を戻して二人を見やる。
「なんだよ爺さん、鍛錬か?」
「無論よ。今日はサーヴァントにも黒い剣士にも出会えなんだ」
この言葉にランサーがしてやったりと笑う。
「ご愁傷さん、黒いのはさっき俺が喰っちまったからな」
「なるほど道理で。それで、そちらの者は?」
「(二間余り。些細な相手なら一刀にできるが、この御仁相手では)」
無意識に目の前の相手との戦闘を想定した伊織を見て、書門は愉快そうに笑う。
「ほう、なんとも奇妙な者よ、剣鬼の容の伽藍堂とは」
「某、此度はランサー殿に助太刀をうけ……」
「よいよい。まずはそこの戦餓鬼に付き合ってやれい。剣呑な気を放ちおってからに」
「先に唾つけたのは俺なんだから、譲んねえぞ」
「安心せいランサー。儂は見物しながら誘われて来る者あれば討つとするわ。貴様らを囮にしてな」
そう言って暗がりに消えた書文を見送り敷地の真ん中にて二騎は相対した。槍兵は手に魔槍を握り、侍は二刀を抜き放つ。
「宝具の使用はなしだが殺す気で来な。じゃねえとつまらねえ」
「それは、しかし……」
「なんだ?カルデアの英霊ってのはお飯事で満足しちまう腑抜けか?」
この言葉に伊織の目の色が変わる。己だけならまだしも共に戦う仲間たちの姿に刀を握る力が強まる。
「そうだ、それでいい!それと俺の真名は知ってるんだろう?もう秘する意味もないなら――」
ランサーが息を深く吸い、夜闇を大喝にて震わす。
「遠からん者は音に聞け!近くば寄りて見よ!我が名はクーフーリン!!父に“
その名乗りに伊織は始め目を開き、笑んでから返す。
「我が名は宮本伊織!開祖、新免武蔵藤原玄信が二天一流にてお相手仕る」
『いざ、尋常に勝負!!』
両者同時の踏み込みに後塵が場を煙らせた。
火花が散る。先手はランサーの迅雷の突き、それを刀にて受け流す伊織。そのまま刀剣の間合いに進まんとするも、薙ぎ払われた豪槍に大きく身を躱す。
態勢をやや崩すその姿に、引き戻された槍の無数の突きが襲う。一振りでありながら複数に分裂したかのような槍衾は、常人なら獣に食い荒らされたような姿となるだろう。
「っ!」
鋭く息を吸い止め、心に描くは火の型。無数の突きに合わせて己もまた、双刀による連ねた突きにて相殺。闇に閃く火花に、打ち上げ花火の花雷が咲く。
締めの突きにて槍を弾き火砕流のような地走り、切り上げがランサーに迫る。持ち前の敏捷にて躱すが、それを見抜いたかのように二重三重に襲い掛かった。
「いいねぇ!」
身体を回転させ遠心力と魔力を乗せた振りにて打消し、返礼とばかりに重い突きが放たれる。それを刀にて受け止めた結果、両者の鍔迫り合いへと移行した。
近く寄せたランサーの顔は楽しくて楽しくて堪らぬと言わんばかりで、そのまま伊織に話しかける。
「へへっ、いい顔で笑うじゃねえか!」
「……っなんだと?」
「手前の口元さ。爺さんも言ってたが剣鬼の容ってのは、そのっ通りっ、だなぁ!」
とっさに意識が逸れた瞬間、ランサーの膂力が伊織を破る。またも態勢が崩れた伊織の鳩尾にランサーの蹴撃が刺さる。
「ゴハっ!?」
「チンタラしてりゃあミンチだぜぇ!そらそらぁ!」
伊織が吹き飛んで生まれた槍の間合いにてランサーは更に連撃を重ねる。今度は先ほどの連続突きの中に打ちも混ぜたもの。突きを破らんとすれば横合いから薙ぎ払いを見舞われよう。
この状況に対して伊織は左手を掲げ魔力を込める。風塊が三つ打ち出されランサーの進撃を塞ぐ。
しゃらくさいと言わんばかりに槍にて打ち払われ、しかし今度はまき散らされた炎の壁、更なる先には抜刀術の構えの伊織の姿があった。
「えいやっ!」
炎の壁ごと断つ横一文字を、炎に巻かれながらもランサーは槍にて受け、そのまま後方に下がって威力を逃がした。両者の狭間に間合いが空く。
「いいぜぇ伊織ぃ!お前は最高だ!」
「貴殿、クーフーリン殿も結構な手前だ」
「まだまだこれから、楽しんでいきなァ!」
コノートの女王がいれば腰砕けになるような凄絶な笑みを浮かべ、ランサーは再び会心の槍を馳走せんと駆ける。
それを迎える伊織もまた同じ笑みにて、地の型にて歓待せんとしていた。
その手合わせという名の実質“殺し合い”に、立香は焦りながら傍に立つバーサーカーに問う。
「これ本当に試合なの!?本当に本当?!」
「セイバー殿の巧夫も見事!次は是非にも我が戴天流にて」
「ちょっとぉぉぉ!?話を聞いてよぉぉぉ」
掴みかかるも微動だにせず手合わせに魅入るバーサーカーに立香は泣きそうになる。いざとなったら自分の一時召還で止めないと、そう思った瞬間に背中から声を掛けられた。
「妙な気配だな。しかし安心せよ小姐」
「この声!?」
闇から進み出た姿は立香も知る李書文だった。しかし近くにいるにもかかわらずその気配は感じられず、彼のクラススキルもそうだが並外れた気配遮断のスキルもあるのだろう。
「老師」
「……バーサーカー。儂はお前の老師でもなければ内家の先達でもないのだが」
「されど偉大なる拳士にほかならず、ならばそこに尊意を抱くのは間違いでしょうか?いや、間違いではありません」
抱拳にて礼をとるバーサーカーの姿にやれやれと書文は首を振る。その様子を見ながら、立香は彼からすれば初対面だったと思い直す。
「老師、こちらは藤丸立香。カルデアという外部機関より参ったマスターです」
「ほぉ。今になって初めてのマスターが現れるとは、なにか状況が動く予兆かのう」
聞き捨てならない言葉に立香が目を見開く。
「えっあの、初めてのマスターって……?」
「なんだ、聞いておらんのか?この上海にてマスターをもつサーヴァントはおらん。皆はぐれよ」
「えぇっ!?そんなどうやって召喚されて、身を留めて……それ以前に魔力供給は」
「上海の地は掃いて捨てるほどに霊脈が潤沢だ」
大陸において古くより強い龍脈の力を有する都市と言えば西安・洛陽・香港が有名である。しかし上海の地脈とて勝るに劣らず、霊峰黄山より噴き出す力は霊脈となって活龍を形どり、長江流域にて溜まる。
その豊富に過ぎる魔力にて、はぐれであっても顕界出来ているらしい。しかしそのような好立地であれば既存の魔術協会、土着の勢力によって管理されているのだろうが、現状でそのような勢力とは邂逅していないので置いておくことにする。
「無論マスターがおればそれに越したことはない。しかし宝具を乱発するようなことをせねば、我が身で戦うには事足りておる」
「いや、それでも納得できない点があるんですけど……」
「そして老師、あちらにてランサー殿と手合わせしているのが立香殿のサーヴァントたるセイバーです」
「すでに顔は合わせた。実に哀れな者よ」
そう言って書文は嗤う。その剣呑な言葉に立香が眉を潜ませる。
「哀れ……?」
「裡の殺劫がそっくりそのままくりぬかれた空っぽ、まるで去勢された虎狼よ。本来ならば思うがままに果てるか長生の先に璧と為るかするものが、己以外の意思でああなったのなら哀れと言わず何と言おう」
「あの、どういう意味で――」
「両者、それまで!」
真意を問おうとした立香だが、バーサーカーの大声で引っ込めてしまう。
その視線の先を見やれば交差した双刀で首を刎ねられんとするランサーと、霊核の手前まで槍が迫った伊織の姿。すなわち両者相打ちの瞬間で静止した光景だった。
「セ、セイバー!?」
目を白黒させ立香が駆けていきその後にバーサーカーも続く。伊織とランサーは息せき切ってこちらに寄ってくる立香の姿に、そろりと得物を退かせて息を吐く。
「っくあっはっはっは!いやマジで大した奴だ伊織!やっぱ真剣勝負はいいなあ!」
「まったく何度肝を冷やされたか。しかしその意見には同意しよう、ランサー」
「なんだよ、真名で呼んでくれていいんだぜ?」
「こちらのほうがしっくり来てな」
そういって笑い合う二人に立香は呆気に取られる。
「え、ちょっと二人とも。今の今までその、殺し合ってて」
「おいおい嬢ちゃん、ただの手合わせだったろうが?こんな真剣勝負を楽しめるなんざ、やっぱここに召喚されて正解だったな!ぃよし、戦った後はやっぱ酒だ、宴だなおい!」
「えぇ……?」
そこにバーサーカーが待ったをかける。彼も自分と同じものを感じてくれたのか、立夏はそう期待した。
「待ってくれランサー殿。あなたは満足だろうが、あのようなもの見せられては俺も辛抱できん。セイバー殿、是非俺とも一手お願いしたい」
こいつもか……。心の中で愚痴りたくなった立香は、これ以上の真剣勝負はセイバーへの魔力供給でNGと突っぱねた。なんのことはない、あのような一手間違えれば脱落するような斬り合いは現状で看過できないし、何より心臓に悪かったからだ。