レイ・グレック サーガ   作:ゼル・ユピート

1 / 22
レオマスター編
第1話 レオマスターへの道


 

━━━岩壁の連なる訓練場で砲撃音が轟く。

 

「レイ!左だ!」

 

 耳元の通信に、反射的に顔と鋭い緋眼を向け、操縦桿を左へと振り切る。岩とモニターの死角から、真紅の二足歩行型ゾイドが姿を現した。それは人の気配を感じさせない、自動操縦された無人ターゲットだ。

 

「遅い!」

 

 こちらの機体は宙に浮き、まだ不安定な姿勢で射撃は困難だ。だがレイは確信していた。愛機シールドライガーとの間にある自分たちの絆が、不可能を可能にすることを。

 

「貰った!」

 

 おもいっきりトリガーを引くと、背中の2連装ビームキャノンが火を吹いた。ビーム攻撃を受けた目標は糸の切れた人形のように崩れ落ち、そして動かなくなった。

 

《全ターゲット沈黙。訓練終了です、ご苦労さまでした。記録は司令本部にてお伝えします。格納庫へ帰投してください。》

 

 司令塔からの女性オペレーターの優しい声が、レイの緊張を解きほぐしていく。

 

「やったなレイ! これでまた記録更新か!?」

 

「ふぅ……」

 

 汗をかいたヘルメットを脱ぎ、安堵のため息をついた。

 彼の名はレイ・グレック。ヘリック共和国高速戦闘部隊に所属する陸軍少尉だ。現在はライオン型大型ゾイド、シールドライガーのテストパイロットを務める赤い目を持つ黒髪の青年だ。

 

「ま、俺のお陰でもあるがな。今日は一杯奢れよ。」

 

 そう笑いながらレイに通信をいれる青年は、同じく陸軍少尉のウィナー・キッドである。

 熱血を体現したかのような赤色の短髪と、透き通った青い目をもつ彼は、レイとは入隊も士官学校も所属部隊も同じという、いわば腐れ縁のような関係だった。 

 

「ああ、わかったよ。だが、またいつもの店でシュガービールを飲む気か?」

 

「当たり前じゃねぇか。レイ、まさか未だにシュガービールを飲んだことねぇとか言うんじゃねぇだろうな?」

 

「あんなもん飲みもんじゃねぇよ」

 

「なんとでも言え」

 

 軽口を叩きながら、二人は格納庫へとシールドライガーを向かわせた。

 すると突如ウィナーが言い出した。

 

「おい、あれやろうぜ」

 

 ウィナーの、これから悪事を働く子供のようなニヤリとした顔がモニターに映る。

 

「久々にやるか、あれを」

 

 レイも今日は気分がよく調子が良かったのか、その悪ノリに乗った。

 

「ブースト全開!」

 

 2機の大型戦闘ゾイドが、地面を蹴って加速する。2人の背中はシートに叩きつけられ、一気に渓谷を抜け、格納庫へと向かう。 

 

「おい、しくじるなよ」

 

「お前もな」

 

 2人は更にトリガーを引き、スピードメーターが更に上昇していく。肺が押しつぶされそうな凄まじいG。その速度はシールドライガーの最高速度250km/hに達する勢いだ。

 そして二人がやろうとしているのは、まっすぐ格納庫まで全速力で向かい、ギリギリのところでUターンして格納庫に入るという曲芸だ。

 

《速度が速すぎます! 何を考えているのですか? まさか、またあれをやるのですか!? 危険です! やめてください!》

 

 女性オペレーターの悲鳴のような叫びが聞こえるが、もう始まってしまった後では2人を止めることはできない。

 

「すま……い…でん…が…」

 

 ウィナーはわざと電波が悪いフリをした。相変わらず悪知恵の働くヤツだ。女性オペレーターが叫ぶのを無視して更に速度をあげる。周りの石を吹き飛ばし、土煙を出しながら一直線に格納庫へ進んだ。

 距離残り約1000m。

 

「そろそろだ。」

 

 距離500…400…300

 

「ここだ!」

 

 2機のライガーは一気にブレーキをかけると、赤い地面を削り、土煙を巻き上げながらドリフトする。そして、お尻から格納庫に侵入し、勢いよく停止した。

 

「決まったぜ!」

 

「今日は絶好調だ!」

 

 周りの整備士たちは、まるで子供のように興奮し拍手している。2機のシールドライガーも嬉しかったのか、その拍手に応えるように、雷鳴のように大きく咆哮した。

 

 ここは西方大陸西部に位置するニューヘリックシティ近郊の高速戦闘部隊 実験施設。

 シールドライガーは元々数十年前に開発された古い機体であり、旧大戦で【蒼い稲妻】と呼ばれ活躍していた。旧大戦から数十年。一見平和に見える世の中だったが、遠く離れた北の大陸にあるガイロス帝国は軍備を固め続けていた。

 共和国も帝国軍に遅れながらも、いつ来るか分からない侵攻に備え、様々な機体のアップグレードを図り、シールドライガーは中でも優先的に調整されていた。

 そんな中、2人がテストパイロットに選ばれたのは理由があった。

 レイにはライオン型ゾイドの意思を感じ取る事が出来る。そのお陰でゾイドとレイの関係がスムーズにリンクし、不安定な姿勢でも射撃ができたのだ。

 だがウィナーは少し違う。ゾイドの気持ちは分からないものの、先を読む力と高速戦闘中における抜群の操縦・格闘戦闘センスが他のパイロットより抜きん出ていた。

 つまり、2人は高速戦闘のライオン型ゾイドに適任だった。

 

「それで、結果は?」

 

 格納庫に戻った2人に、大きな眼鏡越しからでもわかる好奇心の目で話しかけてきたのは、実験施設整備兵のバディター・ロウエン1等兵だ。彼も士官学校では同期だったが、「二等兵を経験したい」という理由だけで卒業間近だった士官学校を飛び出し、ここにいる変わり者である。そしてウィナーとバディターは幼馴染でもあった。

 

「レイが敵を見落としてやがったぜ」

 

 ウィナーがまた茶化すようにライガーのタラップを降りながらニヤけて言った。

 

「レーダーに映らず、モニターの死角になっていたからな」

 

 レイが少し不機嫌そうに反応した。

 

「だがバディター、今回は脚にあるシリンダーの油圧具合を調整してくれたお陰で無茶な姿勢でも持ちこたえれた。ライガーもこの調整の方が良さそうだ」

 

 そう言うとバディターは嬉しそうな表情で話し始めた。

 

「そうか、やっぱりね! 今までの設計図通りでは油圧の値が低すぎるうえに汎用的な運用には難しいと思ってたんだよ! なんたって数十年前のお粗末な資料だしね。恐らく各パーツへの負担の考慮でこの値に安全な数値としてなったんだと思うけど、ライガーの運動性能を最大限に引き出すには油圧を高くして、いざという時はオーバークロック機能が作用して各パーツの補強油圧も作動出来るようにしたんだ! だけど次の問題はモニター…死角を改善するには恐らく…」

 

 そんな終わらない早口を遮るかのようにウィナーが間に入る。

 

「おいおい、そこら辺にしとけ。お前さんの担当分野はあくまで脚周りだろ? 別部署に顔を突っ込むとまた怒鳴られるぞ」

 

 幼馴染のウィナーには分かっていた。バディターは頭はキレるが、こういった人間関係には無頓着だ。

 士官学校時代にも教材や教官の間違いを指摘し、よく皆を困らせていた。ゾイドの整備となれば強い責任と高いプライド持つ者も多い。ましてやそんな中で下っ端の、それに1等兵から指摘を受けて嫌な思いをしない訳がない。

 

「わかってるよウィナー。相手の下手に出てあげるんでしょ?」

 

「まったくこいつって奴は……行くぞレイ」

 

 ウィナーは呆れた表情でレイと共に高速戦闘隊本部にある実験司令室へと向かった。

 扉の向こうでは電話をする声が聞こえる。

 厳かな雰囲気に身を引き締め喉を整える2人。

 受話器が本体に戻る音が聞こえると、扉をノックした。

 

「レイ・グレック少尉、他1名入ります!」

 

「よし入れ」

 

 髭を蓄えた兵士と敬礼を交わす。

 

「第27回模擬戦闘訓練の成果報告の提出に参りました」

 

「2人とも休んでいいぞ……今回も順調だったようだな。 グレック少尉、キッド少尉」

 

 低い落ち着いた声を部屋に響かす彼は、アーサー・ボーグマン少佐である。

 彼もまたシールドライガーを愛機とし、ライガー乗りとして一流を極めた男であった。彼の様々な功績と年齢を考えれば本来なら将軍になっていてもおかしくはない。だが未だに少佐……。昇進の話がある度に問題を起こし、昇進せずにいる。

━━死ぬまで俺は、ゾイド乗りさ

 それが彼の口癖だった。そんな彼を、皆は愛を込めて「クレイジー・アーサー」と呼んでいた。そしていまは、そのライガー乗りとしての知見を活かし、シールドライガーの強化に当たっている。

 

「だが、お前ら2人……また格納庫に入る時にあのドリフトターンをやったそうだな……何故だ?」

 

 呆れの中に、明るい声のトーン。アーサーは立場上注意はするものの、内心では高揚し興味が湧いていた。

 そしてレイとアーサーは師弟関係のような存在であった。レイのゾイド乗りとしての資質を見抜き、軍に入隊させたのも彼である。

 

「はい。我々はシールドライガーの限界性能を高める実験の一環として、その性能が十分であるか確かめるために、止むなく行いました」

 

 会話の途中に電話の呼び出し音が鳴り響いた。それをアーサーは慣れた手つきで切った。

 

「何が止むなくだ。お前さん達が楽しそうにやってるのは通信記録でバレてるんだぞ。それに毎度の事だが、さっきから司令本部予算担当者やらから沢山苦情がきている。大事な機体や施設が壊れたらどうするんだとな。お前らが勝手な度に、俺は周りに嘘や言い訳だ。少しは自重しろ。」

 

「肝に銘じておきます、少佐」

「よく理解しました」

 

 真っ直ぐと前をみて生き生きと返事する2人を見て、少し笑みを浮かべ、再び険しい表情に戻る。

 

「そしてお前たちに伝え難い報せがある」

 

「……?」

 

 2人は不安で言葉が出なかった。これまでに勝手に危ない事をし過ぎたのかもしれない。思い当たる節が沢山ある。

 アーサーは重い口を開く。

 

「現在ガイロス帝国は着々と軍備を固めていると聞く。この緊張は増していくばかりだ。そう、共和国はその緊張感からある決断を我々に下した」

 

「……」

 

 レイとウィナーは前をみたまま黙って聞く。

 

「それは、ライガー乗りのエースパイロットを選び出し、残った7人を新たな称号として迎え入れる過酷な訓練プログラムを作成した。 その栄えある称号の名は…」

 

 アーサーは言葉を区切り、二人の顔をまっすぐに見つめた。

 

「【レオマスター】 暇を持て余しているお前達は、来週、中央大陸へ渡り、この映えある地獄の訓練を受けてもらう。 いいか? 俺に散々迷惑をかけた罰だ。 断ることは許されんぞ。」

 

レイとウィナーは予想外の言葉に、これまでの不安は吹き飛んだ。

 

「はい少佐!」

 

「喜んで!」

 

 こうして、最強のライオン型ゾイドのエキスパート【レオマスター】となるべく訓練が開始することとなった。

〜続く〜




レオマスターという設定が映画トップガンと酷似していたため、レオマスター編は全体的にトップガン両作品をもとに執筆しました。
レイもウィナーもバディターも、戦争をまだ経験していないこと、歳がまだ青年だということを加味して勢いのある1話にしてみました。
初めての執筆ということもあり読みにくい箇所などあるかと思いますが、最後までやりきりたいと思います。
応援宜しくお願いしますm(_ _)m
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。