レイ・グレック サーガ   作:ゼル・ユピート

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第10話 影との遭遇

 寒空に2つの月が輝く。それは2つのゾイド乗りの魂のようだった。

 

「まさか、こいつは……ゴジュラスか!?」

 

 レイが驚くのは無理もなかった。ゴジュラスは旧大戦の初期に開発されたもので、殆ど幻のようなゾイドだった。現在は復元することに、かなりの労力を費やしているという噂は耳にしていた。しかし、この演習に参加しているとは、レイも予想は出来なかった。

 

「だが相手にとっては不足はない! 丁度物足りないと思っていたところだったからな!」

 

 ゴジュラスの周りには無数のスイーパーゾイドが取り囲っている。すると、ゴジュラスのパイロットから無線がはいる。

 

「こちらゴジュラスのパイロット。アグレッサー部隊所属のアルバーン・ニンバス大尉だ。誇り高きゾイド乗りとして、お相手願うぞ!」

 

 その声は、アーサーのような低い声であり、更に高圧的だった。

 

「そうこなくてはな!」

 

 レイは高揚していた。ゴジュラスと戦える機会はそうそうない。ましてや演習の仮想敵として極めたアグレッサー部隊だ。

 シールドライガーとゴジュラスの戦闘が始まる。それを邪魔するかのように、周りの無人ゾイド達が容赦なくシールドに攻撃を仕掛けてくる。

 

「コマンドウルフ隊、援護を頼む! 俺はゴジュラスをやる」

 

「α了解」「β了解」「Σ了解」

 

 コマンドウルフたちは淡々とレイの指示に従い、交戦していった。レイは目の前からやってくるスイーパーのガイサックを口に咥えて、ゴジュラスに放り投げつける。

 

「ふん!」

 

 ゴジュラスは咄嗟に尻尾で薙ぎ払う。無人ガイサックは空中で爆発。周囲は煙に包まれた。レイはその隙をみて発電所を迂回。ゴジュラスの背後へと回る。

 

━━貰った!

 

 ゴジュラスの背後からレイのシールドが襲いかかる。

 

「は!」

 

 しかし、ゴジュラスの尻尾の先端から、レイの動きがお見通しだったようにビームがくる。

 

「おい、後ろにも目がついてるのか?」

 

 明らかに戦い慣れている動きを感じるレイ。

 

「そんな子供騙しで勝てると思うなよ」

 

 余裕の表情で応えるパイロット。レイの表情にも笑みが溢れる。レイは思い通りにいかない煩わしさより、ゾイド乗りとしてアーサーのような本当のゾイド乗りと戦える事に喜びを感じていた。

 

 

━━

 

 一方その頃、正門周辺に出た敵の迎撃ゾイドを後ろから奇襲をかけ、正門を開門するジャッジ。ウルフに周囲を警戒させ、主力部隊とレイを待っていた。しかし、彼はある違和感を感じていた。

  

━━あまりにも手応えがねえ。

 

 そう、最終試験にしてはあまりに簡単だったのだ。勿論敵の数は多く、ジャッジの分隊も無傷ではなかったものの、アーサー達レオマスターとの1対1での戦闘の方がよほど大変だった。ジャッジが違和感を感じながらも待機していると、主力部隊が丁度到着する。だが、奇妙な事に気付く。

 

━━主力部隊が少ない?……

 

 いや、少ないどころの話ではない。本来であれば主力部隊はゴドスやコマンドウルフを30機程従える予定だ。しかし、いまはシールド2機と数機のゴドスしかいない。そしてそれらのゾイドは、酷く損傷している。あるゾイドは装甲がもげ、脚がないゾイドもあり、無事な機体が1つもなかった。

 

「いったいどうした! 何があった!」

 

 主力ゾイドの様子を見渡しながらジャッジが質問をする。

 

「帝国…ゾイドよ…」

 

 シシリーが息を切らしながら応える。彼女のシールドも、全身に多くの弾痕があり、左肩には大きな爪で切り裂かれたような傷が残っている。

 

「帝国!? 帝国ゾイドを使用するなんて聞いてないぞ」

 

 思わぬ言葉に動揺するジャッジ。

 

「ああ、あれは間違いない。サーベルタイガーだ。だが並のゾイド乗りじゃない。残りの主力部隊は殆どそいつにやられた。」

 

「あのレイが乗ってたオンボロにか? だとしても、エミー少佐もいただろ? 彼女は?」

 

「いえ、あれじゃないわ。色や形が違う。それに、エミー少佐もやられたわ、そいつに」

 

 シシリーが悔しそうに呟く。

 

「奇襲だったとはいえ、とんだ化け物だったぜ。あれは……」

 

━━いつもどんな時でも明るいあのミズモが、恐怖心を抱いている? 

 

 そして格闘戦では誰にも引けを取らないシシリーでさえ、怯えていた。

 

「まさか、あのエミー少佐が? 帝国の大部隊か?」

 

 驚きを隠せないジャッジ。

 

「いや、サーベルタイガーはたったの1機だ。他はヘルキャットやマーダといった旧型の小型ゾイド達だ」

 

━━たった1機のサーベルタイガーに?……それ程のゾイド乗り。ましてやシールドライガーはサーベルタイガーに対抗して出来た機体だ。それにレオマスターの一人がやられたっていうのか……まさか後方支援部隊も……

 

 その場にいた全員が硬直した。突如として現れた帝国ゾイドの出現に、事態を把握するのにいっぱいだ。

 

「本部に報告はしたのか?」

 

「いえ、ジャミングされて報告できていないわ。恐らく敵のマーダのせいね」

 

 マーダは旧大戦初期の小型ゾイドだ。開発されたのも約40年前。いわば骨董品のようなゾイド。だが高速戦闘のシールドを遥かに凌駕する時速500kmという速度とジャミングを持ち合わせ、電撃戦闘等、運用次第では手強い相手であり、それが今でも運用されている理由でもあった。

 

「情報妨害に奇襲攻撃。敵はこの演習の配置や動きを事前に知っているように見える」

 

 ミズモは持ち前の戦術スキルで相手を分析する。

 

「兎に角、いまはレイと合流して態勢を整えよう。そこから敵部隊を迎え撃つ」

 

「了解」「了解」

 

「まったく、面白くもないぜ」

 

 ジャッジはつい先程感じていた退屈を懐かしんだ。

 

━━

 

 その頃、レイは未だゴジュラスに乗るアルバーンと名乗る男と戦闘を繰り広げ、かなりの苦戦を強いられていた。

 

「ムッ」

 

 ゴジュラスの尻尾が振り被る。咄嗟に飛んで避けるレイ。近くにいたゴドスとカノントータス数機が非情にも吹き飛び、格納庫へ激突。爆発した。

 

━━おい、容赦がなさすぎやしないか?

 

 レイは確実に男の殺気を感じた。続けざまにゴジュラスの追撃が始まり、ビーム砲やマシンガンの嵐がシールドの後ろから狙ってくる。

 

━━避けるぞライガー!

 

 懸命に追撃の動きを読む。だがその追撃を避けきれず、幾つかの攻撃が当たる。小型火器のはずが、かなりのダメージを受け、装甲が弾け飛ぶ。

 

「くっ!」

 

 ライガーの痛みを感じる。

 

「小型火器なのに……ゴジュラスとはここまでの強さなのか?」

 

 それもそのはずだった。旧大戦のゴジュラスから銃火器類は大幅に改良されたうえ、ゴジュラスのコアが生み出す出力も格段にはね上がっていた。そのエネルギーから打ち出されるビーム兵器は、小型ゾイドが搭載する同じ火器でも、エネルギー量がケタ違いなのだ。それに比べ、レイの与えられているシールライガーは旧機体に近い、未だ発展途上だ。つまりそれは、機体性能では比べものにならない程の性能差がある事を意味していた。

 だが、レイは既に気づいていた。ゾイドは技術や性能の差で決まるものではない。《心》で動かすのだということを。

 

━━心を解放しろ……

 

 レイは静かにシールドの鼓動を感じる。アーサーと戦った時のように…

 

「まだまだ!」

 

 ゴジュラスの激しい猛攻がつづく。その動きは、巨体からは想像もできない高速戦闘ゾイドに引けをとらない程の素早い動きだ。つまり、相手も性能以上にゴジュラスを扱うゾイド乗り。そして最も乗り手を選ぶとされているゴジュラスを乗りこなせる程の実力者。彼もまた、只者のゾイド乗りでは無いことを意味した。

 

「くだけ散れ!」

 

 ゴジュラスの腹部にある4門のヘヴィマシンガンが激しく重低音を鳴らし、火を噴く。レイは流れる様な動きで捌くも、僅かに掠る。

 

━━ガガガガン!

 

 減装弾とは思えない衝撃。直撃すれば、大型ゾイドと言えど、一溜りもない。ゴジュラスはさらにビームの嵐を次々と撃ち出す。激しい弾幕を避けきれず、シールドのダメージが蓄積していく。だが、レイもただやられている訳にはいかなかった。

 

「これならどうだ!」

 

 レイは逃げながら尻尾のビームキャノンをゴジュラスの巨体に命中させる。直撃。キャノンの直撃による黒煙が上がり、一瞬ゴジュラスの視界を遮った。

 

「ムッ!」

 

 一瞬たじろぐゴジュラス。その隙をみて懐に飛び込むレイ。スナップスイッチを一気に上げ、瞬時にEシールドを展開。

 

「くらえ!」

 

 シールドアタックをお見舞いした。直撃をくらい、よろけるゴジュラス。

 

「なんだと…なかなかやりおるわ」

 

 よろけた隙をみて、追撃をしようとしたその時、別の通信が入る。

 

「レ……え……か……」

 

 動きを止め、無線に耳を傾けた。

 

「なんだ?」

 

 無線から誰かの声が途切れて聴こえる

 

「レイ? 聞こえ…か? へ…をしろ!」

 

 ジャッジからの通信だった。

 

「ジャッジ? どうしてここに? 正門はどうした!」

 

 後ろから走ってきたジャッジのシールドに振り向くと、彼は焦っているようだった。

 

「やっと合流したぜ。どうやら帝国ゾイドが現れたらしい」

 

「何? どういうことだ。帝国だと?」

 

 レイも帝国という言葉に驚いた。だが幸運にもゴジュラスの乗り手。それも凄腕のゾイド乗りがここにいた。

 

「ならこちらのゴジュラスのパイロット。アルバーン大尉と…」

 

 ゴジュラスの方に目をやるレイ。ところが、ゴジュラスの姿は気がつくと忽然と姿を消していた。辺りを見回すも、その姿はどこにもなかった。

 

「ゴジュラス? 何寝ぼけた事言ってんだ。それになんだ、やけにボロボロじゃねぇか。飲酒運転でもしたのか?」

 

 レイの機体はジャッジの機体よりも明らかにダメージが深く、あちこちの装甲が焼け焦げ、パイプから煙を吹いていた。

 

「あ……いや……」

 

 言葉の詰まるレイを不思議に思う。

 

「まあ冗談はさておき、さっさと正門広場に向かうぞ! あいつらが待ってる」

 

「ああ、行こう」

 

 レイは辺りを見回した時に、もう一つの事に気付いた。僚機のコマンドウルフもまた、姿を消していた。

 

━━ゴジュラスとの戦闘に集中しすぎてしまったか……

 

「コマンドウルフ隊、まだ動けていたら合流してくれ。正門へ向かうぞ」

 

(……)

 

 沈黙が流れる。

 

「やはり全滅したか……」

 

 レイは自分に集中しすぎたと反省するように呟いた。

 正門の広場に着くと、帝国軍と訓練生たちが既に対峙していた。

 

「レイ、ジャッジ。すまない、完全に囲まれてしまった」

 

 ミズモの向く先には小型帝国軍ゾイドがずらりと並んで、基地を取り掛かっている。だが2人にはサーベルタイガーを発見できない。

 

「例のサーベルタイガーはどこだ」

 

 周りを見渡して探すジャッジ。

 

「あの監視塔の横よ」

 

 シシリーのシールドが睨む先を、レイは目を細くして見る。そこには暗闇に紛れる黒いサーベルタイガーがいた。

 

「あれか」

 

 だがただのサーベルタイガーではない。よく見ると、背中に強化パーツのようなものが施されている。全員が揃うのを待ちわびていたかのように、無線が入る。

 

「準備は良いか? お前達」

 

 その声は低く、聞き覚えのある声だった。

 

〜続く〜

 




ゾイドといえばゴジュラス。相手が雑魚ばかりだと面白くないので、ここでいったんボスを登場させました。伏線だらけの話ですが、伝わるかなw
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