寒い夜空には星々を彩る。その中で2つの月の光が闇を煌々と照らす。その下には漆黒を纏ったゾイドを中心とした帝国軍と、壊滅寸前の訓練生達の部隊が集結していた。
「準備はいいか? お前達」
聞き覚えのある低い声。
「まさか……アーサー!?」
そう、サーベルタイガーから聞こえてきた声は紛れもない。アーサー本人であった。
「そうだ」
動揺を隠せないレイと訓練生達。
━━帝国軍を率いて仲間を葬ったというのか? でもなぜ?
疑問ばかりが増す。これまでレイは軍に引き入れてもらい、ここまで育ててくれた親のような存在だ。他の訓練生達も、理解が追いつかない。
「どういう事だアーサー!」
レイは動揺のあまり、階級をつけるのを忘れていた。そう、それ程までに余裕がなかった。すると、アーサーが口を開く。
「レオマスターという共和国の象徴であり、希望……。その希望を潰し、世界最強のゾイド乗りは、このゼネバスにいると、世界に知らしめるためだ。今回の大規模演習はお前たちを互いに消耗させ、全滅させる事にある。」
アーサーの思わぬ言葉に、怒りが込み上げてくる。
「ゼネバス? ゼネバスは滅びた! 復興などあり得ない! それにあんたはこの忠誠を誓ったはずだ。この共和国に!」
レイは怒りに震える。
「ふ、お前達には理解出来んよ。俺が長年生きていて気がついたことは、共和国が腐ってるって事だ。それが許せない。そして、ゼネバス帝国復活のために剣を掲げる。」
「そんな事の為に、俺や仲間たち、そして国を裏切るっていうのか? 答えろアーサー!」
レイの怒りは頂点に達していた。そして他の訓練生もまた同じだった。彼らと反する様に、アーサーは変わりない口調で話す。
「お前さんが何を言おうと勝手だ。だが俺の意思は変わらない。いや、今日こその悲願が叶う時だ。長きに渡り苦しめられ、虐げられた者の憎しみを受けろ!」
すると、何処から現れたのか、無数の帝国ゾイド
が集まってきた。
「勝手を抜かすな!」
レイの強い怒りは、シールドにも伝わった。シールドとレイが咆哮する。
「HQ、こちらミズモ軍曹。緊急事態発生! ボーグマン少佐がゼネバスに寝返った!繰り返す、アーサーがゼネバスに寝返った! 訓練を中止し、応援を要請する! ハルフォード中佐! 聞こえますか!?」
懸命に助けを求めるも、無情にもノイズだけが返ってくる。
「くそ、つながらない」
苛立ちを隠せないミズモ。
「私たちで倒すしかないみたいね」
いつもの落ち着いた口調で話すシシリー。だが、決意を固めたその声は、真が通っていた。
「ならば、俺たちが必ず食い止めてみせる!」
レイは赤い目を鋭くアーサーへ向ける。
「かかってこい、ヒヨッコども! ゼネバスの旗を、再び中央大陸へ!」
恩師の裏切りに、レイの胸は怒りで燃え上がる。ゾイド同士の咆哮と砲撃の嵐。シールド達も訓練生の思いに応えている。
「先に小型ゾイドを倒すぞ!」
訓練生達は疑問を抱くより、目の前に現れる帝国ゾイド達を次々と葬る。だが、戦力差は圧倒的だった。元々傷ついていた訓練生達の部隊は、どんどんと数を減らす。
「これじゃ……持たない……」
シシリーが弱気に呟く。その時、新たな無線が入った
「おい、抜け駆けすんじゃねえよ!」
基地の塀に立つそのゾイド。シールドライガーだ。そしてその声は…
「ウィナー! 無事だったのか!?」
「ああ、ちょっと用を足して離れていたら、気がついたらこんな事になっていた。だが安心しろ、今から合流するぜ!」
「ウィナーか。ならこの俺がまず相手になってやる」
強化型サーベルタイガー。それはかつてシールド部隊を幾度となく壊滅に追いやった黒い稲妻、グレートサーベルだった。グレートサーベルは、背中に8連ミサイルポッドを搭載し、ウィングスラスターにより機動力をも確保した、最強の高速戦闘ゾイドの座に君臨する。
アーサーはミサイルを訓練生めがけて発射。助けにこれないよう牽制し、ウィナーを迎撃しに向かった。ウィナーもそれに応えるかのようにグレートサーベルへと向かっていく。
「おいウィナー。お前のそういうところが未熟なところだ」
アーサーは真っ直ぐウィナーへと向かう。
「ウィナー! アーサー1人に立ち向かうのは無茶だ!」
「くらえ!」
ウィナーが正面からくるアーサーに向けて2連装ビームをしっかり照準を合わせて放つ。だがアーサーはシールドとウィナーのことを熟知している。ウィナーの射撃の感覚を完全に読み切り、全て躱していく。
「くっ……これならどうだ!」
スナップスイッチを上げ、操縦桿の安全装置を開く。鬣が眩く光り、Eシールドが展開する。同時に脇のミサイルポッドを全弾アーサーに向けて発射。ウィナーは左右からの逃げ道を無くし、正面からくるアーサーにシールドアタックを決めるつもりだ。ウィナーはトリガーを思いっきり引き、急速にアーサーへと向かった。
━━これなら逃げ道はねぇ
ウィナーは確信していた。倒す事ができないとしても、決定打は与えれると。しかし、アーサーはそれ程甘いものではなかった。彼はたじろぐどころか、更に加速。そして地面を高く蹴った。ウィナーのシールドの上を通過すると、アーサーはサーベルの爪をシールドの背中に引っ掛け回転。その遠心力で背中から引っ張られるウィナーのシールドはその場で横転してしまった。アーサーはシールドの上から腹部のビームと3連ショックカノンを無情にも叩き込んだ。
「ぐあっ!」
激しく揺れるウィナーのコックピット。何もできないウィナーの心はそれ以上に激しく怒っていた。だがその怒りも虚しく、彼のシールドは動かなくなった。
「いつも熱くなりすぎだ。次は冷静にやれ」
「……?」
「拘束しろ!」
アーサーはその言葉を残すと、主力部隊の元へと去っていった。そこにマーダが3機現れ、背中からネットランチャーが放たれ、シールドごと捕まってしまった。
━━
一方で、レイたちは無数に湧いてくる無人ゾイドに手を焼いていた。一つ一つの戦力が小さくとも、攻撃が当るとダメージが残る。数に圧倒され、味方主力ゾイドも全て倒れていた。
「こいつら…どれだけ湧いてくるんだ……」
ゾイドには自己修復能力がある。ある程度の傷であれば回復できる。だが、余りの数の攻撃を、直ぐに回復させることは出来ないでいた。確実に訓練生達の体力、集中力とをも削っていく。レイは消耗していく中で、懸命に思考を凝らす。
「おいみんな、提案がある」
レイが皆に呼びかける。
「どうしたレイ?」
ジャッジが反応する。
「このままじゃジリ貧だ。直接グレートサーベルを倒そう!」
レイには分かっていた。このままでは全員がエネルギー切れを起こし、サーベルに蹂躙されるのが落ちだ。
「ああ。だが策はあるのか?」
ミズモがレイの意見に興味を示す。
「ない」
「ない?」
「だがこのままじゃエネルギー切れで倒れてしまう。今ならまだEシールドを張れる。そこがアドバンテージだ。そして一矢報いる。 ゾイド乗りらしく」
「そうだな!」
見下ろすグレートサーベルへと向かっていく。
「シシリー、ミズモも援護してくれ」
「了解」
「やっとやる気になったか。だが、束になったところで俺には勝てんぞ!」
グレートサーベルがウィングを開き、無数のビームを同時に放ちながら迎撃にくる。あれ程の火器をどうやって操作しているのか想像を絶する。そう、彼は本当に真のゾイド乗りなのだ。
━━そんな彼が何故?
アーサーの動きを見れば見るほど疑問が湧いてくるレイ。
━━いや、いまはただ戦闘に集中するんだ。
ビームを避けながら全速力でアーサーへと向う。
「みんな! いくぞ!」
シシリーとミズモが後方からビームで支援する。レイとジャッジはサーベルタイガーの横に回り込み、側面から攻撃を仕掛ける。
アーサーは攻撃をしながらレイ達の攻撃を華麗に避ける。すると、レイのシールドの懐に入ると体当たりをし、そのぶつかった反発動作を利用して方向変換。更に加速してジャッジのシールドをも体当たりをして倒した。致命的では無いが、倒れる2人。そして向かったのは、射撃支援をしているシシリーとミズモへと向かった。
━━このままじゃ、みんなやられる!…
突如、レイは過去の恐怖が再び蘇る。あの守れなかった過去が。すると……
━━ドクン!
シールドの鼓動が聞こえる。それはまるで訴えかける様な音だ。
━━ドクン!
夕日が静む砂浜で楽しそうにはしゃぐウィナー達の姿が微かに見える。
━━そうだ……俺は誓った……必ず守ると
心を委ね、解放していく。あの時のシールドと一体になった感覚が戻ってくる。目を開けると、シシリーとミズモ、ジャッジがアーサーと戦っている。だが押されている。何度も倒され、立ち上がろうとしている。
「守ると……誓った!」
シールドも咆哮し、トリガーを握るとブーストが展開。一気にアーサーの下へ向かった。
「来たか!」
アーサーが反応する。口にくわえていた藻掻くシシリーのシールドを捨てると、レイの迎撃に出た。シールドとサーベルが急接近する。先に仕掛けたのはサーベルだった。ウィングを開きシールドへ襲いかかる。だがレイは全く攻撃しようとしない。
「レイ!?」
ジャッジが反応する。そう、通常であれば攻撃、或いは捌く動作に入るタイミングだ。だがレイのシールドはただ真っ直ぐに向かっていく。ジャッジの焦る思いとは裏腹に、レイは確信していた。不可能を可能にすると。
「ライガー、あれをやるぞ」
レイはブーストを加速させた。
距離500…400…
「ただ突っ込むだけか!? ならこれで終わりだ!」
サーベルのストライククローが襲いかかる。
300…次の瞬間!
「いまだ!」
レイは目一杯ブレーキを踏み、姿勢を低くさせる。一気に急速減速したシールドは、地面を削り、土煙を巻き上げながらドリフトした。
━━あれは!……
ウィナーが捕らえられたネットランチャーの隙間から、見える覚えのある光景に目を奪われる。
「何?」
サーベルのクローの下を潜り抜け、そしてサーベルの後を捕らえた。
「くらえ!」
サーベルの後ろから3連ショックカノンを叩き込む。
「ぐ!」
サーベルのウィングが砕け飛び、アーサーから聞いたことのない苦悶の声が聞こえる。だが、致命傷ではない。
「中々やるじゃないか。まさかドリフトをここで生かすとはな。だが、お前さんのシールド発生装置はもうダメだな」
アーサーが言うように、レイまた、シールド発生装置を僅かに擦り、Eシールドを使う事が出来なくなっていた。そして2度目はない。そう簡単な相手ではない。それは確実だ。だがなにか致命傷を与えることの策が、いまここにあるのか?
「レイ、私たちはまだ動ける。共に戦いましょう」
「ああ、俺達がまだな」
「終わっちゃいねえぜ」
訓練生達が立ち上がる。
「俺に名案がある。聞いてくれ」
ジャッジが提案をする。
「ミズモ、お前はあのコンテナの後ろへ回ってから通信塔の裏で待機しておけ。そこにヤツを俺たちがおびき出す。そして上が俺、正面がシシリー。右がレイ。そうすれば奴は逃げ場を失う。ウィングを失った奴にいまなら勝てる」
シシリー、レイ、ジャッジがアーサーへ戦いを挑む。ミズモは気づかれないようジャッジが指定する場所へと向かった。そしておびき出すのに成功した3人は、目標地点へと到着。予定通り囲む事が出来た。
━━いまだ!
ミズモのシールドがセイバーの喉元へ食らいつく。ジャッジに森林での模擬戦でやってのけた戦法だ。
━━いける!
誰もがそう思った。だがその時、アーサーは常識外の反応速度でその奇襲を回避した。グレートサーベルが稲妻のように動き、ミズモのシールドを前脚で払い除けると、通信塔の壁へと叩きつけた。その姿は正に伝説で聞いた黒い稲妻だった。
━━……
一瞬固まる訓練生達。その中、1つの青い影が向かっていく。シシリーだ。ボロボロのシールドで最後の力を振り絞り、最後の賭けに出ていた。皆もそれについていく。
激しい乱闘の末、それぞれの装甲はストライククローにより深く傷ついていた。他にも全身ビーム攻撃を浴び、訓練生のシールドもサーベルも、立っているのがやっとだった。訓練生で唯一まともに動けるのはレイのシールドだけだった。
━━弾薬も尽きてきた……ビームを撃つほどのエネルギーもない。エネルギー消費の激しいEシールドなど以ての外だ……ならば
「これで決着をつけよう、アーサー」
「ああ、そろそろ疲れてきたからな」
最後の力を振り絞り、シールドを前へとやる。だがエネルギーが切れそうなシールドは、高速ゾイドとは思えぬゆっくりとした動きだった。
だが、それはサーベルも同じだった。彼もまた、かなりのダメージと、極限の機動力で動き続けた結果だった。
レイは目を閉じ、シールドへと意識をやる。
━━心を解放しろ。
シールドの鼓動を感じる。すると、みるみる動きが早くなる。変わらず動きの鈍くなったサーベルの、その一瞬の隙、ゾイドコアへと繋がるわずかな装甲の継ぎ目に、渾身の一撃を加える。サーベルは避けることができず直撃。機体が吹き飛んだ。
━━よし!
だが、サーベルはまだやれると言わんばかりに立ち上がる。
━━ならば!
レイは右前脚のストライククローに全エネルギーを集中させる。すると徐々に光が帯びてくる。不思議と 心は穏やかだ。その中に静かな怒りを感じる。
「これで決着をつけてやるぞ! アーサー!」
〜続く〜
ここでアーサーを登場させるために随分と設定に悩みました。ちゃんと面白くなっていればいいのですが。。。