星々を彩る寒空。その中で一際目立つ2つの月が、徐々に沈みゆき、新たな光が昇ろうとしていた。
「これで決着をつけるぞ! アーサー!」
シールドと共に最後の一撃を加えるため、一歩踏み出し、姿勢を構える。レイの静かな怒り。そしてシールドの闘争心が溶け合っていく。赤く鋭い目をアーサーへと向ける。
━━この想い、受け取って貰うぞ!
レイは飛び出した。限界を超えた加速。テストの時とは比べものにならない。正に肺が押しつぶされそうな勢いだ。
「うおおお!」
アーサーのサーベルは反応していない。
━━いける!
その瞬間だった。
「レイ! 待ちなさい!」
突如、無線に声が入り、間合いに威嚇射撃が入る。急速にブレーキをかけ、ドリフトする。すると、2つの大きな影が間に割って入ってきた。
「レイ、そして訓練生のみんな、落ち着いてくれ。私はセレスだ」
2人の間に割って入ってきたのは、エミーとセレスのシールドだった。2人はアーサーを護るように陣形をとっている。
「セレス少佐とエミー少佐……やられたんじゃ」
戸惑うミズモ。
「聞いてくれ、これは……」
セレスが何かを言いかけようとするも、レイには2人がアーサーを庇うように見える。
「どいて下さい。」
レイは脅すかのように赤い目を光らせる。彼は許せなかったのだ。今までずっと信じていた存在に裏切られた。それも、自分だけでなく、国や周りの人たちでさえも。
「アーサーはゼネバスの人間です。ここで皆を騙し、裏切り、国家に背いた。どいて下さい! 必ずこの俺が倒す!」
「違うのよレイ。これは全部芝居。全部嘘なのよ」
エミーの言葉に困惑する一同。
「……?」
レイには何を言っているのか分からなかった。彼が呆然としていると、周りから一斉に声がする。
「芝居!?」
「そうだ、落ち着いて聞いてくれ。。今回は君たちレオマスターの資質と、共和国への忠誠心を確かめる為、アーサーにはわざと敵になってもらったのだ。君たちを騙して申し訳ない」
セレスは言いかけていた事を懸命に話した。
アーサーがコックピットハッチをあけ、サーベルの頬にあるゼネバス帝国紋章をペリッと剥がすと、白旗の如く振って見せた。その表情には白い歯をニヤリと見せている。そして大声で話す。
「つまり、今ここで立っているレイと、そこで何とか持ちこたえているジャッジ、ミズモ、シシリーも合格だ!」
レイは裏切られた怒りと安心が未だに交差し、複雑な気持ちで呆然としていた。
「そういう事だ。おめでとう諸君。お前さん達がレオマスターだ!」
アーサーが誇らしげに皆に告げた。
「俺達が……レオマスター?」
急な話に、ミズモが信じられないという表情を見せている。
「俺は全然だめだったがな。」
「ナイト!」
ナイトはセレスのシールドにある複座に乗っていた。
「本当に凄いな。俺なんか手も足も出なかったんだからな。おめでとう、みんな」
ナイトは皆を心から称えた。
「では、エミー少佐やセレス少佐まで演技をしていたのですか?」
普段感情に起伏のないシシリーでさえも、今回の事には驚きを隠せなかったのか、いつもより声を張り上げて質問した。
「ええそうよ。でも、セレス少佐の演技は内心ヒヤヒヤしたけどね」
ウィンクをするエミー。
「こほん」
セレスはエミーの言葉に、少し恥ずかしげに咳払いをする。するとレイも少し冷静を取り戻したようで、安堵した表情でアーサーに笑いながら質問をした。
「しかしボーグマン少佐。人が悪いですね。ゴジュラスまで用意するとは思いませんでしたよ」
「ん? ゴジュラスだと? そんなものを手配した覚えはないぞ」
アーサーはあっけらかんとしていた。
「え?……」
困惑するレイ。次の質問をしようと口を開く前に、モニターから呼び声が聞こえた。
「おーい! ウィナー!レイ!」
バディターの声だ。上を見上げると、朝日と共に
、ダブルソーダの輸送チーム飛んでいる。傷ついたゾイド達を運ぼうと集まっていたのだ。その中のダブルソーダの複座に、バディターが身を乗り出して手を振っている。
「バディター!」
レイはシールドを伏せさせると、コックピットハッチを開く。被っていた煩わしいヘルメットを投げ捨て、バディターの元へと走っていった。ウィナーもまた、いつの間にか網から抜け出し、走ってきた。
バディターはダブルソーダのパイロットに指示を出すと、レイの横に機体を降ろさせた。
「結果はどうだったんだい?」
相変わらずの口調と表情だ。レイもウィナー思わず笑みが溢れる。
「俺はだめだったが、レイはレオマスターだ」
ウィナーがレイの肩に手を回す。
「ありがとうウィナー、まだ実感がないな」
ウィナーがレイの頭をクシャクシャとし、レイは照れる様子で笑う。
「レイ!兎に角おめでとう! ウィナーは残念だったね。ま、仕方ないよ。今回は縁がなかったってことだね。あと、今回のこと、また今度聞かせてね!じゃあこれから君たちが散々傷つけたゾイドの山を直さなきゃいけないから、整備に戻るね!」
そう言うと、ダブルソーダで嵐のように飛び去っていった。
「相変わらず調子の良さそうなやつだ」
「ああ、いつも通りだな」
呆れて笑うレイに、同じく笑みで返すウィナー。
こうして長い一夜が終わった。
━━
3日後……称号レオマスターの授与式が盛大に行なわれた。音楽隊によるファンファーレが華やかに演奏され、式典は厳かに開始された。受賞される4人は何処か緊張した面持ちだった。
「おい、見てみろよ。あのシシリーが緊張してるぞ」
ミズモがいつもの調子で笑いを誘った。
「こういう、人の前に立つの……苦手なの」
皆はシシリーのそんな硬い表情を見ると、気が落ち着いてきた。演台から広場を見渡すと、数万人という共和国軍軍人と、共和国近衛兵団のゾイドが整然と並んでいる。そこに集まっているのは軍関係者だけではない。多くの民衆も、塀の外に集まっていた。何故なら誰しもが憧れるライガーの乗り手。それも最高峰のゾイド乗りを、一目見ようと押し寄せていた。
エレナ大統領からの式辞が始まる。壇上に上がると、歓喜に湧く。彼女がスピーチを始める。
「私たちはいま、長きに渡る平和が壊されようとしています……。」
その言葉に、先ほどの盛り上がっていた観衆達が、一斉に静まり返る。その静寂を待っていたかのように、続けて話し始めた。
「ですが、決して恐れることはありません。何故なら、私たち共和国は持ち合わせているのです。何度倒されようとも、その度に立ち上がる《不屈の精神》。ある時は、戦う事よりも仲間を助ける事ができる《勇気》。そして、明日は私たちが作るという、誰からも奪えない《希望》を」
何万人もの人が、エレナの言葉に静かに耳を傾ける。するとエレナが横に並ぶ、レオマスターの面々に顔を向けた。
「その共和国の象徴である《不屈の精神》、《勇気》、《希望》の高みを備えた者が、いまここに誕生しました。それは私の横にいる彼ら。新たなるレオマスター達です!」
広場一体が歓声の渦を巻き、拍手喝采で賑わった。群衆の中で、ウィナーとナイトも皆を笑みで祝福していた。
新たなレオマスター達は、互いに顔を見合わせ、感じたことの無い感動を覚えた。正に忘れ難い光景だ。
「おめでとう、レイ・グレック少尉。雷光のご加護があらん事を」
エレナ大統領はレオマスター達にメダルを首からかける。そして初代レオマスター達が彼らの制服の胸に徽章をつけていく。そしてアーサーはレイの頬に温かいゴツゴツした手をあて、赤い目を見据えた。
「これからが本番だぞ、レイ」
いつもの落ち着いた低い声だ。
「肝銘じておきます、少佐」
2人は喜びを分かち合う親子のように抱き合う。互いに溢れる涙がとまらなかった。
華々しい演奏鳴り響き、止め処無い歓声が沸く。レイは晴れ渡る空を見上げた。すると、プテラスのアクロバット飛行隊が飛行機雲で形を彩る。その形はヘリック共和国の紋章である円と雷で、大空に大きく描かれた。
レイは首からかけられたレオマスターのメダルをぎゅっと握りしめる。そして彼は胸に誓う。守るべき自由と、平和のため、どんな脅威にでも立ち向かうと……。
━━━
エピローグ
━━翌日、ヘリックシティ作戦本部司令室にて
「先ほどアルバーン大尉を拘束したと、連絡が入りました」
報告を受けるアーサー。周りには軍警察の面々も集まっている。
「それで……聴取で何か分かったことは?」
報告してきた情報部の人間から話を聞くアーサー。
「どうやら彼は当時、西方大陸にてブルーユニコン隊として訓練していたようです。周囲の仲間や司令官の証言は一致しているので、それは間違いないかと」
資料をアーサーに手渡し、アルバーンの顔写真を眺める。
「アリバイはあるのか……だが、極秘開発されていたZG(ゾイドゴジュラス)を奪取出来るものは、内部の犯行以外あり得ない。それか協力者がいるか……。どう思いますか? 大統領」
エレナ大統領が重い口を開く。
「もし、今回のZG奪取の件が世間や敵に露呈すれば、私たちが今準備していることが水の泡になります。今回のレオマスターの儀もその一つ。ここは内密に動くしかなさそうですね」
今回のゴジュラス開発は極秘だった。それが漏れたこと。そして開発実験施設も特定された上、レオマスターの演習に忍び込んでいた事に、皆驚きを隠せなかった。
「或いは、盗んだ奴らは、それすらも読んでいた事になるかも知れませんな……」
アーサーは深いため息をつきながら答えた。
「かなり狡猾で、それと同時に、かなり用意周到に準備されているようにも思えます」
セレスが今回の事件資料に目を通し、時系列を追いながら話す。
「ガイロスの仕業……だろうか」
ハルフォードもまた頭を悩ませていた。彼は全般を監視していた。そしてその監視を掻い潜っていた。ただの素人の仕業ではない。だが彼も証拠がない以上、何も掴めずにいた。
「分かりません。ただ、迂闊な発言は出来ませんね……」
エレナはそう言うと沈黙した。
「ZGを乗りこなせるパイロットはそう多くはありません。それに、セレス少佐の件も気になります」
エミーが静寂を裂くように話す。
「冬空の雷か…」
アーサーはまたもやため息をつく。彼はゾイド乗りであって、こういった事は苦手だった。
「ああ、あれは間違いない。本来ならばアーサーと共にサーベルタイガーで出向く筈だった。だが、砲撃の直後に雷が私のシールドライガーに直撃。そして暫く動けなくなっていたのだ。だが、そんな偶然があるものだろうか……」
今回の演習の立案はアーサーだったものの、セレスが計画したものだった。
「事故にしては出来すぎている……と言うことかしら」
エレナもこの不可解な事に疑問を感じていた。
「それもZGの件と何か関係あるのでしょうか」
エミーが組んでいた右手を唇にあて、思案する。
「何とも言えん。としか言いようがありませんな」
アーサーは腕を組み、天井を見上げると、また深くため息をつく。
「面倒な事になったな……」
彼らはそれから黙ることしか出来なかった。
レオマスター編【完】
〜続く〜〜
ついに完結しました。多くの謎を残しつつ、レイはレオマスターに。次なる展開をお楽しみください!