「まさか……このマークは!……」
レイは落ち着いたカフェで、HBと記されたコインを見るやいなや、気が動転し、思わずそれを落とした。
「どうか……されましたか?」
手が震えるレイ。そんな動じる彼を不思議に見つめるサヤカ。
「すまない、何でもない……」
━━きっとなにかの思い過ごしか何かだ………あれは無くなった筈だ……
レイは落としたコインを拾い上げ、机に置いた。彼の引きつったその表情を心配するサヤカ。
「大丈夫ですか?……」
「ああ……」
レイは思い悩む様子で、コインを眺めている。その様子を見るなり、サヤカは塩たっぷりの熱いコーヒーをグビグビと飲み干すと、マグカップを机に叩きつけた。
━━ドン!
「ここで悩んでいても仕方ありません! とりあえず聞き込みを始めましょう!」
サヤカは満面の笑みを浮かべた。
「え? いや、俺はゾイド乗りで、そんな事はやったことが……」
思わぬサヤカの発言に、戸惑うレイ。
「いいからいいから。それに護衛は、騎士様のお仕事ですよね?」
その後、レイはサヤカに半ば強引に聞き込みに協力していると、2人はある噂を耳にした。それは、盗賊がある日突然、共和国領内で大型の帝国製ゾイドを使っては、横柄に町を歩き周り、悪さをしているという事だった。ガイロスへの結びつきを感じた2人は、急いで向かうことにした。
━━━
「わ〜、綺麗な町ですね」
レイ達は、その噂のもとに、標高の高い山脈沿いにある、小さな町へとやってきた。辺りは綺麗な野原が広がり、町の中央には雪解けたばかりの透き通った小川が流れている。そんな光景を見たサヤカは、目を輝かせていた。
「なんだか皆さん、のんびり生活してるって感じでいいですね。都会はなんだかバタバタしていて、疲れてしまいます。 あ、あのゾイド可愛い!」
町の入り口でゾイドから降りると、サヤカは畑で荷車を引く小型ゾイドを指差し、子供のようにはしゃいで行った。辺りに戦闘ゾイドはなく、小ゾイドを活用して穏やかな雰囲気が漂っていた。そんな風景を眺め、レイは少し懐かしい気持ちになっていたと同時に、複雑な感情もあった。
「……よし、とりあえず情報の集まる酒場に寄ろう。あと、ここの所休めていなかったしな」
「はい、そうしましょう! 塩コーヒーもあるかな〜」
酒場の扉を押し開けると、レイとサヤカは少し視線を感じながらも、空いた丸テーブルに腰を下ろした。
「すみませ〜ん。コーヒーと、たっぷりの塩を下さい。あとレモネードを1つ」
━━チリン
サヤカが店員に注文すると、2人の大男達がズカズカと乱暴な足音を立てて入ってきた。その姿は町の綺麗な雰囲気とは違い、汚い革のジャケットに、腕には無造作な刺青をしている。
「おい、いつものよこせ。早くしろ」
1人の男が横柄な態度でカウンターへ向かって大声をあげた。
「早くしろ! ジョリー様がお待ちだぞ!」
もう1人の男はニヤニヤと不敵な笑みを浮かべながら言った。
「……お待たせしました」
すると女性店員が、カウンターから大きな木製のジョッキを4つ程持ってくると、酒場の端のテーブルを占領するガタイのいい男たちに、怯えながら届けた。
「おい小娘! 俺達と楽しく飲もうぜ!」
「ジョリー様の女になれるなんて、光栄じゃねぇか。ははははは」
店員の町娘に乱暴な手を伸ばす。2人組の大男の大声だけが響き、周囲は静まり返っている。皆も怯えて何もいえない様子だ。
「もしかして……あれが例の盗賊か?」
「かもしれませんね……」
レイ達は警戒しつつ、様子を伺う。
「やめてください。本当にやめてください……」
「そう言うなって。ははははは!」
ガタイの良いリーダー格の男が怒鳴りながら、嫌がる娘の腕を強引に引き寄せる。周りの人間達は、我関せずな表情で座っている。
━━なら、懲らしめてやらないとな……
レイは盗賊にどう懲らしめるか考えた。
「よしサヤカ、俺が注意をひ……あれ?」
ふとサヤカの座っいる方を見るも、彼女の姿は無かった。すると、酒場の端から声がした。
「ちょっと、そこの2人! 女の人に乱暴するなんて許せません!」
サヤカは既に大男達の前に立ち、仁王立ちで立っている。
「それになんでそんなに偉そうなんですか? 自分達は神様か何かになった気でもいるんですか?」
酒場が一瞬で静まり返る。盗賊たちの視線がサヤカに集中した。
「……なんだぁ小娘。俺達を誰だと思ってんだ?」
リーダーが立ち上がり、サヤカに近づいてきた。
「ちょっと分からしてやるぜ」
男が有無を言わさず拳を振りかぶる。サヤカは思わず目を瞑ったその瞬間。レイの体が動いた。彼は椅子を蹴り飛ばして間合いに入り、盗賊の拳を受け止めると逆に叩きつけた。
「くそ、てめぇ何しやがる!」
鈍い音と共に男の体が床に転がる。
「おいおい。うちのジョリー様に手を出すなんていい度胸してるじゃねえか」
横にいる歯抜けた顔の腰巾着がニヤつくと、酒場一体が張り詰める。
「お前達は、最近噂になっている帝国ゾイドを使って暴れ回っている盗賊か?」
レイは肩のホコリを軽く祓い、やる気に満ちている。酒場は騒然となり、ガヤガヤと村人たちが慌てて壁際に避難する。
「てめぇその制服、共和国軍か?……俺達に歯向かった奴がどうなるか知ってんのか?」
リーダーが血を吐きながら立ち上がると、レイを睨みつけた。
「お前達のようは奴らは、ゾイドに乗っても、弱いものを虐めて勝った気でいる、所詮3流なんだろうな」
レイは毅然とした態度でゾイド乗りとして男達を挑発した。サヤカはその様子を唖然と見ていた。
「なんだとコノヤロ! 何もかも気に食わねぇ野郎だ。表に出ろ! ゾイドで勝負をつけてやる。正々堂々と一騎討ちでな」
周囲では動揺でざわめく声がする。隣の腰巾着はニタニタと不気味に笑っている。そんな中、レイは真っすぐに答えた。
「いいだろう。受けて立つ!」
━━
2人は盗賊が指定する森に囲まれた野原へとやってきた。するとそこには、赤い大型ゾイドがどっしりと立っている。
「……レッドホーンか」
シールドライガーのコクピットから、レイは低く呟いた。レッドホーンはスティラコサウルス型の大型ゾイドで、全身に火器を搭載し重装甲を身に纏っている。その姿は正に動く要塞と呼ばれていた。
「そのゾイド。ただの盗賊にしては立派なもの持ってるな。何処で手に入れた」
「ふん、お前達には関係ない話だ。お前が勝負に勝てたら教えてやるよ。ま、無理だろうがな」
盗賊のリーダーであろうジョリーはメインコックピットからニヤリと笑いながら挑発した。
「何で奴らは2人乗りなんてズルい! これじゃあ卑怯じゃないですか!」
サヤカは小高い丘から見守っていた。
「サヤカ大丈夫だ。こんな奴ら、俺一人で十分だ。それに一騎は一騎だ。問題ない」
レイは冷静だった。
「ははは! たった1機のシールドライガーでこのジョリー様に敵う訳ないだろ! 食らいやがれ!」
腰巾着の火器管制用コクピットに乗る盗賊がそう言うと、レッドホーンの背中にある3連リニアキャノンが轟音と共に火を噴く。直ぐ様回避するレイ。だが突如、機体の横から強い衝撃が走る。
━━攻撃!? いったい何処から?
レイが攻撃がきた横を見ると、ステルスバイパーが低い姿勢で影からビームを撃ってきていた。
「あ、あんなところに隠れていたなんて。卑怯者!」
サヤカが怒った口調で叫ぶ。
「へ!勝てば良いのよ勝てば。そのシールドライガーも頂くぜ!」
━━!
レイの目が鋭く光る。そして突如として現れたステルスバイパーに襲いかかろうとした瞬間、ジョリーが叫ぶ。
「今だ! かかれぇッ!」
すると、周りの森から6機のゾイドが一斉に襲いかかってくる。ステルスバイパー1機、モルガ3機、イグアン2機。どれも旧式だが、盗賊にしてはかなり豪華なゾイドたちであった。
「どこまでも卑怯な真似を……行くぞ、ライガー!」
シールドは大きく咆哮すると稲妻のごとく動いた。レイはスナップスイッチをあげ、シールドを展開。前方からくるイグアンのビームを跳ね除け、ストライククローで腕を斬り落とす。
「すごい……さすがです! 私も加勢します!」
サヤカは慌てて操縦桿を握る。しかし、彼女のコマンドウルフは急旋回でバランスを崩し、派手に丘を横滑りし、くるくると転げ落ちた。
「きゃあああ!」
くるくると転げ落ちるコマンドウルフは、その衝撃で背中のビーム砲が暴発し、あちこちにビームを撒き散らす。
「おい、危ない!」
咄嗟にしゃがむレイ。すると偶然にも、岩陰に隠れようとしていたステルスバイパーや、レイへと突進しようとするモルガに、次々とビームが当たる。
「……今の、狙ったのか?」
レイが呆れ気味に言う。
「も、もちろんです!」
サヤカは慌てて胸を張った。直ぐ様姿勢を取り戻す。
「さささ、気を取り直して、いっきますよー!」
サヤカは辺りの小型ゾイドと交戦し始めた。先ほどの光景が嘘のように、華麗にコマンドウルフを走らせ、イグアン1機をビームで倒すと、辺りにスモークディスチャージャーを撒き散らし、敵の目を眩ませた。
「でかしたサヤカ。行くぞ!」
レイは、一瞬怯んだレッドホーンへと向かっていく。
「おいエストポ! 奴が正面から来る!早く撃て!」
レッドホーンの弾幕がシールドに襲うも、華麗に捌いていく。
「なら俺達もやってやるぜ!」
レッドホーンが地面を蹴り出し、シールドの真正面に突進していく。頭部のクラッシャーホーンに熱が帯び、背中からリニアキャノンやミサイルが一斉に飛んでくる。
「食らいやがれ!」
レッドの突進がシールドに突っ込む。
「その動きが、3流だって事だ」
レイはレッドホーンの突進を華麗に躱し、右へ入り身。レッドホーンの左側面へと回り込む。
「エストポ! 何をやってやる! さっさと撃て!」
「ま、間に合わない!」
レッドホーンの火器の回転より早く動くシールドを捕らえられない盗賊達は焦りだす。
「貰った!」
シールドのストライククローがレッドホーンの脇腹に叩き込んだ。するとレッドホーンは吹き飛び、横転。そして止まった。
一方サヤカは、スモークディスチャージャーを活用してモルガの射線にイグアンを誘導。わざとミサイル撃たせて躱し、イグアンに直撃。続けてモルガをストライククローで倒した。
「よし。」
すると1機の別のモルガがレイの最後から狙っているのを発見した。
「あ、危ない!」
急いで向かおうとすると、足元にあった岩陰に思わずつまずいて前に転倒した。
「あわわわわ」
勢いよく転倒した先のモルガに当たり、その衝撃でモルガのガトリングが暴発。またしても運良く周囲のゾイドを次々と薙ぎ払った。
「お……おいおい、こりゃ凄いな……」
レイが振り返ると、初めての光景に言葉を失った。気がつくと辺りは動かなくなった盗賊のゾイドが転がっていた。
「いてててて……」
残りの盗賊達は勝ち目がないと分かり、残ったゾイドとビークルを使って素早く逃走していた。残ったゾイドをコマンドウルフで探索すると、サヤカがある物を発見した。
「あ、グレック少尉、これを見てください!……」
サヤカが示したステルスバイパーのコックピットには、盗賊の持ち物であろう、まさしく《HB》のコインを発見した。
「これは決定的ですね! さ、早く追いかけますよ!」
サヤカはコインを手にし、爽やかな笑顔で言うと、コマンドウルフを盗賊が逃げる方角へと向け、足跡を追って走り始めた。
「まったく、敵わないな」
レイはそんなサヤカの調子を眺め、ウィナーやバディターにレオマスター達の姿、そして幼少期のあの頃を思い出す。そして少し胸のざわめきを感じながら彼女の後を追った。
〜続く〜
結局コインについては深く触れず、先延ばしに。
今後明かされるので、次回からの展開をご期待下さい。
そしてサヤカのキャラクターについては、今後のシリアスな展開に重要な役割となってます。このキャラクターについてもFB知ってると、より楽しめるかもしれませんね