レイ・グレック サーガ   作:ゼル・ユピート

16 / 22
第4話 自警団

 寒さの残る日が差して間もない朝に、寒さも吹き飛ぶような熱気で、3人の年頃同じの少年が、柵越しに騎士団を眺めていた。

 

「やっぱりかっこいいなぁ!」

 

 レイは友人のジャックとイーサンの2人を引き連れ、ラーク騎士団の訓練場を訪れていた。騎士団は格闘戦の訓練や、防護用の塀を構築をしており、その様子を3人は目を輝かせて見つめていた。

 

「俺も早く大人になって、ラーク騎士団のゴドスに乗りたいなあ」

 

 レイは柵にしがみつき、瞬きを忘れたように鋭い赤い目でゴドスを追う。里を守るラーク騎士団は約20人程。彼らのゾイドは、主に小型ゾイドのゴドス、ガイサック、スネークス、カノントータス、そして超小型ゾイドのアタックゾイドで構成されていた。小型ゾイドが多いのは、山に囲まれたこのラークの里において、大型ゾイドが侵入することは困難だったからだ。

 

「イーサンは将来何になるんだ?」

 

 レイはきっと、一緒に騎士団になると回答が返って来ると期待し、背の低いイーサンを見下ろして話しかける。

 

「僕は冒険家になりたいな。いろんなゾイドを調べたり、いろんな地域に回って旅をするんだ。そして旅したことをまとめ、ゾイドの図鑑を作ったりね」

 

 イーサンは好奇心の旺盛な少年だった。レイ同様にゾイドが好きだが、彼のように戦闘をするタイプでは無かった。

 

「冒険家? 確かに面白そうだな! じゃあ俺はこの退屈な街から出て、共和国軍に入る。ってのも良さそうだぜ」

 

 そう意気揚々と答えるのは、茶髪の少年のジャックだ。彼はレイ同様に、平穏なラークの里を離れたがっていた。

 

「うん。だけど、俺達はここからは出てはいけない。そういう掟でしょ?」

 

 レイが親や周りが言う掟に嫌気がさしているように言う。

 

「外には危険が沢山あるってのも分かるけどよ、やっぱ俺達には物足りないよな。イーサンだって旅人になりたいっていうくらいだからな」

 

 ジャックが両腕を頭に抱え、訓練場の檻に背中を預けて里全体を見渡す。その里を見つめる目は、レイ同様、少し退屈そうに見えた。

 

「冒険家だよ。冒険家」

 

 イーサンが不貞腐れた表情で眉をひそめる。

 

「どっちでも一緒じゃねぇか、気にすんな」

 

 3人は暫く騎士団の様子を眺め終わると、訓練場近くの木陰に向かった。

 

「よし、今日のパトロールのルートはこうだ。ここ、自警団の木を出発して大通を通って街に入る。そして中央広場を通って橋を通るぞ」

 

 レイは指揮官のように2人に指示をした。彼らは自らを自警団と称し、気が向いた時に里をパトロールしていた。

 

「ねえ。なんにもない里をパトロールして何か意味あるの?」

 

 イーサンは冷静な表情で皆に尋ねた。

 

「何いってんだ。平和であるのは、俺達が平和をこうして守っているからなんだよ。《ちじょつの維持?》ってやつだ」

 

「ちつじょ(秩序)だよ」

 

 イーサンが呆れた表情で答える。

 

「わかればなんでもいいのよ」

 

「相変わらず適当な奴だなあ」

 

 レイが2人のやりとりを見てクスクスと笑う。

 

 里では訓練場と同じく、大人達が各々の仕事をしていた。畑には小型の野生ゾイドにまたがり、畑を耕したりしている。鍛冶屋では、料理包丁等の刃物や、小型ゾイドに取り付ける鞍、ゾイドの治療用の鉄を打っていた。ジャックがその鍛冶屋から出る煙を見ながら話を切り出した。

 

「そういや、妙な話を聞いたぜ」

 

「妙な話って?」

 

 レイはこの平穏で何も無い日常に、変化が訪れる前触れとして目を輝かせながら聞いた。

 

「2つ隣のリーディアって小さな町あるだろ? あそこがどうやら山賊に襲われて、全部無くなっちまったらしいぜ」

 

 リーディアとは、セシリア市に近い山脈の麓にある里であった。

 

「リーディアって、山を2つ越えたところだよな。そんな事、何でジャックが知ってるんだ?」

 

「この前、商人のモルガのおっさんが来ていたろ? おっさんが言うには、2週間前にリーディアに行ったら、全部焼け焦げていて、1人もいなかったってよ。それに、あちこちが死体の山だって言ってたぜ」

 

 このラークの里では日当たりと風通しの良さからレモンが豊かに育ち、特産品として中央大陸の商人からも人気のあるものだった。それを求める商品達が、度々小型ゾイドに乗って各地の特産や本等を売買しに来ていた。

 

「あ、それ僕もお姉ちゃんから聞いたよ。近所の人達が噂してたって」

 

 噂が広がるには、この小さな里ではあっという間だった。特に代わり映えのしない里ではそういった話を皆好んでいた。だがレイの家は里の中心から少し離れていた事もあり、噂には疎かった。

 

「そんなの、きっと嘘っぱちだ。ほら、町の人達がここラークの里から出ない様に脅してるんだよ」

 

 レイは噂に興味を持ちつつも、内容に対してはあまり信じていい様子だった。童話が子供が悪さをしないための作り話であると同様に、彼はそういった話も同じように考えていた。

 

「山賊か何かかなあ」

 

 好奇心の旺盛なイーサンは、口に手を当て思考を巡らす。

 

「だとしても大丈夫だ。この里にはラーク騎士団がいる。それにいざとなれば、守り神のゴジュラスが、きっと守ってくれるさ!」

 

 ここラークの里にはゴジュラスが高台から見守っていた。それはかつて、ゴジュラスに乗ることが出来た戦士が、この里に持ち込んだという言い伝えがあった。

 

「だけどよ。今この里にゴジュラスを動かせる人間て誰がいるんだ?」

 

 ゴジュラスを乗りこなせるのは限られたパイロットだけだ。共和国民なら、それは皆が知っている事だった。ジャックには思い当たる節がなかった。

 

「騎士団の誰かなら乗れるんじゃないか?」

 

「みんな乗れないっていってたよ」

 

「じゃあそのうち、俺達の誰かが動かすしかないな。ま、それは恐らく俺だろうがな」

 

 ジャックは意気揚々と鼻を高くして言った。そんな話をしていると、里の広場に着いた。広場にある噴水の前では、情報の交換場所としてよく人が集まった。そして今日も人が集まり、中心では老人が声高らかに演説をしていた。

 

「ゼネバスの復活は近い! 必ずしや復興し、中央大陸を我らの手に戻すのだ!」

 

 ゼネバス帝国はかつて、中央大陸を支配していた。元々中立だったこの地域も、ゼネバス領となった。しかし大戦に敗れたゼネバスは、領土の全てを共和国に奪われることとなる。そして領土各地にいたゼネバスの市民は、戦争を始めた戦犯として、世間からは強く批難されていた。それを避けるためにゼネバス人は、都心部から遠く離れた各地の田舎で暮らしていたのだった。

 

「またやってるよ、ロームの爺さん」

 

 呆れた顔で老人を見るイーサン。

 

「もうゼネバスは滅亡したんだろ? 復活はあり得ないのにね」

 

 噂に疎いレイでも、その事については知っていた。

 

 「ゼネバス・ムーロア殿下! 私めは貴方様が中央大陸を解放し、我らゼネバスの民の生きる道を示して下さいました。狡猾なヘリック共を根絶やしにし、真紅の旗を靡かせる時を待っておりますぞ! いつしかその時が来れば私ローム、どんな敵に対しても、我が身が腐ち果てようとも、命ある限り、最期まで立ち向かう覚悟でございます。ここにいる我ら《ゲハルト》は、いつ何時でも蜂起する覚悟は持ち合わせております。さあ、皆のもの。ゼネバスへ下るのじゃ。今ならば慈悲を持って、配下に置こうぞ!」

 

 老人ロームの周りには、ゼネバス出身者が真紅の蛇剣の旗を掲げ、熱心に応援していた。レイ達3人は秩序を保つ自警団だったものの、彼らに近づく事が如何に危険であるかは直感していた。

 

「誰がゼネバスなんかに入るかってよ」

 

 ジャックは吐き捨てるように言う。3人は広場から橋につながる道を通ると、ジャックが急に背筋をピンと伸ばし、襟を正した。

 

「あ、あれはもしかして、アンリじゃない?」

 

 イーサンが見る方向には、少し年上の金髪の少女が、鮮やかな赤いワンピースを靡かせ、タイルを弾むように歩いている。彼女は何冊かの本を抱きかかえ、広場へと向かっていた。

 

「おい、声を出すな。気付かれたらどうする。恥ずかしいだろ」

 

 ジャックは美麗な彼女に、密かに想いを寄せていたのだ。

 

「だけど彼女の家、確かゼネバス一家だったでしょ? ついさっき、ゼネバスなんかに入るかって言ってたじゃないか」

 

 ここラークの里では、ヘリック民とゼネバス民が結婚する事は珍しくはなかった。イーサンの母親もゼネバス民なのだ。だが彼女が結婚できたのは、活動をするほど過激な人ではなかった為だ。

 

「アンリちゃんは別だ。それに、アンリちゃんを説得して、ヘリック側に来てもらうさ。《平和の維持》ってやつだ」

 

 ジャックはアンリとの結婚に、大きく夢を膨らませていた。

 

「なんだそりゃ」

 

 そんな事を言いながら歩いていると、川を跨ぐ橋に差し掛かった。橋には3人の少年グループが屯(たむろ)していた。

 

「お? 自称自警団じゃねえか。何処行くんだ?」

 

 ニヤついた顔でレイ達を挑発するのは、レイ達より少し年が上のクリフだ。彼はいつもレイ達の活動をからかっていた。そして彼の家は、里の土地を多く所有し、その土地でできた名産のレモンを多く輸出するシトロン家であり、彼はその一人息子なのだ。

 

「ああ。レモン坊やと肉団子の2人か」

 

 レイもクリフの挑発に、表情ひとつ変えずに冷静に応えた。クリフの両脇にはいつも太った双子のボディガード、ブルーディー兄弟を従えていた。レイは2人が丸っこく、動きが遅い事からそうあだ名をつけていた。

 

「自称じゃねえよ。 俺達は町を守ってるんだ。お前達みたいなゴロツキをとっちめる為にな」

 

 ジャックは既にやる気満々と言わんばかりの表情で拳を鳴らした。

 

「パトロール?」「お前ら如きがか?」

 

 兄弟はケタケタを腹を抱えながら笑いこけ、クリフもニヤニヤと煽りつける。

 

「ならやってみろよ。もし殴ったりなんかしたら、父さんに言いつけてやるからな。おら」

 

 クリフ達は度々親の威光を借りては、こうして里の子供達に嫌がらせをしていた。クリフは足元にあった拳程の石を拾い上げ、イーサンの体に投げつけた。

 

「いたい!」

 

 石はイーサンのお腹に当たり、ドフッと音を立てると、身をかがめた。

 

「なにすんだてめえ!」

 

 仲間思いのジャックは怒り心頭だった。だが、親からクリフの家系には逆らうなという言葉が頭をよぎり、まだ理性を保って手を出そうとはしなかった。

 

「おい! 次やったらたたっ斬るぞ」

 

 レイは毅然とした態度でクリフを見つめ、背中の木剣を握った。彼はジャックのような冷静さはなく、一度切れると止まらないところがあった。レイの今にも飛び掛かりそうな様子をみたブルーディ兄弟の一人が前に出る。

 

「おい、クリフ様に歯向かおうってのか?」

 

「そこをどけ。俺達はここを通りたいだけだ」

 

 ジャックは事を穏便に済ませようとするも、言葉には棘がある。

 

「ならお前達はここで、通行料を払ってもらうぜ」

 

 ブルーディ兄弟は腕を組むと、その縦にも横にも大きな体で通せんぼした。

 

「通行料?……わかったよ。……通行料は、こいつだ!」

 

 レイが木剣でブルーディ兄の肩をたたっ斬る。それを合図に、6人はもみくちゃに殴り合った。レイとジャックはブルーディ兄弟と、イーサンはクリフと殴り合った。

 

「うりゃー!」

 

 イーサンは小柄でおとなしいが、石を投げられた事によっぽど腹を立てたのか、腕を大振りに振り回していた。

 

「おいおいおい」

 

 クリフはその威圧感に圧倒され、何度もたじろぐ。レイは練習した成果を見せるように奮い立ち、ジャックはガタイの大きなブルーディへ飛びついた。クリフ達も懸命に殴り返すも、3人のあまりの勢いに圧倒されたのか、完全に押されていた。

 

「くそ、退却だ。今度会ったら覚えとけよ」

 

 クリフはイーサンに殴られた左の頬を押さえ、何やらブツブツと呟きながらブルーディ兄弟を引っ張って走り去った。

 

「この何でもない里で、唯一奴らだけが腹が立つぜ」

 

 ジャックが逃げていくクリフ達を目で追いながら睨みつけていた。

 

「本当にそうだよ。次会った時は、もっとぶっ飛ばしてやろう」

 

 レイは練習して成果を出し切れた様子で晴れやかな表情だ。

 

「イーサンも、なかなかいい戦いだったぜ」

 

 ジャックがイーサンに向けていうと、それを聞いたイーサンも、してやったなという顔で誇らしげに鼻をこすった。

 

「はは。気がついたら手をぶん回してたよ。僕達、外の世界に出たらもっと強くなるかな」

 

 イーサンの誇らしげな表情に、肩を組んで喜んだ。ジャックは腫れた目の痛みなど、喜びで気にならなかった。

 

「ああ。きっとなれるさ」

 

「だったら明日、隣町のトロフまでこっそり行ってみようぜ。そしたら俺達、もっと胸を張れるようになると思うんだ」

 

「いいねそれ」

 

 イーサンの冒険心を擽(くすぐ)った。

 

「面白そうだな。そうと分かれば、早速準備しなくちゃな」

 

 彼らは自信に満ち溢れ、何が来ようとも何も恐れるものはない。そんな彼らの背中を後押しするように、温かい風が少年達を包んだ。

 

〜続く〜




アルプスの麓にあるラークの里。地理的に深掘りはしていないものの、しっかりとした設定では作っています。里の人達の生活感や、何故反映しているのか。楽しいだけの空間ではないリアルさや、レイの心にある今後の原動力になる原点を模索した結果、こうなりました。次の話では、ようやく祖母が登場します!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。