レイ・グレック サーガ   作:ゼル・ユピート

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第5話 祖母

 レイ達は翌日早朝に里を出ることに決めて解散した。レイは家へと真っ直ぐ向かい、家の近くの石垣で出来た坂に来ると、家の方角から話し声が聞こえる。

 

━━もしかして!

 

 レイは聞き覚えのある声に、待ち切れない思いで一気に坂を駆け上がる。登りきった先で一度足を止め家を見ると、小型2足恐竜ゾイドのランドローバーがいる。

 

「おばあちゃん!」

 

 レイは全速力で走り柵を飛び越えると、凛と佇む祖母ローザの脚に力いっぱい抱きついた。

 

「おかえりなさい!」

 

「ただいま、レイ」

 

 ローザはレイの頭を撫でると腰をおろし、右腕で抱きかかえ立ち上がった。

 

「今日ね、クリフ達と戦ってさ。勝ったんだよ!」

 

 レイは赤い目を輝かせ、興奮して話す。

 

「あら、喧嘩しちゃったの?」

 

 ローザは赤い目で静かに応える。彼らの赤い目はかつての地底族の証だった。

 

「だってアイツら、偉そうに里の子供達に嫌がらせをするんだもん」

 

「え? シトロン家のご子息に怪我をさせたの?」

 

 ララは荷卸しを手伝う手を突如止め、目を大きくしてレイを見ると、困惑した様子で尋ねる。

 

「自警団としてとっちめただけだよ。最後はみんな逃げていったよ」

 

 誇らしげに語るレイに、ローザはゾイド人らしい血の気の多さを感じた。ただ、それがドナーにとってあまり喜ばしい事ではない事も、彼女は理解した。

 

「ララ大丈夫よ。明朝、私の方からお詫びを言っておくわ。それと、お父さんには内緒にしないとね」

 

 ローザはレイを庇うものの、ララは少し怪訝な顔でレイを見つめる。

 

「そうだ、お土産を買ってきたわよ」

 

 ローザはランドローバーに取り付けてあるサイドバックを開けると、掌サイズの木製のおもちゃをレイに手渡した。

 

「やったー! これゾイド? 凄くかっこいい!」

 

「これはシールドライガー。攻撃と防御、それにスピードを兼ね備えたゾイドよ。貴方にぴったりだと思ってね」

 

「ありがとう!」

 

 すると、レイのお腹からグー……っとお腹が鳴るのが聞こえた。

 

「昼食にしましょうか。もう用意は済んでいますので」

 

「ええ、そうしましょう」

 

 レイは急いで昼食を済ませると、先に稽古に取りかかった。ローザは食事と荷解きを済ませると、レイの稽古に付き合った。

 

「おりゃー」

 

「それでは相手にバレてしまうわ。私の動きをよく見て頂戴」

 

 ローザは剣術を通して様々な事を教えた。攻めること。防御すること。それだけでなく、相手の力や動きを読み、その隙を突くカウンターのことを。そして騎士とは戦いに勝つだけではない。その力を持ちつつも、無闇に自ら手を出さない精神の強さが必要なのだ。ローザはその心を教えようとしていた。

 

「ここで相手が振りかぶって来た時に、右に入り身する。そうすると相手の左脇か背中を捉えることができるわ。やってご覧なさい。」

 

「こう?」

 

「いい動きね。じゃあ次は少し応用を……」

 

 その後もローザによる稽古が続く。気がつくと日が暮れていた。2人は汗を拭い家に入ると、父ドナーが収穫した野菜を炒めたものと卵のスープ。そして森で猟ったウサギをオーブンで焼いたものが並んでいる。ララはウサギの丸焼きに絞ったレモンを振りかけ、しっかりと臭みをとった。

 

「もうお腹ペコペコだ。このウサギ、父さんが獲ったの?」

 

「ああ、そうだぞ。美味そうだろ?」

 

 ドナーは誇らしげに答える。

 

「流石だね。美味しそう!」

 

「今日はちょっと小ぶりだったけど、今度はもう少し大きいのを狙いたいな」

 

 ドナーは嬉しそうに丸焼きを切り分けると、皆の取り皿に移していった。

 

「そういえばおばあちゃんは、遠くまで何しに行ってたの?」

 

「昔からのお友達に会っていたのよ。ヘリックシティで」

 

 ローザとララは丁寧にナイフとフォークを使い、食事を上品に口へと運ぶ。

 

「ズルいよ、大人だけ外に出れるのなんて。俺も行きたかったなぁ」

 

 レイは肉に残る猟銃の弾をペッと吐き出しながら食べる。吐き出すたびにコロンという音が食卓に響く。

 

「大人になって外に出たら、どれだけ危険かがわかる様になるわよ」

 

 父のドナーはレイの話を聞きながら、黙々と食事を進める。ララは元気いっぱいなレイの姿に、2人の会話をにこやかに聞いていた。

 

「早く大人になりたいなぁ。ねえおばあちゃん。騎士だった頃、どんなゾイドに乗っていたの?」

 

「そうね、普段はランドローバーみたいな小型ゾイドに乗っては儀仗なんかやっていたわね。ある時はとても大きなゾイドに乗っていた事もあったわ」

 

「かっこいい! 俺も軍に入って騎士になりたいなー! それで皆の平和を守るんだ!」

 

「ふふふ。里の未来も明るいわね」

 

「父さんの農業や狩りは誰がするんだ? それに騎士団ならまだしも……軍人なんて所詮は人殺しの集まりだ。人を悲しませるだけだぞ」

 

 ドナーは先ほどのにこやかな表情とは一変、レイの言葉に不快感を露わにした。

 

「あなた。レイに対してちょっと言い過ぎでは?」

 

 ララはその不快感を理解しつつも、その場の重い空気を和まそうとした。

 

「あ……ああ、すまない。だがな、父親が俺達を捨てたのは事実だ。それは許す事は出来ない」

 

 ドナーは食事を終えると席を立ち、2階にある自室へと重い足取りで階段を登っていった。

 

「おじいちゃんは僕達を見捨てたの?」

 

「いいえレイ。貴方のおじいさんはこの国の為に何年もの間、命を賭けて戦っていたのよ。そして貴方のお父さんや私達を守るために、ここに住むことになったのよ」

 

「……そうだったんだ」

 

「それに貴方のお父さんはきっと、おじいちゃんともっと一緒にいたかっただけよ。気にしないで」

 

 ローザは様々な思いの板挟みにあっていた。そんなローザやレイが静かに聞く様子を見ると、ララが明るい笑顔で場を和まそうと話す。

 

「さ、そんな暗い顔しないで。お母様が帰ってくるとなって、マドレーヌを作っておいたのですよ」

 

 ララはオーブンからマドレーヌを取り出し皿に盛り付けると、皆に配った。ここの産地ではレモンが有名ということもあり、レモンの形とレモンの味がするマドレーヌだった。ほんわりとレモンの香りが食卓を優しく包み込む。

 

「あら、ララさんありがとう」

 

「おれ、レモンきらーい」

 

「ふふ、そのうち好きになるわ。母さんはこの里もレモンも好きよ。特にレモネードが」

 

 ローザにソーサー付きのカップに、温かい紅茶を入れる。

 

「おえー。退屈な里といい、すっぱい食べ物が好きなんて、大人はよく分かんないや」

 

「ふふ。大人になればその良さがきっとわかるわよ」

 

 2人はレイの不貞腐れた姿を見て、笑顔で会話した。食事を終え、食器を皆で片付けると、ローザがレイに話しかける。

 

「レイ。お外で散歩なんでどうかしら」

 

「いいよ!」

 

 寒空には2つの月と無数の星々が煌々と輝いている。里を見渡すと、まだあちこちに家の明かりが見える。レイはローザの手を握り、嬉しそうに手を大き前後に振る。

 

「レイはどうしてこの里が嫌なの?」

 

「だって退屈だし。大型ゾイドもいないし。もっと世界をゾイドで旅してみたいよ」

 

「確かにレイにとってはそうかも知れないわね」

 

「俺はもう剣術も習ったし、後はゾイドに乗って駆け回るだけ。それもきっと直ぐにできるようにしてみせるけどね」

 

「ふふ。ゾイドも剣術もまだまだよ」

 

「ちぇ」

 

「レイ。まだこの里を出てはいけないわ。外には危険が一杯なの。そして将来、この里を守ってほしいの。貴方のその勇気が、この里には必要なのよ」

 

「一度でいいから里を出てみたいなぁ」

 

「ええ、そうね。ところでレイ。貴方はこんな言葉を知ってるかしら《雷光のご加護があらんことを》」

 

「それはどういう意味?」

 

「雷は共和国にとって聖なるもの。その雷を使う神様が守ってくれますように、ということよ」

 

 中央大陸において「雷」とは神聖なものであり、神の所業だという伝説が数多く存在した。そしてそれに由来するゾイドや兵器が、ヘリック共和国とゼネバス帝国に両国に数多く存在している。

 

「つまり雷は神様ってこと?」

 

「そういう事よ。そしてお父さんやレイは、そんな雷にまつわる言葉から名前をつけたのよ」

 

「雷光のご加護があらんことを……か」

 

「さ、今日のところはそろそろ家に帰りましょ。その後はお風呂に入って寝ましょうか。」

 

 レイは1日の疲れと汚れを熱いお風呂で乱雑に洗い流す。急いで着替え用意された温かいミルクを飲み干すと、2階の自室へと向かう。部屋のランタンに火をつけ、ベッドへと転がった。

 

「よいしょっと」

 

 部屋は簡素なもので、ベッドも裕福な家庭に比べると少々固いものだったが、レイはそれを気に入っていた。窓際に置いていたローザからのお土産のシールドライガーを手に取り、仰向けになりながらあちこちを弄る。

 

「ジャックと同じように共和国軍に入ろうかなぁ……そうすればシールドライガーにも乗れるかもしれないし……」

 

 暫くシールドライガーのおもちゃを弄りながら思いにふけると、ランタンの火を消し、明日の旅に備え寝ることにした。

 里も徐々に光が消えていき、いつもの変わらない静寂が広がる。それはまるで彼らの就寝を促すかのように。

 

〜続く〜




祖母の設定ですが、わかる人には「ああ、あの人ね」となりますね。
もちろんドナーもあの人の子供か!となって、あの人達のその後にも繋がるエピソードとして描きました。
その事を知らなくても、一家の関係性やレイの失いたくない過去(むしろ我々が羨ましく、まさしく憧れ)を、存分にリアルに描けたかなと思います。
次の回ではあの人達が出ます。
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