レイ・グレック サーガ   作:ゼル・ユピート

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第7話 ブルーバンデッド

 ━━もっと早く!

 

 レイは赤い目を鋭くさせ、ウルフと共に春疾風の如く森の街道を休憩をする間もなく、ひらすら駆け抜ける。

 

「イーサン、次はどっちだ!?」

 

「次は右、そのあとは暫くまっすぐだよ!」

 

 イーサンの指示に従い左右に手綱を引っ張る。そして遂にラークの里へと着いた彼らが目撃したのは、既に黒煙が舞い、悲鳴があちこちから聞こえている。まさしくトロフ同様の光景が広がっていたのだった。

 

「そんな……」

 

 綺麗だったラークの里は見る影もなく、周囲にはあちこちで火の手が上がり、木々の焼ける臭いが3人の鼻をつんざく。

 

「お父さん! お母さん!」

 

 イーサンが悲痛な声で叫ぶ。里ではあちこちで小型ゾイドや動物達が柵から逃げ出し、走り回っている。

 

「こいつはひでぇ……何もかも燃やしてやがる……」

 

 ジャックの視線の先には、シトロン家の管理する果樹園があった。それらを先ほどの青いゾイド達に乗る男達が、松明で容赦なく火をつけている。

 

「何もかもめちゃくちゃだ……」

 

 レイ達は悲壮感漂う表情で崩れゆく里を見る。

 

「とにかく家族の元へ行かなくちゃ! きっとみんな心配してるはずだよ!」

 

 イーサンが2人に諭す。

 

「そうだね。だけどウルフは目立ちすぎる。ここからはそれぞれ別れて行動しよう。みんな見つからないようにちゃんと隠れるんだぞ」

 

「わかった、そうしよう」

 

「レイもイーサンも無事でいてくれよ」

 

「みんな……」

 

 レイが2人を呼び止める。

 

「……雷光のご加護があらんことを」

 

 レイは2人の顔をじっと見て、彼らの安全を祈った。それを聞いた2人も続けて答える。

 

「雷光のご加護があらんことを」

「雷光のご加護があらんことを」

 

 レイはウルフを逃がすと、丘の上にある自宅へ裏道を使って隠れながら向かう。途中ゼネバス市民の暮らす地域に差し掛かると、里の人々が捕らえられ、檻に入れられる様子が見えた。

 

「やめてくれ!……儂らが何をしたって言うんだ!」

 

 建物が燃え盛る中、膝を固いタイルにつけ、必死に訴える老人の姿が見える。それは広場で演説をしていた老人ロームだった。

 

「そんな……ゼネバスが決起した訳ではないのか?…… お前達は一体何者なんじゃ。何処へ連れて行くのだ、離せ!」

 

「うるさいじじい。さっさと檻に入りやがれ」

 

 山賊らしい服装の男が無理やりロームを引きずり、檻へと蹴り飛ばす。ロームは倒れ込み、中に入る人達が透かさず手を差し伸べる。その中にはジャックの想い人であるアンリの姿もあった。彼女はロームの脇を抱え、彼の安否を心配そうに確認していた。

 

━━なんて酷いことを!……

 

 山賊は女子供も関係なく、里の人々を捕らえては家を焼き払い、檻の中へと次々と放り込む。里のあちこちには、先ほど森で見た帽子の髑髏マークの小型ゾイドで溢れていた。

 

━━やっぱりあのゾイド……さっきの!……

 

 レイはまだ10歳になったばかりの少年だ。彼は何も出来ず、悔しさのあまり歯を食いしばる。そんな中、勇敢にも抵抗し戦う者もいた。

 

「奴らに里を壊されてたまるか!」

 

「皆で守り抜くぞ!」

 

 それは農夫達だ。彼らは自分達の里を守ろうと農耕用のゾイドに跨り、鍬等を手にして果敢に山賊へと挑む。だが彼らの勇気も虚しく、銃器を装備した戦闘用ゾイドには全く歯が立たない。次々と蹂躙されていく。そしてそこに、里の盾であるはずの騎士団の姿が見えない。

 

「……騎士団たちはどうなったんだ?」

 

 騎士団たちの乗るカノントータスやゴドスといったゾイドもまた、次々と破壊されていた。山賊の乗るゾイドは共和国のアタックゾイドが中心だったにも関わらず、連携の取れた動きで次々と騎士団のゾイド達を破っていったのだ。

 

━━ラーク騎士団まで……とにかく家に急いで帰らなきゃ。

 

 レイは必死に隠れながら家へと向かう。レイの鼻に家が燃える臭いが家の方角から臭う。不安を抱えながら坂を一気に上がりきる。そこにいつもの景色はなく、家が燃え盛っていた。

 

━━遅かった!

 

 膝に手を置き、息を切らす。呼吸をする度に彼の口からは白い息が出る。レイは落胆し地面を見ると、一匹のネズミがチョロチョロと足元へとやってきた。

 

「ローレン! 生きてたのか!」

 

 ローレンを直ぐ様手に取りしっかり撫でる。ローレンもレイとの再会を喜ぶ様に、彼の目を愛さらしい目で見つめながら、鼻と耳をピクピクとさせる。ローレンを胸ポケットへそっとしまい込むと、安心したように丸くなった。

 

━━ガキン! ドッ!……ガッ……

 

 家の裏の畑から金属のぶつかる音と、ゾイドが地面を蹴る低い音が聞こえる。咄嗟に木の陰に隠れ音の鳴る方を見ると、山賊のアタックゾイド3機と激しい戦闘をするバトルローバーの姿が見えた。

 

「おばあ……ちゃん?」

 

 祖母のローザだ。彼女は連携する山賊たちを翻弄するかのように、納屋の屋根に登ったり左右へと攪乱する。

 ランドローバーは元は戦闘用ゾイドだが、バルカン砲等の武装を外した言わば民間用仕様だ。つまりローザは自身の剣術による打撃でしか攻撃出来ないのだ。対する山賊達は通常の兵装に加え、様々な改造が施されている。

 

━━ドドドドドッ!……

 

 カンガルー型ゾイド、ショットダイルの側頭部に追加されたへビーマシンガンが火を噴く。それを━━ザッ!っと華麗に避けるローザ。その彼女に空から追撃する鳥型ゾイド、ソルディスの2連砲が襲いかかる。

 

━━ダダダダダンッ!…

 

 立て続けに地面から待ち伏せしていたアルマジロ型ゾイド、サラディンのビームが追い討ちをかける。通常のパイロットであれば、これだけ囲まれると忽ち降参するしかないだろう。だが彼女は違う。彼女はゾイドを性能以上の能力を引き出し戦っている。それはまさしく歴戦で磨かれた業だった。

 

「おばあちゃん頑張れ!」

 

 その姿を木の陰から見ていたレイは、思わず体を乗り出し声が出る。

 

「レイ?」

 

 ローザがレイに振り返り彼を認識すると、ランドローバーの脚で砂を周囲に撒き散らす。山賊の視界を奪った一瞬の隙をつきランドローバーをレイに向かわせ走らせる。ローザはランドローバーの左側に体を低く倒すとレイの身体を腕で力強く掴み取った。

 

「うわっ!」 

 

 ローザは左脇にレイを抱えたままゾイドを走らせ、ひたすら里を下っていく。両親の姿をまだ見ぬレイは不安になり、揺られながらローザに尋ねる。

 

「父さんや母さんは?」

 

「……」

 

 ローザは少し沈黙したあと、落ち着いた声でレイに語りかける。

 

「レイ……いま貴方は自分が助かる事だけを考えなさい。そうでなければ、奴らは拉致するか、抵抗すれば皆を殺す気よ。貴方のお父さんやお母さんのように……」

 

「え?……」

 

「ごめんなさいレイ……突然の事だったの……。彼らは突然現れては問答無用に火を放ったわ。私がその対応に出ていた隙に襲われていたの……」

 

「でも生きてるんでしょ?」

 

「いいえ、レイ。お父さんとお母さんは奴らに抵抗したために、殺されてしまったわ……」

 

「……」

 

 レイは突然の事に、全く状況を理解が追いつかない。

 

「けど彼らは勇敢だったわ。誰しも立ち向かえるわけではないないもの。そして彼らが守ろうのした貴方を、私はこの命に変えてでも守ると約束したの」

 

 ドナーは日々戦うことに関しては否定的だった。だが彼は最期には抑えきれない怒りと、ゾイド人としての誇りと本能が、彼を突き動かしたのだった。

 状況を必死に整理しようとするも、両親の死の実感のないレイは、ただただ困惑していた。ローザは目を合わそうとせず、しっかりと抱きしめながら絞り出すように声を出す。

 

「2人からの伝言よ。……貴方を心から愛している。そして、自由と平和の中で、自分らしく生きてくれと……」

 

 その言葉を聞いた途端、レイは思わず思いが込み上げ涙が溢れて出る。彼らのレイに対する愛が伝わったのと同時に、二度と戻らぬ昨日までの平穏な日々への喪失感。そして黙って里を出た事で死に目に会えなかった悔しさが、レイの心を掻き乱す。レイは止めようにも止まらぬ涙と胸の苦しさで声を出して泣いた。

 すると突如、正面から山賊のカンガルー型アタックゾイド、ショットダイルが、彼が悲しむ暇さえも与えぬように現れた。それを華麗に交わし、剣を交える。

 

「くっ……」

 

 ローザはレイを抱えながらでは、思うように戦えない様子だ。隙を突かれたローザとレイは山賊の体当たりにより、レイはローザの手を離れ吹き飛ばされてしまった。透かさず大勢を整えるローザは、ショットダイルとレイの間に入る。

 

「レイ! 今のうちに走るのよ! 早く!」

 

 レイも涙ぐみながら叫ぶ。

 

「おばあちゃん! 僕も戦いたい! 僕は自警団なんだ!」

 

「あなたにはまだ無理よ! それに大丈夫よレイ。こんな奴らに負けたりなんかしないわ。だから早く森へお逃げなさい!」

 

「そんな……俺……」

 

 彼の答える声はいつもの元気はなく、弱々しくか細い。するとローザは凛とした声でレイに向けて話始める。

 

「……レイ!……忘れないで! 貴方には雷光のご加護があるという事を! さぁ、行って! 早く!」

 

「おばあちゃん! 頑張れ!」

 

 溢れる涙を拭いながら森へと一心不乱に走るレイ。途中山賊のアタックゾイドから隠れながら逃げる。途中イーサンの家が、そしてジャックの家が焼けているのが見える。だが辺りには山賊に溢れ、とても近づける状態ではない。激しい鼓動と激しい涙で呼吸がまともに出来ない。

 

「もう……走れない……」

 

 足がガクガクと震える。呼吸が乱れたこと、そして朝から遠く離れたトロフから足を休めていないからだ。

 

「くそ!……動け! 動け! 動け!……」

 

 レイは流行る気持ちとは裏腹に、思い通りに動かない脚を激しい涙を流しながら叩く。すると、突如として山賊のカマキリ型ゾイド、カマキラーが目の前に躍り出る。

 

「おいクソガキ。どこに行く?」

 

 口髭を携えた大柄な男が道を塞ぐ。思わず反対方向へ逃げるレイ。だが、恐怖の余り腰が抜けて思うように走れない。ふらふらと歩くレイに、男はコックピットからゆっくり降りると、右手に無線を持ち悠々と近づいてくる。

 

━━ここで戦わなきゃ!……

 

 レイは走るのを止め振り返る。勇気を振り絞って背中に担いだ木剣を構えるも、恐怖で手と脚が震え、呼吸も安定しない。

 

「スーー……フー……」

 

 一呼吸をして呼吸を整えるも、あまりの恐怖に木剣を握る手が思うように力が入らない。

 

「おら!」

 

 男が左手を大振りに拳を構える。息を切らしたレイでも見切れる動き。祖母ローザから教えて貰った右への入り身をし、男の背後を捉えると首元へと飛びかかり、木剣を思いっきり振りかざす。何度もローザと反復練習をしたお陰で身体が勝手に動いたのだ。レイはいつの間にか恐怖は消え、いつものように木剣を力強く握りしめている。

 

━━やった!

 

 手応えあり。レイは首にしっかりと剣が当たる感触が手に伝わる。ローザから習った通りの動きが出来たのだ。しかし彼の手応えとは裏腹に、男は平然とその場に立つ。その時、突如町の中央から巨大な咆哮が聞こえ、里に響き渡る。

 

「グオオオオオオオオオ………!」

 

 巨獣ゴジュラスの咆哮だ。誰かがゴジュラスを起動したのだ。だが、今この2人には関係のないことだった。

 

「ほお……なかなか根性はあるみてぇだな」

 

 男は振り向くと首に当てられた木剣を握り強く引っ張る。レイは手から木剣が簡単に取り上げられ呆気にとられる。

 

「あ……」

 

 その呆然としたレイの顔に、男は重たいパンチで殴り、脳震盪を起こしたレイは気を失った。すると男は無線で報告する。

 

「俺だ、ジョンだ。ガキを捕まえた」

 

〜続く〜




これまでの平穏だった生活が全て無くなってしまったレイ達。これも今後彼がヴォルフを憎む理由や、平和と自由の為に執拗に戦う行動を逆算した結果でした。
因みにこの山賊達、もしかして?と思った方がいるかもしれませんね。ゴジュラスの起動やゼネバスでは無かったこと。拉致する理由も今後明かされるので、是非楽しんで続きを読んで頂ければと思います。
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