━━グレ……ク……尉……グレック少尉……
何処からか自分を呼ぶ声が聞こえる。
「グレック少尉! 聞いてますか?」
サヤカが凄い剣幕でレイを睨みつける。
「あ……ああ。すまない。なんだっけ?」
「もう! だから、これからどうしますか? ここでのんびりご飯を食べるのも良いですけど、早く足取りを追わないと逃げられちゃいますよ!」
サヤカは塩たっぷりのコーヒーを飲み、周囲を見渡す。ここは盗賊が横柄にしていた町、ペルセポーネだ。そして彼らはパン屋にある屋外テラスで休んでいた。
「それにしても、どこも綺麗な小麦ですねぇ。でも小麦の収穫時期は10月だったような……」
「この地域は南半球にあるから季節が逆なんだ。だから4月の今が収穫収穫時期なんだよ」
ここペルセポーネは小麦がよく育つ町だった。その金色の景色を眺め、レイは幼い頃に里を抜け出し冒険に出た事を思い出していた。
「グレック少尉。物知りなんですね!」
「父が農夫だったからな」
「意外ですね! レオマスターになる方なので、もっとこう《ザ・戦闘民族ゾイド人》って感じだと思っていました」
「おいおい失礼だな。レオマスターは戦い以外だって色々と教わるんだぞ」
「へえ〜。例えばどんな事ですか? はむ……」
サヤカは惣菜パンを口に含むと、もぐもぐと咀嚼しながらレイの答えを待つ。
「ビーチバレーだ」
「???……」
サヤカは思わず咀嚼止めると、彼らの間に暫しの沈黙が流れる。口にあるパンをゴクリと飲み込み、コーヒーを飲む。
「……えっと、冗談は兎も角、奴らの足取りを捕まえなくてはいけません。町で情報を探しましょう。何か知っている人がいるかもしれません」
━━無視されてしまったな……
カフェを出て広場へ向かう2人。店を構える店主や酒場、道行く人へ声を掛けては盗賊やコインに関する事を聞くも、中々有力な情報が手に入らなかった。
「せめてジョニー達盗賊の居場所さえ分かれば良いのですが……」
サヤカも盗賊達のアジトに辿り着けない事にもどかしさを感じる。
「尻尾を掴めない辺り、奴らも意外と用心深いのかもしれないな……」
2人とも盗賊への手がかりが掴めず、お手上げの状態であった。その時、誰かが何かを訴える声がする。
「誰か助けてくれ! 妹が!……」
何やら緊迫した様子で1人の青年が、道行く人に手当たり次第何かを訴えている。だが、道行く人達は彼の訴えを無視するかのように、素通ってしまっていた。
「どうしたのでしょうか……」
サヤカは心配そうに青年に目をやるも、レイは今はそれどころではないという表情で、辺りを見回していた。
「わからない……今はとにかく盗賊の足取りを追う為ににもまず町の人に聞き込みをしよう。まだ町の外れにある農村への調査がまだだからな。クーイン少尉はまず町の……ってあれ?」
レイがサヤカに振り返ると隣にはおらず、既に少年と何やら話を始めていた。
「ちょっとおい、今は構ってる暇なんかないぞ」
レイは急いで駆け寄るものの、既に話は進んでいたようで、サヤカは深刻そうにレイに訴える。
「グレック少尉、聞いてください。彼の妹さんが行方不明になっているようなのです」
サヤカは深刻そうな表情でレイに訴える。すると青年もレイへ向けて訴え始めた。
「あんたら共和国軍人か?……頼むよ、妹が攫われたんだ。どうか助けてくれ」
金髪の青年は藁にもすがるような顔でレイを見つめる。レイは困惑した表情で青年を見つめる。
「きっと盗賊達に誘拐されたんだ。間違いない」
「これは黙ってはおけませんね。きっとあの盗賊達です」
「違うかもしれないだろ?」
「私の直感を信じてください! それに、今は手がかりに繋がるものが無いのが事実です」
レイは彼女の説得により渋々付き合う事にした。
━━
金髪の青年の名前はフリンと名乗った。今はこの町の外れで妹であるフェルミスと2人で自給自足の生活をしているようだ。彼にとって彼女は唯一残された家族なのだが、その彼女が山菜採りに行ったきり帰って来なかったという。そして彼女が向かったとされる場所に探しに行くと、山菜の入ったバケットが落ちており、そこには戦闘ゾイドの足跡や焚き火等が散らばっていたという。3人は直ぐ様その現場へと向かっていた。
「あんた、なんで助けてくれたんだ?」
フリンはシールドライガーの後部座席でレイの荷物に挟まれながら不思議そうに尋ねる。
「お前……ゼネバス出身なんだろ?」
レイには思い当たる節があった。町の彼に対する冷たい態度。そしてゾイドを持たず自給自足を強いらている彼らの話を聞き、かつてのラークの里でのロームやアンリ達の姿を思い出していた。
「……もしかして、助けるのは嘘か?……」
フリンはその言葉を聞くと、警戒する。彼はゼネバスの血という理由だけでかなり人から裏切られ、虐げられたのだろう。
「大丈夫だ、安心しろ。俺は昔ゼネバス領にいた。俺自身はゼネバスの人間じゃないが、お前の立場は少しは分かる。だからさ」
「……俺は妹のフェルミスさえ無事でいてくれればそれでいい……俺にとって唯一の希望なんだ……」
「ああ。必ず見つけてやるよ」
レイは一瞬本来の任務を忘れ、感情的に答える。
━━いつの時代もこうなのか……
レイは心と世の中への疑問を感じながら、シールドライガーを失踪現場へと向かわせた。
━━━━失踪現場
失踪現場へと到着した彼らは、サヤカを囮にし待機していた。
━━クーイン少尉。うまくやってくれよ……
フリンの話によると、ここはフェルミスが失踪した後も度々盗賊達が野営地として使っていた。そしていまはサヤカを囮にし、油断した隙を見て盗賊を捕らえる作戦だ。レイはサヤカの演技が上手くいってくれる事を願う。すると複数の戦闘ゾイドの行進する音が聞こえてくる。
━━きたか……
モルガ、ステルスバイパー、イグアンだ。3機のゾイドは野営地にゾイドを停め、コックピット降りる。その中に、先日酒場で会った盗賊の一味であるエストポの姿があった。
「おい、みんな見ろよ。俺達の休憩所に女がいるぜ?」
「おいお嬢ちゃん。ここは俺達の場所ってのを知ってやってんのか?」
盗賊達はニヤニヤと笑いながらサヤカへと近づく。
「お待ちしておりました殿方様。私はサヤカと申します。殿方様の勇姿に惹かれて私を連れて行って欲しいのです……」
サヤカはフードを被り、淑やかに答えた。
━━なかなか上手だな……
レイは遠くから双眼鏡に映るサヤカの演技ぶりに感心する。
「ひひひ。ならまず俺にご奉仕しろ。おいお前達! 周りを見張ってろ! そしてジョニー様に言うな?」
エストポは装備を外しサヤカに近づいて行く。残りの2人は再び見張りの為にゾイドへ乗り込もうと戻る。
━━よし、今だ
レイはシールドライガーを起動させると、一気に走らせる。エストポのモルガを吹き飛ばすと、シールドライガーは彼らを威嚇するように咆哮する。突然の事に呆気にとられる彼らの隙に、サヤカは腰から拳銃を取り出した。
「動くな! 手を挙げろ!」
サヤカは覇気のある声と取り出した拳銃で盗賊らを脅す。盗賊達は観念したのか、自ら手を挙げた。盗賊を休憩所の小屋へと連れ込むと、彼らを椅子に縛りあげると、早速尋問を始めた。
「私は共和国軍少尉のクーイン少尉。そして彼はグレック少尉。そしてそこの繋ぎの青年はフリン。私達は彼の妹であるフェルミスという女性の行方を追っているの。彼の話では彼女はここで失踪したと言っている。貴方達、居場所を知ってるでしょ?」
サヤカは毅然とした態度で尋問する。
「へっ。知ってた所で教えるかよ」
エストポはサヤカの足元へ唾を吐き捨て、挑発する。その様子を見た他の盗賊も続けてクスクスと笑い出す。
「笑えないわね。答えない気?」
サヤカの尋問が始まるも、ニヤニヤと笑うエストポら。
「へへへ、分かってねぇなお嬢ちゃん。お前達は誰にこんな事をしてると思ってる。俺達はジョニー様の直属護衛隊だぞ? こんな事をしてると知ったらただじゃ済まないぜ?」
仲間の盗賊がエストポ同様ニヤニヤとしている。レイは腕を組みその表情に不快感が込み上げるも、感情的にならないよう抑えていた。フリンも怒で拳を強く握りしめる。そんな彼らの様子を見て、サヤカも少し強くエストポへ詰め寄る。
「ジョニーだかジャーキーだか知らないけど、分かっていないのは貴方達の方よ。西方大陸や帝国は盗賊に対して寛大かもしれないけど、共和国はそうではないわ」
そう言うと、サヤカはレイに目配せで合図をする。それを見たレイは立ち上がり、エストポの顔面を思いっきり殴る。
「ぐあ!……」
エストポは縛られた椅子ごと後ろに倒れる。レイは倒れたエストポを起こす。その様子を横で見て動揺する盗賊達。
「何しやがる!」
「ん? クーイン少尉の話に答えないのなら、痛めつけるだけだ。それに、前回のゾイドでの決着もまだついていなかったからな」
レイは再びエストポの顔面を殴り、再び椅子が倒れる。そして馬乗りになると、淡々とエストポの顔面を殴り始めた。レイは出会った時からエストポの態度が気に入らなかったのか、腹いせのように何度も殴る。
「ふが……が……が……がっ……だ……ふぁぐわ……っだがら……ぶ……」
エストポは何度も殴られて痛みの余り弱音を吐く。
「ようやく話す気になったか?」
「ぐ……」
顔面血まみれになったエストポの椅子を元に戻すと、サヤカは再びエストポに尋問を始める。
「さて、本題に戻るけど、この人に見覚えはあるかしら」
サヤカはフリンから預かったフェルミスの写真を盗賊達に見せる。
「ああ、その女。ジョニー様が気に入って持って帰ったぜ。自分の侍女にするってな」
「妹を返せ! いま何処にいる!」
「ふぎ!」
フリンは怒りに任せてエストポを殴る。
「分かったからもう殴らないでくれ! 今は野営地にいるはずだ! 道案内はするから! 頼むもう殴らないでくれ!」
「他にもお前達が拉致した人間はいるのか?」
レイは再びエストポの胸ぐらを掴み、拳を上げてエストポを脅す。
「いやいない。嘘じゃない、本当だ。信じてくれれ……」
エストポはその巨体に似合わず、今にも泣き出しそうな顔をしている。レイはポケットからコインを取り出す。
「……ならこのコイン。これは何だ?」
レイは持っていたHBのコインをエストポに見せる。
「それはジョニー様から頂いたガイロスへ入る為の通行証だ」
「何故このコインが通行証になる」
「俺には分からねえよ。ただ見せたら通れる。それだけだ。あとは何も知らねえ」
「この《HB》の意味を知っているか?」
盗賊達は顔を横に振る。どうやら本当に知らないような表情だ。
「分かった。とりあえずアジトまで案内しろ。その後お前達をどう取り扱うか、そこで検討しよう」
「こんな奴ら……殺してしまえ!」
フリンは怒りを抑えきれず拳を強く握り、盗賊達を強い眼光で睨む。その彼をレイは手で制止する。
「待てフリン、落ち着け。俺もお前のその気持ちは分かる。だが彼らはいま協力をしてくれている。あとの裁きは共和国軍でやるから、お前はフェルミスだけの事を考えてくれ」
「くっ……悪党共め……」
「大丈夫だ。共和国には秩序を破った人間に対してある伝統がある。な? クーイン少尉」
レイはニコッと笑いサヤカを見る。
「ええ、任せてください」
サヤカもレイの意図を察した様に、笑顔で返す。盗賊達とフリンは何事か分からない様子だった。
━━
森を駆けるシールドライガーとコマンドウルフ。そこ
「ぬぁーー! 止めてくれ、頼む! 止めてくれー!」
盗賊達3人はコマンドウルフの左脛に縛られている。コマンドウルフが動くたびに上下前後と大きく身体が激しく動く。
「さ、こんな事で音を上げていてはいけませんよー! いくよウルフ!」
サヤカは楽しそうにコマンドを蛇行させ、わざと危ない操縦をする。これは共和国軍内で規律を乱した者に対する罰であり、長年の伝統だった。盗賊達はその後も高速で移動しながらの激しい揺れに耐えきれず、ただひたすらに悲鳴をあげる。レイとフリンはシールドの副座席からその光景を、楽しそうに眺めていた。
〜続く〜
レイの幼少期から再び現代に戻りました。過去と現在が同時に進行し、断片的回想を取り入れ、それぞれの謎が繋がっていくような構図にしてあります。
この辺りは特に独自で考えたものが多いので1話辺りにかかる時間が増えてます。
最後まで是非お楽しみ下さい!