「こんな所にこんな道があったなんて……」
何処までも続く闇の回廊を、2体の機械獣が静かに進む。鍾乳石が天井から垂れ下がり、時折、滴る水が「ポチャン」と音を立てる。サヤカとレイは暗視装置を起動させて慎重に洞窟を進んでいた。
「真っ暗ですね……」
サヤカが呟く声は、洞窟の壁に反響して何重にも返ってくる。レイ達一行は、エストポの案内によりジョニーの潜伏地へと目指していた。
「お嬢ちゃん、足元に注意するんだな。特によ、右側の崖は落ちたら戻ってこれねぇからな」
エストポは手足を縛られた状態でコマンドウルフの銃座から話しかける。他の盗賊2人は近くの共和国軍前哨基地に預けており、エストポは道案内として連れてきたのだ。
「凸凹していて歩き辛いです……」
サヤカは凸凹した足元を暗視装置越しで慎重に歩く。この洞窟は共和国軍にも帝国軍にも知られていない、言わば現地人のみが知る道なのである。エストポら盗賊はこの洞窟を使い、周りからの目を掻い潜っていたという訳だ。
「うわ……ここの亀裂、ずっと先まで続いてますよ……」
「クーイン少尉、下を見るな。吸いこまれるぞ」
サヤカが地面の亀裂を覗くと、まるで闇が彼らを誘うように━━ヒュー……と風が吹き上げる。……。
「ひいぃ……」
サヤカは思わず崖から素早く離れる。
「しかし、この洞窟は狭いな……」
巨大な洞窟とはいえ、シールドライガーにとっては天井スレスレだった。レイはシールドの姿勢を低くさせながら先頭のサヤカに追従するも、時折鍾乳石の先っぽが機体の上部にコツンコツンと当たる。
「こんな所、長いこといたら気がおかしくなりそうだぜ……」
シールドの後部座席に座るフリンはレイの後ろから呟く。彼は不気味に続く洞窟を見渡すと身震いし、身体に緊張が走っていた。
「もう少しで開けた場所に着くはずだ……ほら、見てみろ」
エストポが言うように、洞窟の抜けた先には視界が開けるように巨大な空間が広がっていた。そこはまだ洞窟だったがあまりの巨大さに初めて訪れた3人は辺りを見渡す。
「見てください! こことても広いですよ!」
サヤカは目を輝かせあちこちを見回す。
「なんだここは!? 洞窟にこんなものがあるなんて……」
先ほどまで縮こまっていたフリンも、シールドの副座席から景色を見ようと身を乗り出した。
「ああ……本当にすごいな……ここは……」
レイもその光景に圧倒される。そこには山が一つ入るくらいの空洞が広がり、中央の天井の裂け目からは一筋の光が差し込む。光が当たる周囲には草木や花が生い茂り、神秘的な世界が広がっていた。
「見ろよ……あちこちに柱が……」
空洞の至る所には、天井を支えるかのように巨大な四角柱の岩がそびえ立ち、人工的に施された模様のようなものも見える。
━━もしかして、ここは古代遺跡なのか?……
空洞中央から差し込む光の先には大穴が開いており、遠くからでもその大きさが分かる。
「エストポ。あの光の下にある大穴の先には何がある」
「ん?……あそこは地底世界に続く穴だ」
「地底世界?……」
「噂じゃ地上の様な風景が広がり、野生の巨大ゾイドがウジャウジャといるらしい。古代からのゾイドもいるっていう噂だ。一度入ったら最後、二度と戻ることは出来ねぇ……」
かつてゾイドは地上を支配していた。しかし、幾度となる地殻変動や人類による兵器がにより、地上において野生のゾイドはあまりいなかった。そして野生ゾイド達はこの地底世界のように、各地の地下において生息していたのだった。
「ゾイドのユートピアってとこか……」
━━彼らは人からの干渉を受けることもなく、自由に暮らしているのだろうか……
レイは野生ゾイドの暮らす世界に想像を膨らませる。
「二度と戻らないのに、エストポはどうしてその話を知っているのかしら?」
サヤカがエストポに尋ねる。
「昔ゾイドを捕まえようと入った奴らがいたみたいだがよ、誰も帰ってこなかったって話だ。俺ならどんなに宝が眠ってても絶対行かねぇけどな」
「どちらにせよ、落ちないようにしないとな」
進むうちに道は狭まり崖に沿う。崖から絶えず━━ビュー……っと風の音がする。そして踏みしめる土には少し湿り気があり、泥がシールドの足にへばりつく。
「気をつけろクーイン少尉。地盤が不安定だ」
「は、はい……少し足元が滑りますね……」
その時だった。
━━カツン……カツン……
頭上から小石が落ちコックピットに当たる。見上げると、岩壁が波打っていくのが見える。
「……ッ! 上だ! 崩れるぞ!」
━━ピキッ……ピキピキ……
徐々に岩壁のひび割れが広がっていく。レイは反射的にトリガーを引き叫んぶ。
「クーイン少尉、急げ!」
「は、はい!」
レイはシールドライガーのブーストを点火させ、一気に加速させる。
「うわあー!」
後部座席で身を乗り出していたフリンが突然の加速にシートに打ち付けられる。レイはフリンに構わず頭上を見ると、ひび割れが彼らを追うように這っていた。一方サヤカのコマンドウルフは、泥により足元をとられ思うように進めたいでいる。
━━くっ…このままじゃ間に合わない……
咄嗟にトリガーを引き更に加速させると、サヤカのマンドウルフへと体側をぶつけて押し飛ばす。
「きゃああ!」
すると直後に後ろから轟音とともに天井が崩れ、巨大な岩塊が落下していく。
━━ガコンッ!……ゴゴゴゴッ!!……
寸前で岩が砕け散り、砂煙と轟音が洞窟を満たす。レイのシールドも間一髪岩を避ける事が出来た。
「ふう……なんとか避けれたな……」
「きゅ……急に勘弁してくれよ! こういうの慣れてないんだから!」
フリンは高速戦闘ゾイドはおろか、ゾイドに乗るのも初めてだ。そんな彼は突然のGに気が動転し、怒っていた。
「ああ、すまないフリン。咄嗟のことだったからな。次からは事前に言うようにするよ」
「このフワッした感じ、本当に気持ち悪かった。なんだかモヤモヤするぜ……」
フリンは慣れないスピードに疲れが一気にきたのか、ぐったりとする。一方サヤカは、吹き飛ばされ横たわったコマンドの姿勢を立て直そうとした。
「少尉! 危ない所でした。ありがとうござ……!?」
その言葉が終わるより早く、突如コマンドの足元が崩れた。先程の岩の衝撃で地盤が緩んでいたのだ。落とし穴のように地面が崩れると、サヤカのコマンドは地中へ吸い込まれていった。
「きゃああああっ!」
「ぬぉあああ!」
サヤカとエストポが悲鳴をあげる。
「クーイン少尉!」
コマンドウルフは深い闇へと飲み込まれていく。レイは崖縁に駆け寄ると、通信を飛ばす。
「クーイン少尉! 応答しろ! 無事か!?」
「……いててててて……はい! 大丈夫です!」
「良かった。そこには何が見える?」
「えっと……四角いトンネルの様な通路が……」
━━通路?……遺跡か?
ここ西方大陸には数多くの遺跡が眠っていると聞く。共和国軍と帝国軍はその遺跡を巡り領地を拡大していたものの、未だ発見されていない遺跡も数多くある。
「そこから登ってこれそうか?」
「いえ……天井までかなり距離があるので無理そうです……どうしましょう……」
「おいおい頼むぜお嬢ちゃん! こんな所で犬死になんて勘弁してくれ」
レイは少し悩む。
「……分かった、とりあえず今からそちらに向かう。そこで穴から離れて待っていてくれ」
「マジかよ、ここに飛び込む気か!? 何があるか分からないんだぞ」
「当然だ。仲間を置いてはいけない」
「ちょっと待ってくれ! 俺の妹はどうなるんだ?」
「もし、お前の妹が下にいるとしたら、どうする?」
フリンはレイの言葉に返す言葉が見つからなかった。
「……分かった……ゆっくり降りてくれよ」
「そういう事だ。 行くぞライガー!」
━━グオオオオオオ!
シールドの咆哮と共に、レイはシールドをジャンプさせ、サヤカの落ちた地中へと飛び込んだ。
「うあああ! ゆっくりって言っただろー!?」
壁に爪をたて、落下スピードを遅らせる
━━ザザザザザザ! ズドーンッ!
……着地。落下のスピードを遅らせてはいたものの、強い衝撃がコックピット中に伝わる。
━━よし。
「おいフリン、大丈夫か?」
レイが後部座席を確認すると、フリンは荷物に埋もれて気絶していた。慣れない高速ゾイドの機動に気が動転してしまったのだ。彼はゾイドに乗ったことのない一般人だ。無理もないだろう。
━━少し寝かせておくか……
レイは気を取り直し、辺りを見回す。そこには左右に続く真四角に切り抜かれた通路が幾度となく続いている。
「グレック少尉、壁を見てください。模様が沢山ありますよ」
サヤカはコマンドを通して壁を眺めている。レイもシールドのモニターから壁面を拡大させると、何やら模様が無数に刻まれているのが見えた。
「ここはいったい……」
その模様の中には、ゾイドと人が共に描かれてある。他にも見知らぬ文字が沢山刻まれていた。
「おいエストポ。これが何か分かるか?」
「いや……俺もこんなの、初めて見たぜ……」
エストポも辺りを興味津々に見回す。するとエストポがあるものを目にし、声を張り上げる。
「おい共和国さんよ! あそこに光が見えるぜ? 出口じゃねぇのか?」
エストポが言う方向を見ると、わずかだが光が漏れているのが見える。レイは出口が分からない以上、光に進むしかないと考えた。
「そうだな、とりあえず行ってみよう。クーイン少尉、動けるか?」
「はい。幸い軽い打撲だけで済みましたので」
「よし、行こう」
2人は僅かに漏れる光を目指しゾイドを歩かせた。先ほどの洞窟とは違い、足元が綺麗に舗装されている。明らかに人工的な作りだが、土や泥、浸水によって明らかに汚れ、整備されていないのが分かる。数十年は使われていないようだ。
「これも古代ゾイド達の遺物というのか……」
この真四角に切り取られた通路。数十年以上前にしては、それが余りにも不自然な程に綺麗過ぎるのだ。
「こんな凄い技術を持っていながら、何故滅びたのでしょうか……」
サヤカが言うように、古代ゾイド人の遺跡には現代では考えられない程のオーバーテクノロジーが数多くあると聞く。だがどの古代ゾイド人も滅亡してしていた。
「技術か……」
レイは呟く。以前の女盗賊が乗っていた光学迷彩がちらつく。地球人が飛来してから約70年。その間目まぐるしい技術の発展をしたものの、現地のゾイド人にとっては手に余る技術なのだ。共和国は更なる技術の発展を遂げるガイロスへ恐怖していた。
「そろそろ光に辿り着きますよ!」
4人がたどり着いた場所には、開けた銀色の四角い空間があった。先ほどからの光りは、奥にある巨大な建造物から煌々と放たれている。
「なんだ?……これは」
その巨大な建造物は周りに4つの巨大な柱に囲まれ、様々な管が部屋中に張り巡らされている。
「もしかして、これが古代遺跡?……」
「俺もこんなのをみたのは初めてだぜ……」
エストポもその不思議な建造物に魅入っていた。銀色の部屋はおよそ何年も使われていないのか、あちこちに草が生い茂っている。彼らがその不思議な建造物を眺めていると、レイはある異変に気づく。
━━ゾイドの残骸?……
レイは足元のあちこちに転がるゾイドの残骸を見つける。それは共和国・帝国両軍の戦闘ゾイドがバラバラになっており、所々溶けた様な跡がある。
「クーイン少尉……何だか嫌なの予感がする。足元を見てみろ。ゾイドの残骸が転がっている。早くここを離れた方がよさそうだ」
レイは感じている。そしてシールドも何かを察するのをトリガーから感じる。得体の知れない何かがここに存在するのを……。
━━ズズズズ……
何か巨大なものが引きずる音が聞こえる。
「グレック少尉。何の音でしょうか……」
レイはモニターを見るも、センサーに反応なし。
━━ズズズズ……
まだ音がする。だが相変わらずセンサーには反応がない。だが巨大な何かが這う音がどんどんと近づく。空気が軋み、緊張感が増す。
━━例の光学迷彩か?……
「クーイン少尉、センサーに映らない敵かも知れん。目視で探すぞ」
レイもシールドも何かを感じていた。ここには何かいる。蠢く何かが……それも一体ではない。そこら中から視線を感じていた。
「了解です!」
レイは目視で辺りをよく見渡す。よく見ると銀の壁や地面には無数の大小の穴が空いている。すると一つのある穴から、ゆっくりと動くものが見える。その姿に彼らの背筋が凍り、虫唾が走る。
「あれが見えるか? クーイン……」
「な……なんなんですか? あれは……」
その姿にサヤカは凍りつく。
━━グルルルルル……
シールドの警戒心が増し、喉が鳴る。レイはシールドの攻撃的な敵対意識が高まるのを、トリガーを通じて感じとった。
━━こいつは一体なんなんだ?……
レイもまた得体の知れないその姿に言葉を失っていた。
〜続く〜
やはり西方大陸といえば、地底世界、古代ゾイド人の古代遺跡やロストテクノロジーだと思い、今回はそういったゾイドの世界観が広がるようなお話になっています。
また、ゾイドFBを知っている方やゾイドゲームをした事があるかっなら、更に世界観が見えたのではないでしょうか。
さて、次回、レイ達が目撃したものとはいったい何だったのでしょうか。
お楽しみ下さい!