レイ・グレック サーガ   作:ゼル・ユピート

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第3話 模擬戦闘訓練

 抜けるような青空の下、広大な荒野が広がっていた。足元は大小の岩が転がり、ごつごつとした大地が続く。

 ウィナーは通信越しに、高揚した声で笑った。

 

「へっ、相手はコマンドウルフかよ。いくらレオマスターでもシールドライガーと2機と戦うのは無謀ってもんだろ」

 

 レイとウィナーが乗るシールドライガーの蒼い装甲が、陽光を受け鈍く光る。その性能は共和国軍の誇りであり、その俊敏性と圧倒的な加速力、そしてビーム兵器を弾くEシールドは、ゾイド乗りなら誰もが知るトップクラスの戦闘ゾイドだ。2人は、このゾイドのテストパイロットとして、これまで散々乗りこんできた。互いに、このゾイドの性能を限界まで引き出す自信があったのだ。

 

「なぁ、レイ。勝負にならねぇんじゃねぇか? こっちの方が性能が上だろ」

 

「ウィナー、油断するな。相手はレオマスターだぞ」

 

 レイは冷静に返すも、その声には微かな余裕が感じられた。彼らからすれば、レオマスターの称号を持つ教官たちであっても、ゾイドの性能差を覆すことは不可能だ、そう思っていた。

 すると、無線が入ってきた。

 

「あー、こちらHQ(司令部)よりアーサーだ。これより模擬戦闘訓練 作戦名【サンドピット】を開始する。お前らの実力を十分に見せてくれ」

 

 ということは、今回の相手はエミーとセレスであると理解した。あのアーサーがいないなら勝機は十分にある!ましてや1人は女性でコマンドウルフ2機。幾ら岩があるとはいえ、シールドライガーの追尾から逃れられるハズがない…。

 

━━━いける!

 

 2人はほぼ同時にシールドライガーのブースターを最大出力で噴かし、一直線に岩陰へ向かって突進し、コマンドウルフの捜索に出た。

 

「ウィナー、俺は左から捜索する。お前は右の丘から見渡してくれ」

 

「おっけー! さっさと見つけてブチのめしてやるぜ!」

 

 2機のライガーが左右に分かれた。

 

 ウィナーが向う丘の手前に突如、岩山の空際線上に1機のコマンドウルフが現れた。ピンク迷彩に施されている。

 

 ━━なんてカラーだ。あれじゃ女の子のおもちゃのような色だ…

 

「なめやがって…」

 

 そんなウィナーの感情を逆なでするかのように、余裕綽々なエミーの声が通信機越しに響く。

 

「そんなに急いでどこへ行くの?」

 

「おっとこれはエミー教官じゃねぇか! 酒場での件は散々だったが、ゾイドの勝負は勝たせて貰うぜ!」

 

 ウィナーがスナップスイッチを幾つか押し上げると、シールドの鬣が眩く光っていく。

 

「Eシールド全開!」

 

 シールドを展開しがら勢いを止めることなく、一直線にコマンドウルフへ突進する。

 ウィナーはそう余裕を含ませながら、周りを警戒した。セレスの存在は確認できない。向こうもやはり1機だけのようだ。

 

「お手並み拝見ね」

 

 エミーはコマンドウルフを動かそうとせず、挑発するかのようにウィナーが来るのを待っているようだった。

 

「レイ、接敵した! こっちは貰うぜ! お前も早く見つけてやっつけろよ!」

 

「了解! こちらはセレスの捜索を行う!」

 

ウィナーもレイも単機でケリをつけるつもりだ。

 

「うおらー!」

 

 ウィナーはウルフにシールドの大きな爪を振りかざした。

 

「ふふ、出来るものならね」

 

 そう言うと、エミーのウルフはシールドの突進をひらりと躱し、軽快に岩場を駆け上がった。

 ウィナーは直ぐに姿勢を立て直し、追いかける。

 

「なんだ、逃げるだけか? まちやがれ!」

 

 するとシールドライガーのシールドが切れた。

 

━━次にシールドを展開出来るまでは少し時間が必要か。

 

 全速力とシールド全開でエネルギーを一気に使いすぎたのだ。

 その時、ウルフは軽やかに岩から岩、そして影に隠れながら移動していた。たったこれだけの動きだが流石だ。ただ移動するだけでなく、相手にロックされないよう上下左右に不規則に動いていた。つまり銃器は撃っても当たりはしない。

 

━━だが俺には読める……間違いない、ウルフは丘の上へ向かっている。概ね上から見下ろして地の利を生かし、撃ち下ろすといったところか……させるか!

 

 ウィナーは再びトリガーを思いっきり握りブーストを加速させ、ウルフに一直線へと突進した。

 距離にして約20m…

 

━━間違いない、いける!

 

「貰ったー!」

 

 ウィナーが勝利を確信した次の瞬間。

 

━━ドーン!…

 

 突如受けた強い衝撃。

 

「なッ!?」

 

 ウィナーは動揺した。シールドがコンバットフリーズに陥り、戦闘不能となった。

 安全装置により自動でコックピットハッチが開く。ダメージモニターを確認すると、首の左にあるパイプがやられていた。

 

━━エミー少佐ではない……まさか精密射撃? セレス少佐か?だが何処から?

 

 

 そう、エミーはウィナーをセレスの射撃ポイントへと誘導していたのだ。

 

「ゾイドでも負けちまったか…。おいレイ、後は頼んだぜ」

 

 一方、レイはウィナーの撃破音を聞き、その方向を見ると、既にエミーのコマンドがレイに向かって走り出していた。

 

「もう発見されたってことか。流石だ。こちらも先手を打たないとな。」

 

 レイは冷静に思考を巡らせていた。セレスの潜伏位置は依然として不明。ウィナーが誘導されたということは、エミーが動けばセレスも動く。その動いた時がチャンスだ。

 

「ウィナーは焦りすぎたな…」

 

 レイはシールドの駆動音を最小限に抑え、荒野の岩陰を縫うように進む。彼のシールドの動きは、ウィナーのような直線的な加速とは異なっていた。まるで野生の獣が獲物を追うかのように、地形の起伏をわずかに利用し、風の唸りやゾイドの微かな駆動音に神経を研ぎ澄ませていた。

 レイはセレスの射撃地点に到着し、更に神経を研ぎ澄ませながら岩陰を捜索する。いつの間にかエミーの姿は無い。レイは振り切れたと思った。

 そんな時、

 

 ━━影…

 

 明らかに岩陰ではなくゾイド、ウルフの影だ。

 

「そこか!」 

 

 レイはシールドの大きな爪を振りかざし、セレスが潜んでいるであろう岩を砕いた。

 これで相手は動揺したはずだ。その隙にとどめの…

 

━━いない…?

 

 そこにいるはずのウルフの姿がない。

 レイが疑問に思ったその時、まるで岩から湧き出すかのように、レイのシールドの死角、真横の岩陰からウルフが出現した。

 ピンク色の迷彩が、荒野に完全に溶け込んでおり、感じとる事が出来なかったのだ。

 

「残念だったわね」

 

 エミーはレイがウルフの影に気を取られていた一瞬の隙を突き、シールドの喉元にウルフの鋭利なストライククローが突き刺さる。

 レイは体勢を立て直そうとするが、彼女はゾイドの重心を巧みに操り、シールドの背中に飛び乗ると、そのまま重力を利用して、シールドの頭部は地面に叩きつけられた。

 

「ぐっ……!」

 

 モニターにはコンバットフリーズの文字が。

 コックピットハッチが開き、シールドは動かなくなった。

 

「……くそっ……!」

 

 あたりを見ると、太陽を背に丘の上からもう1機のウルフがこちらに銃口を向け見下ろしていた。レイが見た影はまさにその影だったというわけだ。

 

━━完敗だ。

 

 エミーのウルフが飛び降り、レイの側に寄ってきた。

 

「貴方いい動きだったわ。ただ貴方達は目先の獲物に捕らわれすぎよ。 何かに囚われているようね。」

 

━━何かに囚われている……。

 

 エミーの言葉は、レイの心の奥底を見透かしているようだった。その聡明さと、ゾイドをまるで手足のように操るその技量には完全に呆気にとられていた。

 それとは別に、心にあるなにかを感じた…。

 

━━この人ならもしかして…

 

 その後、他の候補生たちも次々とやられていった。ある者はシールの上に乗られ、ある者は脚を掛けられて横転。ピンク色の迷彩を活かした偽装効果により全く発見できず、2機同時に精密射撃を受けリタイアするペアもあった。

 訓練生たちは皆、自分たちのゾイドの性能を活かしきれていないことを痛感させられていた。

 ゾイドのカタログスペックやマニュアルだけでは、このレオマスターという熟練を越えたパイロット達には勝てない。

 司令塔の控室では、脱落していった候補生たちがモニターを通して模擬戦闘を観戦していた。

 

「誰かあの2人を倒してくれ!」

 

 脱落した候補生は悔しさのあまり、他の候補生を必死で応援していた。

 だが、また1人、また1人と脱落する度に、皆が落胆する。

 そんな中、1人奮闘する者が現れた。

 それは女性パイロットのシシリー・ヴォルタ軍曹だった。

 皆、驚いて目を疑った。

 

━━まさか彼女が!?

 

 皆が驚くのは当然だった。彼女もまた、ライガー乗りとしての素養を認められ訓練プログラムに参加していたものの、小柄で大人しく、目立たない女の子だった。

 皆はどうしてこの女の子がここにいるのか不思議がっており、中には「定員割れで無理やり参加させられたんだろう」と揶揄する声もあったくらいだ。そう、他の訓練生からは誰も期待されていなかったのだ。

 

━━そんな彼女が何故?……偶然?……いや、違う

 

 あの動きはまさにシールドを熟知し、相手のウルフの動きを読み、格闘戦を仕掛けていた。

 ギリギリのところでかわすウルフ。

 流石レオマスターだ。普通のパイロットではあの攻撃は予測どころか、攻撃を認識してから避けることすら困難だろう。シシリーのシールドはレオマスター相手のウルフと互角に戦っている…。

 

 だが、レオマスターもまた、確実に銃器による足へのダメージ、シールドに無理な姿勢を繰り返させ、確実に消耗させている。

 

 必死の攻防戦を皆が固唾をのんで見守る。

 

 次の瞬間、エミーの乗るウルフがシールドの前脚にストライククローを決めた。

 片脚を失ったシールドはよろめき、セレスとエミーのウルフがシールに飛びかかった。シールドは崩れ落ち、その場に倒れ、動けなくなった。

 エミーの通信が控室にも広がる。

 

「ふぅ、あなた結構やるわね。久しぶりに良い運動になったわ。ありがとうね。」

 

 模擬戦闘訓練 作戦名【サンドピット作戦】

 まさにレオマスター達にとってはただの【砂遊び】だった。

 

〜続く〜




初めてのゾイド戦ということもあり、描くのがとても難しかったです。セレスやエミーの強さ、ミリタリー要素、地形を専門的になりすぎないラインで描きました。ワクワクしていただければ幸いです。
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