レイ・グレック サーガ   作:ゼル・ユピート

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第4話 追憶

 静まり返った闇夜を、無慈悲で人工的な光が不気味に森を切り裂く。

 夏の湿った熱い空気で息は上がり、額から引くことのない汗を拭う。

 重たい体を無理やり動かして、ひたすらライガーを走らせた。

 

━━頼むからこいつだけは…

 

 必死で懇願した。

 肩から心配そうにネズミが顔を覗かせている。

 

━━大丈夫だ、今度こそお前たちは守る。

 

 レイは追ってくるガイロス帝国軍の追撃を逃れ延びる為、絶えず周りを警戒し、追いつかれないように必死だった。

 闇夜の静寂を掻き消すかのように、背後から軍用ゾイド独特の機動音が近づいてくるのを感じる。

 状況は最悪だった。

 上空にはガイロス帝国昆虫型ゾイド「サイカーチス」が編隊を組んで森を舐めるように眺め、海上と湖上には海戦ゾイド「ブラキオス」が待機している。背後には、同軍2足恐竜型ゾイド「マーダ」が追撃していた。

 特にマーダは地上ゾイドにも関わらず、最高500km/hを叩き出す。

 実質、このゾイドに追われてしまった者は逃げ切れない。

 だがこんな絶望的な状況の中、ライガーもレイも諦めてはいなかった。

 

━━失うわけにはいかない。

 

 するとレイの思いを打ち砕くように、目の前に突如としてビームガトリングが火を噴いた。

 咄嗟に避けるライガー。野生ゾイドだからこそできる反応だ。木と木を掻い潜り、ビームをよけていく。

 ガトリング砲の発射炎から相手のゾイドが微かに見える。

 ガイロス帝国軍電子戦闘ゾイドのゲーターだ。

 

━━くそっ! 右へ逃げろ!ライガー!

 

 必死に叫ぼうとするが、全く声が出ない。

 

━━このままだとまた!

 

 すると直ぐにマーダが直ぐ後ろから飛んできた。

 逃げ場がない…。

 

━━どうすれば逃げ切れる…。

 

 突如として赤いコマンドウルフが右から現れ、背中のビームキャノンがレイ達にめがけて火を吹いた。

 ビームはレイ達の足元の地面に直撃し、レイは木に向かって吹き飛ばされ、叩きつけられた。

 

 重たい体は地面から離すことができず横たわる。   

 朦朧とする意識の中、レイは連れ去られていくライガーに必死に手を伸ばしたが、指先は空を掻くだけだった。

 そして目の前には、動かなくなったネズミが、小さな瞳を虚ろに開けて横たわっていた。

 ライガーがマーダから放たれたネットランチャーに捕まり、悶えているのが微かに見える。

 するとコマンドウルフから1人の女が降りてきた。

 周りから男達が集まってくると、火を燃やし始めた。火は段々と大きくなり、大きな火柱を上げて炎へとなった。その炎に女は鉄の棒を差し込み、温め始めた。

「逃げれると思ったのか?」

 

 女が不気味に話し始めた。

 

「逃げても無駄だ。お前の本来の居場所はここじゃないだろ? お前も分かっているはずだ」

 

 そういうと、温めていた鉄棒をこちらに向けて歩いてくる。周りの男達が暴れようとする自分を押さえつけする。一生懸命不火振り払おうとするも、森に吸い込まれるように力が全くでない。

 

━━どうか、奪わないでくれ!もう、やめてくれ!お願いだ!

 

 どれほど懇願しても声がでない。

 

「あなたに平穏は訪れない。それがあなたの逃れられない運命なのだから」

 

 そういうと、女はレイの右の頬に焼印を押しつけた。

 焼けるような痛みに耐えれるはずもなくレイは叫ぶ。

 

「うぉああああ!」

 

━━━━

 

「ったく…朝はびっくりしたぜレイ。なんてったって急に叫びだすんだからよ。」

 

 ロッカーを暗い表情で開けるレイに対し、ウィナーが困惑した表情で話しかけてきた。

 

「ああ…すまなかったな。」

 

 レイは虚ろな表情で返した。ロックーの鏡を見ながら右頬をさする。そこにはゾイド人の名残である3角の青いタトゥーがあった。

 

「なんだ? 急にほっぺなんか触って。そんな珍しいもんでもないだろ。それに俺達は似たようなもんあるじゃねぇか」

 

 そう、ウィナーの左頬には緑のタトゥーがあった。士官学校時代に仲良くなったのは、このタトゥーがお互いに似ていることもあり、よく周りからは兄弟のようだと言われていた。

 心配そうに話しかけるウィナーとは裏腹に、レイは人の話を聞けるほど余裕がなかった。ウィナーがいろいろと話しかけていたが、レイには記憶になく、気がつけば格納庫に立っていた。

 そこには教官たちが待機しており、彼らの様子に気がついたアーサーが陽気に二人に話しかけてきた。

 

「よう、お2人さん。調子はどうだ?」

 

 レイは反射的に姿勢を正し、敬礼を交わした。ウィナーもそれに続く。

 

「おはようございます、ボーグマン少佐。ですがレイのやつ、朝から妙なんです。」

 

 アーサーは俯いて元気のないレイを心配した。

 

「ん? どうした? レイ。」  

 

「なんでもありません、少佐」

 

 レイは、反射的に言葉を返した。しかし、彼の心は固く閉ざされたままだ。アーサーに本心を話すことなど、今のレイにはできなかった。

 アーサーはレイにとって父親のような存在だった。その内に秘めたゾイドへの適性を見抜き、共和国軍へと入隊させてくれた恩人だ。レイが今日、ここにゾイド乗りとして立っているのは全てアーサーのお陰だった。

 これまで、レイは無意識のうちにアーサーに頼り切っていた。士官学校からテストパイロットになったのも、彼の言葉に従った結果だ。

 しかし、このレオマスター養成訓練プログラムの一環として教官と訓練生という立場になった今、レイは初めて、自身で自立しようと足掻き始めていた。だからこそ、自分の弱さや、未だ拭いきれない過去の恐怖を、彼の目の前で晒すことができなかったのだ。この頼りがいのある、偉大な少佐の目を、真っ直ぐに見ることができなかった。

 

「そうか。まあ、頑張れよ。」

 

 アーサーは、それ以上何も言わずレイの背中を軽く叩いた。その温かい掌が、レイの心の奥底を見透かしているかのように感じられた。

 

━━━数日後……

 

 訓練生たちは木漏れ日が揺れる森林の訓練場にいた。今回は候補生同士による3対3のチーム戦だ。

 レイのチームには、ジャッジ・ライア軍曹とシシリー・ヴォルタ軍曹。

 ウィナーのチームには、ミズモ・トミィ少尉とナイト・バイケルン軍曹。 

 

「おいお前ら! この俺の足手まといになんじゃねぇぞ! 特にあの単細胞にだけはやられんじゃねぇぞ!」

 

 そう言い放ったのは、ウィナーにも劣らない熱血と自信に満ちあふれた赤髪のリーゼントを纏うジャッジ・ライア軍曹だった。彼もまた自分の力を信じて疑わず、よくウィナーとは意見が衝突していた。

 

「んだとトカゲ野郎! そのセリフそっくりそのまま返してやるぜ! レイ共々ぶっ飛ばしてやるぜ! おい、お前らも俺の脚を引っ張んじゃねぇぞ! 特にそこの水掻き野郎!」

 

 ウィナーはジャッジのことをトカゲ野郎と呼んでいるのは、彼曰く顔の見た目が似ていることと、ゾイドの動きがトカゲのように俊敏だという理由だ。そして唐突に話を振られたミズモは戸惑いながら返事した。

 

「あ、あぁ…全力は尽くすよ。ははは。」

 

 ミズモ・トミィ軍曹。彼は元ステルスバイパーの乗り手であり、水上戦に長けていた。だが、ある時に高速戦闘ゾイドの適性も認められ、シールドライガーに乗ることに。彼はこれまでに血の滲むような努力でシールドを乗りこなし、その実力が認められ、このレオマスターの訓練生として推薦された男だ。

 

「戦う前にそんなにはしゃぐと疲れるぞ。」

 

 そう落ち着いた声で話すのは、ナイトバイケルン軍曹だった。彼は一兵卒から入隊し高速戦闘部隊に所属。シールドライガーを旧大戦から乗る上官に実戦同様の厳しい訓練を乗り越え、この訓練生の推薦を受けた実力者だ。

 そんなやりとりを、シシリーとレイは黙って聞いていた。

 

「あー、あー…。お前ら聞こえるかー?」

アーサーの少し気だるいアナウンスが無線を通じ

て聞こえる。

 

「さっきも説明したが、3対3の掃討戦だ。俺からのアドバイスだが、心を解き放て。」

 

 爽やかな風の温度を押し上げるように、森中にサイレンが鳴り響く。

 

「待ってろ! 単細胞野郎!」

 

「覚悟しろ! トカゲ野郎!」

 

「グゥオオオオオ!」

 

 ライガーたちも彼らの思いに応えるかのように咆哮した。ただレイのライガーを除いて。

 

〜続く〜




この第4話はとても時間がかかりました。
冒頭の不穏な夢では、彼の無力感、追い詰められている心理が過去のトラウマと重なり、難解なものとなっています、そして後日の伏線にもなるので、描写には気をつけました。
ここでアーサーの言葉が語りすぎないのも、彼らしいかなと思います。
そして新たな訓練生の登場により、様々な色がこれからみれるかとおもいます。
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