爽やかな風の温度を押し上げるように、森中にサイレンが鳴り響く。
「待ってろ! 単細胞野郎!」
「覚悟しろ! トカゲ野郎!」
「グゥオオオオオ!」
ライガーたちも彼らの思いに応えるかのように咆哮した。
ただレイのライガーだけは沈黙していた。
そんな中、ジャッジ・ライアが叫んで指示をだす。
「グレック、ヴォルタ! お前らは深い森林のB9からG6を使って迂回し、敵の背後へ回れ。恐らくヤツらはこの快活した池をD4辺りから見張り、俺たちを狙ってくるはずだ。俺はその辺りで正面から囮になる。その間に敵の射撃位置を特定して背後へ周れ。 確実に1機ずつ格闘戦で仕留めろ!」
「了解」「了解」
2人はすぐさま反応した。
ジャッジは頭が切れた。ウィナー同様に熱血で自信家ではあるが、彼は山岳地帯出身だったこともあり、地形を利用した優れた戦術を現場で判断できたのだ。まさに分隊長にふさわしい指示だった。
2人の返事を聞いたジャッジは、すぐさま自身の目標地点へとライガーを前進させた。
レイとシシリーもジャッジの指示に従い、音を最小限に抑えながら迂回ルートへと向かう。
━━的確な指示だ……なのに、俺は……!
勢いのある指示とは裏腹に、レイのライガーはいつもの調子が出ず、少しずつシシリーと距離が出始めた。
レイは森を眺め、昨日見た夢を思い出した。
「ヴォルタ、すまないが君は先行してくれ。 どうも今日は調子が悪い。」
「わかったわ、先にG6へ向かって敵情監視しておく。 また落ち合いましょう」
シシリーは落ち着いた声で返信すると、静かに森を縫うように前進し、そして見えなくなった。
「いったいどうしちまったんだ、くそ」
シシリーの冷静とは反対に、思うようにライガーを動かせないレイは、苛立ちを隠せずにいた。
「よし、始まったな。 おいミズモ、どう動くと思う?」
一方ウィナーは、ミズモに地形について冷静に尋ねていた。なぜならミズモもまた、こういった地形が得意なのだ。そして、レオマスターとの幾つかの模擬戦で、ウィナーは猪突猛進すぎる行動により幾度となく痛い目をみてきた。その結果、地形や環境をうまく利用することの重要性を認識していた。
「恐らく敵はこの快活した池の際に潜み、俺たちを監視するだろう。 そしてこの深い森林地帯のB9からG6は、敵からすれば絶好の迂回ルートでもある。」
「だとすれば、それを逆手に取るか。よし、ミズモは水辺に潜伏してゲリラを仕掛けろ。 俺が囮になってやる。 そして、ナイト。お前は敵の迂回ルートで向かい撃て。その後は現場判断だ。 俺たちこそ上だってこと、見せてやるぜ」
「了解」「了解」
ウィナーの指示に従い、散開する3機のライガー。ウィナーのライガーは真っ直ぐと池へ向かわせる一方で、ミズモは川へと一直線へと向かい、川に沿って敵より早く水辺に待機できるよう用意をした。
ナイトは深い森へと消えていった。
暫くして、ウィナーが池に到着し、辺りを見回す。
━━敵影なしか…
ウィナーは誘い出すように池へと前進していった。すると無線が入る。
「おーっとこれはこれは。 単細胞野郎じゃねぇか」
ジャッジを乗せたライガーが森の影から出てくると、池を突っ切ってこちらへ向かってきた。
「そういうお前はトカゲ野郎じゃねぇか」
「どうやら邪魔する奴はいねぇみてぇだな。 勝負つけてやるぜ!」
━━よし、かかった
ウィナーは機首を右に向けると、ジャッジの攻撃を避け、そして射撃態勢をとる。ここでは地面がぬかるんで機動力に制限がかかる。ジャッジのライガーの背中に向かい射撃すれば当たると確信した。
「くらいやがれ!」
ウィナーが乗るライガーの腹部に備わる3連ショックカノンが轟音をあげる。
「当たるかよ!」
ジャッジのライガーは咄嗟にしゃがんだ。機動力を活かせないと分かった彼はすぐに状況判断したのだ。すぐさま機体を反転させ、こちらに射線を通す。
「やるじゃねぇか」
ウィナーは計画どおり、ミズモの待機位置へと向かった。逃げるウィナーをジャッジが追う。
「逃げる気か? まちやがれ!」
ウィナーは追ってくるジャッジを確認すると、ニヤりと笑った。
ジャッジは背中の2連装ビームキャノンを撃ちながら追撃する。ウィナーも左右へと機体を反復させながら射線に入らないよう動いた。しかし、一瞬ウィナーのライガーが停まった。ジャッジは見逃さなかった。
「貰った!」
次の瞬間、地面からシールドライガーの牙がジャッジのライガーの首を噛み付いた。横転するジャッジのライガー。ミズモのライガーだ。
彼は機体のエンジンを切り、水辺と木の間にある土の高低差を利用して静かに潜んでいたのだ。そしてジャッジが確実に仕留められる距離になったときにエンジンを一気に作動させ、噛み付いたというわけだ。それもステルスバイパーで培った技術ではあるものの、誰でもできる芸当ではない。
動転するジャッジは反応できず、地面に押し倒され、抑えられた。
「油断したな、ジャッジ」
ミズモが得意げに話した。
「くそが。だが見事だったぜお前ら。今回は俺の負けだ」
悔しそうにするジャッジ。
「いや、相打ちだ」
そう言ったのはウィナーだった。ウィナーのライガーもまた、ジャッジの射撃によって後方のエンジンにダメージを負い、動けなくなっていた。
「ではナイトと合流する」
「あとは頼んだぜ」
ミズモはナイトが待機する森林へと向かった。その姿を、残った2人は応援するかのように見守った。
ミズモが森林へ向かう途中、ナイトがいるであろう位置から戦闘の音がした時、ミズモに無線が入る。
「こちらナイト。 シシリーと接敵した。場所はB8北の約200」
「ミズモ了解。そちらへ向かう」
つまり、まだレイはどこかに潜伏しているのか。
周囲を警戒しつつ、ミズモは指定された座標へとライガーを走らせる。
━━━━
「驚いた、まさかここまで読まれているとは」
ナイトはシシリーの動きに驚嘆していた。なにせ、ナイトはシシリーを先に発見し、彼女にバレないよう回り込んで後ろからビームを放ったにもかかわらず、あたかも動きとタイミングを図っていたいたように避けたのだ。それだけでなく、その後ナイトは警戒し移動したにも関わらず、場所を先読みしたかのように、彼女は攻撃を避けると同時に尻尾のビームでナイトが避けようとした着地地点に射撃してきたのだ。ナイトは咄嗟にライガーを引き戻し、回避できたものの、右肩にビームがかすっていた。
互いのシールドが牽制し合うように見合う。
「では手合わせ願おう、シシリー・ヴォルタ軍曹。 いざ勝負!」
「……」
無口なシシリーはナイトにとって、彼女の心とシールドの動きが全く読めないでいた。
━━ならば誘い出すのみ
ナイトはわざと隙をみせ、そこにシシリーが攻撃を仕掛けてきたところにカウンターをする作戦に出た。
「これでどうだ!」
ナイトが親指の安全装置を外すと、シールドの両脇に備え付けてあるミサイルポッドが展開。シシリーをロックしようとする。
対するシシリーはその姿を見て透かさずナイトの懐に入ろうと、シールドとブーストを全開にして接近する。彼女はミサイル発射までの僅かな遅れを理解しており、その隙を突く気だ。
━━かかった!
ナイトはその動きを読んでいた。その場でナイトはシシリーの右に入り身するようにシールドを加速。シシリーの脇を正面に捕らえた。
━━この距離なら!
ナイトは比較的発射レスポンスの良いシールド腹部の3連ショックカノンを放った。
だが、シシリーは驚く対応能力で左前脚を軸に重心を移動させシールドを左へ転身。3連ショックカノンによる攻撃を見事に避けきったのだ。
透かさずナイトはもう一度3連ショックカノンを発射するも、それはEシールドによって守られてしまった。
シシリーのEシールドを失うも、すぐさまナイトと向き合い格闘攻撃を仕掛ける。
慌てて右へ避けるも、左前肩の装甲を持っていかれたナイトのシールドはバランスを崩す。
シシリーはその姿を見逃すまいと、すぐさまシールドを転身。次の攻撃に出た。
ナイトもシールド乗りとして、そして格闘戦においてはどんなゾイド乗りにも引けは取らなかった。そして、弱点という弱点も見当たらない。ましてや冷静に判断し、的確に行動していた。だがシシリーは、その最善である答えの僅かな弱点を見抜いているようだった。そう、シシリーだけは別格だったのだ。
━━化け物だな。
ナイトはシシリーの攻撃に反撃しようとするも、カウンターを見せる動きが見える度に萎縮していく。徐々にペースはシシリーの思うようになっていた。
そんな時、2人の間にミサイルが飛来してきた。透かさず避ける2人。
「ナイト! 合流する!」
ミズモだ。2対1。これなら勝つチャンスが生まれるかもしれない。
「ミズモ、彼女を倒すにはシールドを暫く張れない今がチャンスだ! 2人同時に接近戦に持ち込むぞ!」
「了解!」
シシリーは右斜前からやってくるナイトと左からくるミズモを確認すると、ダメージを負っているナイト目掛けて突っ込んだ。先に1つずつ潰していく気だ。
ミズモは透かさずシシリーに向かって背中にある2連装ビームキャノンを撃つ。しかし、ミズモは止まって撃つ静止射撃が得意だったものの、動きながらの機動射撃が少し苦手だった。シシリーはその事も訓練間に見抜いての動きだった。
正面からくるシシリーにナイトもビームキャノンで応戦。かすりはするも、決定だにはならない。そう、左肩がやられている事で、いつもと若干バランスが違っていたからだ。
そして、シシリーのシールドがナイトのシールドにぶつかり、もみ合いとなる。
少し遅れてミズモが間に入り、激しい乱戦となり、あまりの激しさに周りの木々は次々となぎ倒されていった。
そんな激しく揺れるシシリーのコックピットに突如として通信が入る。
「すまないヴォルタ!!いま合流する!!」
〜続く〜