穏やかな木漏れ日はなくなり、激しい戦場となった森は霧が立ち込めていた
「遅れてすまないヴォルタ! いま合流する!」
威勢を放つレイだったが、その意志とは裏腹に、シールドライガーの動きは何処かぎこちない。
レイはシールドライガーに無理矢理言うことを聞かせるように操縦桿を乱暴に傾けた。そして背中のビームキャノンを展開。シシリーから2人を牽制し、引き離した。その後、態勢をとるミズモのライガーに体当たりを見せた。
レイの攻撃に反応できなかったミズモは吹き飛ばされた。
「やるじゃないか、レイ。だがこれならどうだ!」
ナイトがビームで迎撃する。それを避けようと反応し、再び乱暴に操縦桿を動かすレイ。しかし、
━━動かない?……
ビームがもろに直撃する。激しい衝撃でコックピットが揺れる。
思い通りに動かないシールドライガーに、レイは苛立ちと焦燥感を募らせていく。
━━いま俺が助けなければ!
レイの焦燥に反発するように、シールドライガーの動きが鈍くなる。周囲では不穏な雷鳴が轟き、それに呼応するかのように、彼の脳裏では帝国軍ゾイドから逃げ惑う自身の光景が蘇る。
━━またあの光景か!
再び、目の前で捕らえられるライガーと死んだネズミの姿。そして右の頬に焼き付いた痛みが見えた。
「なにをやってる! 早く動け! でないと奴らが……!」
がむしゃらに操縦桿を動かすレイ。しかしシールドライガーには何の反応もない。
その時、ナイトからのストライククローが直撃し、コックピットが激しく揺れる。シールドライガーは大きく吹き飛ばされ、そして動かなくなった。
安全装置が作動し、コックピットハッチが開く。
変わりやすい山の空は、いつしか雨を降らしていた。
コックピットが次第に濡れていく。レイは身体が濡れるのを気にせず、静かに歯を食いしばる。
目の前ではシシリー達の高度な格闘戦が繰り広げられている。レイはそれをただ、見つめることしかできなかった。
━━━
整備ドッグ
模擬戦闘訓練で傷ついたライガー達を慌ただしく整備士達がメンテナンスをしていた。そんな中、レイは濡れた身体をそのままに、静かに自分の傷ついたシールドライガーを見つめていた。
レイはここまで結局シールドを歩かせて戻るどころか、まともに動かせなくなっていた。おかげで輸送班が大掛かりで出動し、クワガタ型空戦ゾイド、ダブルソーダ数機から吊るしてここまで運んで貰っていた。
「おい、どうしちまったんだ? レイ」
ウィナーが心配そうな顔で近づいてきた。
「……分からない……」
静かに応えるその声は、外でしきりに降る雨に、今にも掻き消されそうだった。
そんな時、聞き慣れた長口上が聞こえた。
「……このアルバイト鉱石が含まれる合金を使うことで、ゾイドの回復力が増すんだ。そこにこうして外側からハンマーで叩いて馴染ませていくと、ゾイド自身の自己修復能力と合金が混じり合い、現在使われている鉄板とは時間にして40分は縮める事ができる。次にここのギアは……」
「おい、バディターじゃねえか!」
ウィナーの声に、バディターが振り返った。大きな眼鏡の奥にはいつもの好奇心に満ちた目が見える。
「あ、ウィナーにレイ!」
鼻についた汗と油を袖でふき取ると、レンチを持った手を降って挨拶した。周りの整備士たちは、バディターの長口上からようやく解放された、という安堵の表情で静かに散っていった。
「どうしてここに?」
「君たちがレオマスターの訓練生になると聞いて、僕もライガーのより高水準な整備がしたいと思って上申してみたんだよ。そしたら翌週には異動しろってなってね。それに皆も快く送り出してくれたんだ。こんなにもすんなり来れるとは思ってもみなかったよ」
レイもウィナーも大方予想はできた。バディターと一緒に仕事していた整備士達は、彼の長口上に飽き飽きしていた。恐らく今頃向こうでは静かな環境で整備できて大喜びなんだろうなと。
「また会えて嬉しいぜ。また今度、食堂で話そう。あとレイ、お前はとにかく温かいシャワーでも浴びろ。風邪引くぞ」
ウィナーは励ますようにレイの肩を叩き、自室へと向かっていった。
「じゃあ僕も仕事に戻るね。君たちのライガーをすぐに直さなきゃいけないからね」
「ああ、頼むぜ」
変わらぬバディターの姿に、少し安心を取り戻したレイは、久しぶりの笑みがこぼれた。
するとそこに、芯のある声で女性が話しかけてきた。
「あなたのライガー。なぜ動けなくなったと思う?グレック少尉」
「エミー少佐」
レイは反射的に敬礼をし、エミーも敬礼を返す。
「自分でも分からないんです……なにがどうなってるのか……」
レイは愛機のシールドライガーに目をやった。エミーもまたレイのシールドライガーを見ながら話し始めた。
「私が見ている限り、何処か引っかかることがあるんじゃないの?」
「俺は正直、自信があったんです。自分のゾイド乗りとしての能力を信じて疑わなかった。だけど、あなた方教官と模擬戦で痛感させられました。自分はまだ未熟者であると……」
「ええ、確かにあなたは自分より強い存在を目にして自信がなくなっているわね。でも、それは他の訓練生も同じ事よ」
「分かっています」
「あなたの過去は、ボーグマン少佐に聞いたわ……」
「……」
「辛かったわね……」
2人の静寂のなか、整備士たちが慌ただしく右往左往している。
「今でもたまに夢に出るんです。自分は無力な存在なんだと……」
顔を下に向け、自分の手を眺めるレイ。
「失ったことにずっと囚われていては駄目よ。そしてゾイドは、その《心》を見抜くわ」
「では、いったいどうすれば良いのですか?」
「心を解き放て……ボーグマン少佐は模擬戦が開始する前、皆にそう言っていたはずよ」
レイは少し悩むものの、答えが出ず質問をする。
「つまり?」
「そうね、その全てを私が答えてしまうのは、あなたの成長を妨げるから全ては言えないけど、これだけは言えるわ。」
エミーはシールドライガーからレイに向けて話し始めた。
「過去は変えられない。そして人生そのものは運そのものでもあり、変えられないこともある。あなたが過去に辛い事があった事は、どう足掻いても変えることが出来なかった事よ」
エミーは一呼吸置く。
「でも、自分の未来なら自分で変えられることが出来る。そう、それはあなたの《心》次第で決まるわ。そしてゾイドも同じ。ゾイドはあなたの《心》に応え、《心》で動かすものよ。」
確信を突いたその言葉と、優しさに溢れる声に、レイは心を委ね始めた。
「エミー少佐なら、どう乗り越えますか?」
「そうね、過去は忘れて……とは中々いかないかもしれないけど、今を大切にしなさい。そして自分のことも」
「今と、自分を……ですか」
レイは意外な言葉に言葉を詰まらせる。
「そう、今のあなたを象っているものは紛れもなく過去よ。あなたが何を目指そうとしていたか、何故強くあろうとしたのかを考えてみなさい。」
━━何故、強くあろうとしたか……
「いまあなたに言えるのはそれだけね。この先は自分自身で見つけなさい。そうでなければここを去るだけよ」
エミーの言葉に、レイは襟を正した。
「はい少佐。お言葉感謝いたします」
エミーは笑みを浮かべ、レイの濡れた頭をくしゃくしゃと触った。
「あと、いいお友達を持ったわね」
そう言うと、エミーはバディターの方へ歩いていった。バディターはまたいつもの調子でエミーに長口上を聞かせている。エミーはそれに嫌な顔せずに笑みを浮かべながら会話をしていた。
レイはその姿を眺めながらエミーの言葉を思い出す。
━━ゾイドは俺の《心》に応え、《心》で動かすもの。
レイは過去を否定し、その結果、己自信をも否定していたのだと感じ始めた。
〜続く〜
やはりゾイドは心で動かしている。そんな描写をふんだんに表現しました。彼の心の成長が強さに直結し、言葉では言い表せないものに何となく気づくことで、リアルな体験につながるかなと思い、こういった表現をしました。
何事も躓き、悩むことがあると思いますが、そんなときに勇気の出る話にしました。