レイ・グレック サーガ   作:ゼル・ユピート

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第7話 守りたいもの

 今日も変わらぬ朝が訪れる。そしてレイもまた、変わらずライガーには乗れていない。

 近頃は訓練生の仮想敵として、旧大戦時に中央大陸に残っていたゼネバス帝国軍高速戦闘ゾイド、サーベルタイガーに乗っていた。サーベルタイガーはシールドライガーに比べ、史上初の高速戦闘ゾイドということもあり、まだ扱いやすい機体だからだ。

 しかし、レイの心にはわずかな余裕が戻っていた。バディターやウィナーの変わらぬ存在。そして先日のエミーの言葉が彼を支えてくれていたからだ。

 

━━自分を大切に━━

 

 その言葉がレイは自分自身と向き合い始めた。

 

 毎朝の日課であるアーサーの筋力トレーニングをこなすと、最近では清々しささえ感じていた。しかし、レイには一つだけ不安があった。今日の訓練は、主にセレスが担当するというのだ。

 射撃、戦術、座学を専門とするセレスは、訓練生に一切の妥協を許さない。正確無比な射撃を外せば、罰として腕立て伏せ100回。戦術の授業においても、チームの損耗を最小限に抑えられないと、同様の罰が科せられた。そして、ゾイド乗りにとって座学ばかりの一日は苦痛そのものだった。

 

 食堂に集まった訓練生たちは、先日までのレイのような表情で、静かにプレートを運び、訓練生達が使ういつものテーブルに座った。

 

「おい、今日の座学は外でやるらしいぞ」

 

 プレートに乗る肉の山を運びながら、ジャッジが声を張り上げる。

 

「外で座学って、ゾイドで戦術でもやるのか?」

 

 ナイトが首をかしげた。

 

「いや、どうやらゾイドは使わねえらしい」

 

 ジャッジはフォークで人参やグリーンピースをどかしながら答える。

 

「当てになる話か?」

 

 ウィナーが眉をひそめた。ウィナーのプレートにも野菜が端に避けられている。

 

「周囲を見てみろ。整備士が来てねぇし、人が少ねぇ。」

 

 ナイトは周囲を確認すると、ジャッジとウィナーのプレートをチラリと見た。

 

「確かにな」

 

 そう言うと、野菜を頬張るナイト。

 

「つまりだ、今日はまとめて休みということだ。ゾイドを使うなら残すはずだ」

 

 ジャッジは自信ありげに訓練生達を見た。

 

「行ってみれば分かることよ。さ、早く食べて格納庫へ向かいましょう。」

 

 シシリーが冷静に返した。

 食事を終えると、不安を抱えながら訓練生たちは指定された格納庫へ向かった。そこには、輸送用昆虫型ゾイド、グスタフが用意されており、セレスが待ちわびるかのように腕を組んで立っていた。

 

「訓練生諸君、おはよう」

 

 セレス少佐の声に、全員が敬礼をする。

 

「いまからグスタフで移動する」

 

 全員が頷く中、ジャッジが口を開いた。

 

「セレス少佐、今日はいったい何を?」

 

 セレスは眼鏡越しに、鋭い視線をジャッジに送る。

 

「私の担当は戦術だ。他に質問がなければ、さっさと貨物に乗るんだ」

 

 わけも分からずグスタフのコンテナに乗る訓練生達。コンテナの中で揺れること数時間、レイにとっては覚えのある音と匂いがしてきた。

 

━━そう……ここは――

 

「海だ!」

 

 ウィナーが叫んだ。グスタフから降りると、広がる青い海と白い砂浜が視界に飛び込み、暖かな潮風を彼らを包み込んだ。

 

「これからお前たちには、ビーチバレーをやってもらう」

 

 セレスの声が消えるほど、訓練生たちは騒ぎ立てた。

 

「おい、単細胞野郎! 今度こそ決着をつけてやる!」

 

「上等だぜ! ヘトヘトにしてトカゲの干物にしてやるぜ!」

 

 相変わらずウィナーとジャッジが闘争心を燃やし、互いに挑発した。

 

「はは、相変わらずの2人だな」

 

 普段は真面目であまり笑わないナイトも、2人の様子を見て笑顔を見せていた。

 試合が始まると、皆全力で勝負に挑んだ。流石レオマスターを目指すゾイド乗り達だ。勝負とあれば容赦ない。 

 そんな中、意外な一面を見せた訓練生がいた。それは、ゾイドにおける格闘戦では、ずば抜けていたシシリーである。どうやらこういった身体を動かす事や、球技は苦手なようだ。

 

「きゃっ」

 

 尻もちをつくシシリー。

 

「ほら、大丈夫か?」

 

 すかさず手を貸すレイ。

 

「ごめんなさい、ありがとう」

 

 少し照れながら感謝するシシリー。

 レイはそれまで完璧だと思っていたシシリーの意外な一面に、少し安心した。

 

「おら、お返しだ!」

 

 レイがサーブを仕掛ける。ミズモとジャッジの間に綺麗に決まった。

 

「やるじゃねぇか、レイ! いつもの顔に戻ってきたな!」

 

 元気を取り戻すレイに喜びを感じるウィナー。

 

「当たり前だろ?」

 

 レイは自信を取り戻していた。過去に鍛えられた体力と反射神経のおかげで、いまこうしてチームに貢献できる喜びを感じていた。

 何試合かした後、教官たちが現れた。

 

「さ、準備運動は終わったかしら?」

 

 エミーだ。彼女は女性らしいラインを鮮やかな赤い水着に身を包み、その中に筋肉質で引き締まった身体をみせていた。男性陣はその姿に釘付けになった。

 

「授業はこれからだぞ」

 

 セレスが眼鏡を外した姿で現れ、皆に諭す。教官対訓練生による対抗戦が始まった。

 

「今日こそ教官を負かしてやりますよ。いくぞ、みんな!」

 

ウィナーが訓練生を鼓舞する。

 

「それはどうかしら。さあ、いくわよ」

 

エミーが黄色い目を輝かせている。

 

「こんな老いぼれだろうと、お前達には負けやしねぇよ」

 

 アーサーが自信満々に重ねて言う。

 

「ルールは簡単。先に10ポイント取った方が勝ちだ。負けた方は罰として、腕立て伏せ100回をしてもらう」

 

 セレスは授業と同じ罰を提案してきた。

 

「教官殿。腕立て伏せを覚悟しておいて下さい」

 

 ミズモがニヤリと笑いながら挑発するように言うと、それぞれのチームに分かれる。

 

━━試合開始━━

 

 エミーの鋭いサーブが炸裂し、あまりの速さに誰も手が出ない。必死に食らいつくも、セレスもビーチバレーが得意なようで、ゾイドの模擬戦のように相手を誘導する。隙を生むと、アーサーに正確なパスを送り、アーサーが強烈なサーブで点を決める。完璧なチームワークだった。

 訓練生たちは、皆で必死に勝ち筋を探したものの、結局対抗できず、思うように点数を入れることが出来なかった。

 そんな中、レイは培った反射神経と身体能力で、エミーのサーブを必死に飛び込んでレシーブを打ち、アーサーのサーブをブロックしたり、必死に食らいついた。

 何試合かした後、アーサーが区切りをつける。

 

「よーし、そろそろ飯の準備をするぞ!」

 

 ビーチバレーを切り上げると、グスタフから折りたたみのテントと鍋を取り出す。予め準備していた食材と容器を使い、アーサーが指導のもと、皆で料理を始めた。材料の中には、ミズモが海で捕まえた魚介類もあった。

 風に乗ってくる海の匂いと、肉や魚、野菜が焼ける美味しそうな香りが周囲を包む。そんな中、突如として不穏な香りを出す者がいた。

 

「うわ! やばいやばい!」

 

 ウィナーだ。彼の調理場からは火柱があがり、料理が丸焦げになっていた。彼は料理が大の苦手だったのだ。彼が担当したものはすべて火力が強すぎて、丸焦げになってしまっていた。

 

「へっ! 今度からお前は丸焦げ野郎だな」

 

 ニヤついてからかうジャッジ。

 

「うるせぇよ、お前も丸焦げにしてやるぞ」

 

 周囲に美味しい匂いと、焦げ臭さが混ざりあいながらようやく食事が完成すると、エミーとセレスがクーラーボックスを抱えて歩いてきた。

 

「さ、これでもっと盛り上がるわね」

 

 エミーがそう言いクーラーボックスを開けると、中には氷水に冷えたお酒が沢山入っていた。それを見た訓練生達は興奮した。

 

「やったぜ! シュガービールもある!」

 

 ウィナーがはしゃいで喜ぶ。

 

「だが、お前さんは飯を台無しにした罰で、酒はお預けだな」

 

 アーサーがからかう。

 

「そんなー!」

 

 落胆するウィナー。

 教官たちはこっそりと皆の好みを聞いて用意してくれたのだろう。

 そんな中、相変わらず人参や玉ねぎ等、野菜をフォークでどかして食べるウィナーとジャッジを見かねたナイトは、苦言を呈した。

 

「おい、何やってんだ。野菜も食べるんだ」

 

「うるせぇよ、嫌いなもんは嫌いなんだよ。な? ウィナー」

 

 分厚い肉を頬張りながらウィナーを見るジャッジ。

 

「ああ。野菜なんて食わなかったって死にやしねえよ。俺たちには肉がある」

 

 そんな回答に呆れたナイトは続けて言う。

 

「まったく、野菜も食えないようじゃ、お前達は一生お子様だ。だからお前達は戦う事ばかりしか頭にないんだろ」

 

「俺達はゾイド乗りだからな。戦ってなんぼだぜ」

 

 誇らしげに語るウィナー。

 

「教官達だってゾイド乗りだ。彼らだってきっと…」

 

 ナイトが教官達の座るテーブルへと目をやると、言葉に詰まった。彼が目にしたものは、アーサーが野菜をどけてセレスの皿に移している様子だった。

 

「ん?…どうかしたか?」

 

 皆の視線に疑問をもつアーサー。

 

「いえ……何でもありません」

 

 暫しの気まずい空気の中、シシリーは恐る恐る人参を口にし、渋い顔をした。

 食事が終わると、ウィナーたちは再びエミーに飲み比べの勝負を仕掛けていた。ジャッジも挑むも、結局相手にならなかった。セレスはミズモ達と戦術について語り合っていた。

 レイは甘いレモネードを片手に、彼らの様子を静かに眺めていた。すると、アーサーがジョッキを片手に歩いてきた。

 

「調子はどうだ? レイ……」

 

 アーサーの口からは酒の臭いがする。相当な量の酒を飲んだのだろう。

 

「ボーグマン少佐」

 

「いまはもうプライベートだ。階級と敬語はなしだ」

 

 彼らは仕事中意外は敬語を使っていなかった。

 

「ああ……」

 

「それで?……この前まで自信を失っていたみたいだが」

 

「先日、エミー少佐に言われたんだ。━━自分を大切にしろ━━と」

 

「……」

 

黙って聞くアーサー

 

「他にも、━━ゾイドは俺の《心》に応え、《心》で動かすもの━━ということも。言葉には出来ないが、何となく分かってきた気がする」

 

「そうか」

 

 アーサーは低く落ち着いた声で答えた。まるで全てを包み込む父のように。

 

「お前さんは強い。それは俺が保証してやるよ。だから自信を持て」

 

「ありがとう……アーサー……」

 

 夕陽に染まる空には、飛行機雲を出しながら優雅に飛行するプテラスの編隊が見える。彼らはきっと、訓練を終えて帰投しているのだろう。レイは、かつての相棒たちと眺めた景色を思い出した。

 柔らかな潮風が彼らを包み込む。

 

━━こんな平和がずっと続けば━━

 

 レイは、何故、自分が強くなろうと決意したのか、その答えが見つかったような気がした。

 

〜続く〜




ビーチバレーのオマージュでありつつ、彼がのちに西方大陸戦争において、なぜヘリック共和国として平和を勝ち取ろうと思ったのかのきっかけになります。
守ろうとしているものや、失いたくないものを、執筆者自身が嫉妬するレベルで存分に描きました。
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