今日はレオマスター模擬訓練最終日。その朝は、冷たい空気が凍るような寒さだ。だが、レオマスター候補生たちの胸に宿る闘争心は、雪さえも溶かしてしまいそうな勢いで、更なる士気を高めていた。
かつてセレスはレオマスターについてこんな事を言っていた。
━━レオマスターとは、ゾイド乗りとしてただ強いだけではいけない。共和国の象徴。すなわち、その存在が仲間を鼓舞し、導き、そして勝利を勝ち取る存在なのだ……と。
今回の演習は総力戦だ。部隊規模の大きさや各部隊との連携。そして時間等、様々なことを考慮しなければならない。それが試される時だ。
作戦室に集まった訓練生たちの前に、アーサーの重厚な声が、張り詰めた静寂を破った。
「おはよう諸君。今回の総合演習によって、誰がレオマスターか決まる。本作戦で敵を殲滅し、お前たちの中で、最後まで倒れず立っていた者がレオマスターとなる。ではまず、作戦名【スニークアタック】のブリーフィングを行う」
訓練生達は静かに言葉をまつ。
「本作戦の目的は、敵戦力の壊滅と敵基地の制圧。そして、如何なる状況においても、最後まで倒れないこと。日没後、前衛部隊が前進。そしてその間、後方支援部隊による二段階の波状砲撃で敵を弱体化、前進を支援する。前衛部隊が基地の西側から侵入。敵を更に混乱・弱体化させる。その後、正面から主力部隊が入場できるよう正門を開門させ、合流。主力部隊を用いて敵を打破。基地制圧を行え。では配置を伝える。」
訓練生たちは、どの部隊への配属も厭わないという鋭い目で、アーサーの指示を待った。
「波状砲撃を行う後方支援部隊の護衛には、ウィナー・キッド少尉とナイト・バイケルン軍曹」
ウィナーがナイトに目配せをした。
「前衛部隊には、部隊長レイ・グレック少尉とジャッジ・ライア軍曹」
レイもジャッジも、光栄だという表情で受け入れる。
「そして、殲滅・追撃を行う主力部隊には、ミズモ・トミィ軍曹と、シシリー・ヴォルタ軍曹」
2人とも頷く。
「なお、指揮官兼評価員として遠距離支援部隊にはセレス少佐、同じく主力部隊にはエミー少佐。そして前衛部隊と全般を評価をするのが、司令室のモニターで監視しながら、このボーグマン少佐が担当する。そして、評価員の支援として、高速戦闘部隊のL・G・ハルフォード中佐にも来て頂いた。他にも、敵の一部にはアグレッサー部隊。そしてお前達が受け持つ各部隊には、基幹要員を配置してある。そいつらを上手く指揮し、部隊を勝利に導け。雷光のご加護があらんことを。」
━━格納庫にて━━
レイは自分のシールドライガーを見つめ、先日アーサーとの戦いで感じたことを再び思い出した。彼のシールドは迎え入れてくれる気がした。
「今日も頼むぞ、ライガー」
格納庫内では整備士達が、最後の調整のために慌ただしく右往左往している。その中にバディターの姿もある。ウィナー含む他の訓練生達も自分達のシールドと向き合い、自分たちの成すべき事に集中しているようだ。アーサーも整備士と話し、なにか最後の打ち合わせをしているようだ。レイも再びシールドを見て呟く。
「よし、やるか」
レイはコックピットへと乗り、持ち場へと向かった。
━━
夕方、士気高く持ち場で待機する中、ただ1人だけ怪訝な表情を浮かべる者がいた。それはゴルドスとカノントータス率いる後方支援部隊にいた。
「やっぱり納得いかねえ。前線で暴れたかったぜ」
ウィナーが秘匿無線で、少し不機嫌そうな声で話す。
「そう言うな。砲撃すれば敵に見つかる。そうすれば追っ手や砲撃から守らなくてはならない」
「ああ。任務ならきっちりなってやるよ。だが、ここで砲撃が終わるまで何もないっつーことだな」
「どうだろうか」
ナイトは返答に困る。
「ちょっくら用を足してくるわから、何かあったら連絡くれ」
「戦闘開始時間はあと数分だ。それまでに戻ってくるんだぞ」
「あいよ」
そう言うと、ウィナーはシールドと共に林の中へ入っていった。
「まったく、もう少しは緊張感を持ってほしいものだ」
数分後、セレスから通常無線で通信が入る。
「間もなく戦闘開始時間だ。各人持ち場につき、敵の襲撃に備えろ。」
━━いよいよか……
ナイトは襟を正した。
━━ドーン!
その時、目の前のゴルドス部隊による支援攻撃の砲撃が始まった。演習用の減装弾だとしても、肌でその威力は感じることが出来た。
「支援攻撃が始まったか。よし、私も持ち場を警戒するか」
ナイトは周囲を警戒し始めた。敵が襲撃を始めるなら、右翼を護るナイト、若しくは左翼を護るウィナーの部隊からだと予測した。敵からの襲撃予想ルートを慎重に巡回する。そして、セレスとの部隊境界線に差し掛かった時、彼は違和感を覚えた。ナイトが約300メートル先のセレスの部隊を見ると、支援部隊が砲撃を仕掛けていない。よく見ると、何かが沢山倒れているようにも見える。
━━まさか!?
ナイトは状況を確かめるため、セレスの部隊へと向かった。すると、ナイトはその光景をみて困惑する。薄暗い視野の中、微かに映し出された光景は、セレスのシールドが倒れ、無残にも支援部隊が全滅していたのだ。
「な……これはいったい……?」
倒れたゾイド達は酷くやられ、バチバチと酷く放電していた。すると、何か囁く声が聞こえた。
「ナ…ナイトか?…」
微かに声が聞こえる。
「セレス少佐? ご無事ですか!?」
シールドのコックピットから弱々しい声が聞こえる。
「わ…私はいい……すみやかに……警戒ア…ラート…を…」
弱々しい声で訴えるセレス。
「ですが!……」
「いいから……早く……」
━━いったい何が!?
ナイトは直ぐに持ち場へ戻り、状況を後方支援部隊全体と司令部へ急いで無線を繋ぐ。
「HQ! こちらナイト! 敵の襲撃を受けた! セレス少佐の部隊が壊滅した!」
「サーー………」
無線のノイズが静かに鳴る。ナイトは不思議に感じる。
━━無線が通じない? 無線封鎖……? いや、今回の演習では言われていない。なら……ジャミングか!?……
「ウィナーにも知らせなければ……」
動揺が募るナイト。その時、謎の巨大な影が薄暗い視界の右後から勢いよく迫るのを感じる。咄嗟に反応しようと操縦桿を目一杯に左へやる。
「くっ」
必死に反応するも、敵が速すぎて対応できない。気がつけば、一瞬にしてシールドライガーは吹き飛ばされた。木々は次々と押し倒れ、その度にコックピットが激しく揺れる。大きなダメージを受けたシールドは横たわり、瞬時に戦闘不能となった。
━━この92tもあるシールドライガーを、たった一撃で?
それにこれほどのパワーとスピードをもつゾイドはそうそういない。安全装置により自動でコックピットが開く。突然の衝撃に朦朧とする中、目を影にうつすと、次々と味方のゴルドス部隊が成す術なく倒されていく。発射光の中、かすかに見える一瞬の光の中、その影の全容がようやく見えた。そしてナイトはその姿に驚嘆した。
「あの姿は……それに頬のあの赤いマーク!……まさか……どうしてここに……!?」
━━
数刻前……レイは攻撃の合図となる日没を待っていた。前衛偵察部隊には、2機のシールドライガーの他に、僚機としてコマンドウルフ6機が待機していた。
辺りは段々と気温が下がっていく。太陽が静かに沈む。時計が出撃の時間を示す。唯一の明かりと温もりが消え、闇夜がやってきた。その静寂を破るようにジャッジが口を開く。
「よし、作戦開始の予定時刻だ」
「前衛部隊、前進!」
操縦桿のトリガーを引き、高速ゾイド達が一斉に駆け出した。ウィナー達がいる支援射撃の第一波の砲撃音が遠くで響く。数秒後、目標に次々と着弾していく。その直後に突入する予定だ。時計の針が作戦開始を告げる。
「よし、始まったか」
レイたちの頭上には砲撃の流星群が流れる。そして弾着。目標基地からは次々と轟音が聞こえ、続く第2波の砲撃を合図に待つ。だが、後方支援からの砲撃は鳴らなかった。ジャッジが不審に思い、無線で確認する。
「おいウィナー、ナイト、聞こえるか? 返事しろ」
ジャッジが不安げに尋ねる。
「サー……」
「反応がない?」
レイも不思議に思い、同じく応答を呼びかけるも、ノイズしか聞こえない。
「どうする? 戻るか?」
尋ねるジャッジに、少し悩むレイ。
「いや、作戦変更の命令はない。いこう、ジャッジ」
レイが冷静に返す。
「了解! 倒すやつが増えるってもんだぜ!」
レイ達は基地の西側にある奥深くへと踏み込んだ。
━━
同刻……主力部隊でも、異変を感じ取っていた。
「第二波の砲撃がないわね……」
エミーが口を漏らす。
「え? エミー少佐も知らないんですか?」
ミズモは困惑するように尋ねた。それもそのはずだ。評価員であるエミーは、アーサーとセレスと全容の情報を共有しているはずだった。その彼女が知らない事は不自然だったからだ。
「ウィナーとナイトに連絡しますか?」
シシリーもまた、エミーの様子から少し不安を感じる。
「ええ、お願い。私は本部へ連絡してみるわ」
エミーとシシリーはそれぞれ連絡した。だが、支援部隊とは連絡がとれない。
「こちらは駄目みたいです」
静かに報告するシシリー。
「こちらHQ。どうぞ」
エミーの呼びかけに、本部のアーサーからの声がする。
「こちらはエミー少佐。そちらからセレス少佐の部隊は確認できますか? 第二波が無くて連絡が取れないのです」
「分かった確認する。少し待ってくれ」
暫しの沈黙が流れる。静かに待つ主力部隊。すると無線が返ってくる。
「ハルフォード中佐とモニターを確認したが、何も異常はない。ただ、連絡が取れないのは確かだ。本部はハルフォード中佐に任せて俺が現場に行って確かめてくる」
「お願いします。訓練を中止しますか?」
「いや、異常があれば連絡する。それまで訓練を続行していてくれ。オーバー」
「わかりました。予定通り訓練を続行します。オーバー」
無線を切るエミー。
「あちらはボーグマン少佐に任せるわ。引き続き訓練続行よ。大丈夫。ちょっとしたトラブルよ」
エミーのその言葉を聞き、安心して2人は返事をした。
「了解」「了解」
「さ、前進の時間よ。主力部隊前へ!」
エミーの指揮の下、主力部隊が基地の南側に位置する正門へと前進を始めた。だが彼らはまだ気づいていなかった。忍び寄る蛇が、既に牙を向いていることを。
━━
一方、基地の西側より侵入を試みるレイ達。
「正面にサーチライトとバンカー確認。予定通り俺はバンカーを。ジャッジはサーチライトを頼む。」
「了解」
バンカーの砲台が前衛部隊に火を噴くも、彼らは高速で躱しながら連携し、速やかに標的を破壊する。そして基地の塀を飛び越え、内側から西門を破壊。コマンドウルフ達が侵入する。
「よし、予定通り散開するぞ! 正面ゲートの開門は頼んだ!」
レイがジャッジに指示を出す。
「任せとけ! お前さんもしくじるなよ!」
ジャッジの檄が飛ぶ。
「ああ!」
基地内部へと侵入した前衛部隊は二手に分かれた。基地内では黒煙で包まれ、警報が鳴り響く。多くのスイーパーゾイドが倒れていたものの、まだ多くのゾイドが残っていた。第二波の攻撃がなかったせいだ。
「ここからが正念場だ!」
次々と僚機のコマンドウルフ3機と標的を倒していくレイ。シールドライガーのEシールドを盾に突進し、敵の陣形を次々に突破していく。二足歩行の恐竜型ゾイドのゴドスや重装甲の亀型ゾイド、カノントータス、蠍型のガイサックが大量に押しかかるも、次々と跳ね除けた。
「北西地域を制圧! ジャッジ、そちらはどうだ?」
「こちらジャッジ。いま北東地域を制圧した。これより南の正面ゲートへ向かう。」
「了解した。俺は敵の増援を迎撃しに行く」
レイは基地中央にある格納庫へと急いだ。僚機のコマンドウルフ3機はまだ健在だ。この調子なら順調に制圧できそうだ。
すると、どこからか聞き覚えのない重低音が聞こえ、地面が揺れる。
「なんだ? 地震か?」
その音は徐々に大きくなる。
━━北中央格納庫の方からか?
レイはコマンドウルフを引き連れ、その音に向かってシールドを走らせた。
━━あの角を曲がったところから聞こえる……
レイが角を曲がると、目の前に突如として見たことのない巨大ゾイドが、地響きと共にゆっくりと現れた。
「まさか……このゾイドは!?」
〜続く〜
辞書にもめったに出てきませんが、協心とは、心をひとつにすること。戮力とは、力を一つにあわせること。協心戮力という言葉で、心と力を一つにし、団結して目的を達成することにあります。これは著者が仕事感として長らく使用しているものです。まさにこの第8話と第9話がひとつになるからこそ、意味のあるものだとおもっています。そしてここから怒涛の伏線が飛び交います。