ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ 作:ボルメテウスさん
「……待て待て待て」
俺は思わず弁当箱をテーブルに置いた。蓋ががこんと鳴る。
「おい最原。お前いま何て言った?」
「え? 僕の夢に出てきた怪物のこと知ってるかって……」
「そこじゃない!」
俺は前のめりになる。
「夢のことを覚えてるのか? 昨晩の?」
最原はきょとんとした。
「当たり前だろ? 恐怖ってものは記憶に焼き付くものだよ」
「ちっ……」
舌打ちが出た。これは想定外の事態だ。ソムニウム世界での出来事は通常、目覚めると忘却される。あの超高校級の絶望ナイトメアでさえ夢の中限定の存在のはず。
「おかしい……」
俺は頭を抱える。最原終一が"例外"なのか? それとも――
「やっぱり君は何か知ってるんだね」
最原の声が低くなった。探偵の勘が働いたらしい。
「教えてくれないかな。僕は夢の中で赤い目の怪物と戦った。そして……」
彼は目を伏せた。
「君によく似た青年が助けてくれたんだ」
俺は凍りついた。
さすがは、超高校級の探偵と言うべきか。
けれど、ゼッツは基本的に極秘情報。
ましてや希望ヶ峰学園の教頭、霧切響子に任命されたという事実は明かせる物ではない。
その情報漏洩がどの程度危険なことかなど明白なのだから。
「万津くんって言ったよね。超高校級の幸運だって」
「幸運は表の顔だよ。正確には幸運を使い果たした不運だ」
俺は肩を竦めてみせた。
「まあそんなことはいいんだよ。なんで俺に夢の話を聞くんだ? 偶然だろ?」
「偶然じゃない」
最原が断言する。
「僕が夢で見た青年は君に瓜二つだった。服装も動き方も……まるで別人みたいだったけど」
最原の推理は冴えている。だが肝心な部分で穴がある。もし本当に瓜二つなら――
「他人の空似じゃないのか?」
「だったら君はどうして目を見張ったの?」
俺の反応を観察されていたらしい。この探偵、侮れない。
「単なる偶然……いや、俺が超高校級の不運だからな。不幸体質の顔っていう共通項はあるかもな」
苦し紛れの言い訳を並べる。
「確かに君の顔立ちは整ってる。美形と言っていい」
「何言ってるんだよ。急に褒めちぎるのはやめろ」
「でもそれは『顔がいいから不運』という因果関係にはならないよね?」
最原の問いかけが鋭利だった。
「それとも君自身が『美形ゆえに災難を引き寄せる』と信じてるのかな」
俺は黙ってしまった。
「沈黙は肯定だね」
最原が続けた。
「仮に君が超高校級の不運として有名なら、偶然夢に出てきた青年と一致する可能性は低い」
「偶然だって言ってんだろ」
それと共に、俺はそこで止める。
「いや、もう話は終わりにしようぜ」
万津が弁当を閉じようとしたとき――
「万津君」
最原の声が低く響く。
「僕が探してたのは……赤松さんの件なんだ」
「赤松さん?」
突然の名前に、万津の手が止まった。赤松楓。同じクラスのピアニスト。明るくて皆の人気者。
「彼女、昨日から登校してないだろ?」
「そう言えば……」
確かに姿を見ていない。体調不良だと聞かされていた。
「実は昨夜、赤松さんが映像で見てから、ずっと」
「・・・まさかここで」
既に絶望のビデオの言葉が出かけていた万津。けれど、それを遮ったのは最原だった。
「万津君。君は……」
その続きを促すように、最原の目は真剣だった。
「知ってるんだろ?赤松さんが映像を見てしまったことを」
「ッ」
やはり最原は鋭かった。まるで全てを把握しているかのような視線に、万津は言葉を飲み込む。
「昨夜の夢で僕が出会った赤い目の怪物。あれはナイトメアと呼ばれている存在なんだよね?」
「・・・なんでそれを」
思わず口にした疑問に、最原は。
「赤松さんを助けたいからっ」
そう強く言った。
「……」
最原の真摯な瞳が万津を見据えていた。
この探偵は全てを察している。赤松楓が絶望ビデオを見たこと。彼女が夢の中でナイトメアに取り憑かれていること。
そして、自分がソムニウム世界へ介入する力を持っていることも――
「わかった」
万津は俯いたまま静かに言った。弁当の蓋に指をかけたまま、それを開けようとする気力すら奪われていた。
「……」
最原が息を呑む音が聞こえた。
「だけどな最原。俺から秘密をバラすのはタブーなんだよ」
万津は自嘲気味に笑った。こんな状況で笑うこと自体が馬鹿げていたが、不思議と表情が緩んだ。
「・・・詳しい事はとりあえず、相談しなきゃな」