ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ 作:ボルメテウスさん
手の中の重みが、はっきりと“武器”だと主張していた。
雷はもう暴れていない。俺の意思に従い、静かに形を保っている。
視線の先で、エンジェルナイトメアが翼を大きく広げた。
羽根一枚一枚が光を帯び、次の瞬間には凶器へと変わる――その兆しが見える。
「来る……!」
思考が追いつく前に、身体が動いた。
構える。狙う。引き金に指をかける。
エンジェルナイトメアが羽を振るう。
無数の羽根が、弾丸のように空間を裂いて飛び出した。
――遅い。
雷光が走る。
撃った感覚は、ほとんどない。ただ、意思を向けた瞬間に結果が生まれた。
羽根が、空中で弾け飛ぶ。
一本、二本じゃない。放たれた軌道そのものを、雷の光弾が貫いていた。
「なっ……!?」
驚愕の声が遅れて響く。
羽による攻撃は途中で失速し、次々と砕け散っていく。重力を操る前に、動きそのものを奪われた形だ。
俺は止まらない。
次の一射で、翼の根元を撃ち抜く。
雷鳴が落ちたような衝撃。
エンジェルナイトメアの身体が大きく揺れ、空中でバランスを崩す。
「くっ……動か、ない……?」
翼が、思うように動かない。
羽根が意思を失い、ただ重力に従って落ちていく。
――これだ。
空を支配していた相手の“自由”を、奪う。
エンジェルナイトメアは、空中で縫い止められたように動きを止めた。
俺は、静かに狙いを定め直す。
次は――終わらせるための一撃だ。
雷光が引いた、その一瞬を逃さず、ノクスナイトが踏み込んできた。
黒い装甲が軋み、手にしたブレイカムバスターが鋭く振り下ろされる。
俺はイナズマブラスターの刃を展開し、正面から受けた。
金属同士が噛み合う感触。火花が散り、空間が震える。
「……やはり、速さだけの力じゃないな」
ノクスナイトの一太刀一太刀は正確だった。
無駄がなく、こちらの間合いを読んでくる。
斬り結ぶたびに、プラズマが内側で軋むのが分かる。――消耗を狙っている。
(付き合いすぎるな……目的は、倒すことじゃない)
連続する斬撃を、紙一重で捌く。
世界が沈み、音が遠ざかる中でも、思考が重くなる感覚は誤魔化せない。
次の瞬間、俺は踏み込みを変えた。
真正面からではなく、斜め下から――刃を跳ね上げる。
「っ!?」
イナズマブラスターが、ブレイカムバスターの腹を打ち抜く。
雷鳴と共に、黒い武器が高く宙へ舞った。
間髪入れず、俺はノクスナイトの肩に足をかける。
「……悪いな」
踏み台にして、跳ぶ。
その場を一気に離脱し、距離を取る。
背後でノクスナイトが着地する気配。
だが、もう遅い。
――これで、邪魔は来ない。
俺は空中で身体を捻り、イナズマブラスターを構え直した。
次は、終わらせるための時間だ。
ノクスナイトの肩を踏み抜いた瞬間、視界が一気に開けた。
跳躍と同時に、重力から切り離される感覚。雷が、再び身体の奥で唸る。
「今っす!」
通信越しに届いた日菜さんの声。
短い、けれど迷いのない一言だった。
――ああ。十分だ。
その声だけで、足りた。
怖さも、疲労も、全部まとめて一歩先へ押し出される。
空中で身体を捻り、イナズマブラスターを構える。
雷が集まり、内部で渦を巻くのが分かる。
『プラズマオン!』
手応えと同時に、エネルギーが装填される感覚。
俺はレバーを引いた。
『ボルテージ、1!』
雷が走る。
思考がさらに加速する。
『2!』
世界が、さらに遅くなる。
エンジェルナイトメアの動きが、止まった像のように見える。
『3……!』
最後の操作で、照準が浮かび上がった。
逃げ場はない。
空も、重力も、すべてを否定する一点。
『――フルマックス!』
引き金に指をかける。
迷いはない。
『プ・ラ・ズ・マ……サンダー!』
放たれた光は、矢の形をしていた。
だが、それは“飛ぶ”ものじゃない。
結果として、そこに在る。
次の瞬間、雷鳴が落ちた。
光弾がエンジェルナイトメアを貫き、空間そのものが白く弾ける。
翼が砕け、機械の軋む音が遅れて響いた。
「……そんな、はず……」
その声が、最後だった。
光が収束し、エンジェルナイトメアの姿が崩れていく。
着地と同時に、膝が笑いそうになる。
全身に、重い疲労が押し寄せた。
「……やったな、万津くん」
日菜さんの声が、少しだけ柔らかい。
「はい……間に合いました」
雷は静まり、空間も元に戻る。
でも――希望だけは、確かに残っていた。