ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ 作:ボルメテウスさん
終天教団本部ビル、最上階の会議室。
無機質な長机と、外光を拒むガラスに囲まれたその空間で、世島犀人は愉快そうに肩を揺らしていた。
「いやあ、実にいい悪夢でしたよ」
そう切り出す世島の声は、弾んでいる。
向かいの席に座る黒四館 仄は、資料端末に視線を落としたまま、何も返さない。
「エンジェルナイトメア。完成度は高かった。対象者の夢――宇宙、無重力、落下の恐怖。絶望に至る道筋としては、ほぼ理想形です」
世島は指を鳴らす。
「実際、あと一歩でした。介入がなければ、間違いなく堕ちていた」
「……介入、ですか」
黒四館の声は静かだった。
感情の波は一切ない。
「ええ。例の少年ですよ」
世島は口角を吊り上げる。
「速い。笑えるくらいに。音よりも、反応よりも前に“結果”だけが残る。しかも、その代償を理解した上で、躊躇しない」
黒四館はようやく視線を上げた。
「それで?」
「戦闘後、限界に達しました。精神的にも肉体的にも。
――壊れる直前まで使い切るつもりだったんでしょうね」
楽しそうな声とは裏腹に、報告内容は冷酷だった。
「失敗、とは思っていませんよ」
世島は続ける。
「むしろ、あれは“観測としては大成功”でしょう?」
黒四館は、わずかに首を傾けた。
「ええ。私も同意見です」
責める言葉はない。
評価もない。
ただ、事実を事実として受け取る声音。
「人助けに対する執着が、想定以上でしたね」
黒四館は淡々と語る。
「自分が壊れることを理解してなお、前に出る。
あれは善性ではありません。……衝動です」
世島は、その言葉に一瞬だけ眉を動かした。
「衝動、ですか」
「はい。信仰にも似ています。
目的ではなく、行為そのものが彼を動かしている」
黒四館は端末を操作しながら、続ける。
「ですから、排除対象ではありません。
障害でもない。
あれは――兆候です」
「……兆候」
世島は小さく笑った。
「なるほど。
つまり、僕らはまだ“始まり”にも立っていない」
黒四館は否定しない。
「観測は続けましょう。
あなたには、引き続き現場を」
それだけ言って、話は終わった。
命令ではない。だが、拒否もできない。
「了解です」
世島は一礼し、会議室を後にする。
扉が閉まる音が、やけに大きく響いた。
――残されたのは、黒四館ひとり。
彼は静かに端末を起動し、映像を再生する。
傷つきながらも走る少年。
誰かのために立ち続ける姿。
限界を越えてなお、前に出る選択。
黒四館は、しばらく無言でそれを見つめた。
そして、小さく――本当に、独り言のように呟く。
「……ああ」
声に熱はない。
だが、確信だけはあった。
「これは……恋ですね」
その言葉は、祈りでも告白でもなかった。
ただの、観測結果だった。