ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ   作:ボルメテウスさん

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電光 Part7

 終天教団本部ビル、最上階の会議室。

 無機質な長机と、外光を拒むガラスに囲まれたその空間で、世島犀人は愉快そうに肩を揺らしていた。

 

「いやあ、実にいい悪夢でしたよ」

 

 そう切り出す世島の声は、弾んでいる。

 向かいの席に座る黒四館 仄は、資料端末に視線を落としたまま、何も返さない。

 

「エンジェルナイトメア。完成度は高かった。対象者の夢――宇宙、無重力、落下の恐怖。絶望に至る道筋としては、ほぼ理想形です」

 

 世島は指を鳴らす。

 

「実際、あと一歩でした。介入がなければ、間違いなく堕ちていた」

 

「……介入、ですか」

 

 黒四館の声は静かだった。

 感情の波は一切ない。

 

「ええ。例の少年ですよ」

 

 世島は口角を吊り上げる。

 

「速い。笑えるくらいに。音よりも、反応よりも前に“結果”だけが残る。しかも、その代償を理解した上で、躊躇しない」

 

 黒四館はようやく視線を上げた。

 

「それで?」

 

「戦闘後、限界に達しました。精神的にも肉体的にも。

 ――壊れる直前まで使い切るつもりだったんでしょうね」

 

 楽しそうな声とは裏腹に、報告内容は冷酷だった。

 

「失敗、とは思っていませんよ」

 世島は続ける。

「むしろ、あれは“観測としては大成功”でしょう?」

 

 黒四館は、わずかに首を傾けた。

 

「ええ。私も同意見です」

 

 責める言葉はない。

 評価もない。

 ただ、事実を事実として受け取る声音。

 

「人助けに対する執着が、想定以上でしたね」

 黒四館は淡々と語る。

「自分が壊れることを理解してなお、前に出る。

 あれは善性ではありません。……衝動です」

 

 世島は、その言葉に一瞬だけ眉を動かした。

 

「衝動、ですか」

 

「はい。信仰にも似ています。

 目的ではなく、行為そのものが彼を動かしている」

 

 黒四館は端末を操作しながら、続ける。

 

「ですから、排除対象ではありません。

 障害でもない。

 あれは――兆候です」

 

「……兆候」

 

 世島は小さく笑った。

 

「なるほど。

 つまり、僕らはまだ“始まり”にも立っていない」

 

 黒四館は否定しない。

 

「観測は続けましょう。

 あなたには、引き続き現場を」

 

 それだけ言って、話は終わった。

 命令ではない。だが、拒否もできない。

 

「了解です」

 

 世島は一礼し、会議室を後にする。

 扉が閉まる音が、やけに大きく響いた。

 

 ――残されたのは、黒四館ひとり。

 

 彼は静かに端末を起動し、映像を再生する。

 傷つきながらも走る少年。

 誰かのために立ち続ける姿。

 限界を越えてなお、前に出る選択。

 

 黒四館は、しばらく無言でそれを見つめた。

 

 そして、小さく――本当に、独り言のように呟く。

 

「……ああ」

 

 声に熱はない。

 だが、確信だけはあった。

 

「これは……恋ですね」

 

 その言葉は、祈りでも告白でもなかった。

 ただの、観測結果だった。

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