ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ 作:ボルメテウスさん
その違和感は、朝からあった。
星君は、そこにいる。席にも着いている。呼ばれれば返事もする。
なのに、目が合わない。視線が、常に少しだけずれている。
そして、スマホだ。
授業の合間、移動中、ほんの一瞬の隙。
確認する回数が、明らかに多い。
(……昨夜と同じだ)
胸の奥が冷える。
あの夜、窓際で見た横顔が、何度も重なった。
放課後。人の少ない渡り廊下で、俺は星君を見つけた。
声をかけた瞬間、空気が張り詰める。
「……星君」
「話しかけるな」
即座に返ってきた言葉に、喉が詰まる。
それでも、足は止まらなかった。
「目、合ってません」
「見る価値がない」
短く、切り捨てるような声。
視線は、俺ではなく、手元のスマホに落ちている。
「スマホ、何度も確認してますよね」
「関係ない。失せろ」
拒絶が、はっきりしていた。
でも、もう確信していた。
「昨夜も、同じでした」
星君の指が、一瞬だけ止まる。
「覗き見か?」
「違います、たまたま――」
「言い訳するな」
強い言葉に、思わず息を呑んだ。
「……見たんですよね」
沈黙。
その沈黙が、答えだった。
「だから何だ」
「絶望の――」
「口にするな」
声が、低くなる。
怒りじゃない。拒絶だ。
「……皆、同じでした」
「俺を、あいつらと一緒にするな」
「目が、同じで――」
「見るな!」
鋭い声に、肩が跳ねた。
一瞬、足がすくむ。
怖かった。
本気で、拒まれている。
「……っ」
「その顔で見るな」
心臓が強く脈打つ。
それでも、目を逸らせなかった。
「星君……」
「来るな。踏み込むな」
距離を取られる。
それでも、ここで引いたら終わりだと分かっていた。
「……」
「助けたいって顔をするな」
「それが、一番虫唾が走る」
正直、傷ついた。
でも、それ以上に――
「……正直、怖いです」
自分の声が、思ったより震えていた。
「だったら引け」
「でも」
言葉を探す一拍。
それでも、答えは変わらなかった。
「それでも、行かせません」
星君が、初めて俺を見る。
その目は、冷たい。でも、逃げていない。
「……善人ぶるな」
「違います」
「じゃあ何だ」
「星君を、このままにする方が、もっと怖いだけです」
沈黙が落ちる。
遠くで、誰かの声が響く。
「行くんですか」
「お前から逃げる」
星君は踵を返す。
その背中に、迷いはない。
「それでも追います」
「来たら、後悔するぞ」
「それでもです」
しばらくして、低い声が落ちてきた。
「……勝手にしろ」
歩き出す背中に、最後の言葉が向けられる。
「でも、二度と俺を“救う側”にするな」
一瞬、言葉に詰まった。
「……約束はできません」
それでも、はっきりと言う。
「俺は、助けたいです」
星君は、もう振り返らなかった。
その背中を追いながら、俺は確信していた。
――あの人は、もう境界線の内側にいる。
それでも、引き返させる。
怖くても、嫌われても。
それが、俺の選んだ立ち位置だから。
その為に、俺はゼッツドライバーを構える。