ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ   作:ボルメテウスさん

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暗黒 Part4

 意識が、静かに沈んでいく。

 ゼッツドライバーを起動した時のような、切り替わる感覚とは違う。

 これは――引き込まれている。

 

 足元の感触が曖昧になり、音が一段、遠ざかる。

 思考だけが先に残り、身体が後から追いついてくる。

 

「……まず、空がおかしい」

 

 瞬きをした、その次の瞬間。

 俺は、街の中に立っていた。

 

 見上げると、空が低い。雲があるわけじゃないのに、首の後ろに重さがのしかかる。

 

「低い。押し潰されるほどじゃないけど……ずっと、ここに残る」

 

 街灯は点いているが、昼とも夜とも言えない。

 時間の流れが、ここだけ止まっているみたいだった。

 

「街なのに、息がしづらい。空気が汚れてるわけじゃない……感情が沈んでる」

 

 歩き出すと、足音が遅れて返ってくる。

 

「……音が変だ。足音も、風も。一拍、遅い」

 

 両脇に並ぶ建物は、どれも似た形をしている。

 レンガ造りの壁、金属の階段、錆びた看板。

 新しくもなく、完全に壊れてもいない。

 

「建物……全部、街の形はしてる。でも、生活の気配がない」

 

 路地の奥に、人影がある。

 確かに“いる”のに、誰もこちらを見ない。

 

「人はいる。でも……顔を見せる気がない」

 

 視線を向けても、向き合ってはくれない。

 

「見えないんじゃない。見せてないんだ」

 

 胸の奥が、じわりと重くなる。

 

「この街、怖がらせる気はないな」

 

 怒鳴る声も、追いかけてくる影もない。

 それでも、歩みを止める気にならない。

 

「逃げ場を塞ぐ街でもない」

 

 進めば進むほど、景色の端に過去の断片が滲む。

 壁に残る銃痕。割れたガラス。舗道に染みついた、乾いた色。

 

「ただ……歩かせるだけだ」

 

 責める声はない。

 裁く存在もいない。

 

「罪を責めてるわけじゃない。裁いてもいない」

 

 なのに、許されてもいない。

 

「……でも、許してもいない」

 

 喉の奥が、詰まる。

 

「一番、きついやつだ」

 

 街そのものが、静かに告げてくる。

 

 ――忘れるな。

 ――でも、逃げるな。

 

「ここに居る限り、忘れられない」

 

 それでも、拒絶はされない。

 

「……居ていい、って言われてる」

 

 視線を落とし、息を吐く。

 

「星君」

 

 ここが、彼の中にあるものだと、はっきり分かる。

 

「この街、星君の中にある“闇”だ」

 

 壊れていない。

 歪みきってもいない。

 

「壊れてない。歪んでもいない」

 

 ただ、沈んでいる。

 

「……静かに、沈んでる」

 

 だからこそ、逃げられない。

 

「だから……自分から、ここに留まるんだ」

 

 胸が、重い。

 

「……重いはずだよ」

 

 それでも。

 

「こんなの背負ったまま、生きてたら」

 

 一歩、前に出る。

 

「……それでも」

 

 俺は歩く。

 

「俺は、ここを歩く」

 

 星君と、一緒に。

 

「一緒にだ」

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