ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ 作:ボルメテウスさん
路地を曲がった先で、気配が変わった。
それまでこの街にいた“住人”たちは、背景に溶け込む影みたいな存在だった。視線を向ければ逸らし、近づけば距離を取る。ただ置かれているだけの人影。
――なのに。
「迷った?」
声が、はっきりと届いた。
思わず足を止める。
レンガ壁にもたれるように立っていたのは、一人の女だった。くすんだ外套を羽織り、スラムの住人みたいな格好をしている。服の汚れ方も、立ち方も、この街に馴染みすぎている。
けれど、違和感があった。
この街の住人は、基本的に“関わらない”。
話しかけてこないし、こちらを測るような視線もしない。
彼女は、違った。
「ここ、初めてでしょ」
距離を詰めてくる。
一歩、また一歩。無遠慮でも敵意でもない、ただ――観察する距離感。
「……この街の人にしては、よく喋りますね」
そう言うと、彼女は小さく笑った。
「そう見える?」
声色は柔らかい。けれど、目が笑っていない。
俺を見る視線が、まるで展示物でも眺めるみたいで、背中がむず痒くなった。
「珍しいから。ここを歩く人」
「歩いてるだけですよ」
「それが珍しいの」
彼女は、俺の周囲を半円を描くように歩く。距離は近いのに、触れようとはしない。
「普通は、立ち止まるか、座り込むか、消えるか」
「……詳しいですね」
「長くいるから」
その言葉に、胸の奥がひやりとした。
この街に“長くいる”という意味を、俺はもう理解している。
「あなたは、違う」
彼女は足を止め、真正面から俺を見る。
「怖がってるけど、目を逸らさない。重さを分かってるのに、進む」
観察。
評価。
――値踏み。
そんな感覚が、はっきりとした。
「何者ですか」
問いかけると、彼女は肩をすくめる。
「ただの、住人」
嘘だ。
この街の嘘は、もっと無機質なはずだ。
「……そうですか」
深入りはしない。今は、それより優先すべきことがある。
彼女は、その反応を見て、満足そうに微笑んだ。
「いいね。その距離感」
まるで、期待通りだと言わんばかりに。
「もう少し、近くで見ていたかっただけ」
「……何を」
「あなたを」
一瞬、空気が冷えた。
彼女はそれ以上何も言わず、背を向ける。
「邪魔はしないよ。今日はね」
その背中が、街の影に溶けていく。
気配が消えた後も、胸のざわつきは残ったままだった。
(……今の、住人じゃない)
それだけは、確信できる。
これまでのソムニウム世界との違いで十分に理解出来る。だからこそ分からないのは、彼女の目的だ。
「一体、何が目的なんだ、彼女は」