ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ 作:ボルメテウスさん
街を歩いても、答えに近づいている感覚がなかった。
建物の配置も、音の歪みも、すべてが星君の罪の意識を反映しているのは分かる。けれど、肝心の“核”が見えない。ナイトメアの気配は、街全体に薄く溶け込んでいて、輪郭を結ばない。
――いるはずなのに、姿を持たない。
足を止めた、その時だった。
「探しもの?」
背後から、声。
反射的に振り向くと、路地の影に“住人”が立っていた。くすんだ外套、煤けた靴。ここに溶け込むには、あまりにも自然だ。
「……さっきの人ですね」
俺の声が低くなる。警戒は隠さない。
「覚えてくれてたんだ」
彼女は軽く肩をすくめる。近づいてくるが、一定の距離を越えない。近すぎず、遠すぎない。その間合いが、嫌に計算されている。
「この街、分かりにくいでしょ。答えを探すほど、遠ざかる」
「案内役のつもりですか」
「いいえ。助言者かな」
その言い方で、確信が強まった。
――住人じゃない。少なくとも、普通の。
「ここに来る人は、大体二通り」
彼女は街灯を見上げる。光は点いているのに、影だけが濃い。
「逃げる人と、留まる人」
「星君は、留まっている」
「そう。自分からね」
胸の奥が、わずかに軋む。
「じゃあ、ナイトメアはどこにいる」
直球で問う。
彼女はすぐには答えない。代わりに、足元の舗道を指差した。
「“どこ”だと思う?」
「……姿を持たない」
「正解に近い」
微笑みが、薄く浮かぶ。
「この街は檻じゃない。檻なら、中心がある。でもここは違う」
彼女は一歩、横にずれる。視線が、俺の足元をなぞった。
「動いているのは、建物でも人影でもない」
「……留まる人、か」
「そう」
抽象的だ。だが、筋は通っている。
ナイトメアが街そのものなら、星君が“留まっている場所”が、中心になる。
「でも、それを教える理由がない」
俺は一歩、距離を詰めた。
彼女の目が、わずかに細くなる。
「警戒してる?」
「当然です」
「いいね」
その一言が、ぞっとするほど自然だった。
「疑いながらも、捨てない。そういうところ」
評価されている。
その事実が、背筋を冷やした。
「……あなたは何者ですか」
「通りすがり」
即答。だが、軽すぎる。
「ヒントは受け取る。でも、信用はしない」
「それでいいよ」
彼女は一歩、下がる。街の影が、輪郭を食い始める。
「答えは、あなたが辿り着いた方が綺麗だ」
「……利用している自覚はあります」
「もちろん」
その言葉に、悪びれた様子はない。
「でも、あなたは行く。そういう人だから」
俺は、背を向けた。
示された抽象を、頭の中で組み立てる。留まる場所。歩き続ける理由。星君が自分から選んだ地点。
一歩、踏み出す。
背中越しに、気配が変わったのを感じた。
振り返らなかった。
振り返れば、余計なものを見ると分かっていたからだ。
それでも――感じてしまう。
街の影の中で、彼女が浮かべた表情を。
誰にも向けない、不気味で、満足そうな笑みを。
(……何か違う)
疑いは、確信に近づいている。
それでも、俺は進む。
星君の悪夢の原因を、掴むために。