ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ   作:ボルメテウスさん

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暗黒 Part6

 街を歩いても、答えに近づいている感覚がなかった。

 建物の配置も、音の歪みも、すべてが星君の罪の意識を反映しているのは分かる。けれど、肝心の“核”が見えない。ナイトメアの気配は、街全体に薄く溶け込んでいて、輪郭を結ばない。

 

 ――いるはずなのに、姿を持たない。

 

 足を止めた、その時だった。

 

「探しもの?」

 

 背後から、声。

 反射的に振り向くと、路地の影に“住人”が立っていた。くすんだ外套、煤けた靴。ここに溶け込むには、あまりにも自然だ。

 

「……さっきの人ですね」

 

 俺の声が低くなる。警戒は隠さない。

 

「覚えてくれてたんだ」

 

 彼女は軽く肩をすくめる。近づいてくるが、一定の距離を越えない。近すぎず、遠すぎない。その間合いが、嫌に計算されている。

 

「この街、分かりにくいでしょ。答えを探すほど、遠ざかる」

 

「案内役のつもりですか」

 

「いいえ。助言者かな」

 

 その言い方で、確信が強まった。

 ――住人じゃない。少なくとも、普通の。

 

「ここに来る人は、大体二通り」

 

 彼女は街灯を見上げる。光は点いているのに、影だけが濃い。

 

「逃げる人と、留まる人」

 

「星君は、留まっている」

 

「そう。自分からね」

 

 胸の奥が、わずかに軋む。

 

「じゃあ、ナイトメアはどこにいる」

 

 直球で問う。

 彼女はすぐには答えない。代わりに、足元の舗道を指差した。

 

「“どこ”だと思う?」

 

「……姿を持たない」

 

「正解に近い」

 

 微笑みが、薄く浮かぶ。

 

「この街は檻じゃない。檻なら、中心がある。でもここは違う」

 

 彼女は一歩、横にずれる。視線が、俺の足元をなぞった。

 

「動いているのは、建物でも人影でもない」

 

「……留まる人、か」

 

「そう」

 

 抽象的だ。だが、筋は通っている。

 ナイトメアが街そのものなら、星君が“留まっている場所”が、中心になる。

 

「でも、それを教える理由がない」

 

 俺は一歩、距離を詰めた。

 彼女の目が、わずかに細くなる。

 

「警戒してる?」

 

「当然です」

 

「いいね」

 

 その一言が、ぞっとするほど自然だった。

 

「疑いながらも、捨てない。そういうところ」

 

 評価されている。

 その事実が、背筋を冷やした。

 

「……あなたは何者ですか」

 

「通りすがり」

 

 即答。だが、軽すぎる。

 

「ヒントは受け取る。でも、信用はしない」

 

「それでいいよ」

 

 彼女は一歩、下がる。街の影が、輪郭を食い始める。

 

「答えは、あなたが辿り着いた方が綺麗だ」

 

「……利用している自覚はあります」

 

「もちろん」

 

 その言葉に、悪びれた様子はない。

 

「でも、あなたは行く。そういう人だから」

 

 俺は、背を向けた。

 示された抽象を、頭の中で組み立てる。留まる場所。歩き続ける理由。星君が自分から選んだ地点。

 

 一歩、踏み出す。

 

 背中越しに、気配が変わったのを感じた。

 

 振り返らなかった。

 振り返れば、余計なものを見ると分かっていたからだ。

 

 それでも――感じてしまう。

 

 街の影の中で、彼女が浮かべた表情を。

 誰にも向けない、不気味で、満足そうな笑みを。

 

(……何か違う)

 

 疑いは、確信に近づいている。

 それでも、俺は進む。

 

 星君の悪夢の原因を、掴むために。

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