ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ   作:ボルメテウスさん

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罪夜 Part4

 街が、完全に敵意を剥き出しにした。

 

 殴れば壊れる。

 だが、壊した分だけ――距離が伸びる。

 

「……っ、ふざけるな」

 

 瓦礫を蹴散らして前に出た瞬間、足元の路地が折り畳まれた。視界が歪み、さっきまで五メートル先に見えていたはずの場所が、急に“遠く”なる。物理的な距離じゃない。到達までに必要な時間そのものが、引き延ばされている。

 

 星君のいる区画が、上昇していく。

 鉄格子が降り、シャッターが閉じ、壁がスライドして重なっていく。

 

「……閉じる気か!」

 

 返事の代わりに、街が動いた。

 左右の建物が迫り、背後の路地が消える。前方には、巨大なエレベーターシャフトのような縦穴。底が見えない。

 

 落ちる時間すら、街に奪われる。

 

「っ……!」

 

 俺は踏み切り、フィジカムインパクトの力で正面の壁を殴り抜いた。

 拳がめり込み、衝撃波が炸裂する。

 

 ――ドン!!

 

 レンガが砕け、壁が吹き飛ぶ。

 だが、その向こうにあったのは、また別の路地だった。

 

「……まだ、遠いのかよ」

 

 視界の奥。

 星君は、確かに見える。

 なのに、近づくほど、遠ざかる。

 

 街の演出が変わった。

 信号機が点滅し始める。赤、黄、赤。

 壁に投影される影の時計。針が、不自然な速さで回っている。

 

「……時間制限、か」

 

 星君の区画が、ゆっくりと沈み始めた。

 闇に、飲み込まれていく。

 

「……来るな」

 

 遠くから、星君の声が聞こえた。

 怒りでも拒絶でもない。諦め切った声。

 

「ここに、留まる」

 

「……っ!」

 

 胸の奥が、軋む。

 それでも、止まれない。

 

 その時、背後で爆音がした。

 

「――っ!」

 

 振り向いた瞬間、瓦礫が崩れ、あの住人の女が転がるように倒れた。

 黒い影が、彼女に向かって伸びている。

 

「……くそっ!」

 

 分かってる。

 これが、街の狙いだ。

 

 俺が、見捨てられないことを。

 

「大丈夫ですか!」

 

 迷わず駆け寄り、影を殴り飛ばす。

 衝撃が走り、影が散る。

 

「……優しいね」

 

 女は、相変わらず薄く笑った。

 

「違います。ただの判断です」

 

「その判断が、時間を奪う」

 

「……分かってます」

 

 分かってる。

 分かってるから――余計に、歯を食いしばる。

 

 星君の区画が、さらに沈む。

 カウントダウンが進む。

 

 俺は女を抱え上げ、前を向いた。

 

「……行きます」

 

「抱えたまま?」

 

「置いていく選択肢は、ない」

 

 街が吠えた。

 壁が迫り、路地が折れ、影が拳の形を取って襲いかかる。

 

「邪魔、するな……!」

 

 フィジカムインパクト。

 正面突破の力。

 

 殴る。

 壊す。

 進む。

 

 だが――遅い。

 

 殴れば殴るほど、街は再構築される。

 壊せば壊すほど、距離が延びる。

 

「……足りない」

 

 力は、足りている。

 でも――時間が、足りない。

 

 星君の声が、また聞こえた。

 

「……助けるな」

 

「……」

 

「俺を助けたら、お前も……」

 

 その先は、聞かなかった。

 

「……それでも、行きます」

 

 俺は前を見る。

 沈みかけた区画。

 残り、わずかな時間。

 

 フィジカムインパクトでは、間に合わない。

 

「……だったら」

 

 俺は、腰の奥に意識を落とす。

 最後まで、使うつもりはなかった。

 

 けれど――今しかない。

 

 ポケットの中。

 指先が、冷たい感触に触れる。

 

「……最期の切札だ」

 

 それを取り出した瞬間、街のノイズが一瞬、消えた。

 遠くで、雷鳴が響く。

 

 女が、息を呑むのが分かった。

 

「……それ、使うんだ」

 

「はい」

 

 俺は彼女を下ろし、ゼッツドライバーに向き直る。

 

「間に合わせます」

 

 カプセルを、はっきりと装填する。

 

 ――カチリ。

 

 雷光が、視界を白く染めた。

 

 時間が、跳ねる。

 

「……絶望より、早く」

 

 俺の姿が、光の中で掻き消える。

 

 ――雷が、落ちた。

 

 轟音でも閃光でもない。

 世界のルールそのものが書き換えられる音だった。

 

『グッドモーニング!』

 

 ゼッツドライバーから響いた声に、街が一瞬、硬直する。

 信号の点滅が止まり、沈んでいく区画の動きが鈍る。

 ナイトメアが、“何かを誤算した”空気が、はっきりと伝わってきた。

 

『イ・ナ・ズ・マ!』

 

 雷光が、俺の足元から立ち上がる。

 地面を走り、壁を這い、空へと駆け上がる稲妻。

 それは破壊の光じゃない。前へ進むための軌跡だ。

 

 身体が、軽くなる。

 いや、軽いなんて言葉じゃ足りない。

 

 思考が、跳ねる。

 視界が、重なる。

 街全体の構造が、一瞬で“理解できる距離”に縮む。

 

『ライダー!』

 

 装甲が、雷の粒子として分解され、再構築される。

 フィジカムインパクトの重さが消え、代わりに全身を走るのは――加速の予感。

 

『ゼッツ・ゼッツ・ゼッツ!』

 

 名前を呼ばれるたび、心臓が一段速く打つ。

 時間の流れが、外側に押し出される。

 

 街が、悲鳴を上げた。

 ナイトメアが、慌てて街を動かそうとする。

 だが――遅い。

 

『プラズマ!』

 

 雷が、俺を包み込む。

 姿が、一瞬だけ掻き消える。

 

 その刹那、俺は確信していた。

 

 ――間に合う。

 ――絶望より、早く。

 

 次の瞬間。

 光の中から現れた俺は、もう“そこ”にいた。

 

『プラズマ!』

 

 時間差で、街が崩れ落ちる。

 遅れて、雷鳴が響いた。

 

 星君のいる区画が、はっきりと視界に入る。

 沈む前に。

 閉じ切る前に。

 

 俺は、前を向いた。

 

「……行きます、星君」

 

 イナズマプラズマ。

 それは、最期の切札であり、

 絶望よりも早く、希望へ辿り着くための――答えだった。

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