ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ 作:ボルメテウスさん
保健室の窓から夕陽が差し込む。霧切教頭との通話で赤松は泣きそうな顔で頷いていた。
「……わかった。万津くんが来てくれれば大丈夫ですよね?」
俺が頷くと同時に赤松の目から涙がこぼれた。
「ありがとう……怖くて……もう誰も信用できなくなるんじゃないかって……」
「大丈夫ですよ。あなたの夢は俺が守りますから」
俺がそう言った瞬間だった。保健室全体が歪んだように視界がぼやけた。
「えっ?」
赤松が驚いて身を引く。俺の手にはいつの間にかベルトが装着されていた。
「万津君?」
最原が戸惑い気味に見る中、ベルトの中央パーツが光を放ち始める。
《ゼッツドライバー!》
「行きます。赤松さん」
俺は躊躇なく宣言した。
「ミッション、スタート」
次の瞬間、視界がブラックアウトした。
気づくと目の前には巨大なグランドピアノが聳え立っていた。いや、建物そのものがピアノ型をしているのだ。天井からはコードのような配線が無数に伸び、壁には五線譜が無秩序に貼り付けられている。あちらこちらから楽器の不協和音が鳴り響き、耳を塞ぎたくなるほど不快なノイズが空気を満たしていた。
これが赤松楓のソムニウム世界——悪夢の舞台か。
「・・・ここが、悪夢の世界か」
三度目のソムニウム。慣れない世界にため息を吐きつつも、まずは手に馴染んだドライバーを見る。
「絶望ビデオは確かに存在した。それが赤松さんが見たのは確実だ。それにここにいるナイトメアを倒さないと彼女が超高校級の絶望に堕ちる」
この場所の仕掛けがわからない以上は下手に動くべきではない。
それでも、まずは彼女を探すべきだ。
そう判断した俺は行動を開始する。目の前で軽やかに流れるようにピアノの音が聞こえてくる。赤松さんの演奏だろうか。
そんな疑問と違和感を感じた時には気づいた。
「ピアノの音じゃない?」
聞こえてくるのは何かが軋む音。ギギギ、と軋むピアノの音はあまりにも不気味だ。
そして俺は気づいた。
「これが楽器の音?!こんなのただの音じゃない!」
そうして走り出す俺は気づいた。先程までの軋む音が聞こえない事に。
「まさか・・・」
慌てて耳を手で塞ぐ。すると何も聞こえない。
なるほどな。ならばと俺は塞いだまま進んでいく。先程まで不気味に見えた音の正体がわかったのだ。いくらでも策はある。
けれど。
「フフフフッ!やぁあぁああ!!」
どこからか聞こえてきた少女の絶叫。赤松の声だった。
「赤松!?」
即座に振り向くと舞台ステージの方から悲鳴が聞こえた。かつて彼女がコンクールで輝いていた場所。今は照明が割れ、観客席から腐臭のような嫌な空気が立ち込めている。
「クソっ」
俺は全力で駆け出す。石畳を蹴るたびに木管楽器の断末魔のような不快な響きが脚から伝わってくる。構うものか。耳は塞いでいるがそれでも心臓が早鐘のように打っている。
走れ!一秒でも早く赤松さんのもとへ!
そう思えば思うほど足がもつれそうになる。こういう時こそ落ち着け。冷静になれ。俺は万津莫だ。超高校級の不運でありながら絶望を拒否した男。
やがて観客席の入り口に辿り着いた。幕は破れかぶれで床に落ちている。その先のステージ中央では確かに彼女が膝をついていた。
「赤松さん!」
駆け寄ろうとした瞬間、不自然に伸びた影が彼女の周囲を這い回った。まるで弦楽器の蛇腹を引き伸ばしたような長い影が。
「・・・お前が赤松のさんの夢にいるナイトメアか」
ナイトメアはニタリと笑みを浮かべて、俺の方を見る。
「よくここまで来たもんだな!」
そう言いながら笑う。
それと共に、そのナイトメアの姿が露わになる。
その身体は壊れた楽器たちで出来ていた。
いくつものヴァイオリンの弓が絡まり合い、胴体を形成している。太鼓の革が腹部に張り付き、鍵盤は足となって床を叩くたびに不協和音を奏でる。その頭部にはピアノの鍵盤蓋が取り付けられており、開閉を繰り返しながら嘲笑っているかのようだ。
「ナイトメア……サウンドか!」
俺は思わず呟いた。
「ご明察!」
サウンドナイトメアは両手の管楽器を鞭のようにしならせながら言う。
「私は全ての音の集合体!この世界の主!」
彼の周りでは断続的に金属音や擦過音が鳴り響き、時折ハープの弦が切れるような甲高い悲鳴も混じる。耳を塞いでいるのにそれでも骨伝導で振動が伝わるほど強烈な音圧だ。
「・・・なるほどな、だったら」
「I'm on it……変身!!」『グッドモーニング! ライダー!』
それと共に、俺はゼッツへと変身し、ゆっくりと構える。