ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ 作:ボルメテウスさん
白い蛍光灯が、俺の視界の端で揺れていた。
身体中に鉛でも詰められたみたいに重く、呼吸をするだけで胸が張り裂けそうになる。
足元に力が入らず、椅子から転げ落ちそうな自分を支えるだけで精一杯だった。
その場にいるはずの世界が、どこか遠く感じる。
「……無理すんな。まだ全然戻ってきてない」
伊達の声が、遠くで響いた。俺を気にしつつも、部屋の中央に置いてあるトランクケース――ノクスドライバーを置いたままの黒い箱――に視線を移している。
俺は声を出す気力すら湧かなかった。だから、ただ俯いたまま黙っていた。
伊達は、俺が絶対に触れない距離からスッとそのケースを開けた。
光を浴びて露わになったメタリックな装置は、どこか冷たい殺気のようなものを纏っていた。
「……これは」
俺の代わりに、彼が口を開いた。
アイボゥが静かに、しかし確実に解析音を鳴らしながら説明を始める。
『このカプセムは、シャドウカプセムです。ゼッツがこれまで使ってきたカプセムとは系統が異なります』
アイボゥの声は、機械的だが淡々と事実を提示していく。
『これはナイトメアの戦闘データから生成されました。行動パターン、空間干渉、感情増幅の傾向を解析した結果から、悪夢の性質を人工生成した能力媒体です』
伊達は眉をひそめる。
データ由来の力――つまり、敵から抽出した力を“味方側”で扱おうとしているのだと、説明なしに理解しているのが分かった。
「……敵の悪夢の構造を、こっちで再構築したってことか?」
『その通りです。ノクスドライバーは、シャドウカプセムに封入された悪夢エネルギーを次元流体化して“陰性のシャドウゲイム”として抽出します』
アイボゥが続ける。
『そして同時に、このドライバーが生成する多次元的エネルギーを流体化した“陽性のノクスゲイム”も抽出します。この二つを同時に循環させることで、瞬間的な出力は従来のゼッツの強化形態を上回ります』
伊達はそれを聞いて、ゆっくりとうなずいた。
「瞬間性能が高い……その代わり、何かあるんだろ?」
『はい。重大なリスクがあります。ノクスドライバーは“使用回数”に応じて変身者の精神を侵食します』
俺はその言葉に、わずかに耳をそばだてた。
痛みで思考が鈍っているはずなのに、条件反射のように反応する。
『通常の変身システムは“戦闘時間”による負荷が中心ですが、ノクスドライバーは“変身するたびに”悪夢の残滓が神経系に定着します』
その“定着”という響きに、冷たい感触が背骨を走った。
「残滓……って、つまり?」
『はい。悪夢の痕跡が解除後も残り、影のように精神にまとわりつく可能性があります。侵食が進行すると、覚醒後にも悪夢の影響が消えません。人格境界の曖昧化が生じる可能性もあります』
伊達が黙ってそれを聞いていた。
説明を遮るでもなく、余計な感情を交えるでもなく、ただ言葉を反芻するように。
「……常用する装備じゃないな」
『その通りです。ノクスドライバーは緊急用の切札であり、恒常的な運用には向きません』
説明の終わりに、アイボゥがそう付け加えた。
その時だった。
(……聞こえてる?)
気配が、部屋の外にあった。
最原――いや、彼のシルエットが、ドアの陰に立っているのが見えた。
彼は何も言わない。
ただ、静かにこちらを見ているだけだ。
その目の奥には、言葉にできない“問い”と“理解の芽”が読み取れた。
「……それでも使うべきなのか」
俺は弱々しく呻いた。
声を出すために力を振り絞ると、伊達がゆっくりと顔を向けた。
「まだ誰が使うかを決める段階じゃない。それに――お前が動けるようになるまで、封印しておく」
『はい。今は緊急時以外に可動すべき装備ではありません』
アイボゥは冷静そのものだ。事実のみを提示し、危険性を強調する。
だがその論理の裏にあるのは、無責任な希望ではなく、確かな“現実”だ。
部屋の空気が、静かに重くなる。
(……誰が、使うことになるんだろう)
考えるだけで、胸の奥が締め付けられる。
この装置は強い。
だが、同時に――戻れなくなる可能性も孕んでいる。