ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ 作:ボルメテウスさん
影が、街を満たす。
地面から、壁から、崩れた建物の隙間から、黒い刃のような影が次々と伸び上がり、仮面ライダーノクスへと殺到した。まるで、この世界そのものが彼を拒絶しているかのようだ。
だが――ノクスは、動かない。
攻撃が迫るその瞬間まで、微動だにしない。その姿に、俺は一瞬、息を詰めた。けれど次の瞬間、最原はほんのわずかに身体をずらし、影の刃を紙一重でやり過ごした。
「……なるほど」
低く、落ち着いた声。
「影の出現位置が、毎回違う。街全体を使っているようで、実際には行き当たりばったりだ」
次の攻撃。
今度は天井から、巨大な影が落ちてくる。
ノクスはそれを見上げながら、さらに続けた。
「つまり――君は、この街を完全には制御できていない」
影が叩きつけられる。
だが、その直前でノクスの足元から別の影が伸び、攻撃を弾く。
俺は、はっきりと理解した。
最原は、もう“戦いながら考えている”段階じゃない。
考え終わった上で、検証している。
「影は、武器じゃない」
ノクスの声が、街に静かに響く。
「痕跡だ。証拠だ。君がどこから力を引き出しているか、その全部が――影として残っている」
次の瞬間、影が暴走した。
ナイトメアは苛立ったように、影を無秩序に増殖させる。街が悲鳴を上げ、視界が黒に染まる。だが、それこそが最原の狙いだった。
「……やっぱり、そうだ」
ノクスの足元で、影が円を描く。
それはナイトメアの影と、完全に同質の色。
次の瞬間、その影が反転した。
地面に落ちていた影が、一斉に立ち上がる。鎖となり、杭となり、刃となって、ナイトメア自身を絡め取っていく。
「自分の影に、縛られる気分はどうだい?」
初めて、最原の声にわずかな感情が乗った。
ナイトメアがもがくたび、影がさらに深く食い込む。逃げようとすればするほど、自分の存在を否定する力に締め上げられていく。
ノクスの手に、武器が現れた。
――ブレイカムゼッツァー。
その姿を見た瞬間、俺は思わず声を上げそうになった。
「……あれは……!」
ゼッツが使ってきた武器と、同じシルエット。
だが、放たれる気配はまったく違う。希望でも、衝撃でもない。冷えた決断の刃だ。
ノクスは剣を見下ろし、短く言った。
「同じ道具でも、使い方は違う」
ブレイカムゼッツァーに、シャドウカプセムが装填される。
『ブレイカムスラッシュ』
音声と同時に、拘束していた影がすべて剣へと集束する。刃が膨れ上がり、巨大な影の刃となって形を成した。
ノクスは、一歩前に出る。
星を盾にし、選択を奪い、罪を檻に変えた存在へ――
まっすぐに刃を向ける。
「君は、間違っている」
静かに、だがはっきりと。
「罪を忘れないことと、選択を奪うことは、同じじゃない」
そして、剣を振り上げた。
「――これが、僕の答えだ!」
一閃。
巨大な影の刃が走り、ナイトメアを切り裂く。
切断されたのは肉体ではない。構造だ。存在理由そのものだ。
影が崩れ、街が静止し、世界が音もなくほどけていく。
ノクスは剣を下ろしたまま、しばらく動かなかった。
その背中を見ながら、俺は確信していた。
最原は、ゼッツとは違う。
だが――
同じ問いに、別の答えを出したライダーだ。