ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ 作:ボルメテウスさん
ナイトメアが消えた後の街は、嘘みたいに静かだった。
瓦礫も、影も、さっきまでここにあったはずの“罪の形”も、すべてが色を失っている。空気だけが重く、音を立てずに沈殿していた。
星は、まだ立ったままだった。
逃げるでもなく、座り込むでもなく、ただそこにいる。まるで、動く理由も、動かない理由も、どちらも失ってしまったみたいに。
最原は、少し距離を置いた場所で立ち止まっていた。
近づきすぎない。離れすぎない。
その距離感が、いかにも最原らしいと俺は思った。
しばらくの沈黙のあと、星が口を開いた。
「……俺は、人を殺した」
その声は、驚くほど淡々としていた。
怒りも、後悔も、自己嫌悪も、全部がすり減って、事実だけが残ったみたいな言い方だった。
「テニスだ。俺の武器は、それしかなかった。逃げ場もなかったし、守るためだった……なんて言えば、聞こえはいいんだろうが」
星は、自嘲するように小さく笑う。
「結果は同じだ。死んだ。何人も。俺の手で」
俺は、無意識に拳を握りしめていた。
星の罪の重さに、じゃない。
それを、こうして真正面から吐き出すしかない状況に、だ。
最原は何も言わない。
遮らないし、否定もしない。
ただ、聞いている。
「だから、ここにいた。ここなら……過去から逃げなくて済む。ずっと思い出していられる。忘れなければ、少なくとも、同じことは繰り返さない」
それは、贖罪の形としては、歪んでいる。
けれど、嘘じゃない。
星は本気で、自分を罰し続けるつもりだったんだ。
沈黙が落ちる。
街はまだ、完全には消えていない。輪郭の曖昧な建物が、遠くで揺らめいている。
そこで、最原がようやく口を開いた。
「……聞いた」
それだけだった。
許すとも、間違っているとも言わない。
裁かないし、正義を語らない。
星が、一瞬だけ顔を上げる。
戸惑いと、拍子抜けが混じったような表情だった。
「……それだけか?」
「うん」
最原は、静かに続ける。
「君がやったことは、消えない。なかったことにもならない」
星の肩が、わずかに強張る。
「でも」
最原は、視線を逸らさずに言った。
「ここに留まることが“償い”だって、誰が決めた?」
星が、息を詰める。
「君自身が、そう決めたんだと思ってた。でも……さっきの街を見て、違うって分かった」
最原は、足元の影が消えた地面を一瞥する。
「この世界は、君が考える余地を奪っていた。ずっと、同じ場所に立たせ続けるために」
それは、責める言葉じゃない。
まして、説教でもない。
探偵が、事実を整理するみたいな口調だった。
「生きている事実だけは、どうやっても消えない。だからこそ……これから何を選ぶかは、君にしか決められない」
星は、すぐには答えなかった。
長い沈黙。
俺には、その時間が必要なものに思えた。
やがて、星は低く呟く。
「……考える」
たった、それだけ。
でも、その一言は、今までのどんな言葉よりも重かった。
「留まる」でも、「逃げる」でもない。
初めて、“次”を含んだ言葉だったからだ。
街が、ゆっくりと崩れ始める。
壁が霧になり、路地が溶けていく。
檻だったはずの世界が、形を失っていく。
最原は、星の隣に立った。
肩に手を置くこともしない。
ただ、同じ方向を見る。
仲間として。
クラスメイトとして。
「一緒に、この罪を見る」立場として。
それだけで、十分だったんだと思う。
やがて、最原の姿が光に包まれる。
現実への帰還だ。
俺はモニター越しに、その背中を見送った。
星は、まだ答えを出していない。
救われたとも、立ち直ったとも言えない。
けれど、もう一人じゃない。
それだけで、この戦いは意味があった。
そう、俺は思った。