ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ   作:ボルメテウスさん

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影夢 Part7

 ナイトメアが消えた後の街は、嘘みたいに静かだった。

 瓦礫も、影も、さっきまでここにあったはずの“罪の形”も、すべてが色を失っている。空気だけが重く、音を立てずに沈殿していた。

 

 星は、まだ立ったままだった。

 

 逃げるでもなく、座り込むでもなく、ただそこにいる。まるで、動く理由も、動かない理由も、どちらも失ってしまったみたいに。

 

 最原は、少し距離を置いた場所で立ち止まっていた。

 近づきすぎない。離れすぎない。

 その距離感が、いかにも最原らしいと俺は思った。

 

 しばらくの沈黙のあと、星が口を開いた。

 

「……俺は、人を殺した」

 

 その声は、驚くほど淡々としていた。

 怒りも、後悔も、自己嫌悪も、全部がすり減って、事実だけが残ったみたいな言い方だった。

 

「テニスだ。俺の武器は、それしかなかった。逃げ場もなかったし、守るためだった……なんて言えば、聞こえはいいんだろうが」

 

 星は、自嘲するように小さく笑う。

 

「結果は同じだ。死んだ。何人も。俺の手で」

 

 俺は、無意識に拳を握りしめていた。

 星の罪の重さに、じゃない。

 それを、こうして真正面から吐き出すしかない状況に、だ。

 

 最原は何も言わない。

 遮らないし、否定もしない。

 ただ、聞いている。

 

「だから、ここにいた。ここなら……過去から逃げなくて済む。ずっと思い出していられる。忘れなければ、少なくとも、同じことは繰り返さない」

 

 それは、贖罪の形としては、歪んでいる。

 けれど、嘘じゃない。

 

 星は本気で、自分を罰し続けるつもりだったんだ。

 

 沈黙が落ちる。

 街はまだ、完全には消えていない。輪郭の曖昧な建物が、遠くで揺らめいている。

 

 そこで、最原がようやく口を開いた。

 

「……聞いた」

 

 それだけだった。

 

 許すとも、間違っているとも言わない。

 裁かないし、正義を語らない。

 

 星が、一瞬だけ顔を上げる。

 戸惑いと、拍子抜けが混じったような表情だった。

 

「……それだけか?」

 

「うん」

 

 最原は、静かに続ける。

 

「君がやったことは、消えない。なかったことにもならない」

 

 星の肩が、わずかに強張る。

 

「でも」

 

 最原は、視線を逸らさずに言った。

 

「ここに留まることが“償い”だって、誰が決めた?」

 

 星が、息を詰める。

 

「君自身が、そう決めたんだと思ってた。でも……さっきの街を見て、違うって分かった」

 

 最原は、足元の影が消えた地面を一瞥する。

 

「この世界は、君が考える余地を奪っていた。ずっと、同じ場所に立たせ続けるために」

 

 それは、責める言葉じゃない。

 まして、説教でもない。

 

 探偵が、事実を整理するみたいな口調だった。

 

「生きている事実だけは、どうやっても消えない。だからこそ……これから何を選ぶかは、君にしか決められない」

 

 星は、すぐには答えなかった。

 

 長い沈黙。

 俺には、その時間が必要なものに思えた。

 

 やがて、星は低く呟く。

 

「……考える」

 

 たった、それだけ。

 

 でも、その一言は、今までのどんな言葉よりも重かった。

 「留まる」でも、「逃げる」でもない。

 初めて、“次”を含んだ言葉だったからだ。

 

 街が、ゆっくりと崩れ始める。

 壁が霧になり、路地が溶けていく。

 檻だったはずの世界が、形を失っていく。

 

 最原は、星の隣に立った。

 肩に手を置くこともしない。

 ただ、同じ方向を見る。

 

 仲間として。

 クラスメイトとして。

 「一緒に、この罪を見る」立場として。

 

 それだけで、十分だったんだと思う。

 

 やがて、最原の姿が光に包まれる。

 現実への帰還だ。

 

 俺はモニター越しに、その背中を見送った。

 

 星は、まだ答えを出していない。

 救われたとも、立ち直ったとも言えない。

 

 けれど、もう一人じゃない。

 

 それだけで、この戦いは意味があった。

 

 そう、俺は思った。

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