ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ 作:ボルメテウスさん
目を覚ました最原は、すぐにはこちらを見なかった。
ベッドに横たわったまま、天井の一点を見つめている。その視線が、ただぼんやりしているわけじゃないことは、近くにいれば分かった。焦点が合っている。けれど、そこに映っているのは、この部屋じゃない。
「……最原?」
声をかけると、少し遅れて視線が動いた。
「……ああ。ごめん。今、戻った」
“今”という言い方が、妙に引っかかった。
現実に戻った、という意味じゃない。
思考の奥底から、ようやく浮かび上がってきた、そんな響きだった。
医療班のチェックが始まる。心拍、血圧、脳波。身体的な異常は、ほとんど出ていない。だけど、モニターに映る数値を見た日菜さんの表情が、わずかに硬くなった。
「……これ、ゼッツよりキツいっすね」
軽い口調なのに、言葉は重かった。
「精神負荷の出方が違う。万津君のは“削れてる”感じだけど、最原君のは……回り続けてる」
アイボゥが、淡々と補足する。
「ノクスドライバーは、変身者の判断力を極限まで引き上げる設計です。その代償として、思考資源を過剰に消費します。簡単に言えば――考えることを、やめさせてくれません」
俺は、最原を見る。
確かに、彼は落ち着いている。混乱もしていない。だけど、どこか休まっていない。まるで、頭の中でまだ推理が続いているみたいに。
「……星のこと、考えてるんだろ」
そう言うと、最原は小さく頷いた。
「言葉の選び方、沈黙の間。あれが、偶然じゃないって分かるまで、思考が止まらなくて」
苦笑する。
「探偵の悪い癖だね」
俺は、それを笑えなかった。
ゼッツドライバーの負荷は、分かっている。
夢と現実の境界を保ち続ける感覚。
感情を押し殺しながら戦う消耗。
でも、最原のそれは違う。
感情じゃない。
判断そのものが削れていく。
「……やめろ、とは言えないな」
俺がそう言うと、最原は静かにこちらを見る。
「うん。君がそれを言わないって、分かってた」
それが、少しだけ悔しかった。
「でも、だからって無理するのは――」
「理解してる」
最原は、はっきりと言った。
「ノクスの代償は重い。使うたびに、思考が摩耗する。でも……星の選択を見た以上、僕は降りられない」
一瞬、言葉を選ぶように間を置く。
「選択を奪われた人間を、目の前で見た。……見た以上、見捨てる方が、僕には耐えられない」
それは、決意というより、事実の確認だった。
医療班の間に、短い緊張が走る。
このままでは、最原は“戦闘不能”判定を受けてもおかしくない。
伊達が腕を組んだまま、口を開いた。
「条件付きだ」
全員が、そちらを見る。
「次からは単独行動なし。数値が一定ライン超えたら、強制離脱。あと――出るかどうかは、最原一人で決めない」
最原は、すぐに頷いた。
「それでいい。独りで背負うつもりはない」
その言葉に、少しだけ安堵する。
俺は、一歩前に出た。
「……じゃあ、俺からも条件だ」
最原がこちらを見る。
「止める役は、俺がやる。任せるけど、放置はしない」
少しだけ、間を置く。
「背中は預ける。でも、限界越えたら引きずってでも止める」
最原は、ほんの少し目を伏せてから、答えた。
「それでいい。だからこそ……君がいる場所で戦う」
それは、頼るというより、前提だった。
日菜さんが、肩をすくめる。
「正直、ゼッツ一人で全部背負うの、もう無理っすよ。二人で割らないと、どっちかが壊れる」
その言葉に、俺は黙って頷いた。
ノクスドライバーは、もう“予備”じゃない。
ゼッツと並ぶ、もう一つの戦力だ。
最原は、まだ完全じゃない。
影のように、思考の残滓が付きまとっている。
それでも――。
「行こう」
俺が言うと、最原は静かに立ち上がった。
「うん。次は……一緒に見届けよう」
背中を並べる、とは少し違う。
前に出る位置も、戦い方も違う。
でも。
背中を、預け合う。
それだけは、はっきりと分かった。