ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ   作:ボルメテウスさん

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背中合わせ Part2

 重厚な扉が低く軋み、終天教団本部の会議室に冷たい空気が流れ込んだ。

 騒然とした戦況の報が伝えられてから、幹部五人――犬神軋、丑寅幽玄、伊音テコ、黒四館仄、伏蝶まんじ――が円卓に集まっている。

 白熱灯の下、机の上には戦闘ログ、解析シート、新型ドライバーが入ったトランクケースが整然と並べられていた。

 

 まず口を開いたのは犬神軋だった。

 静かな声だが、その奥にどこか達観した余裕がある。

 

「……私としては、ここまで騒ぎが大きくなるとは思っていませんでしたが、状況は如何にも収拾がつかぬ方向へ進んでいるようですね。希望だの絶望だのと、いかにも概念じみた言葉で評価されていますが、実際には非常に合理的な戦術が露見しているように見えます」

 

 犬神の言葉は柔らかいようで、どこか含みを持っている。

 波風を避けるような物言いだが、静かに破滅の予感を漂わせる独特の語り方だ。

 

「希望という理想的な言葉を齎す者と、戦略的合理性を伴う者が同居した戦闘は、単なる偶発的な騒動以上のものです。……なるほど、我々が想定していた“絶望の顕現”とは少し質が違う」

 

 犬神が手元のログを軽く指でなぞる。

 その指先の動きこそ軽やかだが、その言葉には不穏な含意がある。

 

 続けて丑寅幽玄が大きく息を吐きながら前に出た。

 豪快な話し方だが、言うことは細部まで正確で几帳面だ。

 

「オレの目ェで見たところ、あの戦闘は“最適化意思”の表出だ。単純に力任せのぶつかり合いじゃねえ。状況を解析し、常に最良の手を選び取っていく……チェスみたいなもんだよ、あれは」

 

 丑寅は手元のモニターをぐっと指し示す。

 

「ここだ。ゼッツの挙動ログとノクスの挙動ログの違い……これは偶然じゃねぇ。戦術としての一貫性と、判断としての反復構造がある。普通のナイトメアとは違う。こいつらは“判断そのもの”を武器にしてくる」

 

 彼の語りは粗削りだが、芯が通っている。

 豪快な比喩の中に、緻密な観察眼が潜んでいるのだ。

 

 次に立ち上がったのは伊音テコだ。

 一人称は僕。論理だけを切り出すような、無愛嬌な言葉で語る。

 

「これが新型ドライバーの意匠。無駄な装飾を排した結果、こうなった。認識演算補助機構という形態強化結晶体だ。既存のドライバーは実装遅延と精神的制約が多過ぎた。これで補正する」

 

 伊音はトランクケースの錠を開き、赤黒いドライバーを取り出して机に置く。

 

「左右に並ぶカートリッジ列は、逐一複合セル解析を行うためのもの。光学的露光と内部構造解析を同時に行う。効率的だ。感情や倫理は判断遅延要因だ。非効率だ。だから僕はこれを作った」

 

 彼の声には冷淡さしかない。

 他者を“判断遅延要因”として切り捨てるような、極めて効率主義的な語り方がそこにある。

 

 その脇で、黒四館仄がゆっくりと眉を上げる。

 落ち着いた丁寧語で、しかし裏を含んだ問いを投げかける。

 

「……戦術として有効という点は理解できましたが、我々の“理念”との齟齬については考慮なさっておりますか?

戦力として有効であっても、我々の根本理念は“絶望の顕現”ではなく“理念の浸透”です。戦術的判断強化と理念の一致は保証されているのでしょうか?」

 

 仄の言葉には慎重さと探りがある。

 単に戦力増強に賛成するのではなく、裏側にある組織理念との整合性まで問いかけている。

 

 その問いに、伏蝶まんじが苛烈な口調で応じる。

 

「……理屈はそれくらいでいいだろうが。戦術が足りねぇ相手に用意周到ってのは、時に足枷になる。こちとら相手が何を持って来ようが叩き潰すだけだ。戦略と理念を一緒にしてる場合かよ」

 

 まんじは拳を机に叩きつけるように置く。

 荒々しいが、その直裁さは幹部内部の現実を突きつける。

 

 空気は一瞬張り詰めたが、犬神が軽く手を挙げて流す。

 

「まんじ氏の言うことも、極端ではありますが……確かに戦術的な脅威を放置するというのも、状況を悪化させるだけかもしれませんね。波風を立てたくない私としては心中妙な不安はありますが、現状を見る限り、避けて通ることは叶いそうにありません」

 

 犬神は柔らかい声で言いつつ、どこか遠い目をする。その言葉の裏に、「破滅が来るならそれもまた一興」という静かな欲望が微かに滲む。

 

 丑寅は机に並んだ新型ドライバーに目をやり、豪快な語りを続ける。

 

「判断そのものを強化する装備だとすれば、こいつは単なる武装じゃねぇ。状況制御装置ってところだ。オレは嫌いじゃねぇが……扱い方を間違えると、装備者自身が戦術に呑まれるかもしれねぇぞ」

 

 伊音は無表情でドライバーを掌に転がす。

 

「非効率を排しただけだ。精神負荷が増すのは当然だ。だが、判断の精度を上げることで、脳内リソースはむしろ有効活用される。感情と効率が衝突する――それは装置設計上の最適化対象だ」

 

 彼の言葉は不愛想だが、技術的な確信に満ちている。

 

 黒四館仄は視線をゆっくりと巡らせ、皆の意見を重ねる。

 

「……理解はしました。ただし、これは単なる装備ではなく、“判断”に直結するものとして受け取ります。戦術と理念の狭間で、どのように使われるのか。油断はできませんが、これを各自が携える価値はあると判断します」

 

 伏蝶まんじは短く息を吐くように頷いた。

 

「よし、なら配るぞ」

 

 伊音が次々に新型ドライバーを幹部たちに配布していく。

 トランクケースから取り出される装置は、流線形の深紅の本体――横長の腰中央ユニットにフィン状プレートが伸び、紫系の透明部材や内部気泡が冷たく光を溜めている。

 左右に整列した小型円筒状のカートリッジが並ぶ姿は、何かの細胞列のようでもあり、同時に薬莢が秩序正しく並んだ戦術装置にも見えた。

 

 丑寅がそれを手に取ってゆっくり回す。

 幾つものプリズムのような透明部分に、灯りが反射して緑色の微光が滲む。

 

「……手応えは悪くねぇな」

 

 犬神は指先で金のリングを撫でる。

 

「波風は立てたくないですが……これは確かに、戦術そのものを再構築できるかもしれませんね」

 

 黒四館仄はわずかに眉を寄せる。

 

「理念と戦術は別物ではありません。混ぜ合わせるには細心の注意が必要ですが、これを持つ意味は理解しました」

 

 伏蝶は装置を腰に装着しながら重い声で言った。

 

「……戦い方が変わる。覚悟しろ」

 

 伊音は無愛想に装着完了を確認し、短く呟く。

 

「効率と判断……両立するなら、次は負荷で死ぬこともない」

 

 幹部たちは新型ドライバーを携え、それぞれ異なる瞳の色で未来を見据えていた。

 ゼッツたちの脅威は単なる力のぶつかり合いではない。

 判断そのものを変える戦い――その現実を、彼らは重く受け止めていた。

 

 会議室の重い空気は、やがて沈黙のうちに、次なる行動へと変わっていく。

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