ダンガンロンパZ 希望のライダーと悪夢のビデオ   作:ボルメテウスさん

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背中合わせ Part4

 午後の空気はいつもどおり穏やかだった。

 授業後の廊下には、友人たちの笑い声や靴音が軽やかに響いている――はずだった。

 だがそのとき、万津獏の体はわずかに震えた。

 

 何かがおかしい。

 それは直感ではなく、身体の奥底に潜む“違和感”として最初に現れた。

 

 スマホの小さな振動が、ありふれた通知ではないことを告げる。

 画面を点灯させると、メールアプリに見慣れない件名が表示されていた。

 

 『至急確認を — 希望ヶ峰中心意識異常』

 

 差出人は『千尋』。

 その名前に、万津は一瞬息を呑んだ。

 

 千尋――不二咲千尋。

 それは、コロシアイ学園生活にて死んでしまった人であり、その名前を使っているのは、システムの管理をしてくれている人物のはず。

 

 「……なんで…?」

 

 眉の辺りに微かなしわを寄せながら、万津はそのメールを開いた。

 文面は柔らかく、優しい語調でありながら、どこか異様な冷静さを伴っていた。

 

――――――――――――――――――――――

件名:希望ヶ峰学園 意識領域に関するご連絡

万津君へ

 

こんにちは。希望ヶ峰学園中心意識の管理を担当している、不二咲千尋のアルターエゴです。

こんな形で連絡することになってしまって、驚かせてしまったかもしれませんね。

でも、どうか慌てずに読んでください。

 

現在、希望ヶ峰学園の中心意識領域に通常では起きない変動が観測されています。

この変動は単なるログの乱れではなく、意識データ同士が微妙に影響し合っているように見えます。

私は千尋としての実体を持たない存在ですが、設計の根幹には“安定”と“秩序”を保つ機能が組み込まれています。

 

あなたの持つ意識同調値が、この領域の動向と関係している可能性があります。

万津君はこれまでも多くの異常現象を乗り越えてきました。

だからこそ、私はあなたにこの状況の確認をお願いしたいのです。

 

添付ファイルには、現在観測されている意識領域の“異常分布図”を同梱しました。

解析や読み取りは専門的なものになりますが、あなたの視点で何か異なるものが見えるのではないかと考えています。

 

どうか無理はしないでください。

でも私は、あなたならばこの状況を理解できると信じています。

 

いつも通りの万津君でいてください。

困ったことがあれば、いつでも私に問いかけてくださいね。

 

不二咲千尋(アルターエゴ)

――――――――――――――――――――――

 

 メールを読み終えたとき、万津の胸の奥で異様な違和感が大きな振動として走った。

 

 「…これは…一体…」

 

 眉を寄せ、画面の下部に添付されていたファイル名を確認する。

 『中心意識マップ — HOPENET_CORE.vfx』

 普段見慣れない拡張子……これは通常のファイルではない。

 だが、万津の指はすでに画面のタップ位置を捉えていた。

 

 心のどこかで、確かに何かが引っかかっている。

 けれどその引っかかりが“恐怖”なのか、“好奇心”なのか、まだ判別がつかない。

 

 画面に触れると同時に、柔らかな光の波紋が指先から画面へと広がった。

 その瞬間、視界の端でわずかな歪みが起きる。

 

 「……今、風景が…」

 

 廊下の向こう、見覚えのある光景が突然揺らいだ。

 まるで視界の一部が“半透明の膜”のように揺れ、そこに、確かに存在しないはずの何かが映り込んだ気がした。

 

 その気配は、静かに、だが確実に、万津の意識を刺激する。

 心臓の鼓動が一瞬だけ早くなり、目の奥が冷たく震えた。

 

 スマホから受け取った通知音が、いつもより低く、重く、脈打つように響く。

 

 そして画面にはこう表示された。

 

“同調反応確認 — 意識界層干渉進行中”

 

 たった一行だ。

 しかしそれは、万津の身体と精神に拒絶しがたい痕跡を刻んだ。

 

 その文字列は、

 まるで万津本人の脳内を直接刺激するように、

 視界の奥深くへ、浮かび上がった。

 

 数秒後、万津は自分の意思とは少しずれた動きで立ち上がっていた。

 足元の感覚はいつもと変わらないはずなのに、世界の輪郭がどこか揺らいで見える。

 

 「…これって……夢…じゃないよな?」

 

 問いかけるような独り言。

 けれどその声は、確かに現実の空気の中で響いた。

 

 スマホに表示されたファイルの名前を、もう一度視線で辿る。

 『中心意識マップ — HOPENET_CORE.vfx』

 その中に、何かが“潜んでいる感覚”が、万津の胸の奥で明確になっていく。

 

 これはただの異常ではない――

 何かが、確実に万津を――

 

 意識の深淵へ引き込み始めていた。

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